正義の執行者   作:イテマエ

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第11話 煩雑する事態、擦れ違う思惑

 照りつける太陽、喧しく鳴くセミ…

 人々は暑さだけでなく、この五月蠅さに苛立ちを露わにしながら今日も生きていく。

 

 しかし、そんな夏。

 働きに出ている者はこの暑さに勘弁だろうが、元気一杯の子どもたちは、野を無邪気に駆け巡る、或いは大人しく家の中でゲームなど、夏を満喫していた。

 

「なのは〜!」

 

「フェイトちゃん…フェイトちゃ〜ん!」

 

 地球では運命に抗った少女・フェイトが、初めてできた友人と感動的な再会を果たしたであろう。

 

 そんな温かな雰囲気はない、無骨でやや煙たい一室で、権藤はある男と向かい合っていた。

 

 対面に座るのは、地上部隊のトップであるレジアス・ゲイズ。

 非魔導士であり、魔法が主流な世界で生まれながらにハンデを背負っているような男だ。

 苦労の連続の人生で、自ら魔法の世界に足を踏み入れた彼は、この逆境を跳ね除けて今の地位に立っている。

 その顔に刻み込まれた深い味のある皺は、その壮絶さを物語るのには充分であった。

 

 その見るものを威圧する、歴戦の軍人のような威厳ある顔は、権藤の持ち出す話により皺を深くしていた。

 

「確かに海の連中に主導権は握られ、ただでさえ苦しい我々陸の立場は厳しいままだ。その上、海は空と強固な繋がりがある。陸が後手に後手に回るのは目に見えるな」

 

「…上の思想は理解できん…管理外世界、言わば管轄外の仕事を口実に色々言われても、現状自由に動くことはできない…『結果を残せ』と言われても後ろで指を咥えて黙るしかない…」

 

「そのくせ、『なぜ何も行動に移せなかった』なんて怒鳴られるわ、かと言って動けば『勝手な真似は許せん』だもんな〜無能なトップはよ」

 

 二人が愚痴を言うのも仕方がない。

 この陸の厳しい立場は、管理局のトップのスタンスに問題があるからだろう。

 魔法至上主義を抱えるトップの古い脳が、動かしやすい海、空に戦力と予算を割いて、陸には低ランクの魔導士を使い捨てのように随時送り続ける。

 強敵を迎え討つ際、海と空は充実した装備でうまく連携をとるのだが、陸は寄せ集めの装備と戦う術が限られる人員で、半ば玉砕に近い戦いしかできず、多くの死傷者を出しては上から咎められ、予算の削減が行われる。

 この悪循環を止めるべく、政治家上がりのレジアスは搬送したのだが、今でも海、空、そしてトップは結束している。

 

 権藤自身、リンディ率いるアースラ隊は信頼しているとはいえ、そういった組織の傘下であるため、その動向には目を光らせていた。そのため…

 

「今地球に滞在する嘱託魔導士のフェイトに、特佐直伝の戦術と()を身につけさせたんで、おもしろいことやってくれるんじゃないかと思いますがね」

 

と、やや悪い笑みを浮かべた。

 それにレジアスは怒る気力も失せてため息だ。

 

「それだけじゃねぇ」

 

 権藤はさらに畳み掛けた。

 

「既に特佐が駐屯地を設定していましてね。しかも、地上部隊としてではなく、特殊戦略作戦室の特権行使としてやってくれましたよ」

 

 彼は一枚の紙をレジアスに出した。

 そこには以下のことが書かれていた。

 

———本件「闇の書の無力化、凍結封印」に際し、特殊災害対策本部戦略作戦室の派遣を認める———

 

 この字面を読んだレジアスは呟く。

 

「よく上は許可を下したな」

 

 それに対し、権藤は新しいタバコに火をつけながら答えた。

 

「海にも現行のトップにはよく思ってねえ奴がいるもんで。単純に次期リーダーを狙ってるだけかもしれませんが、クソジジイ(グレアム)経由でいろいろとね」

 

「…一枚岩でないとは知っていたが、組織内部にこれだけ確執があるとは驚き通り越して呆れるな」

 

 レジアスの怒りの籠った嘆きに、権藤も肯定しながら煙を吸った。

 こんな足並みが揃わない連中に、件の重要な「闇の書」を任せられるのか。

 

