天竜人に転生したオリ主が耐えられなくて狂ったお話 作:あくまで
「あらら……こりゃ大変」
「どうかされましたか青キジ殿」
電伝虫からの通達、それを聞いた青キジは深く溜息を吐いた、それを見た部下の海兵が何があったのだと聞く。
それだけならいつもの光景だ、代わり映えのしないありきたりの光景。
海軍大将クラスの人間に届く命令や通達はそれはそれは胃が痛くなるものが多い、だが軍属たる者任務は遂行しなければ行けない。なのでせめてもの溜息は日常茶飯時なのだ。
だが、今日届いたのは異色の命令。
「神の地から来たお嬢様、アメリって名の天竜人のガキが今からこの島に来るから接待してくれって命令……準備しねェとな」
「天竜人が⁉︎こんな辺境の島に⁉︎いったいどうして───」
そもそもこれは海賊捕縛の任務だった。
グランドライン辺境の地、立地やそこに住まう海賊の実力や懸賞金諸々を複合して彼が派遣された。
海軍本部最高戦力、海軍大将である青キジが。
そんなところに舞い込んだ突然の命令、予期せぬ天竜人の襲来、溜息も普段より深くなるのだ。
「悪いがおれには連中の思考はわからねェ。わかりたくもねェ」
「……失礼ですが天竜人を連中呼びは如何なものかと、一応立場とかもありますし」
「誰も見てねェのに気なんて使ってられっかよ」
天竜人に収める多額の税金、いつでもどこでも無辜の人間を奴隷にできる権限、彼らが好かれる事など有り得るはずがない。
蛇蝎の如く嫌われ、されど誰もそれを大っぴらぬに口に出せない、文字通りの災厄、それが天竜人。
当然青キジもその部下も天竜人に対して好意的な感情は持ってはいない、だが彼らにも地位や立場や事情がある。
それでも、時折愚痴が出てしまうのは仕方がない事なのだ。
彼らの目さえなければ何も問題にはならない、わざわざ密告しようなんて人間はここには居ない。
「まぁ、それもそうですね。兎にも角にも準備をしなければ、とりあえず私は今いる海兵に通知してきます」
「頼むぞ」
その言葉を残して、若い海兵は部屋を出る。
残された部屋に大将が一人、これからの事を考えつつとりあえず水でも飲もうかとコップを探す。
その時、彼は何かに気づいた。
彼はゆっくりと後ろを向くと、平静を崩さずにされど戦闘態勢で問いかけた。
「さてと───お前誰」
彼の後ろに立っていたのは、まだ十代前半であろう少女だった。
寒々しい青色の髪は頭の後ろで束ねられていて、その服は真っ黒、育ちの良さそうな佇まいだった。
「おや、僕の擬態を見破るとは流石は海軍大将と言ったところか。正直予想外だよ青キジくん。見聞色対策はしてきたつもりなんだけどね」
「……仮にも秩序の最高戦力の一角、年端もいかないガキに先手取られるわけにはいかねェのよ」
事実、彼の見聞色には少女の気配は引っ掛からなかった。
覇気すらすり抜ける少女の存在を察知したのは、長年の彼の実戦経験と理性。
潜り抜けた数多の修羅場が、僅かな空気の乱れが、常人なら気づかない程僅かな石鹸の匂いが、彼に後ろを向く決断をさせた。
「うんうん、
少女は部屋にあった椅子に腰掛けると、自らが不当侵入者である自覚があるのかないのか寛ぎながら言葉を紡いだ。
『海軍の船への侵入方法』『見聞色の掻い潜り方』『少女の正体』青キジとしても聞きたいことは山ほどある。
海賊か、賞金稼ぎか、はたまた革命軍か。
捕縛してから聞いてもいいが、聞いてから捕縛してもいい。
そして彼は後者を選んだ。
直接的な危害を加えられていない現時点では、子供に対して殺気だって対応する理由は彼にはなかった。
「僕の名前はアメリ、君らが神の地と呼ぶ酸素が薄い所では『アメリ・ストレイド宮』と名乗らせて貰ってるよ。ストレイド聖とも呼ばれてるかな。あ、それと敬語は無しでお願いね。普段通りのタメ語で行こう」
「…………は?」
一瞬、彼の思考が止まる。
混乱は戦場では死を意味する、故に彼程の実力者は滅多に思考を乱し切ってしまう事はない。
だが、そんな青キジすらも一瞬とはいえ思考が飛ぶ程の衝撃。
「ふふふ、流石の君も驚いてしまったかい?そうとも、僕は天竜人さ。
まるで悪戯に成功した子供のように、屈託のない笑みを浮かべながら少女は言う。
瞬きの間に青キジは冷静さを取り戻し、脳みそをフルに回転させて真偽を測る。
アメリという名を名乗ったから本物か?いや、電伝虫の通話が盗聴されている可能性がある。
だが椅子に座る動作一つ取っても気品に満ち溢れている、そんじょそこらの海賊が身につけられるものでは無い。
ならばストレイドという家名は?それは確かに存在する。
更に数年前にとても見目麗しい子供がいるとの噂を聞いた覚えもある。
だが青キジはストレイド家の娘の名を知らない、電伝虫での通話では家名抜きにアメリとしか言われなかった。
知っているのは家長の名前だけ、故に彼は問いを投げかける。
「……父親の名は?」
「成る程、並の人間では知ることができない天竜人の名前を知っているかどうかで試そうって事だね。いいよ、答えてあげる。父の名はアーノルド。顎が割れてる痩せた男さ」
「ストレイド家の長の見た目までは知らねェが……真実味が増したな。一応本部に確認入れるがいいか?」
「構わないよ、だけど確認するならこの近くまで来てる軍艦がいい。僕を輸送してくれた船さ、生憎待ちきれなくて飛んできてしまったね」
「……お前六式使いか?」
