正義の執行者   作:イテマエ

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皆さんお久しぶりです。
リリなの熱が再発したので。
鉄は熱いうちに打て、ならば熱いうちに書けるだけ書きます。


第13話 最後の束の間

 とある管理世界。

 広大な砂漠が地平線の奥まで続く世界に、剣を持った凛々しい騎士のような女性が立っている。

 目を閉じ、相棒の剣を構え、静かに佇む姿は一見隙だらけのようで、放つ雰囲気は只者ではない。

 

「…っ!」

 

 突然のことだ。

 カッと目を見開いたと思うと、地面を蹴って一直線に駆ける。

 

「はあっ!」

 

 そして女性は剣を振る。

 瞬間砂が巻き上がった。

 天に昇る砂は女性の視界を覆いたくさんと、波のように降りかかる。

 しかし彼女はそれに全く動じず、刃筋をぶれさせることなく振るうのだ。

 そして砂から巨大な口が出た瞬間。

 

 一閃。

 

 剣は寸分の狂いなく、巨大な口を持つ蛇のような魔物の首を切った。

 蛇のような魔物は力無く倒れていく。

 

「ヴィータっ!」

 

 騎士のような女性———シグナムはそう叫ぶ。

 すると赤のロリィタ衣装を身に纏った、小学生ほどの別の女子が雄叫びをあげながら空から降って来た。

 

「アイゼンっ!」

 

 そう叫ぶと、手にはいつの間にかハンマーのような武器を持っており、それを勢いそのままに振り下ろす。

 その先には何もない砂地。

 いや、砂の中で何かが蠢いている。

 瞬間、シグナムが倒した蛇の魔物と瓜二つな魔物が現れた。

 

「でやぁぁぁあああっ!」

 

 ヴィータはその蛇に迷いなくアイゼンを振り下ろす。

 衝撃が肉を食い破り、骨まで達した音がした。

 手痛い一撃を貰った魔物は、苦しそうな呻き声を上げるが、逃げ出せる力はあるようだ。

 

「逃さんっ!うぉぉぉおおおっ!」

 

 狼の耳を持つ、筋骨隆々な獣人の見た目の男———ザフィーラが、力強い雄叫びを上げる。

 すると砂地を突き破るように現れた無数の光の柱が、蛇の魔物の長い胴を穿つ。

 完全に動くことができなくなり、とうとう魔物は魔力源を募集され、体のダメージ量も相まって絶命した。

 

「シャマル、ページは埋まったか?」

 

 ヴィータは念話で件の闇の書を持つ女性———シャマルに問う。

 

「埋まりはしたわ。でも…とてもこれじゃ…」

 

 シャマルは視線を落とす。

 二体の魔物を倒して漸く3分の1が埋まった。

 これでは闇の書が完成するまでに何年かかるか。

 

「時間がない…」

 

 シグナムは珍しく顔を顰めた。

 このペースで募集を行ったところで、闇の書が完成するまでに主人たる八神はやてが生きることは保障されていない。

 

「くそっ…『あの時』もっと募集できてりゃ…っ!」

 

 ヴィータが恨めしそうに呟く。

 あの時———数日前、ヴォルケンリッターが高町なのは、そしてフェイト・テスタロッサと対峙した時。

 ヴォルケンリッターは戦闘経験の差からなのはを追い詰め、純度が高くかつ質の良いリンカーコアを募集しようとした手腕、駆けつけたフェイトにそれを妨害された。

 そのままシグナムは彼女と戦闘するが、どうも戦いにくい。

 初めは出方を探られるような攻撃だったが、シグナムが動こうとするとそれを封じるように妨害、そして最低限の動きで攻撃がいなされ、終ぞ本気を出すこともなく、なのはを抱えて逃げられたのだ。

 さらに逃走経路には、予め結界の中に条件式で発動するゲートをアルフとユーノが作っておいたことで、なのはのリンカーコアをごっそり持っていかれる前に脱出できたのだ。

 

(年端も行かない少女があんな戦い方を…)

 

 シグナムの剣を握る拳に力が込められた。

 あの戦い方、相当に経験を積まねば身につかない。

 天才的な実力と、確かな経験に裏打ちされた戦闘の勘が、素の実力を底上げしたのだ。

 それもシグナムに対抗できるほどに。

 

(こちらに本気を出させなかった…)

 

 シグナムは亡骸となった魔物を見ながら呟く。

 

「相当に良い師に恵まれたな。あの娘は…」

 

 