「つーわけで、我々特殊戦略作戦室、実質陸軍が常駐することで、他への牽制も兼ねてるってわけだ。油断してりゃ、我々がちょちょっと横槍入れてやるってね」

 

 権藤の物事を簡単に言う態度にため息をつくが、一拍置いてレジアスは冷や汗を流す。

 

「…ここまでのことを、林田特佐は予見していたと?」

 

 そうであれば、本当に抜かりのない男であろう。

 

「ああ。それだけの理由ではないだろうが、特佐も特佐で手段を選ばん人間だ。海の連中を連れるメンバーを身内に固め、ついてくる能無しについては弱みを握って動かざるを得ない状況に追いやった。こうして、めでたく陸も動けるってもんだ」

 

「…そして後任の権藤君が選ばれたのか…」

 

「なんです陸長?私じゃ不満です?」

 

「不満と言うより不安が大きい」

 

「まぁ確かに、私も今回に関しちゃ体のいい左遷だと思ってるところがありましてな。ハッキリ言って、特佐の目利きで選ばれた海の面子は最高クラスの戦力だ。余程のことがない限り、我々の出番はないな」

 

「…故に、簡単に許可を出して黙ったままの上が気になると…」

 

「ええ。俺はこのことすら、評議会のクソジジイが利用してるんじゃねえかって、思ってるんですがね」

 

 そう言って権藤が机の上に出したのは、一つのファイルだ。

 表紙には「特殊災害対策本部戦略作戦室行動記録」と書かれていた。

 レジアスはそれをペラペラとめくっていくと、目を大きく開いた。

 その反応を見て、権藤は口を開いた。

 

「特佐が危惧していたのは、闇の書でもトップとの確執でもねえ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『起源種』だ」

 

 

 起源種———それはまだ魔法という概念が誕生する以前の、太古の話。

 各次元世界では魔力を持たない原始的生命体が闊歩していた。

 時代が経つにつれ、生命は進化を重ね、その過程で魔力を身につけた生物が現れた。

 当時魔力を持つ生物———魔導原始生命体は、これといって魔法をうまく扱うものがいなかったが、進化の過程で魔力操作で空中を自在に飛び回ったり、攻撃手段として用いたりするようになった。

 生物的に優位に立った魔導原始生命体は、勢力を広げていき、起源種を押し出そうとし、絶滅の一歩手前まで追いやった。

 

 そこで起源種は生き残るため、独自の進化を遂げてきた。

 魔力で空を飛ぶ敵に対抗するため、時空をかける翼を生やしたり、炎や光線を放つ仕組みを得たり、或いは精神に干渉してくる魔導原始生命体に対抗するため、魔法に異常なまでの耐性を持ったりと、抗った。

 

 結果、アンチ魔法として、破格の強さを誇る生物は、太古から姿を変えないこともあって「起源種」と呼ばれ、魔法主義の現代では猛威を振るう厄災となってしまった。

 

 しかし、遠い昔に魔力の有無で枝分かれしたために、現代に至るまで起源種と魔導士の接触はなかった。

 

 そして、存在が机上の空論になり、その考えが風化しようとした時、やつは現れた。

 

「円盤生物第0号事件」

 

 ミッドチルダに流星群が降り注いだある日、その集団の一つがそのまま地上に落ちてきた。

 研究者たちは、その隕石を回収し調査した時、その表面にバクテリアほどの微生物が確認された。

 更なる解析をした時、どの地上生物の特徴にも合致しない貴重な新生物として、その後も調査は続く。

 そしてある日、ケースに保管していた微生物は逃げ出しており、研究員総出で探しても見つからなかった。

 逃した者の責任の追求と、貴重なサンプルを失ったことに多くの者が落胆した。

 

 そして事件は起きた。

 たった一夜にして、研究員のほとんどが集団で失踪する事件が起きたのだ。

 上は執務官数人を派遣し、様子を見ていたところ、執務官の一人が慌てた様子で通信を入れてきた。

 曰く、「巨大な円盤のような生物が、バディの執務官を食い殺した」と。

 現場に急行した魔導士は、すぐ奴に魔法攻撃を行ったが、S級の攻撃を意に介さない暴れっぷりを見せ、増援の魔導士部隊および、執務官を皆殺しにし、さらに巨大化して奴は大衆の前に現れた。

