正義の執行者   作:イテマエ

12 / 12
 第二期、主人公は権藤さんになってますね。
 第一期の林田と対比してご覧ください。


第12話 重なる想定外

 

 周りを見渡せば鬱蒼と生い茂った草木があり、その間を流れる川は美しいほど透き通っていた。

 一際高い山には、遠くからでもわかるほどの巨大な滝が見え、美しい虹を作り出していた。

 

 ここはスプールス。

 第61管理世界で、美しい自然と、そこに住む生物の多様性から、保護対象となっており、自然保護隊によって管理、維持されている。

 

 その理由もあって、開拓・開発は抑えられているが、反対に密猟の問題もあって、ここ最近では管理局員の出動も多い。

 

 しかし今ここに居るのは、住み込みで管理する自然保護隊でも、管理局員でもない。

 一機のヘリコプターが、木々を揺らし、動物たちを驚かせながら着陸した。

 そして、プロペラの勢いが落ちてきたところで、中からサングラスをかけた男が出てきたのだった。

 

 ヘリが着陸したところで、テントのような小さな小屋から一人の男が迎えにきた。

 

「お待ちしてました、権藤さん」

 

「おう、話はザイゼンから聞いてる。クロキっつうのはお前さんか?」

 

「ええ、早速ですがこちらの方へ」

 

 権藤とクロキは握手を交わすと、早速小屋の中へ入っていった。

 

 中は思ったよりも綺麗、と言うより、機材が机を占領し、モニターと図面が壁に貼り付けられているくらいで、特別散らかっている様子はなかった。

 この自然保護区のど真ん中で、場違いのような施設だが、ここはとある怪物を迎え討つための重要な拠点なのだ。

 

「今コードネーム『ザ・ワン』は、最後に確認された第87管理外世界から、この第61管理世界に到達するまで、早くてあと3日と見ています」

 

 そして、説明とともに見せた資料には、様々な次元世界のうち、「87」と言う数字から点々と矢印が伸びていた。

 

「この手の生物は、生命反応の強い世界から襲撃を仕掛けます。次元移動が可能な『跳躍』が発生する周期、そして生命豊かな次元世界を鑑みて、次にここへ到達する可能性は62パーセントとなっています」

 

 クロキの説明に、どこか納得のいかないような、眉を顰めた権藤は尋ねた。

 

「『跳躍』っつーのは、次元と次元が結びついて移動が可能な状態のことだよな?」

 

 この「跳躍」とは、簡単に言えばワームホールのようなもので、次元航行船などの魔力でコーティングされたものや、「跳躍翼」と呼ばれる、次元を超える翼を持つ魔物等が行き来できるのだ。

 「跳躍」には、ある程度周期的に起こるものがあるのだが、これは航行船や通常の魔物が主に使用する、危険性が低いものだ。

 しかし、中には外的要因、その次元世界の崩壊による巨大な重力が働く場合の他、次元断層を引き起こし、次元崩壊が齎されるほどの魔力エネルギーによるものなどがある。

 当然後者のほうが危険であり、その想像もつかない力で途方もなく遠い銀河とも結びつく可能性があり、そこから未知の生命体が突破してくる時もある。

 その突破してきた生命体はやはり猛者である。

 そして、それはまだ一度しか確認されていない。

 

 あの悲惨な事件を引き起こした「円盤生物第0号事件」である。

 

 そんなヤバいを通り越した災害そのものが来るようなものだ。

 起源種には、その環境を著しく変える可能性も持っており、様々な最悪なケースが考えられる。

 現代人類が対応に追いつかなかったくらいだ、アンチ魔法特化の怪物に、ただ強いだけの魔物は根こそぎ食い荒らされるだろう。

 

 そうした懸念がある中、権藤はクロキに問う。

 

「ならよ、この62っつー微妙な数字はどうなんだ?87管理外世界の無惨に食い荒らされた魔物見た感じ、この生命溢れるスプールスが真っ先に狙われる体で動いているが…」

 

 それには、冷徹そうな無表情のクロキも難しい顔を見せた。

 

「一番可能性が高いだけであって、奴がここを目指す道すがら、何らかの別な要因が重なれば、ここに到達する可能性は低くなります」

 

