暴虐の魔王スペックの転生者と一番星の生まれ変わり。   作:混沌の青魚

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アイドル

 俺たちはつい先日に誕生日を迎え、10歳となった。

 

 なにかとめでたい節目のこの時、アイは苺プロダクションの斎藤壱護という男からアイドルにスカウトされた。

 というのを、適当なところで入った喫茶店にて聞いた。

 

「――アノシュはどうしたらいいと思う?」

 

「ふむ……」

 

 可愛らしく小首を傾げ、俺へと問いかけるアイ。

 彼女はここ最近、日に日に美しくなっていくのが目に見て分かる。

 

 出会った頃は暗く淀んでいた星の瞳も、今では一番星のように輝き、人を魅了させるものとなっていた。

 

 運動神経、体育の成績は学年でも最上位、最高評価。

 歌は可も不可もなく、強いていうなら、不可よりの可。

 

 体力については、幼少期を俺と共に過ごすことで、羆と一晩追いかけっこしても疲れない身体に魔改造されていた。なんなら倒せる。

 

 そしてなぜか、彼女は魔法を覚えた。

 

 もう一度だけ言う。魔法を覚えた。

 

 

 

 

 

 なにを言ってるか分からない?安心しろ、俺も分からん。

 

 それは決して強力なものではないが、しかし単体であっても重火器を装備したプロの軍人を制圧するのに易いだけの戦闘能力を手に入れてしまっていた。

 

 ちなみに俺はようやく某霊長類最強と並び、全力を出し切れば銀河系を破壊し尽くすことが可能となったのだが、原作の暴虐の魔王は七歩歩くだけで世界を破壊できる力を持つので、まだまだそこまでに及んでいないだろう。

 

 

 と、考えが横に逸れてしまったが、アイがアイドルになること自体は賛成だ。

 十分に自衛はできるし、なんなら襲いかかった相手の方を心配しなければならないだろう。

 

 しかしそれでも――。

 

「俺としては、お前がアイドルになるのを止めるつもりはない。今すぐデビューしたとして、すでにそこらの有象無象のアイドルには負けないだけの人気は獲得できるだろう。だが気にしているのは、それではないのだろう?」

 

「……うん。アノシュにしか愛されたことなくて、愛したこともない。そんな私だから、きっとアイドルになってもファンになってくれた人たちのことを愛せないんだろうなって、考えだしたら止まらなくて」

 

「気にするな、と言っても、お前は気にしてしまうのだろうな。だからアイ――お前には、ひとつの魔法を授ける。それは聖愛域(テオ・アスク)。愛する者と共に戦い、真実の愛を重ねることで発動し、愛に比例して膨大な魔力を得ることができる」

 

「真実の、愛……?」

 

「そうだ。嘘を吐くことが愛でないなどと、誰が言ったのだ?嘘とはとびきりの愛だと、そうお前自身が叫んでしまえば、さすれば嘘は真実の愛ともなり得る」

 

「……うん。分からないような、でも多分分かった。とにかく私は愛を叫べばいいんだ」

 

 そう言い顔を上げたアイ。その瞳の星は更なる輝きを宿し、蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 

 存在としての格が、ひとつ上がった。言うなれば、彼女は霊長類準最強の域へと足を踏み入れたのだろう。

 

 それに比例するように、俺へとかせられていた封印が、また一段回解けたようだ。

 

 おかげで肉体から制御できなくなった魔力が漏れ出て、思考に回す余裕が限りなくゼロに近くなってしまった。

 

 

 しかし

 

それも一瞬だけのことで、刹那の間に完璧に魔力を制御し、何事もなかったかのように振る舞う。

 

 

 事実、周囲の人間たちは気が付かず、何事もなかったかの如く普通を謳歌していた。

 

 しかし――。

 

「……あぁ」

 

 魔法を得、魔力に対して鋭敏になったアイはあてられてしまったようで、恍惚とした表情で俺を見つめていた。

 

 

 何度か眼の前で手を振ってみたり、手を握ってみたりしたが反応がない。

 

 ……仕方ない、か。

 

「アイ、起きろ」

 

 手の甲に、軽く唇をあてる。

 場所はどこでも良かったのだが、流石に10歳にして少女の唇を奪うのは気が引けたのでその部位にしただけのこと。

 

 そこを起点にしてほんの僅かな魔力を流し込み、そして体内で循環させてやる。

 

 そうすることで、徐々に徐々に心も落ち着いてきたようで、やがてアイは意識を完全に取り戻した。

 

 

 そこで手の甲から唇を離し、軽く微笑んでやる。

 

「またなにかあれば相談しろ。お前の願いであれば、大抵のことは叶えてやろう」

 

「……うん、決めた」

 

「なにがだ?」

 

「アイドル、やる。でもアノシュ、君も一緒にだよ!」

 

 ……キラキラ輝く瞳。

 なによりも先ほど願いを叶えると言った手前、断ることは難しいそうだ。




遅くなりましたが投下。
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