やさぐれ四天王   作:先バレプレミア当たらない

6 / 9
久しぶり過ぎて初投稿です。




「皆、ライブ見に行くよ」

 

 いざ練習開始というところで、遅刻してきたリョウがスタジオのドアを開けて言う。

 

「行くって、なんの?」

「これ。お兄ちゃんに貰った」

 

 私、伊地知虹夏は遅れてきた制裁を与えつつ、リョウが握っていたチケットを一枚拝借する。

 

「……これ、『Force Kind』の奴じゃん!」

「ふぉーすかいんど? 有名なバンドなんですか?」

「説明しよう」

 

 首を傾げる喜多ちゃんに、リョウが拘束から脱出し得意気に語り始める。

 

「Force Kindはミクスチャーロックってジャンルに分類されるバンドなんだけど、色んなジャンルを混ぜ合わせた感じだから色んな雰囲気が出せて飽きが来ないんだよね。あと自分達が弾きたい曲やろーぜって感じだからカバーも結構多い。てかなんならカバーの方が多い。人気面だとジュンの顔面が強いから女性人気高いよ」

「リョウ先輩が凄く饒舌だわ!?」

「ちなみにForce Kindのベースボーカルはジュンがやってるんだよ」

「早く行きましょう!」

 

 軽く補足を入れた瞬間、喜多ちゃんが勢いよくスタジオを飛び出していく。

 

「待ってよ喜多ちゃん! 場所分かってないでしょー!?」

「ほら、ぼっちも急いで」

「は、はいぃ……!」

 

 後を追うようにSTARRYを飛び出した私達。駅の改札で待っていた喜多ちゃんと合流し、ライブ会場の渋谷へと向かう。

 下北沢から渋谷はそう離れておらず、十分後にはスクランブル交差点に辿り着いていた。

 そこからマルキューの横を通り抜けて路地を進んでいくと、お目当てのライブハウス『C-West』が見えてくる。

 

「あっ、あそこにいるの田中さんじゃない?」

 

 私は入口付近の喫煙所の前をウロウロしている男性を発見する。傍から見たら完全に不審者だ。

 

「田中さん?」

「Force Kindのギターボーカルの人。ハイトーンボイスが特徴的で、ライブを盛り上げるのがとっても上手い人」

 

 リョウの解説を聞きながら、私は田中さんに声をかける。

 私とリョウは何回かForce Kindのライブを見たことがあり、その時にメンバーと顔を合わせたことがある。ジュンの友達ということもあってか、どいつもこいつもイカれたメンバーしかいなかった。

 彼は私達の姿を認めると、驚いたような声を上げた。

 

「あれっ、虹夏ちゃん。なにー、俺らのライブ見に来てくれたの?」

「リョウがジュンからチケット貰ったみたいで」

「そっかそっか。んじゃ、今日はいつも以上に気合い入れねーとな!」

 

 と、爽やかに返答しているが、目は喫煙所の方に向いており、目が完全にキマッている。

 

「あの、喫煙所の近くウロウロしてるとなんか怪しいですよ?」

「ん? あぁ、ちょっと今禁煙しててさ。ちょっとだけ副流煙吸ったら戻るから」

 

 そう言って喫煙所を見つめている田中さん。これはアレだ、ヘビースモーカーの禁断症状が出ちゃってる感じだ。

 

「田中さん、お兄ちゃんは?」

「ジュンなら控え室に監禁してるよ」

「監禁!?」

「あいつ我慢出来ないっつってパチ屋行こうとするから、鎖で椅子に縛り付けといたわ」

「鎖で!?」

「なんか鈴木があるよーってバッグから出してきて。大方、ライブの後のお楽しみで使うんだろうけど」

 

 ……何やってんのあいつ。私たちが呆れていると、田中さんはにっこりと人の良い笑みを見せる。

 

「……ふぅ、なんか緊張ほぐれてきたしそろそろ戻るかな。君らもついでに通しちゃうから着いてきて」

 

 田中さんに連れられて、私たちはライブハウスの中へ入る。スタッフさんに話をした後、そのままメインホールに通された。調べたところキャパは六百人だそうだ。

 既にかなりの人数が待機しており、その人気度合いが窺える。

 

「ジュン様まだかな〜」

「あの泣きぼくろ付けてくれただけで神様は信じるに値すると思うのよ」

「あのアンニュイな顔で罵倒して欲しい……」

 

 ファンの間では、ジュンは相当な人気者のようだ。……やっぱりあいつ顔だけは良いらしい。

 

「あれ、何でリョウ先輩は後ろの方にいるんですか?」

「あれは後方腕組み妹面って言って、ただ騒ぐだけのお前らとは違うんだってアピールしてるだけだから。気にしなくていいよ」

「お兄ちゃんの良さを一番分かってるのはこの私だ」

 