 そう言いながら見せたのは、端末に表示される、何らかの波長だった。

 

「先ほど、観測手が捉えた、微弱な魔力震動波です。これがどう今後に影響するのか…我々も全力で当たっていますが、全てが前例がない以上、確実な算出は困難です」

 

 キッパリとそう言い切ったクロキの胆力に、ある意味大物に見えたのか、権藤は「フッ」と笑った。

 

 そもそも起源種と人類が出会ったのは、10年以上前で、それ以来一度も観測されてこなかった。

 あらゆるデータが不足しており、いきなり迎撃すると言っても、10年以上前のものとは何もかも勝手が違うのだ。

 

 権藤は暫く波長を眺めた後、「なるほどな」と一言呟いて基地を後にしようとした。

 

「クロキ、スプールス(ここ)はお前に任せるが、もし奴が来ようものなら下手に迎撃はするな。仮に今の装備で少しでも不安要素があった時、部隊には時間を稼がせるよう言っておけ」

 

「は…権藤室長補佐はどちらに?」

 

「俺か?俺は地球で特佐が残した面倒ごとを片付けなくちゃならねんでな。まあ上からも『起源種の動向に注意しつつ、闇の書の対処に当たれ』って、無茶振りが飛んできてな」

 

 そして権藤はサングラスをかけて、ヘリコプターに搭乗する時、

 

「まったく頭の硬え死に損ないの評議会をいちいち相手にしたられっか!くたばれ老耄ぇ!」

 

と、捨て台詞を吐いて飛び去ってしまった。

 

 その機内にて。

 

「いいんですか?あんなこと言って…記録に残るかもしれないんですよ?」

 

 隣に座る管理局員に、先ほどの発言について諌められていたが、権藤本人はどこ吹く風だ。

 

「へっ…それよりも、あのクロキという少年、流石首席だけあって指示出しはスムーズだし、粗方調べもついていたしな。ちょっとばかし揶揄うつもりだったが、アイツの技量も知れたしいいがな」

 

「そりゃあまあ…エリートですからね…って言うか、それだけのためにここに来たんですか!?」

 

 管理局員の疲れた様子から、いかに権藤に振り回されてきたのかがわかる。

 

「エリートねぇ…」

 

 しかし、項垂れる管理局員を笑い飛ばすと、すぐ窓の外を向く。

 同時に、あの男の仕事っぷりを思い出すのだった。

 

(まぁ、確かにすげー奴だった。あれなら大抵の事件なら全部任せてもいいかもしれんな…

 だが、今回の起源種相手じゃ、教科書通りに動けるアイツは相性が悪い)

 

 考え耽る権藤は、ある意味安心していた。

 

(クロキは肝っ玉が座っているし、覚悟も決まっている…だが、奴らと戦うには覚悟だけじゃ足りねえ。生き残りたい本能こそが必要だ)

 

 クロキは良くも悪くも為人は軍人だ。

 

 今回に関して、表に構えることはないだろうが、抜け目ない正確には変わりない。何かしら、こちらが有利になるような手を打ってくれるだろう。

 

 彼に期待を寄せながら、小粒のような木々を眼下に、ボソッと呟いた。

 

「…俺なら、奴が確実に現れる第97管理外世界に構えるがな。そこには有能な若手魔導士、さらには件の闇の書、おそらくもう動いているだろうヴォルケンリッターどももいるし、そいつらで釣れるだろうがな」

 

「どうしてあの時言わなかったんですか…?」

 

「何、もし奴が現れなかったらどうするかも見てみてえしな」

 

 管理局員の訝しむような視線を気にせず、権藤はクロキをためすように呟く。

 

「ヤングエリートの腕…見ものだな…」

 

 

 フェイトたちが第97管理外世界を改めて向かっている最中、権藤は「まだやり残したことがある」と、ミッドチルダに残っていた。

 

 近未来的な街を、大男がスーツを着て歩く姿は様になっていた。

 しかし、大きめのレンズのサングラスが威圧感を増すこととなり、街行く人々は皆、彼を避けて道を開けていた。

 

