声が聞こえる。ずっと心のどこかでは1人だった。誰かが居てもずっとずっと1人で。
「……和葉には泣いてる顔なんて似合わないよ」
「でも。で……も」
「笑ってよ。■のために。ステイクール、だったよね」
でも彼がいる時だけは1人じゃなかった。
──キーちゃんはほんとに頑張り屋さんだナ。
──いつでも頼れよ、キリト。
──別に。お前がいるからじゃない。
──全く。その泣き虫は早く治した方がいいわよ。
──お姉ちゃんは。俺の自慢のお姉ちゃんだよ。
──『行こう。■の相棒』
いや。ずっと私は。
──『僕はずっと。和葉の味方だよ』
ずっと。私は…………。
「ユウキ!!」
後ろから声をかけられ後ろを振り向くとそこには僕を追いかけてきていたアスカとミトの姿があった。
「なに」
「急に走り始めるんじゃねえよ……。追いつくのがやっとだわ。何があった。キリト関連か?」
「メニューを見たと思ったら急に走り出して。何かあったの?」
「…………キリトがフレンド欄から消えた」
「「え」」
その言葉を聞いた2人もフレンド欄を確認した。
「……うそ。なんで」
「……くそっ」
反応は僕の予想通りだった。2人のフレンド欄からも消えていた。
「クラインにも聞いたけど消えてたみたい」
「どういうことだよ。つまりキリトはし……」
「ユウキ!?」
「……それ以上言うな。斬るよ」
「……わりぃ。無神経だった」
「ごめん。僕も正気じゃなかった」
珍しく自分が動揺していた。それは僕だけじゃない。アスカも表情に出さないだけで明らかに動揺している。
「そうよね。キリトは死んでない……はずよね」
ミトもぽつりぽつりと頬から軌跡が流れ出す。
「死んでない。アルゴに聞いたけどフレンド欄から消えてないみたい」
「つまり、アルゴ以外のフレンドを消したってことか?」
「そういうこと、になるね」
動揺が止まらない。ミトも感情の波に抗えなかったのか今まで抑えていた涙が溢れ出していた。
「ミト」
「大丈……夫。大丈夫よ。……グスッ。キリトは、死んでないのよね」
「うん。それは確信してる。でも理由がわからない」
ずっと一緒にいてこんなことは1度もなかった。キリトが僕に何も言わずに出掛けたことはあったけど、すぐ何かしらのメッセージが届いていた。でも今回はなんの音沙汰もなく消えている。
「何か知らないのか。こうなった原因みたいなのは」
「分かんない。今思い出してるけど……そんな。そんな、ことは」
……いや。待てよ。
「キリトが病院に来た理由」
「「病院?」」
詳しくは和葉からも聞いたことは無かった。というより聞かなかった。きっと聞いたら和葉が嫌なことを思い出すから。病院で声をかけて遊んでたのは僕くらいだった。
「ミトは知ってると思うんだけど。キリトってリアルじゃ【青薔薇のミサンガ】してるよね」
「うん。してる」
青薔薇のミサンガ。和葉があれを外しているのを僕は1度も見た事がなかった。病院の時からずっと大切そうに付けていた。1度、病院の先生が外そうとした時『いや!!!』って今まで見た事がないくらいに拒絶していた。
「あのミサンガはキリトにとって1種の精神安定剤みたいなものだったんだ。あれを外してるのを見た事がない」
「病院の頃から?」
「うん。詳しくは聞いたことないし、本人には聞いてないんだけど。キリト、ちょっと入院した理由が特殊みたいで。周りの子供はキリトを避けてた。人殺し、悪魔って言って」
「そんな根拠もない話を……」
「…………。それって事実だったりするのか」
「聞いてない。でも、それに近いしことはあったと思う。友達はいなかったから。僕も和葉も。病院のベッドでずっと泣き声が聞こえてた。『ごめんなさい』『許して』『1人にしないで』って。その声が聞こえる度、ベッドから抜け出して和葉のそばにずっと居た」
「…………PTSDか」
PTSD。心的外傷後ストレス障害。ひどく衝撃的な
「おそらく……いや。確実だろうね。す……キリトの弟から聞いた事あるから。詳しい内容は聞いてないけど、時々発作が起きてる。最近はすごく安定してたんだけど」
おそらく何かがあった。今のキリトがそうなった理由が。
「今のキリトは危ない。何時死んでもおかしくない。だから、キリトを早く探しに行かないと行かないから。それに……クラインにも言われたから。キリトを頼むって」
「そうか……」
「じゃあ私達も行った方が……「やめとこう。ミト」え」
「なんでよ!? アスカ! キリトを助けたいってあんたおも「俺たちじゃ役不足なんだよ!!」……あすか」