 第97管理外世界、すなわち地球。

 舞台は海鳴市の夕暮れ時。

 暑かった夏も、そして過ごしやすい秋もいつの間にか過ぎ去り、肌寒さを感じさせる初冬、閑静な街並みをサングラスをかけたスーツ姿の男が歩いていた。

 時折携帯のようなデバイスを見て、周囲を見渡して確認すると、また無造作に手を突っ込む。

 暫し歩き、目的地と思われるマンションに着くと、男———権藤はサングラスをとってデバイスを耳に当てた。

 

「おう、俺だ俺俺…あ?詐欺じゃねえ、早く開けてくれ。手が悴んできやがった」

 

 そして時間もかからず人が降りて来た。

 

「おうクロスケ」

 

「クロノだ…まったく」

 

 

 フェイトを保護したハラオウン一家が海鳴市のマンションに越した。と言っても、ほとんど一般的な住居にカモフラージュした前線基地みたいな役割であるが。

 そのマンションに訪れた権藤は客間に通されると上着を脱ぎ、ハンガーラックに乱雑にかけて椅子に座って寛ぐ。

 その対面にリンディが座っており、その隣にクロノ、二人の後方にエイミィが待機している。

 普通なら緊張してしまうような場で、権藤はかなりリラックスしている様子で、お茶が入った湯呑みを手で包み込んで暖をとっていた。

 

「いや〜外がまあ寒いもんで。危うく凍え死ぬかと」

 

 そして権藤はお茶を一口飲み、顔を顰めた。

 甘い。

 ひたすら甘い。

 ドロリとした液体を口に含むと、比喩なしにジャリッと舌に絡みつく。

 これが暴力的に甘い。

 

「あの、リンディさんや…俺や特佐ならまだ良いですが、何も知らない客人には辞めといた方がいいですよ」

 

「な…そんなにかしら…ほ、ほら甘いのは疲れた頭にも良いし」

 

「自分の好きなもんを相手にってのもわかるんですがね、限度ってもんがあるでしょ」

 

 そんな権藤だが、こうして軽口を叩きに来たわけではない。

 アイスブレイクならぬ、シュガーによりブレインショックを受けた権藤は、見かねたエイミィから水をもらって本題に入った。

 

「と言うわけで、俺も今回この管理外世界の滞在が許された訳でしてね」

 

「僕たちと『闇の書』を?」

 

「建前はな」

 

 権藤がそう返すと、クロノは少し眉を顰めた。

 そして権藤は懐からくしゃくしゃになった封筒を取り出し、リンディの前に置いた。

 リンディが封を切って中身を確認する。

 次第にその表情は深刻になってゆく。

 そんな彼女とは対照的に、飄々といつも通りに振る舞う権藤は続けた」

 

「俺たちの本命はまた別でしてね。内容はその書類に目を通していただけりゃあ粗方ね」

 

「『起源種』…」

 

 クロノやエイミィは少しだけ驚いた様子だ。

 実際にその目で見たことがなく、長らく確認されていなかった存在。

 唯一この中で戦闘経験があったリンディは「円盤生物第0号事件」が鮮明に思い起こされた。

 対応が後手にまわったために多くの死傷者、損害を出したうえ、その後処理で功労者を追い出して無理やり事件収束を測った事件。

 そこへ権藤が付け足す。

 

「先程第61管理世界『スプールス』にて作戦展開中の連中がその兆候をキャッチしましてね」

 

 権藤はエイミィの端末にデータを送信する。

 内容を確認した彼女はすぐテレビ型の大型モニターにそれを写した。

 そこには観測地点ごとの魔力の振動波、その強弱、そして「跳躍」の規模が示されていた。

 

「ここスプールスでは気流の関係で度々大気中の魔力関連物質の濃度が高くなり、そこへ有翼種の魔物のうち次元を越える『跳躍』可能な奴らが穴を開けることで、稀に大規模な『跳躍』を引き起こすんですが…」

 

 権藤は指を鳴らす。

 エイミィは次のデータを映像に写した。

 そこには「跳躍」を引き起こす魔物と、その日観測されたとある現象があった。

 

「その有翼種のうち、この『レザルウィング』という魔物は今が産卵期でしてね。群れになって次元間を移動し、餌を蓄えてここスプールスに卵を産みつける」

 

「…つまりその群れによってより大規模な『跳躍』が起きた…と言うことかしら。では、なぜ今それを?今我々が調査している『闇の書』とどう関係が?」

 

 リンディが尋ねると、権藤は再び指を鳴らす。

 続いて映し出されたデータは、魔力振動の詳細データだ。

 無数にある振動のうち、権藤は一つに着目した。

 