 権藤はピタリと、とある場所で止まり、グラサンを胸ポケットに仕舞いながら中へ入って行った。

 

「ご用件はなんでしょ…って、権藤…」

 

 受付にいた女性の一人は、彼の顔を見た途端、まるでゴミでも見るかのような目を向けた。

 

「お、随分なご挨拶じゃねえか。いくら俺がいい男だからって、明からさまにそんな態度とられちゃあ傷つくぜ?」

 

 対して、権藤は片手を振りながら気さくに近づいて行った。

 

「貴方の性格がずぼらだから言っているんです。まだ管理局の見習いの子の方がよっぽど聞き分けが良くてお利口さんなのよ?遊びに来たのならとっとと帰りなさい」

 

「ばーか。んなしょうもねえことで、わざわざこんな法務局(堅苦しい所)なんかに来ねえよ。今日は仕事だ仕事」

 

「…そう言って、また職員に手を出さないでしょうね?」

 

「俺が一度でも手出したか?」

 

 権藤が上を見上げて考える仕草を見せたので、女性は腕を組んで鋭い視線を向けながら答えた。

 

「入社したての若い子口説いていたわよね?」

 

「あれはただ雑談で場を和ませようとしただけなんだがな」

 

「ならなぜ次の日以降、貴方のことを話そうとすると、あの子は顔を赤くして涙目になるのかしら?」

 

「なんだ妬いてんのか?まー、お前さんも別嬪だが、ちょいと男勝りだな。もうちょっと大人しけりゃいいんだが」

 

「なっ…よ、余計なお世話よ!」

 

 権藤に別嬪と言われ、満更でもなさそうな反応を見せるのは、ケイ・ストラザーン。

 管理局でも主に司法について取り扱う、法務局に務めている。

 権藤が言う通り、非常に美人なのだが、悪や不正を許さず、それを正すためならば、上の権力にも臆することなく立ち向かう心の強さも持っている。

 タイプは違う二人だが、側から見ればお似合いでもある。

 

「俺の教え子の処遇についてだが」

 

 気を取り直した権藤は、本日の目的であった「フェイトの裁判について」を、もう一度見直すため、ケイに尋ねた。

 彼女は仕事モードに切り替え、持ってきたファイルと共に答える。

 

「その子が犯した罪は、第97管理外世界への無断渡航、現地での魔法の無断使用などがあるわ。でも、背後に主犯のプレシア・テスタロッサの存在を確認、さらに使い魔のアルフや、彼女自身から日常的な虐待で心身ともに苦痛を与え、逆らえないようにしていたとも聞くし」

 

「一種の洗脳のようなもんだろ。それ抜きにしても、フェイトはまだまだガキだ。魔法を使えると言っても、責任能力があるかと言えば…まぁ、しっかりしてるが、そこを問うのは野暮ってもんだろ」

 

 自分の説明に合わせて権藤が補足して話した内容に、ケイはどこか納得いかない様子だ。

 

「それはそうね…裁判の方も、その子の事情は汲んでるし、あの子にとって良い方に転ぶだろうし、直接殺人を犯したわけでもないし…」

 

 

 

…本当に良かったわ…

 

 

 

 ケイはやや時間を置いて、ひどく安心した様子で呟いた。

 

 ケイはその厳しい性格から、取っ付きづらく、例外を許さないような鉄の女であるが、根は優しく、罪を受け入れ改心しようとする者には、それ相応の助けの道を示す。

 

 裁判をするにあたり、一度フェイトと会ったが、その時もツンツンとした印象はあったが、ずっと心配する様子も見えた。

 

 そんな彼女は、フェイトを巡る裁判で何か思うところがあるそうだ。

 そして、彼女の考えることは権藤も同じだ。

 

「…ケイ、今時間あるか?」

 

「…別件の仕事もあるのよ、厳しいわ」

 

「俺は間も無くここを立つ。少しばかり協力してくれ」

 

 そこにふざけた雰囲気はなく、懸命に頭を下げて頼み込む男の姿に、ケイは一つ息を吐いた。

 

「貸し一つよ」

 

 

