無職世界に来たレグルス・コルニアス(偽) 作:優雅ながらも不利飛車を蛇蝎の如く嫌う老人
リゼロでは世界の端に大瀑布という、簡単に言えば巨大な崖が存在している。その先には誰も到達した者がおらず、何が広がっているのか不明なんだとか。
そして一説によれば、そこには別の世界が広がっているとも言われていた。
そこで、僕はここが大瀑布の外ではないかと考えた。そうすれば、ここがリゼロとは全く別の世界であることに説明が付けられた。
しかし、説明が付けられるが肝心の気持ちが追い付かない。こちとら、物語のキャラクターに成り代わったことだけでも一杯いっぱいだったのに、さらにリゼロ世界ではなく別の世界に飛ばされるなんて。正直、キャパオーバーである。頭が痛い。
とりあえず、目先の問題だ。現在進行形でパウロさん達に心配そうな表情を向けられているのをどうにかしないといけない。
「急に取り乱してしまい、すいません。」
「いや、それは良いんだが、なんで急にあんな様子になったんだ?」
これは誤魔化すのは難しいだろう。墓穴を掘ってしまった自身の失態である。
しかし、ここで全て正直に話してしまっても信じてもらえない可能性が高い。物語の登場人物になって、さらにそことは別の世界に来たというのは、自分で言うのもなんだが突拍子がなさすぎる。ここで彼らからの信用を得られないと、僕はこの家から叩き出される可能性が高いだろう。ここまで来て野宿は絶対に嫌である。ここは慎重に言葉を選ぶ必要があった。
そこで、レグルスに憑依したのを隠すことを思いついた。
自身は最初からレグルスであり、魔女教大罪司教の強欲を務めていた。しかしある日の朝、目が覚めれば見覚えのない世界に飛ばされていた。これならば、先ほどよりは信憑性が高いだろう。自身の世界には大瀑布があり、それの外に飛ばされたのではないかという考察も添えて話した。
「なるほど、それは興味深いですね。」
「ロキシー先生!他の世界から人がやってくるのってよくあることなんですか?」
「私の知る限りではそのような前例は聞いたことがありません。完全なイレギュラーだと思います。」
やはりイレギュラーなのか。この世界にはスバルやアルデバランのような存在は確認されていないらしい。
「家族とか、向こうに残してきた人は大丈夫なの?」
レグルスは権能を授かった際に、自身の家族を「僕を見下していたに違いない」というバカげた理由で皆殺しにしている。なので家族はいない筈。
いや、一応家族と言えなくはない存在はいたか。彼の妻達は彼自身から見れば家族と言えるのかもしれない。けれど間違いなく彼女らはレグルスを家族とは思っていないだろう。一方的な押し付けの関係。それを家族とは言えないか。
「その辺は大丈夫です。僕に家族はいないですから。」
「そう...なのね。辛いことを聞いてごめんなさい。」
ゼニスさんの表情が曇った。
その反応で僕は自身の失態に気づいた。誰だってそんなことを言われたら、相手のことを可哀想な境遇の人間だと思ってしまう。自身がレグルスという可哀想という言葉から程遠い境遇の人間だったため失念していた。
けれど、素直に家族を皆殺ししたことを話すのは問題だろう。危険人物だと思われてしまう。
そこで、レグルスの家族は全員寿命で亡くなったと話すことにした。
「いや、僕の家族は全員天寿を全うしました。家族が不幸なことにあったとかではないので、気にしないでください。」
「えっ?もしかして、レグルスさんって人族の方じゃないの?」
「いや、僕は正真正銘人族です。けれど、僕自身の権能によって年を取らないんです。」
そして、彼らに自身が持つ権能について簡単に説明をした。
それを受けた彼らの反応は劇的だった。
「強すぎねえか!?そんなもん無敵じゃねーか!」
「防御不可の攻撃をしてきて、もしこちらが攻撃できたとしてもダメージを与えることが出来ない。......正直、勝てる想像がつきませんね。」
「でも今は、疑似心臓の寄生元が近くにいないので一瞬しか権能を使えないです。だから現在の僕に戦闘能力はほとんどないんですよね...」
「それなら、僕達に疑似心臓?っていうのを寄生させればいいじゃないですか!」
ルディ君はそう言うが、多分彼らに疑似心臓は寄生できない気がする。何故なら、疑似心臓を寄生させられる相手には条件があり、レグルスの寄生相手から推測すると自身が妻と認めた相手だけだからだ。現状、この世界において妻がいない僕には小さな王を使用することはできないだろう。
僕はルディ君に対して曖昧に笑って返した。
「後で試してみますが、望みは薄いと思います。寄生できる相手の条件って言うのが結構シビアなんですよね。」
「なるほど。確かにそんなに強力な能力なら制約があるのも納得ですね。」