この数ヶ月。何回かアスカとは組んだことがあった。と言ってもだいたいキリトが誘ってだったけども。ミトともよく4人で組んだ。アスカは感情的になることは少ない、いわゆるクールと呼ばれる人物像だった。でも、今日のアスカは違った。いつにまして感情的だった。
「悔しいよ。悔しいに決まってる。当たり前だ! 俺だってキリトを救いてぇよ。でも、俺たちじゃ役不足なんだよ。ミトはリアルでもあったことがある。俺よりは適任だ。でも、俺はここで初めて知った。ミトだってリアルではあったことがあるが結局。どこまで行っても【リアルの友達】ってやつなんだ。俺に至っては【ネットの友達】だ。その点、ユウキは違う。病院の頃……俺たちはよく知らないし聞かないが、俺たちより圧倒的にキリトと過ごしてる。それに」
──『悔しいが、キリトはユウキといる時の表情が明るかった』
「アスカ」
「キリトのことはお前が1番知ってる。大人数で行くより。1人であった方があいつも気が楽だろ」
「まぁ……。キリトはそういう子だからそれはそうだけど」
「なら行ってやれ。それがお前の今のやるべき事なんじゃないか」
「……うん。分かった」
「なら。伝えておいてくれ。─────って」
アスカ…………。
「うん。当たり前じゃん」
「あ──! もう分かったわよ。そうね。私たちが行っても結局悪い方向にいきそうね。なら私からも───って伝えておいて。絶対連れ帰ってきてね。帰ってこなかったら私は貴方を一生恨むから」
「うん。その時はいくらでも恨んでいいよ。でも、絶対に連れて帰ってくるから」
「それでこそよ。任せたわ」
僕は2人に別れを告げてひたすらに走った。ただずっと前に。ずっとずっと。彼女を。和葉を探すために。
もう。掴んだ手を離さないように。
「……アルゴ」
「キーちゃんか。何の用だイ?」
とあるNPCレストラン。そこにオイラは呼び出された。相手は【黒の剣士】なんて言われているプレイヤー。オイラにとっては妹分みたいで可愛い子だった。でもそんな雰囲気はもう感じられなくなっていた。
「今日の限定ドロップの話」
「死者を復活させられるってやつか。あれははんぶ「お金はいくらでも出す。情報が欲しい」…………」
あの時の面影はどこかに消えている。フードを被ってまるで誰かを簡単に殺せてしまうくらいに殺気が溢れていた。
(そりゃ。さっきの男性プレイヤーも驚いて逃げ出すわけダナ)
「……もう何を言っても止まならないカ。35層。もみの木の下にポップするボスモンスター。そいつが落とすって言われてる」
「わかった」
そう一言だけ告げる。ほんとに変わった。いや、変わってしまった。
「キーちゃん!!」
思わず声を上げた。キーちゃんはこっちの顔を見ずにその場で立ち止まる。
「なんで。そこまでするんダ。オイラのフレンドだけ残して、他の。アー君やミーちゃん、ユー坊を消したの」
「もう関わって欲しくないから。アルゴを残したのは攻略をするのに情報が必要だから。それ以外に話すことは無いし話す必要も無い」
「迷惑をかけないためか」
「それが理由って言ったら肯定してくれるの」
「肯定はしない。でも否定もしない。ほんとに。キーちゃんはそれ……をッッ……。なんでもない。早く行きな」
殺気に勝てなかった。あのまま言葉を続けてたら間違いなく殺されそうになっていたかもしれない。キーちゃんはそんな事はしない。そんなことはしないと分かっていても。あの殺気に勝てなかった。キーちゃんが放ってた負の感情に勝てなかった。
「……オイラには無理だ。あのキーちゃんを連れ戻すのは」
だった1人。ただ1人だけ。キーちゃんを連れ戻せるとしたら……。
「あとは頼んだヨ。ユー坊」
「……うるさい」
ずっと頭の中にこびりついている。
「黙って。お願いだから」
「生きろとか。もうそんなの。どうでもいいから」
死ぬな。生きろ。何回、何百と聞いた。
「70。もう、これでいける。きっと助けれるから」
きっと今の私は正気も何も残っていない。きっと殺気だってダダ漏れだろう。でもそれでいい。みんな、私に近づいてこないから。これでいいんだ。これで。
「付けてきたの。クライン」
「おう。お前の様子がおかしくてな。何があったんだ?」
「関係ないでしょ。もう私に関わんないで」
「キリト! お「うるさい。関係ないって言ってんじゃん」」
ごめんなさい。クライン。
「……生きろよ。絶対生きて帰ってこいよ」
「…………」
ごめんね。もしかしたら守れるかすらわかんないや。それすらも。
結局ダメだった。何もかも手遅れだった。
何もかも全て手遅れで。