 二人は場所を移して、落ち着いた雰囲気のカフェに来ていた。

 入店してすぐ席につき、注文を済ませると、徐に懐のタバコに手を出す権藤に、ケイは目で訴えた。

 

「…?なんだ?」

 

「私はコーヒーの匂いが好きなの。貴方の煙が溜まってしまうわ」

 

「ここは喫煙可能だ。それに、嫌いじゃねえだろ?」

 

 ニヒルに笑う権藤に、ケイは顔をやや赤くしながら咳払いをした。

 

「…ま、揶揄って悪かった。今回もいろいろ迷惑かけるだろうしな」

 

 そう言ってタバコを仕舞おうとする権藤に、ケイは待ったをかけた。

 

「別に今に始まったことじゃないでしょ…吸ってもいいわ。でも他の人の前だったら気をつけなさい?苦手な人も多いのよ」

 

「お、それはつまり、お前さんの前だけならいくら吸っても大丈夫ってか?」

 

「そ、そんなんじゃないわよ!」

 

 側から見れば、イチャイチャしているカップルにしか見えない二人に、店員は生暖かい視線を向けながらコーヒーを運んだ。

 

「んで、気に入らねえのはやっぱり()か?」

 

 権藤はコーヒーに口をつけたケイに、先ほどの話の続きを促す。

 香りを堪能していたところの彼女へ無粋な質問だが、この話題が本来の目的である。

 彼女は不機嫌そうにグビッと一口飲むと、ため息混じりに話すのだった。

 

「そうね…今回のこの事件、ほぼ上からの一方的な要望が強引に通ったの…早期幕引きを狙っているのが明らかなくらいね」

 

「…例の中央技術開発局の奴らか」

 

 コクリと、権藤の呟きにケイは頷いた。

 

「あの時のことを掘り返されるのをおもしろがらない連中もいるのよ。今も昔も、中央技術開発局との繋がりは強いし、何よりも評議会の維持に一番強く働いているもの」

 

「お互いにメンツを保つため…今なら軽傷で済ませられるだろうと、あまり干渉しなかったのは…」

 

「そう。クローン人間、当時の責任者の娘…叩けば叩くほど連中が追い込まれる…」

 

 そう言うと、ケイは大きくため息を吐いて、カップをソーサーに優しく置いた。

 

「禁忌とされてきたクローン蘇生、生まれてきたのは姉の記憶を持った別人、故に生みの親に愛されることなく、犯罪の片棒を担がされ、挙句には過去の事件を有耶無耶にされ…」

 

 テーブルの上に置かれた手は、自然と力が入って拳を使っていた。

 そして、静かに怒りながら、無念そうに呟いた。

 

「あまり言いたくないのだけど、貴方たち特殊戦略作戦室も大概よ。一方的に悪人と決めつけて始末しようとしただけでなく、闇の書の捜査のために利用していたそうね…」

 

 ケイは目の前に座る権藤に、複雑な表情をしながらも、目だけは鋭く光らせた。

 

「貴方にこんな感情をぶつけるのは間違っていると思っている…でも、あの子はまだ10歳なのよ?」

 

 普段毅然とした態度で、誰もが憧れる彼女は、溢れ出る感情を抑えきれず、静かに涙を流した。

 

 先ほど彼女について、根は優しいと紹介した。

 しかし、それは大きな間違いだ。

 

 彼女は()()()()()のだ。

 

 そんな彼女は、小さく「ごめんなさい」と言って、ハンカチで目元を拭く。

 その様子を見ていた権藤は、暫く沈黙をきめていた。

 

「ケイ」

 

 不意に呼ばれ、彼女は権藤を見る。

 その男もまた、いつもの飄々とした様子はなく、どこか落ち着き…と言うよりは、憂いていた。

 

「俺たちがやっているのはヒーローごっこじゃねえ。あくまでも仕事だ。必要な時に必要なことをやって、被害を最小限にしなくちゃいけねぇ」

 

 権藤は「でも」と続けた。

 

「俺だって理不尽に振り回されるフェイトを救ってやりてえんだ。教え子だから、仕事だからでもなく、純粋にアイツを救ってやりたい」

 

