もし、刺されたのがアクアだったら 作:八秒で泣くオタク
原作最新刊まで読み切ったので
タイトル通り割とショッキングなのでご注意を
·········温かい。
ずっと、ずっと、ずっと昔にばあちゃんに連れられて行った温水プールの中みたいだとどこか他人事のように思う。
赤くて温かな水がとくとくと俺の身体を濡らしていく。
頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。寒くて熱くて気持ちよくて怖くて心地いい。
熱い痛みが背中から全身へ広がっていく。このまま眠ってしまいたいくらいに心地よい痛み。
痛みよりも熱さの方が勝る。
痛いのか熱いのかもう分からない。俺はただただ赤に染まっていく世界を眺めていた。
『あの時』は何も見えずに何も聞こえなかったけれど、今なら分かる。これはきっと血の色だ。
仕事の中で何度も見てきたはずの赤、忌まわしくて悍ましくて吐き気がする色。それなのに、この赤はどうしようもなく綺麗で、温かくて、優しい。
赤い世界はやがて暗くなっていく。
視界の端にちりちりと黒い火花のようなものが見え始める。それがだんだん大きくなって、赤い世界が白く染まっていく。
光なんてどこにもない。
ただ暗闇だけがそこにある。
意識も感覚もほとんど消えていく中で赤い世界は暗くなっていく。
光なんてどこにもない。
ただ暗闇だけが────。
「··········し····る」
─────霞むような声がした。
それはひどく懐かしく感じる声で、それはひどく憧れた人の声で、それはひどく恋焦がれている人の声で、
そして、それは───。
闇に包まれた世界にぽつりと光が灯った。その光は徐々に大きくなっていき、辺りを照らし始めた。
俺は目を開く。
目の前には俺を抱きかかえている少女の姿があった。
その顔は俺が今まで見たこともないほど綺麗で美しくて、黒い血を浴びてなお白く煌めいた『星』のような瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
まるで夢でも見ているかのような光景だった。しかし、確かに彼女はそこにいて、確かな体温を持って、息をしていた。
俺を抱える彼女の手のひらから伝わる鼓動がやけに大きく聞こえる。
生きている。
どくどくと脈打つ心臓の音は自分と彼女のどちらのものなのか分からない。
熱さが痛みへと変わっていく。自分の荒い呼吸音がうるさい程によく聞こえてくる。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い 痛 い。
刺された傷口はもちろんのことだが、それよりも胸の奥が焼けるように痛かった。
「·····して······し···るか·············してるから·········!!」
彼女の叫びにも似た言葉が再び微かに耳朶を打つ。それでも、俺はそれを理解出来なかった。
なぜ彼女がここにいる?
なんでそんな悲しそうな顔をしているんだ?
疑問ばかりが浮かんでは消える。
熱さと痛みが全てを奪うように襲ってくる。寒気すら感じなくなった身体からは力が抜けていき、瞼を開けることすらままならない。
それなのに彼女の姿を一時でも長く見ていたいと心の底で思っている自分がいた。
一秒でも一瞬でも永く彼女の姿を瞳に焼き付けようと必死になっていた。それが無意味なことだと分かっていても。
薄れゆく意識の中で俺は彼女を見た。
「愛してる」
「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」
「だからっ」
「死なないで、アクア」
壊れたように同じ言葉を紡ぐ彼女の顔は自分が刺されたかのように苦しそうだった。涙が頬を伝って落ちていくのが見える。
冷えていく指先を何とか動かしてその雫に触れる。
血よりも温かいその水滴は俺の手に吸い込まれるようにして赤に溶けていく。
耳鳴りのように「愛してる」と繰り返す声が遠のいていく。
──ああ、そうだ。
やっと思い出せた。
俺は、アクアは、花束を持った男に刺されそうになっているアイを庇ってナイフを受けた。冷めた思考が今になって巡っていく。
あの男は何者だったのかとか、どうしてアイを狙ったのかとか、そもそもどこに行ったなのかとか、そんなことはどうでもよかった。
ただ一つだけ、アイが無事だということだけが嬉しかった。
また、見送る側にならなくてよかった、なんて身勝手なことを考える自分にほんの少し笑みが溢れた。愛してる、と何度も繰り返しながら涙を流し続けるアイを見ていると亀裂が走るような音がした。
視界が揺れて白に染まっていく。もう何も見えない。聞こえもしない。ただ温かさだけが全身を包んでいる。
痛みすらも忘れてしまいそうになるほど心地いい。白の中にまた黒が混ざり始める。
死ぬ間際だというのに不思議と恐怖はなかった。ただ、彼女の無事が確認出来たことに対する安堵感だけが胸の中に残っていた。
寒い、さっきまでの熱さが嘘みたいだ。
身体がぴくりとも動かない。
意識が消えかける。
思考だけがとりとめもなく続く。渦のようにぐるぐると走馬灯が前世のことまで遡ったり、最近の出来事だったりと様々な場面が流れていく。キラキラと流れる流星のようにそれは止まることなく流れ続けた。
そして、最後に見えたのはやっぱり彼女だった。
推しの前で死にたいなんて言葉があったけど、まさか自分がそうなるとは思ってなかった。
指先すら動かせない俺を抱きかかえて呪いのように愛の言葉を繰り返す彼女は泣いているはずなのに綺麗で美しかった。
まるで絵画の中の人物のような神秘的な雰囲気を纏ったその姿は、血に濡れてなおアイドルと呼ぶに相応しい輝き。
本当ならルビーと一緒にその輝きを目に焼き付けて、舞台に立つその笑顔を見ていたかった。
だけど、それは叶わないことだから。
最期の力を振り絞って口を動かす。
せめて、これだけは伝えよう。
うわごとのように繰り返す彼女に。
俺を愛してくれた彼女に。
ちゃんとその言葉は届いてるって伝えないと。
「───────俺も愛してる」
母として愛してくれてありがとう。嘘なんかじゃない、どうしようもなく不器用で真っ直ぐなその愛情は本当に嬉しくて暖かった。
一等星のように輝く彼女をずっと見ていたいと思った。それが叶わないならせめてどうかこれからの未来が、彼女が、幸せなものでありますように。そう願いを込めて、俺はそっと目を閉じた。
暗闇に包まれた世界は白く染まっていく。
恐怖はない。
ニ度目だからかとどこか冷静になった頭で思う。
一度目は訳が分からないまま死んだ。
今度はちゃんとした理由があって死ぬ。自分でもおかしなことを思っている自覚はある。けれど、これで良かったと思っている。死んでもいいと思えるくらいには恵まれている。
出産に立ち会えなかったあの時とは違う。俺は、大切な人を守れた。俺には勿体無いほどの幸せを貰えた。
二度目があったこと自体、恵まれすぎていて奇跡みたいなものだ。
今度こそ後悔はない。未練もない。
それに今度こそあの子の、さりなちゃんの所へ行ける。
ゆっくりと息を吸って吐く。
肺に空気が巡る感覚を最後に俺は静かに眠りについた。
「(·················あぁ、でも、ルビーのことは心配だな)」
─────白の中で黒いナニカが煌めいた。
➀そのまま死ぬ
➁救急車の中で前世のことをうわ言のように言って死ぬアクアとそれを聞くルビー
③奇跡的に生き残るもルビーの前世の生き写しように障害を負うアクア
好きな地獄を選んで誰か続き書いてよ(アンケートではないです)·····
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