私は結局誰も守れやしなかった。救えもしなかった。
「……十秒。クライン、これ貴方が使って。貴方の目の前で誰かが死んだ時」
彼が何を言っていたのか。何も覚えていない。耳が拒絶していた。
きっと私はもう。誰のそばにいる資格も権利も……。
──ー2023/12/24【アインクラッド第■層】
「ありがとう。クライン。見つけたよ」
クラインから情報が入った。和葉に会ったと。やっと見つけた。
伝えたいこと。言いたいことはいっぱいある。でもそんなことよりたったひとつだけ。
「君が僕を救ってくれたように。今度は僕が救うから」
あの時。君が僕に声をかけてくれたように。今度は僕が君を救うから。
「入るね」
「……誰」
「キリト。……いや和葉」
ユウキが部屋に入ってきた。どうして彼がこの部屋を知ったのか分からないけど。
「……出てって。お願いだから」
君に合わせる顔も資格も。今の私にはないから。
「嫌だ」
「出てってよ」
「嫌」
「お願いだから。聞いてよ」
「聞かないし出ていかない」
「出てってよ!! 邪魔だから出てってよって言ってるじゃん!!」
ごめんなさい。
「僕は変わらない。出ていかない」
なんで。なんで君は……。
「なんでよ……なんで聞いてくれないの。お願いだから、お願い……だか……ら」
やめて。やめてよ。優しくしないで。優しくだかないでよ。
「離れてよ…………」
殺気を出しておけばみんな近づかなかった。これで良かった。これで良かったのに。それなのに。
「大丈夫。大丈夫だから」
「うるさい」
「君の殺気くらい分かるよ。でも本気で殺そうなんて思ってないでしょ」
「黙ってよ……うるさい」
心が拒絶してくれない。拒絶したい。離れたい。そう思っているのに。それなのに。
『「和葉」』
重なる。
「離れてよ!! もう……失いたくないから。誰もこの手で殺したくないんだ……。だから」
「か「私に触れないで!! 私に触れたら木綿季が穢れるから」」
こうでもしないと君は私から離れてくれない。
「嫌だ。僕はわがままだから和葉がそう言っても離れてあげない」
そう言って木綿季はまた私の手を取る。なんで。なんでいつもいつも。
「木綿「何も分かってないのは和葉の方だよ」違う……ちが」
「分かってない」
「ちがう……ちが」
「〜〜〜ッ!! 和葉は何も分かってない!!」
一瞬体がビクッと動く。木綿季の表情を見ると今まで見た事がないくらいに怒っていて、目には涙が溜まっていた。
「和葉は優しいから。みんなに迷惑をかけないようにって僕たちを避けてたんだと思う。でも、でも。……それで迷惑かけてないつもりなら、それは和葉が間違ってる!」
「え……」
「アルゴとクラインはずっと心配してた。アルゴは冷たく接しられて嫌われたんじゃないかってずっと言ってた。クラインは自分の力不足に悲観していた。アスカは今まで以上に動揺してた。ずっとずっと落ち着かないのか動いてた。ミトは珍しく泣き叫んでた。死んだんじゃないか、嫌われたんじゃないかってずっと」
「……」
「和葉は何も分かってない!! みんなの気持ちなんて全然これぽっちも!! 和葉はもっと自覚するべきなんだよ。もっと自分に自信を持っていいんだよ。周りに愛されてるんだって」
「……そん……な」
「アスカが言ってた。『何か困ったことがあれば頼ってくれ』って。ミトも言ってた。『何があってもずっと友達でいふから』って」
みんな……。
「僕だってそうだよ。だって……『好きな人の助けになれないのなんて嫌』だもん」
ずっと。ずっとこの違和感が取れなかった。無自覚にどこか重ねて。
「和葉の手は汚れてなんかいないよ。そんなこと言うやつ、僕が全部ぶっ飛ばしてやるから! だから」
木綿季が私の体を抱き寄せる。強く。でもすごく優しく。
「もう。この手を離さない。『君を1人になんかさせないから』」
あぁ。そっか。
ずっとずっと重ねてたんだ。
無自覚にずっと。でもやっと気づいた。
「ゆう……き」
「やっと呼んでくれた」
木綿季は彼じゃない。木綿季は木綿季なんだ。
「それ、光ってるよ?」
「え」
手にはいつの間にか記録クリスタルが握りていた。たしか、このクリスタルって……。
『メリークリスマス。キリト』
「さ……ち」
『このメッセージを聞いてるってことは。私はもう死んじゃったんだね。だって、クリスマスになったらこのメッセージは返してもらうつもりだったから。……あはは、恥ずかしいね。これ』
無意識に涙が溢れていた。なぜか止まらなかった。