 その言葉に、ケイは少し目を見開いた後、訝しむように権藤を見た。

 

「…どうかしら。貴方たちの隊、あの陸長のもと、どうも好き勝手してるそうじゃない。今のこの捜査も、何かしらの指示があったのかしら?」

 

 彼女のホルスの如く、見抜かんとする目が彼を捉えた。

 しかし、権藤はそれから目を逸らさず、堂々と真正面から受けて答えた。

 

 

 

「俺がそうしてやりたいからやってんだ」

 

 

 

 その言葉を聞いた彼女は、暫くそのまま見つめていたが、突然「ふふっ」と笑った。

 

「それはいつもの口先だけの発言かしら?」

 

「ばーか、そんなんだったらお前の目の前に態々現れねえよ」

 

 権藤が珍しく相手のペースに乗せられている。

 居心地悪そうにする彼は、気を紛らわそうとタバコを出し、そして大きく煙を吐いた。

 

 ケイはその様子に彼女は微笑みながら、「ふーん」と権藤を見まわして言う。

 

「そ。でもあまり入れ込むんじゃないわよ。私情が入れば入るほど、何かあればダメージを受けるのは貴方なのよ」

 

「忠告ありがとよ。だが仕事は私情がなけりゃやり遂げられねえもんだ。それに普段ズボラな奴が、やる時やる漢で、自分から動いたんだからな。知らねえ奴は疎ましがるだろうが、あんたみたいに知ってるやつからすれば信用できるんじゃねえのか?」

 

「そういうことは自分で言わないほうが良いわよ。ほんと、貴方って擦れてるわね」

 

 

 お互い時間も少なく、コーヒーを飲み終わったところで、ゆったりとコーヒーの残り香を堪能する間も無くすぐお開きとなった。

 権藤はまとめて金を払うと、ケイに帰り分のタクシー代を握らせ、すぐ次元航行部隊の元へ向かった。

 

 これから権藤は、渦中の第97管理外世界へ飛び立つ。

 

 本来、陸所属の彼ならばそう首を突っ込むことはないのだが、振り翳せるだけの権力を振り翳し、使えるだけのコネは使って、今できることをやっている。

 

 自分もやれることはやっているつもりだ。

 しかし、組織として上に従わなければならなく、権藤のように大胆に行動に移れないことに歯痒さもあった。

 

 そして、彼女の痛ましい姿を思い浮かべるたび、何もできないという事実を突きつけられるようで、自責の念に苛まれることとなった。

 

「あの子は歪んでいた関係とはいえ、母親を愛していた。そして、どれだけ愛を向けても、母親はあの子に愛を向けなかった…」

 

 言っててなんとも悲しいことだろうか。

 こんなにも、魔法の世界は生きにくいのかと、世に問い詰めたいところだが、今の魔法第一の風潮では何も変わらないのだろう。

 

 そんな中で、権藤は逞しく、そしてしぶとく生き抜いていた。

 魔法第一を掲げる権力者を恐れず、この魔法を持つ者のテリトリーをズカズカと踏み荒らしていく。

 

 そのある意味自由で、そして芯の通った頼り甲斐のある背中を、ケイは羨ましそうに見ていた。

 

「…私は何もできない…できるのはあの子を救うために、こちらで準備しておくこと…

 

 

 

 

 

…そして、彼が動きやすいように手を回しておくことかしら…」

 

 そう呟きながら、手に持った紙切れを見た。

 そこには電話番号だけ記載されており、これは権藤が別れる前に渡してきたものだった。

 

『特殊戦略作戦室に用があるならここに連絡しろ。俺が不在の間、頼れる奴が相手してくれるからよ』

 

 彼女はカバンの中に、大切に保管するのだった。

 

 

 所変わって、とある次元世界にて。

 太陽のような恒星が、地表を焼くように照らし続ける最中、人どころか動物、植物もない砂の世界に、重々しい打撃音が鳴り響いていた。

 

 すると突然、一際大きな爆発音とともに、砂煙が辺りを舞った。

 そして、その中から男が飛び出てきた。

 

 全身には夥しい傷が広がっており、あちこちから血が馴染んで服装は真っ赤になっていた。

 