電伝虫で近海の軍艦に繋いで会話している間、彼はアメリを観察していた。
僅かな間の観察、されど海軍大将の洞察力、既に青キジはアメリが六式使いである可能性は低いと踏んでいた。
理由は簡単、少女の体の動かし方が拙過ぎるからだ。
所作は上品であれど、重心移動などは疎か。
そんな人間が六式を身につけられる筈がない、ならば考えられるのは悪魔の実の力。
少女が能力者ならば全ての説明がつく。
「どうだい?僕の疑いは晴れたかな?」
「あぁ、モモンガお墨付きだ。シャボン玉を被らず空中移動を可能とする天竜人、お前と特徴が一致している。もう疑う意味も理由もねェな」
敬語を使うなという言葉に素直に従いつつ、青キジも向かいの椅子に腰掛ける。
軍艦に乗船していたモモンガからの報告で、青キジは完全に目の前の少女がメアリという天竜人だと確信したのだ。
「それは良かった……
モモンガからの情報では、二週間に渡る航海でアメリが天竜人権限で海兵に対する刑を執行した事はないとのこと。
人当たりは柔らかく、海兵の不敬を許す、とても天竜人には見えない人間だそうだ。
むしろ人の心からの言葉を喜び、時には罵倒も受け入れる。
だからこそ真正面から言葉を投げかけるべきだとの報告。
青キジとしては信じがたい情報だったが、他ならぬモモンガからの報告。
あれほどの男が嘘をつくはずもなければ、
「あぁ、立場上おれに出来る範囲なら」
「ふむ、なら天竜人が頂点に立つ現体制に対する感想を『天上金』というワードを使って応えると言うのは───「頼むから辞めてくれよな、おれの首が飛ぶ」
「……君はロギアだろ?」
「そういう意味じゃねェよ‼︎」
「ハハッ!面白いなぁ君は」
少し話しただけで青キジはアメリという女の性格を掴みかけていた。
この少女、愉快だが厄介。
しかしそれでも他の天竜人と比べればマシの中のマシ。
いきなり奴隷にしてこようしないだけ最高だ。
多少人をおちょくるのが好きなだけで、現状の情報から推測でくる範囲では害はないと見ていいだろう。
「成る程ね……お前そういう奴なのね」
「想像と違ったかい?」
「だいぶな」
「ふふふ、驚いてくれて良かったよ」
天竜人にこんな人間が、冗談を言い話が通じる人間がいたのかと、青キジは驚いていた。
ゴッド・バレーという価値観の全く異なる場所に生まれて、何故このような成長を遂げたのかは気になるが、今はそれを聞くべき時ではない。
「それで、話したい事って?」
「そうだな、ならまずはこれを聞こう。君は昨今の世界情勢についてどう思う?勿論モンキー・D・ルフィについてだ」
「……ガープさんの孫か、最近アーロンやバギーを倒して懸賞金がかけられた」
「そう、彼の事さ」
青キジがルフィについて知っている事はそう多くない。
英雄でありかつての上司であるガープの孫であるという事、ただそれだけだ。
血筋からして才能はあるのだろうが、今はまだグランドラインにすら入っていない弱小海賊。
ガープの孫でなければ知りもしなかっただろう。
「悪いがおれは詳しくねェ。手配書を見たくらいだ」
「十分だよ。扨、ここから先は素面で出来るものじゃない。少し外を歩きながら話そうか」
「何を聞きたいんだ?成長スピードには目を見張る者はあるが、今はまだ血筋以外に特筆すべきところもない筈だろ」
その言葉を聞いた瞬間、アメリの目の色が変わった。
「何言ってるんだよ青キジくん、彼は主人公なんだぜ?ONE PIECEの主人公なんだ、これから最高の活躍を見せてくれる筈さ」
微妙に成立していない会話、青キジは少し眉を顰めたがそのまま話を続ける。
「主人公?確かに王道航海譚なら主役を張れる生まれだとは思うが……」
「違うよ、違うんだよ青キジくん。この世界の主人公が彼なんだ。断じて僕じゃない」
「……何を言ってるんだ」
「僕はなんだ?尾田栄一郎が描いたキャラクターか?世界一の漫画家が描いたキャラクターか?あぁ!それならばまだ良い!いやだけどまだ耐えられる!」
「おい、落ち着けって──」
「だが違ったらどうする?違う世界の記憶を持つ世界観に合わない人間!稚拙でご都合主義に溢れた二次創作の主人公だったらどうすれば良い⁉︎」
青キジはそれを止める事はできなかった。
狂気と熱気に満ちた言葉、何を言っているかは理解できなかったがそれでも伝わる熱意。
「僕が転生したのは事実だとして!それでも主人公がルフィならこの世界はONE PIECEだ。僕はオリ主じゃなくモブでいられる。漫画家だって全てのモブの設定は考えないだろ?」
彼は彼女に生まれ変わり、己の存在を疑い続けた。
「モブならば思考の自由がある。行動だって己の頭蓋が出した命令だ。二次創作作者が考えた愚かなものじゃない!」
彼女は奴隷を持たない。
「だから僕は!この世界が単なる駄作の二次創作なんかじゃなく!ONE PIECEという物語で!僕は転生オリ主なんかじゃなく!主人公はルフィであると証明しなければいけない!」
現代日本で生きた人間に、奴隷として虐げられる人間を見続ける事はできる筈もない。
価値観も常識も違う天竜人と暮らした日々。
「だって、だって、そうじゃないと、僕の思考も行動も全部偽物になってしまうだろ……?」
彼女は既に、狂っていた。
正気のままに、狂気に浸っていた。
それでも彼女はオリ主なのです
モブではなく主人公、世界の中心。