『本当のことを言うとね。……私、この始まりの町から出たくなかったの。いつ死ぬか分からないのなんて怖いし。でも、ずっとこんな気持ちのまま戦ったらきっと。私はいつか死んでしまうから。……でもね、これは誰のせいでもない。私の心の問題なんだと思うんです。君は言ってくれたよね。『死なせない』って。だから自分を責めてしまうんじゃないかって思って。この録音を残すことにしました』
「さち」
『キリトが強いことは知ってた。自分で攻略組だって言ってたし、それに戦い方も私たちよりはるかに洗礼されてたから。きっと私は大丈夫なんだって。キリトが守ってくれるから大丈夫なんだって思えたんだよ。だから、怯えないですんだ。安心できた。ありがとね、キリト。君に出会えて本当に良かった。だからこれは私からのおねがい』
──『生きてこの世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫が生まれた意味を探してください』
……あぁ。
『あと、絶剣さん……ユウキさんも聞いてると思います。私はキリトの話でしか聞いたことないけど、貴方の話をしている時のキリトはすごく楽しそうで幸せそうだったから。キリトにとって大切な人なんだなって思いました。正直、ちょっと羨ましかった。でもそれ以上にキリトが幸せそうに話してる姿が私はとっても好きだった。私が言うのも烏滸がましいし、ぽっとでの私が言ってもなんの説得力もないと思いますけど。それでも、伝えたさせてください』
「うん」
『キリトの事、頼みました。私と同じくらい弱虫で泣き虫で。……そして誰よりも強いキリトを守ってあげてください。あ、時間余っちゃったね。せっかくのクリスマスだし……そうだね。歌、歌うね。赤い鼻のトナカイ』
「……あぁ。あ、……」
ずっとずっと。何かが縛り着いていた。
「任せてよ。サチさん」
「さ……ち。ゆうき」
『キリト。忘れないでね。キリトは1人なんかじゃないよ。ユウキさんがいるから。それに、たくさんの仲間がキリトにはいるんだから。あったことはないけど、きっとキリトの友達ならいい人に間違いないから。君に出会えて本当に幸せだった。楽しかった。だからありがとう。君に出会えて、友達になれて。本当に良かった。……ありがとう。バイバイ』
カランカランと結晶が落ちる。
「さ……ち。私は。私は」
「我慢しなくていいよ。大丈夫。僕がいるから」
「木綿季。……ゆう、き。わたし、わたしッッ」
「うん」
「うぅ……うぁぁぁぁぁッッ!」
その後のことはよく覚えていない。木綿季の胸の中で子供のように泣いて。でもさっきまであった懸念も疑念も何もかも。いつの間にか綺麗に消えていた。
そして。木綿季を【彼】と重ねてみるのも無くなっていた。
「……。ごめんなさい」
「バカ。心配、したんだから」
次の日、私はミト達に出会った。ミトは私を見て大声で泣き出して私を強く抱き締めてくれた。それを見て私もいつの間にか大声で泣いていた。
「キリト。無事でよかった」
「アスカ」
「もう迷惑かけんじゃねぇぞ。いいな」
アスカは不器用に私の頭を撫でた。でも優しさがすごく伝わる。
「キリト。こういう時は大人を頼れ!! いいな?」
「キーちゃんは無理するからナ。こういう時は遠慮なく頼っていいんだゾ」
「クライン……アルゴ。……ごめんなさい」
「「ごめんなさいじゃなくて、こういう時はなんて言うんだ?」」
「……ありがとう」
「おう!」
「とりあえず無事で何より。あんなキーちゃんもう見たくないナ」
ごめんなさい。サチ、みんな。
「ユウキ」
「どうしたの?」
「私、頑張る。みんなのために」
そしてありがとう。私の背中を押してくれて。
「うん」
だから少し甘えさせてもらいます。みんなのその優しさに。
「そして。また、私とバディ。組んでくれますか?」
「当たり前じゃん。僕はキリトの剣なんだから」
ありがとう。さようなら。そして、行ってきます。
「ステイクール……だったよね。君が教えてくれた」
もう。彼はいない。私がきっとずっと追いかけていた背中はもう居ない。
「行ってくるね。……【ユージオ】」
君の分まで。私は世界を見ることにするよ。いつか君に出会った時に飛びっきりの自慢話ができるくらいの。
「行こ! キリト!」
「……〜ッッ、うん」
そして、この私の中に生まれた謎の感情の正体を確かめるために。
私はもう。
「ひとりじゃない」
はい。なんとユージオ君です(予定調和)。
こういう話が私は好きなんだ。好きなんだ!!そして。アリシゼーション編まで続けるかどうかはまだ悩んでますが、ちゃんと色々考えてます。
そして、和葉さんが……ふふっ。