「それじゃあ、改めて……。俺たちの恩人!キリトさんに……」
「「かんぱーいっ!」」
ここはアインクラッド第11層が主街区、タフト。
ギルド、月夜の黒猫団がホームにしている宿屋があった。
そして、先程の声はその宿屋、声の持ち主はギルドリーダーのケイタであった。
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ここは夢の中。素敵な素敵な夢の中。
どんなに請い願い、永遠を過ごしたいと願っても、ここは夢の中なのです。
貴方様の『記憶』からなるもうひとつの道筋を夢に起こしたものなのです。
そして、目覚めるためにすべきことは貴方の目の前におありなことにお気づきでしょうか。
お気づきなのなら、行動に移されることをお勧め致します。現実で選んだ道を後悔しないようお早めになさる事を、ね?
ふふ、良き夢を。
夢であることを忘れないように。
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ぱちり、と切符を切られて寸分違わぬうちに気を失った桐ヶ谷和人____キリトが目を覚ましたのは乾杯の音頭があげられた瞬間であった。
「っ、(ここはどこだ!?)」
「キリトさん?どうしたんですか??」
目が覚めたキリトはすぐに警戒の姿勢をとって周りを見廻す。けれどそこにいたのは、自分を真ん中にして円を作っているのは、今さっき声をかけてきたのは。
「っあ、ケイタ……、黒猫団の、みんな……?
サチ……?」
かつて自分の驕りのせいで失ってしまった、その頃の自分の幸せの箱を埋めてくれた暖かな彼らであった。
(嘘だ。だってアイツらは、確かに、俺の、目の前でっ……!)
動揺しているキリトには、先程まで自分に敬称をつけて呼んでいた彼らがもう既に呼び捨てにしているという矛盾にも気づかない、気がつけない。
「キリト、どうかしたの?……、そんなに私の片手剣への転向は難しい?」
初めて守るから、と誓った少女____サチは俯いてしまったキリトの顔を覗き込みながら言う。
(サチ、サチ、サチ……!!本物なのか?本物なのだろうか、彼らは。俺が殺してしまった、彼らなのだろうか。でも、そんなのは関係ない。今ここに、俺の目の前に立っているというのなら、)
「っ、ごめん、サチ、みんな、ごめん、俺が、俺がっ……!!!」
動揺、疑惑、後悔。そんな思いがぶわりと溢れ出し、涙となってキリトの頬を伝う。
俯いていた顔を上げることなく、そのまましゃがみこみ泣き叫ぶ。そんなキリトの姿に、黒猫団の彼らはこう言う。
「ふふ、変なキリト!キリトが私たちを助けてくれたことへのお礼パーティなのにどうして貴方が謝ってるの?」
至極当然のようにそう言ってのけるサチ。
それを筆頭にキリトをふふふ、と笑い出す。
(っ、俺はさっきまで……、、いや、俺は何をしてたんだ? さっきまでも何も、ずっとケイタ達と共に居たじゃないか。)
キリトはふる、と首を振ってにこりと笑って言う。言いながらまた俯いた。
「なんでもないよ、本当なんでもない。」
その顔は何かを忘れているような悲痛な顔をしていた。
また場面は変わる。
ここは、アンダーワールド。
セントラル・カセドラルを中心として4つに分けられる帝国のうちがひとつ、セントリア北帝国。
その中にある修剣学院上級修剣士寮中庭での出来事。
「どうしたの、キリト。こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうよ。」
「っっ!!!(また、飛ばされた? この声、嘘だ、夢なら早く覚めてくれよ!!! )
ユー、ジオ、?」
今にも零れ落ちてしまいそうな涙を必死にこらえながら、震えた声でキリトは<彼>の名を呼ぶ。
「ん?どうしたんだい、キリト。泣きそうな顔をしているよ……?」
「なんでも、ないさ、ユージオ。 疲れてんのかもな、顔洗って目を覚ましてくるよ。 」
顔を下に向け、足早に立ち去るキリトをユージオは不思議そうに見つめていた。
-手洗い場-
手洗い場に着いたキリトは洗面台に寄りかかり、涙を、嗚咽を静かにこぼす。
「っ、ユ、ジオ、っふ、ぁ、ユージオ、生きてる、ユージオだ、ユー、ジオ……!