 客で賑わうデパートの真上に降り立ち、大勢の命が倒壊する建物の下敷きとなった。

 ここに陸海空の大部隊が集ったが、魔力攻撃がほとんど意味を成さず、このたった1日だけで数千人の人の命が散った。

 

 円盤生物の猛威は止まることを知らず、2日後ついに管理局は陸に事実上の丸投げをする暴挙に出た。

 

 この未曾有の危機の収束のため、部隊の再編、戦況の立て直しを任されたのが、ギル・グレアムだった。

 彼は、生き残りのトップの連中が責任を負いたくないために、その重要な役割を押し付けられた。

 しかし、彼には知恵と人望があった。

 

 まず、特殊戦略作戦室の前身の「科特隊」に出動命令を出し、当時科特隊隊長だった村松敏夫を前戦指揮官に任命し、現場の部隊運用を任せた。

 そしてグレアムは提督として、後方から支援し続けた。

 海・空にはクライド・ハラオウンを、陸にはゼスト・グランガイツを実質的な分隊長に指名し、それを前戦指揮官村松が引っ張る形となった。

 一時壊滅寸前だった戦況は持ち直したが、科特隊の主要メンバーは村松と他数名を残して帰らぬ人となった。

 

 質量兵器の大量投入と、魔導士による決死の総力戦でなんとか円盤生物の駆逐に成功したが、たった3日の間に死傷者数万人を出す結果となった。

 上は功績をあげた科特隊の解散命令を下し、そのトップだった村松敏夫に責任を擦り付け、彼を管理局から追放して事件は収束させられた。

 

 後にこの円盤生物は、太古の姿を維持しており、リンカーコアを持ちつつも、魔導回路がない原始生命体であることが判明し、起源種の存在を裏付けることとなった。

 

 

 悲惨な過去の事件を思い出したレジアスは、緊張した様子で表情に影を落とした。

 

 そんな厄介な起源種が、今回闇の書に関わる可能性があるとし、当時議員の一人として避難活動をしていた彼は粟立つ思いがした。

 そんな彼に、権藤は続けた。

 

「まだその存在が確定されてませんが、つい先日それっぽい痕跡がありましてですね」

 

 そして見せたのは写真だった。

 その写真には、人の足よりも二回りほど大きい恐竜のような足跡と、何者かによって無惨に食い荒らされた魔物の死体が写っていた。

 

 それらを提示した上で、権藤は口を開く。

 

「『闇の書』が起動された場合、歴代の人形どもの行動は、リンカーコアの魔力募集だ。そうなりゃ、リスクある魔導士よりもまず、その辺の魔物を狙うはずだ。しかし、魔物を狙うのはそいつらだけじゃない…」

 

 レジアスは重く呟いた。

 

「…そのヴォルケンリッターとのエンカウントする可能性がある…」

 

「ええ。起源種の厄介な点は、魔法攻撃を喰らえば驚異的な対応力で進化するところだ。魔力の塊のそいつらがやられて取り込まれれば…いや、場合によっちゃ、闇の書そのものを取り込まれれば…」

 

「あの事件とは比にならん被害が出るな…」

 

 上がもしも、地上部隊の完全な排除と、苛烈なまでの魔法至上主義を通したい時、必ず障害となるのはこの、特殊災害対策本部戦略作戦室だ。

 こうした状況をあえて黙認し、特殊戦略作戦室が何かしらの痛手を負うことを望んでの采配だろう。

 

 狡賢さには頭が回る評議会に、二人は苛立ちを覚えた。

 言いたいことを言い終わった権藤は、パンっと膝を叩いて立ち上がり、レジアスに最後、念を押した。

 

「最悪の事態が1%でも想定されるんです。是非、特権の諸々の許可の便宜を図っていただきたい」

 

 見事な一礼とともに放たれた言葉には重みがあった。

 それに対してレジアスは、

 

「うむ、なるべく君たちの好きを通すようにしよう」

 

と、確かに力強く答えた。

 

「頼むぜ。俺ら特殊戦略作戦室は、この起源種に対抗するためにあるようなもんだからな。ちゃんと俺らが活躍できなけりゃ…」

 

 権藤はサングラスをかけ、

 

