暴虐の魔王スペックの転生者と一番星の生まれ変わり。   作:混沌の青魚

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壊れてしまったブリキ人形。

 とりあえずは本当にアイが妊娠しているのか、精密な検査を病院で受ける必要があった。

 とはいえ、今やB小町は世界が誇る伝説のアイドルグループ。その絶対不動のセンター、アイがまさか妊娠して都内の病院に現れたとなると、情報は刹那の間に世界に拡がるだろう。

 

 それは当本人のアイだけでなく、社長を含めた苺プロダクションの破滅を意味している。

 

 

 

 しかし人気のない田舎の病院で診察を受けるにしても、今やアイのことを知らない人間は記憶喪失者か、それか宇宙人しか居ないと確信できるほどの知名度を誇るので、信頼のできる病院にて極秘裏に……。

 

 

 そこまで考えて、俺は以前、ライブツアーと称して訪れた、宮崎の病院。

 当時はまだ研修医だったが、今では産婦人科医としてその病院に勤めている友の名を思い出した。

 

「……雨宮吾郎。久しぶりにヤツのもとを訪ねてみるか」

 

 この男を訪ねるのは、ある意味の博打である。

 天童寺さりな。今やB小町でアイに次ぐ人気を誇るアイドルとして活動しているが、その正体とは幼き頃から病に苦しめられていた、ただ死を待つしかなかった少女だ。

 

 そんな彼女のため、俺たちへ向けて、無理を承知でどうか慰問ライブを開いてほしいとの熱き思い、そしてそれを受け入れた俺たちが宮崎へ出向いたことで開かれたライブ。

 それを期に雨宮吾郎との交流を深めたのだが、ヤツは天童寺さりなの退院とともに狂ってしまったらしい。

 

 

 どうやら慰問ライブを天童寺さりなと共に観た際、B小町のアイにドハマリをしてしまったらしく、今では病室にて布教活動を始める始末。

 

 ……一度、責任をとってヤツの息の根を止めたほうが良い気もするが、しかし根からの善人、そして気の良い男であることも事実。

 なのでまあ勘弁してやろうとは思っているのだが、最悪の場合を想定して、契約(ゼクト)の魔法でヤツを縛ることも想定に入れておこう。

 

 なによりも、ヤツ以外の人間に顔を見られるわけにもいかぬため、アイの姿はアイドルを演じるうえで俺がやっている幻影擬態の魔法で偽る。

 

 そして移動の際には、公共機関を使えばそれ相応のリスクが高まってしまうため、転移(ガトム)の魔法で済ませる。

 

 

 

 そこまで計画してしまえば、あとは本人にアポイントメントの約束を取り付け、訪れるだけ。

 

 

 俺は携帯から雨宮吾郎、その名の番号を呼び出し、コールを鳴らした。

 

 ヤツは、幸いなことに数回の呼び出し音を鳴らしたあと、通話に応じた。

 

「アノシュだ。久しいな、雨宮吾郎」

 

『……ああ、久しぶり。で、なにか用でもあるの?俺、アイとさりなちゃんの布教活動で忙しいんだけど」

 

「至急、お前に用がある。すぐに向かうが、布教活動以外に今日の予定はあるか?」

 

『……いや、今日のところは特になにも。てかなに?すぐに来るって、お前、こっちに来てたりするの?』

 

「今は東京にいる。しかし――」

 

 俺は、傍で常に話を聞いていたアイ、そして社長の2人と共に、転移の魔法でヤツの居る病院まで瞬時に移動した。

 

「東京に居るからといって、すぐに宮崎に来れないとでも思ったか?」

 

「……うん。やっぱりお前、頭おかしいわ」

 

 なぜか呆れ顔の雨宮吾郎に毒を吐かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 アイの姿は、転移してくる前に幻影擬態の魔法で既に偽りのものへと変わっていた。

 しかし、どうしても患者として接するため、担当医となるはずのヤツには正体を明かしておく必要がある。

 

「雨宮吾郎。俺はお前を信頼して、コイツを預けようとしている。これから正体を明かさせるが、もしも他人に知られるようなことがあれば、その時がお前の命日だと思え」

 

 とはいえ、流石に俺もこの男を殺したくはないので、言霊に契約の魔法を乗せて、雨宮吾郎本人の同意なしに調印させる。

 これも力量に差があってこそのもので、仮に霊長類最強クラスが相手になった場合、それはただの口約束にしかなり得ない。

 

 のだが、そんなこと露知らぬコイツは、重々しい表情で頷いていた。

 

「アイ、魔法を解け」

 

「――うん。分かった」

 

 アイを包むようにして漂っていた魔力が消えて、やがてそこに現れたのは、一番星の生まれ変わり。

 世界が誇る、伝説のアイドルグループB小町、絶対不動のセンターアイその人である。

 

 そしてその顔を見てしまった雨宮吾郎はといえば。

 

「―――――――――?」

 

 フリーズしてしまっていた。

 

「……起きろ、この馬鹿者」

 

「……あでっ!?」

 

 手加減に手加減を重ね、そこに更に5000ほどの手加減を重ねたデコピンにてヤツの額を弾き、視線を無理矢理に合わさせる。

 

「今回診てもらいたいのは、お前の推し、アイのことだ」

 

「……ええ、はい。わかりました」

 

ヤツは壊れたブリキ人形のような動作で、そう返すのだった。

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