「こいつの振動数だけ特徴的でしてね。スプールスにいる魔物、あるいはスプールスに存在する魔力関連物質では起きない振動が確認されました。んで、そいつをさらにクリーンにしたところ、どうも見覚えのある奴の超微弱な振動と一致したんだわこれが」

 

 そして続いて示されたデータを見て、リンディ、エイミィ、そしてクロノが目を丸くした。

 この魔力振動、微弱ながら荒削りでもない綺麗な波動。

 

「進悟…生きてた…」

 

 驚きとも、安堵ともとれる声色でクロノが呟く。

 ずっと安否不明だった親友が、上層部からは死亡と判断された陸の嫌われ者が…

 件の「闇の書」の調査の傍ら、ずっと痕跡を探していたあの男が。

 こんな時でも冷静なリンディも、少しばかり雰囲気が柔らかくなった。

 しかしそれはそれとして。

 

「話を戻すわね。レザルウィングの産卵を控えた群れが、たまたまスプールスの魔力関連物質の濃度が高まる周期に直撃した。でも今あなたが最初に示した起源種、そして進悟君の魔力振動…」

 

 権藤は水を飲みながら耳を傾ける。

 

「さっき『闇の書』を建前と言ったわね。つまり私たちの調査に協力するのは、この管理外世界で活動しやすくするため、と言ったところかしら」

 

「ま、当たらずとも遠からずだな」

 

 ぷはぁ、と権藤はグラスを置く。

 

「結論から言えば、起源種がここ管理外世界に到達、そして闇の書を狙う可能性が極めて高い」

 

 

 権藤は一通りスプールスで起きたことを、データを見ながら説明した。

 クロキ率いる特殊戦略作戦室は大隊をスプールスに展開、作戦を開始した。

 作戦以前まで調査により、続いた起源種と思しき存在は、最初スプールスの「跳躍」の周期、魔物の群れなど様々な条件が重なることで現れる確率がやや高いと判断された。

 しかしレザルウィングの跳躍、スプールスの大気中に含まれる魔力関連物質が高濃度となる周期にヒット。

 さらに幸か不幸か、繋がった先の次元から影響を受け、その大規模な「跳躍」は次元を揺らす。

 あわや次元断層という災害級に発展するかと思われたが…

 

「スプールスのクロキからは以後気象も次元も安定、稀に見る巨大な次元震は起きたものの、次元断層が起こるまでには至らなかったらしい」

 

 その報告を聞き、リンディとクロノは揃って息を大きく吐いた。

 直後二人はハッとなって権藤を見た。

 死んだと思われていた林田が生きている可能性があることといい、偶然に偶然が重なって次元断層が起きる寸前までいっていたことといい、あまりの衝撃的な内容に忘れかけていたが、今最も懸念すべきことは謎のままなのだ。

 リンディは問う。

 

「それで…あなたの本来の目的の()()についてなのだけれど…」

 

 若干くしゃくしゃになった起源種事案について書かれた書類。

 

「フェイトの嬢ちゃんの件といい、今回の闇の書といい…俺ら特殊戦略作戦室は、何かしらとこじつけてそちら、海に同行してきたわけですが…」

 

 権藤は少しだけ目を鋭くさせた。

 そこにおふざけは一切ない。

 

「気づきません?ここまで話して…」

 

 リンディたちはそれぞれ考える。

 顎に手を当てていたクロノは次第に冷や汗が滴り落ちて来た。

 スプールスの周期…

 レザルウィングの産卵期…

 繋がった次元先の影響…

 

 そして林田…

 

 起源種…

 

 クロノは声が震えるのを抑えるように、静かに問う。

 

「進悟が…起源種と戦っていた…?」

 

 権藤はゆっくりと静かに頷いた。

 

 

 時刻は19:00。

 マンションを出ようとする権藤。彼はどかっと座って革靴を履きながら言う。

 

「んじゃあクロスケ。さっき言ったように、色々と気をつけておいてくれ」

 

「ああ…このことはフェイトやなのはたちには?」

 

 クロノの問いに権藤は暫し思案して、

 

「いや、今はまだいいだろ。余計なこと言って、目の前の闇の書すら対応できなくなっちまえばヴォルケンリッターのされるがままになる。それとなく注意しとけって感じで」

 

「わかった。権藤、君は?」

 

「俺か?暫くこっちに滞在するが」

 

「…住居はどうしてるんだ?」

 

「急だったからな。滞在許可証だけぶんどったが、こっちようの戸籍とか諸々は手続きに時間がかかるとかで発行できねえらしい」

 

 権藤の脳裏には、大急ぎで必要書類と許可証を発行して、不機嫌そうにそれを叩きつけたケイの姿がよぎった。

 クロノも何となく権藤の言葉から察し、頭を抱えた。

 