「こっちが税金を食う怪物になっちまう」

 

と、皮肉を残して部屋を出て行った。

 

 権藤が退室した後、改めて文書に目を通し、レジアスは大きくため息をついた。

 

「目には目…歯には歯…起源種には起源種をか…」

 

 その文書の下には、以下のことが記載されていた。

 

———以下が確認された場合、特殊戦略作戦室は特権の行使が許可され、危機的事態の場合には必要最小限度の実力行使により、可及的速やかな解決に尽力すること

 

条件

一、闇の書の起動が確認され、それの行動または、それに関連するものによる行動で、被害が一つでも確認された場合。

二、海主導の「凍結プラン」だけでは事態収束が望めないと判断された場合。

三、危険度コード「16」以上と予測された場合。

 

備考

条件三にあたり、起源種が確認された場合、直ちに作戦指揮を特殊災害対策本部戦略作戦室に移動し、以降事態収束と確認されるまでは同部隊が指揮をとり、武器使用は無制限までを想定とする———

 

 

 場所は変わって、ミッドチルダの首都圏から外れたところ。

 人気があまりない小山の中に、塀や柵で囲まれた敷地内に特徴らしい特徴がない建物が建っていた。

 しかし、雰囲気は緊迫したような、やや物々しいものが流れていた。

 

 と言うのも、まず数箇所ある入口全てに、銃を携帯した見張りが立っており、敷地内の広場では、一糸乱れぬ隊列を組んだ者たちがランニングをしていた。

 また、障害物に溢れる森林を利用し、戦闘訓練の他、救助訓練なども行っていた。

 

 この、さながら陸上自衛隊の駐屯地のような施設に、権藤は堂々と入っていく。

 見張りは彼に敬礼をすると、再び業務に戻った。

 

 権藤は建物の中に入ると、地下に降り、とある一室に入った。

 そこは窓の光がなく、手元を照らす蛍光灯と、モニターなどの光が部屋を照らすばかりで、かなり重苦しい雰囲気が流れていた。

 既にそこには人が揃っており、権藤が入室するとともに皆立ち上がって一礼した。

 

 権藤はこの雰囲気に動揺することなく、ただ片手を挙げて応えると、残された真ん中の椅子にドカッと腰をかけた。

 そして隣に座る、権藤よりも少々歳を重ねた男に声をかけた。

 

「いやぁ俺が不在の間、仕事を引き継いでくれて助かりましたよ」

 

「…できればもっと早く言って欲しかったのだが。今更室長補佐の無茶振りに狼狽えるほどの私でもないさ」

 

 あの権藤に皮肉で返すのは、特殊災害対策本部戦略作戦室のNo.3であるアルバート・ザイゼンである。

 名前からわかる通り、日本人の父親を持つ男だ。

 

「まあ、今回いろいろ室長も室長補佐も引っ掻き回してくれたおかげで、やることは倍になりましたが…ま、調査の方は私の部下がやってのけましたね」

 

 そして長机の中央に、点で示した次元世界から、「Unknown」とマークされた矢印が伸びていく。

 

「はじめに第87管理外世界で、僅かながら環境の変化が確認されました。そして、その調査を行ったところ、大量の魔物が食い荒らされた形跡が…」

 

 ザイゼンが指した点には、多くの魔物の無惨な姿が写った画像が添えられていた。

 これを見て権藤は尋ねた。

 

「いつからこの大量死は確認された?」

 

「断定できませんが、4週間から3週間ほど前と見ていいでしょう」

 

「その辺りはちょうどあれか。PT事件の起きた時期だな」

 

「恐らくジュエルシード、プレシア・テスタロッサによる次元断層が、異なる次元に影響を及ぼして、崩壊した別の次元とこの第87管理外世界を繋いだと見ていいでしょう」

 

「崩壊した次元の特定は?」

 

「不明です。しかし、現場で採集された岩石の破片が推定3億年前のものだと判明し、充分起源種である可能性があったため、第87管理外世界へ小隊を派遣しました」

 

 そして、ザイゼンは行動記録が書かれている紙を権藤に渡した。

 権藤はこれをパラパラと読んでいく。

 

「この感じ、(ゼロ)よりも厄介そうだな」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 そこには、推定される起源種のスペックが書かれていた。