っはは、ひでえ顔……」
ふい、と顔を上げて鏡を見る。そこには泣き腫らした自分の顔が写っていた。
『目を覚ませ!!!! 』
顔を洗おうとまた下に顔を向けた時、声が聞こえた。 瞬く間もなく写る少年の服装が、表情が、雰囲気が変わる。 見たことの無い格好だ。
黒の学ランに群青がかった羽織、背中から飛び出す柄。 少しだけ精悍そうな<<自分と瓜二つな少年>>だった。
『これは夢だ!!! 目を覚ませ!!!!
戻ってこい、戻ってこい!!黒の剣士!!!!』
「!!!!」
どぷり、鏡から伸ばされた手に引き寄せられたそこは、記憶たゆたう水の中。 失われた、否、自分で隠してしまっていた記憶が溢れ出る。
さぁ、立って、キリト。
僕の、英雄……。
僕の………、親友……。
斬るべきものは、すぐ側だよ。
一方その頃、現実世界での事。
とある少年少女達が、眠りこける詰襟の男たちと自分たちの腕を縄で繋いでいた。
その縄は鬼の縄。 鬼の血が練られた糸を撚り合わせて造られた夢の中へ入ることの出来る縄。
繋いだら、深く呼吸をする。
いち、にい、さん、、、、
そうすれば、夢の中へ入る事が出来る。
「なに、ここ……。 」
一番の新入りであるその少女は、全身真っ黒の少年の夢へと侵入する。
そこは、大正時代しか生きたことの無い少女からすれば不思議な世界だった。同じ歳くらいの少年少女が鎧や帷子を身につけ、剣や槍を握って、獣のようなバケモノを殺している世界だったから。
それでも本体の少年はすぐに分かった。全身真っ黒は変わらなかったからだ。
(っ、本体がいる。)
「早く見つけないと……!」
楽しそうに会話する黒髪の少年を見つけ、見つからないようにそっと走る。その様子をほんの少しだけ羨ましそうに眺めてから。
夢の端。それは文字通り先端。夢を見ている本体から円を描くように夢の世界は広がり、無限に広がっているように見えるそれは、ある一定の場所で途切れる。それが、夢の端。
少女が暫く走っていると、透明な壁にぶつかった。
「あった。本当に進めないのね。……躊躇うな、私。 だって、魘夢様に幸せな夢を見せてもらうんだから!!!」
首領である鬼に渡された特別性の錐をその透明な壁へと突き立て、ぐぐ、と力を入れ下に下ろす。
人一人分が通れる大きさの穴を作り出すと、少女は穴をくぐる。
くぐり抜けた先には、さらに不思議な世界が広がっていた。
かつてキリトの過ごした上級修剣士寮の部屋。
そこに立つ青薔薇の意匠が施された剣を腰に携える亜麻色の髪の少年。 現在の花柱、桐ヶ谷青薔にどこか似ている。
「ふふ、僕はユージオ。よろしくね?
ここはキリトの無意識領域だけど……。
ところで、君が探しているのはこれかい?」
少女に対して、自己紹介をする少年……もとい、ユージオ。
彼は自分の胸元に手を当てて、光の玉____桐ヶ谷和人という少年の精神の核を取り出して見せる。
(なぜ、無意識領域に人がいるの?
この様子からしてこいつは本体じゃない。なのに、精神の核を持っている。どういうこと?)
ぶんっ、そう不思議な音がして無意識領域は崩れ落ちていく。まるで、ゲームのバグのように。
「はぁっ?!何よこれ!どうなって……!」
「なんだ。起きたのかい?キリト。
ふふ、残念だったね。お嬢さん。
じゃあ、またね?」
亜麻色の少年は穏やかに笑うとそう言って少女を送り出す。
と同時に、現実世界で少女は目を覚ました。
本日のキャラ紹介!
《ユージオ》
・桐ヶ谷 青薔にそっくりな人物。 キリトの親友であり相棒。
・目の前で飛竜に攫われた金髪の幼馴染を助けるためにキリトと白亜の塔を目指した。
・最期は切なく寂しく悲しいものとしてキリトのトラウマになっている。