ルディ君は何故かホッとしたような表情を浮かべた。僕がそんな力を持っていることが怖かったのだろうか。だとしたら申し訳ないな。
「レグルス様。あなたは最初から記憶を失っていなかったと仰っていますが、何故記憶喪失と私達に伝えたのでしょうか?」
「僕の世界では、魔女教大罪司教というものは畏怖の対象となっています。まあ、それぞれが強力な権能を持っているので仕方ないんですけどね...。それで、素直に話してしまうと怖がられてしまって泊めてもらえないと思ったんです。だから記憶喪失と言った方が都合がいいかなと考えました。嘘をついてすいませんでした。」
これくらいだろうか。彼らに伝えるべきことは。
彼らの様子を見るに、完全に信じてくれたようだった。騙すようなことをして心が痛むが、それでも野宿にならなそうで良かった。
僕を気遣って、「疲れもたまっているだろうし、続きは明日にしましょう」とゼニスさんが言ってくれてその場は解散となった。
風呂に入り、案内された自室へと入る。部屋は、一室丸々使っていいとのことだった。本当に彼らには頭が上がらない。
部屋のベッドに横たわると、すぐに睡魔が襲ってきた。ゼニスさんの言う通り、随分と疲れがたまっていたらしい。そう他人事のように思いながら意識を手放した。
翌日。僕はルディ君、ロキシーさんと一緒に庭に居た。昨日言っていた通り、疑似心臓の寄生が可能かどうか確かめるためである。
確か、疑似心臓を寄生された人間はそのことを自覚することはできず、彼自身も誰に寄生しているか分からなかった筈だ。そのため、僕は疑似心臓の具体的な寄生の仕方も、今寄生できているのかも分からない。なので、とりあえず権能を使用することになった。
間違えて家を破壊してしまわないように気を付けながら、権能を使用。そして、手を振り上げて上空に風の刃を飛ばした。
轟音を響かせながら、天高く飛んでいく風の刃。しかし、それを見届けることはできない。前回と同様に、凄まじい疲労感に襲われたためだ。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者のに再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』。大丈夫ですか?」
ロキシーさんが何かを唱えると、ふっと体が楽になった。リゼロで言う治癒魔法だろうか。この世界は魔法名を口に出すだけで実際に発動するリゼロとは違い、長々とした詠唱をしなければならないらしい。
「しかしやっぱり、疑似心臓の寄生は出来ないっぽいですね。」
ルディ君の言う通り、やはり寄生は出来なかった。
しかし、少し気になったことがある。それは、前よりも疲労感が少しマシになっていたことだ。この前は、権能の使用後には立っていられない程の状態になっていたが、今回は息が切れて心臓もバクバクと鼓動しているがまだ立っていられた。
そこで、僕は一つの仮説を立てる。それは、まだ僕が権能をうまく使いこなせていないのではないかというものだ。そもそもとして、レグルスは5秒間は権能を使用できていた。しかし、僕は1秒間も権能を使用できていない。それは単純に僕の権能の練度が低い所為、そう考えれば上手く説明が付けられる。今回、疲労感が多少マシになったのも、権能の使い方が前回と比べて上達したからじゃないだろうか。
その仮説を彼らに話すと、ルディ君は興奮した様子で言った。
「じゃあ、今日一日レグルスさんの権能の練習をしませんか?僕も回復魔法の練習をしたいですし。」
「そういえばルディは、回復魔法を無詠唱で使用することが出来なかったんでしたね。丁度いい機会かもしれません。レグルスさんの権能とルディの回復魔法、両方練習出来て一石二鳥です。」
いや待て待て。話が勝手に進んでいるが、僕は別に権能の上達を目指しているわけじゃない。普通に権能を使用するだけで死ぬほど疲れるのだ。それを一日中やれと?地獄である。
ルディ君に伝えると、「しっかりと痛みや後遺症が残らないように回復魔法を頑張るので、大丈夫ですよ!」と返ってきた。確かに、回復魔法を使用すれば疲労感はなくなるだろう。後遺症の心配もない。しかし、権能を使用している間の苦しさはなくならない。深海の奥底へと沈み込んでいくあの感覚。僕はそれを味わいたくない。
「もしかして嫌、ですか?」
僕の乗り気ではなさそうな様子を見て、ルディ君が上目遣いでこちらを見てそう言った。非常に断りづらい。
しかし、ここで断らなければ一日中苦しみ続けることになるのだ。それは絶対に避けなければならない。
僕はルディ君のうるうるした瞳を見て、口を開いた。
「......そうですね。練習しましょう。」
僕はルディ君に負けた。
それから苦しみ続けること一日。権能の使用可能時間は限界の5秒を超えて7秒に伸びていた。
なんで?