「だったら権藤君、よかったらウチに泊まっていけば?」

 

 すると私服のリンディがひょこっと顔を出した。

 

「いやいや、お気遣いありがたいですがね。うら若い嬢ちゃんと、熱々のカップルがいるところに、むさ苦しい俺がいたらいかんでしょ」

 

 カップル、それはクロノとエイミィのことだろう。

 側から見て脈アリな感じがひしひしと伝わるほどに仲睦まじい二人。

 それを指摘されたクロノは年相応に顔を赤くした。

 するとガチャッと扉が開いた。

 

「ただいま…って権藤さん…!?」

 

 フェイトと子犬状態のアルフが帰ってきたのだ。

 

「おう、久しぶりだな嬢ちゃん。あれか?高町の嬢ちゃんのところに遊びに行ってたか?」

 

「うん、軽傷とはいえ心配だったからお見舞いも兼ねてだけど」

 

「そうかそうか。アルフも元気そうで何よりだ」

 

「そう言うアンタは少し痩せたかい?」

 

「ストレスだ」

 

 権藤は優しい目でくしゃっと笑った。

 ヴォルケンリッターと戦闘になったことは聞いていた彼。

 しかし考えられる限り最悪な状況下で、フェイトはなのはを無傷で助けて見せた。

 

「権藤さんがこっちに来る前にしてくれた教導のおかげです」

 

 目的を設定し、戦力差を見極め、準備を徹底する。

 無理に戦うな。勝とうとするな。

 何を最優先にするべきか。

 

 結果的になのはは身体にもリンカーコアにも深いダメージは受けず、さらにフェイトは無傷で、ヴォルケンリッターの包囲を掻い潜って切り抜けた。

 しかし権藤としてこれだけを評価するのではない。

 

「まぁ遊ぶのも良いが、良い子は遅くても18:00には帰ってくるようにな」

 

 こうして少し遅くなるまで遊びに没頭してくれたのが、何よりも嬉しいのだ。

 戦いばかりでは得られない、無駄なようで大切な時間。

 それを心から楽しんでいるフェイトを見られたのが、何よりも嬉しいのだ。

 

「ごめんなさい。そう言えば、権藤さんはどうしてここに?」

 

「なに、ちょっと仕事ついでに挨拶しておこうってな」

 

「そうなんだ…でも、もう行ってしまうんですよね」

 

 心なしかシュンとしたような表情になるフェイト。

 権藤は少し困った様子だ。

 

「せっかくなんだし、今日だけでも泊まっていったらどうだ?」

 

 クロノは少しだけ意地悪な表情で提案する。

 するとフェイトは顔を上げ、期待に満ちた眼差しを送る。

 そんな表情を向けられて断れる権藤ではなかった。

 

「リンディさん、すんませんが今日だけ世話になりますわ」

 

 頭を掻いて、再び靴を脱いで家に上がる権藤。

 嬉しそうなフェイト。

 してやったりなクロノ。

 そんなクロノに肩を組む流れでチョークスリーパーをかける権藤。

 それを見て腹を抱えるように笑うアルフとエイミィ。

 そんな賑やかな様子を微笑ましく見ながら料理をするリンディ。

 

 今日ハラオウン家は、いつも以上に笑いが溢れた。

 

 

「くっ…んんっ…」

 

 とある世界。

 全身傷だらけの男が草むらに横たわっていた。

 

「…こ、ここ…は…」

 

 ゆっくり目を開けた男———林田は、痛む身体を何とか起こして立ち上がる。

 立ち眩み、激しい頭痛、疲れからくる怠さ…

 口いっぱいに広がる血の味、ズキズキと全身にできた傷からは血が流れていた。

 

「ぐふぉあっ…」

 

 林田は血を吐いてしまった。

 傷によるものじゃない。

 彼は視界がぐらつき、足にも力が入らず、一歩歩いただけで膝をつき、そのまま倒れ込んだ。

 

「流石に…酷使しすぎか…」

 

 それでも彼は這いずって進む。

 

「時間が…ない…」

 

 こんな満身創痍の状態の彼を突き動かすのはたった一人の少女。

 あの小さな図書館で約束した少女のために、林田は行く。

 

 

 

 クリスマスまであと2ヶ月をきった日のことであった。




用語解説
レザルウィング
 本作オリジナルの魔物。
 第61管理世界スプールスに住む有翼種で、次元と次元を行き来できる「跳躍」を能力として持つ。普段はスプールスにいるが、産卵期となると雄が餌を求めて「跳躍」し、群れで次元を行き来して巣にいる雌に運ぶ。
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