 しばらくして、照明が一気に落ち真っ暗になる。歓声の波が押し寄せてきたところで、イントロが流れ出す。

 徐々にライトが点灯していきステージ上のバンドメンバー達を照らし出す。

 そして、そこに立っている四人の中で、ベースを肩に掛けて真剣な眼差しでギターボーカルとアイコンタクトを交わしている人物がいた。

 

(あれ……なんかいつもと雰囲気違うような……)

 

 いつもの無表情とは違い、鋭い目つきをしている。まるで別人のような雰囲気に、私は息を飲んだ。

 

「冷めきった眼の 中にエゴや理想を 映した君と 一緒に見ていたいけど」

 

 先手は田中さんから。ドラムが心地よいリズムを作り出し、ベースが唸るような低い音で曲に厚みを与えている。その上をギターとキーボードが鮮やかに彩っていく。

 

「想像の範囲内で見れる夢 地位、大金、名声それが何? うるせぇ 」

 

 ここで一歩下がり、代わりにジュンが前に踏み出す。

 

「世界のてっぺんから見る風景 対価ならこの才能 I bet, You bet」

 

 そして先程までの情熱的な歌声とは対照的に、冷淡かつ理性的にラップを決めていく。

 

「So 『努力』って楽しいのかい?」

「小さい目標は必要ない」

「勝てばそれが正解」

「Yeah 行こうか」

 

(凄い……)

 

 気づけば、私はライブに見入っていた。圧巻のステージパフォーマンスに圧倒されていたとも言うけれど。

 ボーカル二人の掛け合いで会場のボルテージが段々と高まっていく。

 そしてサビに入ると同時にそれは爆発した。

 

 Oh Yah Yah Yah! 

 

「王冠を奪え ただ一つだけ お構いはしないぜ ほらこっから去れ」

 

 観客全員が一体となってコールをする。

 向かい合って互いの音をぶつけ合う様に演奏する彼らの姿から目が離せない。

 

「青く染まる 混沌を増す 要塞と踊れ」

「Jealousy」

「Energy」

「Benefit」

「Ability」

「「Such a crazy game」」

 

 締めに向けて、盛り上がりが加速度的に増していく。その熱量に比例するように私の胸の高鳴りもどんどん強くなっていく。

 

「「Oh Yah Yah Yah!!」」

 

 そうだ。どんなに金遣いが荒くても、どんなにクズで救いようのない人だとしても。

 君は、私のヒーローだったんだ。

 

「……やっぱり、カッコいいなぁ」

 

 

 ◇

 

 

「ヤニうめぇぇぇ!」

「早くS○Xしてぇぇぇ!」

「早く落ちブルしてぇぇぇ!」

「元気だなぁ君ら」

 

 うるさいぞ佐藤。今日はこの後の為に頑張ったと言っても過言では無いのだ。

 ライブが終わり、控え室では成功の喜びとご褒美タイムへの期待感から奇声が飛び交っていた。

 田中は一ヶ月の禁煙を終え、無事にヤニを補給。鈴木はイソスタで捕まえた女と夜のデート。そして俺は念願のリ○ロ2である。349がなんぼのもんじゃい、今日はエミ○アたんとドキドキラッシュするんや。

 

「そういや虹夏ちゃん達と会わなくていいのか? 外で待ってんじゃね?」

「やだよ。パチ屋行けなくなるじゃん」

「今日の感想ぐらい聞いとけよ。後からだと印象薄れて聞きづらいだろ」

「ロインで教えてくれれば良くない?」

「直接言われた方が嬉しいだろ」

「……まぁ、そうだね」

 

 田中に丸め込まれ、俺は手早く荷物をまとめて控え室を後にする。辺りを見回すと、自販機の横で談笑している四人を見つけた。

 

「お疲れー結束バンド」

「あっ、お兄ちゃん」

「お疲れ様、今日も相変わらず上手かったですなぁ」

「あっ、えっと、す、すごか」

「ジュン先輩カッコよかったです! サインください!」

「はは、どうもー」

 

 出された色紙にサインしつつ、リョウに目を向ける。今日は何点でしたか? 

 

「……92点」

「っしゃあ!」

「ご褒美はなでなで」

「うぇひひ」

 

 田中の言う通り、直接聞きに来て良かった。

 汚物を見るような目でこちらを見る虹夏と若干引いた様子の喜多ちゃん。そしてあっ、あっ、と戸惑うぼっちちゃん。関係ないね、妹に頭を撫でてもらえるのは俺だけの特権だ。じっくり堪能してやる。

 

「今日はありがとね。私達もこれぐらいやれるように頑張らないと!」

「……うん、期待してる」

 

 さてと、それじゃあ俺はこれで──

 

「これこれ、どこ行く気じゃ」

「え、何?」

「女の子だけで帰らせる気? 家までちゃんと送ってって」

「いや俺より虹夏の方が強いんじゃ」

「ん?」

「あっはい、帰りましょうか」

 

 虹夏に凄まれ、俺はすごすごと引き下がった。

 せっかくの禁パチ明けが……とほほ。




Beast Modeもオクターヴもめっちゃ良かったです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。