「…しぶといな…流石起源種と言うべきか…」

 

 表情は無のまま、恨めしそうに呟くのは林田だ。

 そして、彼が油断なく見つめる先には、土煙の中で蠢く獣がいた。

 

 全長高さ約3メートルと、人よりやや大きいほどだが、筋骨隆々な四肢と、それを支える太い胴、強靭かつしなやかで長い尾、どれも威圧感を与えていた。

 

 その獣も、林田との交戦でダメージは受けていたようで、苦しそうな鳴き声をあげ、土煙の中を踠いていた。

 

 今がチャンスと林田は呼吸を整え、懐から残り数の少ない、謎の液体が入った試験管を取り出した。

 

 彼は一気にそれを飲み干すと、身体中が強烈な反応を示した。

 全身、拒絶反応による痛み、体温の上昇などによる異常で、もとから満身創痍な林田は、一瞬意識が飛びそうになるが堪えた。

 

 

 スプールスにて。

 クロキは突如、嫌な予感がし、すぐモニターを見た。

 

「間も無く『跳躍』が起こる」

 

 周期的に起きる現象とはいえ、何か漠然と、途轍もないことが起きるのでは、と危惧していた。

 

 しきりに腕時計を見る姿はどこか余裕がない。

 彼を知る現場の隊員は、入隊から一度も見せたことのない彼の様子に警戒心を高めていた。

 

 

 身体の奥底から悲鳴を上げるような状況だったが、同時に筋力などが一気に跳ね上がったようでもあった。

 見た目はそこまで変化はないのだが、手先が妙に硬質化し、顔も所々、鎧が張り付いたように硬くなっていた。

 

 林田は手を開閉し、自身の変化に対応を示す。

 そして時同じく、目の前の煙が晴れてくると、それは姿を現した。

 

 

 

 グルルル…

 

 

 

 ギラつく鋭い目、大きな口に並ぶナイフのような歯が、その獣の凶暴さを表し、好戦的に喉を鳴らす様子は獰猛さを助長した。

 

「お前も…傷は完全に癒えてないようだな…」

 

 林田同様、獣も漆黒のボディのところどころから赤い血を垂れ流していた。

 しかし、闘志は衰えるどころか、増す一方だ。

 

 

 

 ガァァァアアア!!

 

 

 

 両腕を広げ、顔を突き出すと、獣は目一杯の恐ろしい咆哮を浴びせてきた。

 その咆哮を受けた林田は、より一層油断なく目の前の敵を見た。

 

「…お互い限界…そして…次で決めるらしい…」

 

 林田も覚悟を決め、前傾姿勢に構えた、特徴的なファイティングポーズをとった。

 

 

 

 お互い睨み合い、一瞬の沈黙が流れる…

 

 

 

 ジリジリと歩み、お互いは出方を探る…

 

 

 

 

 

 先に動いたのは獣の方だ。

 滾る闘志、何よりも並々ならない殺意が、獣の闘争本能を一気に高めたのだ。

 悍ましく、どこか楽しむような咆哮をあげ、一気にその距離を詰めてきた。

 

 林田も即座に反応し、自分の限界以上の力を引き出し、獣へ一直線に突っ込んでいく。

 

 

 クロキはモニターから目を離し、自身の腕時計を凝視した。

 

「あと10秒」

 

 彼のカウントが始まると、隊員はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 スプールスに展開されたベース基地内には、不気味な機会音と、彼の抑揚のないカウントの声だけが聞こえていた。

 

「あと5秒」

 

 

 獣は咆える。

 口から血を吐きながら。

 

 林田は鋭い視線を向ける。

 その目を真っ赤に充血させながら。

 

 

「4秒」

 

 

 獣は二足歩行をやめ、四足形態となって突っ込む。

 

 林田は足に力をこめ、足場の悪い砂地を蹴った。

 

 

「3秒」

 

 

 共に限界は超える身。

 激しく動けば動くほど、身体中から血を吐き出す。

 

 

「2秒」

 

 

 獣は林田を喰い殺さんと、大口を開いた。

 

 

「1秒」

 

 