 

「0は始祖のクラゲでしたので、そこまでの知性も耐性もなく、通常兵器でいけましたが、今回は細胞そのものが起源種で、素体となる魔物に寄生して自分の物とする厄介なタイプです」

 

「因みに何を取り込んだ?」

 

「ウミウシ、トカゲ、あとはネズミの魔物ですね」

 

「…知性がある奴を取り込んだか…」

 

 権藤は資料を机に置き、今後どうするか考え抜く。

 今やってくるであろう起源種は、0以上の進化スピードで対応してくるだろう。

 また、地球での闇の書のこともある。

 正直、これらとの二面戦争は避けたい。

 

「いっそのこと、お互いにぶつかって戦いあってくれりゃいいんだが。そうすりゃ最後に勝った方を倒すだけになるんだろうな〜」

 

 権藤は少し上を見てボンヤリと呟き、それにザイゼンが苦笑いで反応した。

 

「起源種の性質上、闇の書を取り込みにかかるでしょう。そうすれば、想像もしたくない悍ましいキメラと対峙することになりますが」

 

「だよな…ま、望み薄だとは思ってたが」

 

 権藤は一つため息をつき、頭をボリボリと掻く。

 

「今はリンディさんたちに期待するしかねえか」

 

 そして、顔の前で手を組んで呟いた。

 できれば闇の書はそっちだけで解決できるならば、と。

 

 こうなると、レジアスはまた上から小言を言われて不機嫌になるだろうが、起源種のことを考えれば然程痛くも痒くもない。

 

「よし、最終到達点はここミッドチルダ想定で動く。そこで次の進路となっている第61管理世界で戦車部隊を運用した攻撃隊で迎え撃つ」

 

 権藤がキッと強く宣言すると、自然とその場にいる者たちが背筋を伸ばした。

 

「至急、第61管理世界に避難場所の確保とその指示の通達を送ります」

「シミュレーションによる戦車隊の砲撃訓練は完了しています。武器弾薬等補給の状況も問題ありません」

「あとは実行のみです」

 

 隊員たちの頼もしい言葉に、権藤は口をニイッと緩ませた。

 

「よし、これより第61管理世界『スプールス』にて、コードネーム『ザ・ワン』を迎撃する!」

 

 権藤の宣言に、野太い力強さに溢れた返事が響く。

 闇の書の手前、数年ぶりに確認された厄災相手に、特殊戦略作戦室は動き出す。

 

 

 会議室を退室した面々に続き、権藤とザイゼンも後からそこを出た。

 

「にしても追尾装置つけたり、スペックを短期間で明かしたり、ザイゼンさんの部下は本当に優秀ですな」

 

 ふと権藤はザイゼンにそう語りかけると、彼は誇らしそうに話す。

 

「ええ、うちの若手のホープですよ。去年採用したばかりで、有名な魔導士を多く輩出するStヒルデ魔法学院高等部を首席で卒業して、海でも空でもなく真っ先にココにやってきた変わり者ですが」

 

「ほぉ〜これまた随分と骨太な奴がいたな。魔導士ランクは?」

 

「これが不思議なことに『D』です」

 

「つまりアレか?魔法はからきしだが、頭に秀でているってことか?」

 

「…室長補佐を冷静にしたような男ですね。引率と状況判断に優れていましたので、訓練後すぐに部隊を持たせられましたね」

 

「それで初の任務が起源種か…それで、これほどのことをやってのけたのか」

 

「冷静ながら大胆な男だよ」

 

「…なら、将来はここの室長か?」

 

 権藤の問いに、ザイゼンはやや呆れながら微笑んだ。

 まだまだ若いが、彼は有能な者に間違いない。

 

(だが…まだまだ甘いな…)

 

 権藤はその男の名は忘れないでいた。

 

(ショウ・クロキか…こいつの祖先も日本人か?)