 林田は獣に接触する直前、ポケットからあるものを取り出した。

 そして、それを奴の目の前に投げ込み、自身のありったけの魔力を注いだ。

 

 

「こ…これは…」

 

 クロキは冷や汗を一つ垂らし、目の前の異常な光景に呆気に取られていた。

 

「魔力測定値に異常発生!」

「計器使用不能!サブに切り替えます!」

「エネルギー算出出ました!尋常でない数値です!」

「魔力波長増大中!次元の歪みが許容値を超えます!」

「このままですと…大規模な次元震が生じます!」

 

 矢継ぎ早に情報が寄せられ、クロキは内心パニックになりながらも必死に整理していく。

 兎にも角にも、状況が途轍もなく逼迫し、大災害に発展しうることは、この場にいる誰もがわかっていた。

 

 更に続けて、悪い情報が入った。

 一人の隊員が慌てた様子でクロキに駆け寄った。

 

「クロキ隊長、観測員から追加の情報です」

 

「なんだ?」

 

「『跳躍』の周期に極めて強力な魔力による負荷、そして瞬間的にエネルギー

の大量放出により、次元断層の大規模化に伴い、他次元への影響が出ると思われます。そして…」

 

 隊員の次の言葉に、慌ただしく動いていた隊員たちの間に戦慄が走った。

 

 

 

「次元断層が生じる可能性もあります!」

 

 

 

 次元断層、それは次元空間に影響を及ぼす次元震が引き金となっておこり、いくつもの次元世界を崩壊させるほどの災害のことを指す。

 途方も無いエネルギーで、壊滅的な被害を齎すこともあり、発生すれば早速手に負えない事態となる。

 

「地上本部および管理局本部に報告を急いでください。そして、特殊戦略作戦室の権限により、以外70時間の次元航行の禁止を全管理世界に要請しましょう」

 

 すかさず、隊員から言葉が飛ぶ。

 

「しかし隊長!そのような権限を我々が行使する際、室長を通して陸長たちの許可を取らねばなりません!」

 

 隊員に対し、クロキはすぐ答えた。

 

「そんな流暢な時間は我々に残されていません。事後報告で対処しましょう」

 

「ですがこれでは、上から権力の濫用と咎められ、最悪会議にて我々が処罰される可能性もあるのですよ!」

 

 隊員が必死になるのも無理はない。

 管理局では陸の待遇はよくない。

 そして、それから派生された組織かつ、魔導士ランクC或いは非魔導師で構成された組織でもあるため、気に入らない上によって、存続が危ぶまれる可能性すらある。

 

「それについては権藤さんと話をつけておく」

 

 そして、クロキは強く言い放った。

 

「我々の仕事は一人でも多くの命を救うことだ。これで何もせず、大量の死傷者を出せば、我々の立場は完全になくなる…」

 

 

 

 

…この瞬間が我々と、全次元世界の瀬戸際なんです!

 

 

 

 若手らしくない堂々とした様子が、焦って視野が狭まる隊員たちを救った。

 その場の隊員は、ピリついた空気はそのままに、自分にやれることをこなしていた。

 

 その目には、迷いはなかった。

 

 

「…そりゃ面倒だな…そっちには直接被害は出てねえか?」

 

『こちらは大丈夫です。以後、監視は強化していきます』

 

「了解だ。あと何かありゃ、ミッドチルダのザイゼンに掛け合え」

 

『了解しました』

 

 権藤は通信デバイスでの報告に大きく息を吐いた。

 

「やってくれたなあ、特佐…」

 

 その声色は怒っているようで、表情はどこか楽しそうであった。

 

 権藤は一度大きく伸びをして席を立とうとした時、またデバイスに通信が入ってきた。

 

「はいはい権藤ですが?」

 

『次元航行部隊提督リンディよ』

 

 通信の相手があのアースラ隊の提督である、リンディ・ハラオウンであったことに、少しばかり権藤は驚いた。

 しかし、それ以上にリンディが落ち着かない様子で、権藤はすぐ冷静になり、そしてすぐ思考を回転させた。

 

 リンディが通信をよこすほど。

 これから向かう地球では、親友どうし久々の再会がある。

 

 ヴォルケンリッターは既に行動していると思われる。

 闇の書の完成には、高い魔力が必要不可欠。

 

「なんでしょう、高町かフェイトあたりが本格的にヴォルケンリッターと交戦したところでしょうか?」

 

 通信の奥では言葉に詰まったようだ。

 ヴォルケンリッターについては記録が少なく、報告もようやく本部に上がった頃だが、何も伝わっていないだろう権藤が、状況を整理して当ててみせたのだ。

 

「敵のスペックがわからん以上、私から言うことは何もありませんが、フェイトが高町の嬢ちゃんについているなら大丈夫でしょうよ」

 

 心配なリンディとは違って、落ち着くどころかどこか楽観視しているような権藤だが、その目にいい加減さはなく、自身に満ち溢れていた。

 

「俺が教えたのは()()()()()()だ。ま、待っていてやってください」

 

 とりあえず通信を終了した権藤は、次元空間を超え、青い地球が見えてくると、骨を鳴らして不敵に笑った。

 

「さ〜て…やりますか…」

 

 

 ビルとビルの間に鳴り響くのは、刃と刃がぶつかるような、甲高い音だった。

 

 それが響くほど、ビルが並ぶ都会には、人が生み出す喧騒はない。

 

 頭上を見上げれば、おどろおどろしい空が広がっている。

 

 人払いの結界は、魔力ある者にしか探知できず、普通の人間が易々と入れるものではない。

 そのためこの中で動く者は、必然的に魔導士ということになるが。

 

「なのは、大丈夫?」

 

 フェイトは相棒のバルディッシュを相手に向け、自身の後ろに下がらせた親友の安否を問う。

 

「うん…何とか大丈夫だけど…」

 

 高町なのはは、久しぶりにあった親友の嬉しさと頼もしさに、つい安心したのか涙を流した。

 しかし、そこに暗い顔はなかった。

 

 フェイトも親友の様子に笑みが溢れた。

 

 そして、気を引き締めて改めてなのはに問う。

 

「ねぇ…あれって」

 

 「あれ」とは、二人の前に立つ、赤基調のロリータファッションのような衣装を身に纏った、随分と幼い幼女のことだ。

 人形のようで非常に可愛らしいのだが、こちらを見る目は敵意で満ちており、放つオーラは戦を生き残ってきた、歴戦の戦士のようであった。

 

 何より、肩に担いでいるハンマーのようの武器が、二人の警戒心を一気に引き上げていた。

 

「わかんないの…結界ができたと思ったら、いきなり攻撃してきて…」

 

 そのことを聞き、フェイトは確信した。

 

 管理外世界に関わらず、手練れのような雰囲気の者。

 自身の魔導士ランクとそう大差ない者。

 

 執拗に高濃度の魔力を持つ自分たちを狙う者。

 

(権藤さんが言っていた通りね…)

 

 ミッドチルダを立つ前、権藤に注意事項として言われたことがある。

 

『もし、そっちの世界でお前さんと同格の敵がいたら…』

 

 フェイトをバルディッシュを赤い幼女に向けて問う。

 

 

 

…十中八九、『闇の書』関係だ。

 

 

 

「あなたの主人はどこにいるかしら?」

 

 

 

 その問いに幼女は答えなかった。

 代わりに敵意から殺意に変わった。

 




 原作では、闇の書と発覚するのはもう少し先になりますが、林田、権藤によってフェイト、リンディには早い段階で知られています。

ケイ・ストラザーン

 19歳。ナイフのような尖った雰囲気の女性。
 悪や不正を許さず、上がどう絡んでいようが、権力には屈さず突っ込む癖がある。そのため、彼女の上司はよく胃痛を起こす。
 権藤とはそれなりに付き合いが長く、一見正反対な性格にも見えるが、一本筋を通し、やると言ったらとことんやるところは似ている。実際側から見た者たちは二人をお似合いだと思っており、そのことを本人に言うと顔を真っ赤にして否定してくる。あとチョロい。
 容姿は好きな女性キャラを当てはめてください。
 私は『推しの子』の「斉藤ミヤコ」を若くした感じですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。