 

 そして、世界は狭いとも思った。

 

 

 とある日、地球にて。

 幼い主人に忠誠を誓ったヴァルケンリッターは絶望した。

 

 医者曰く、体内機能が弱まる症状が進んでおり、足だけだったものが内臓にまで及んで、いずれ死に至らしめるそうだ。

 原因も不明なため、なんとか効果のありそうな薬を処方するが、このまま回復が見込めなければ、今年の終わり頃覚悟した方がいいと。

 

 幼い主人にこのことを伝えるのは酷だった。

 

 そんな何も知らない彼女、今は看護師と本を読んで時間を潰している。

 

「へぇ〜はやてちゃん、こんな難しい字の本も読めるのね」

 

「図書館で親切なお兄さんから教えてもろたんです。おかげ様で、今では色んな本を読めるんです」

 

 楽しそうに会話する主人だが、時折図書館で知り合ったという男の話をしては、その表情に影を落とした。

 曰く、よき理解者であると。

 そして、ほぼ毎日のように図書館を訪れた。

 

 しかし、最後に弱い、涙を流した自分を晒してからは会えない日々が続いた。

 

 ヴォルケンリッターは、退屈と孤独から救ってくれたことに感謝と、今まで会わずに悲しませたことへの怒りをぶつけるため、何度も何度も探した。

 

 しかし、この町では見つからなかった。

 そのことを伝えても、主人は折れなかった。

 

「ようわからんけども、会えそうな気がするんや」

 

 ああ、主人はこんなにも健気に、どこの誰ともわからない者を待っているのだぞ。

 早く会いに来てくれ。

 

 もう時間がない。

 

 そろそろ我々も、()()()()動かねばならんようだ。

 

 そうなった時、本当の意味で孤独を救ってやれるのは、お前しかいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来てくれ…林田進悟…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある無人世界に、どこからともなく現れた男が降り立った。

 そのいつも無機質な表情に、今は少し焦りが見えていた。

 

「くそっ…こんなにも早く現れてしまうとは…」

 

 男———林田がボソッと呟くと同時に、同じようにどこからかそれは現れた。

 

 ギラつく鋭い目、大きな口からは牙を覗かせており、体は見るものを威圧する大きく、背中からは特徴的な太い角のような突起が一対伸びていた。

 そのこの世のものとは思えない、悪魔のような獣に、林田は中腰になって構えた。

 

(もう恐らく闇の書は起動し、ヴォルケンリッターどもは動き始めるだろう…)

 

 林田は、獣が振り回す長い尻尾を躱しながら、地球での懸念を思い返す。

 

 もう時間がない。

 

 彼女を助けるには…

 

 しかし、コイツも放っておくことはできない。

 

 特殊戦略作戦室の室長として、対抗し得る手段を待つ者として、今ここで戦わねばならない。

 

「…起源種…それも寄生型…見るに既に何体か取り込んでるな…」

 

 来い。化け物、ここで貴様をすぐ葬ってやる。

 

 全ては、自分の我儘のため。他ならぬ、あの子を守るため。

 

 林田は、残された三本の試験管のうち、一本を飲み干すと、怠さと痛みが出始めた体に鞭を打って、カプセルのスイッチを押す。

 強烈な光がスパークし、獣が怯んだところで、林田は物凄い勢いそのままに突っ込んだ。

 

 死闘の始まりである。

 

 

 




 次回やっと原作キャラをもっと出せそうです。
 因みに今回登場させた敵…まあでも、「ウルトラマン、ゴジラは出ません」と書いてますし…「は」ね。ウルトラマン、ゴジラ「は」出ませんので安心を(?)

アルバート・ザイゼン

 元陸上部隊で最終階級は一佐。年齢33の頼れる特殊戦略作戦室No.3。林田、権藤の大先輩となるが、彼自身既に魔導士としてのピークは過ぎており、衰えを理由に除隊。経験と実績、そして戦い抜いてきたノウハウを後進の育成を行うため、特殊戦略作戦室にスカウトされた。
 ここでは、物理兵器を利用した行動もあるため、彼の力はまだまだ発揮されることになるだろう。
 父親は、日本の自衛隊の統合幕僚長である財前正夫。
 元ネタは『シン・ゴジラ』より「財前正夫」

ショウ・クロキ

 飛び級でStヒルデ魔法学院高等部を首席で卒業したヤングエリート。年齢は現在15。冷静沈着ながら、時として大胆な行動に出ては、勝たねばならない戦いを制する。
 魔導士としての実力はないが、それを補うその他の分野が秀でており、ザイゼンも一眼置いている。
 元ネタは『ゴジラvsビオランテ』より「黒木翔」
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