もし、刺されたのがアクアだったら   作:八秒で泣くオタク

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短いです




13-天童寺さりな③

 

 

 

 

 

 

園から抜け出して前世の家へ向かった。電車に乗っている間、ずっと不安と期待が胸の内で渦巻いていた。

 

本当に行ってもいいのだろうか。

 

いきなり押しかけたら迷惑にならないだろうか。

 

私だと気がついてもらえるのだろうか。

 

そもそもまだあの家はあそこにあるのだろうか。

 

様々な想いがぐるぐると頭の中で回り、気持ち悪くなりそうだった。そんな事を考えながら窓の外を眺めているうちに目的の駅に着いた。

 

電車から降りて改札を出て携帯で目的地までの道を確かめる。駅から歩くこと数分、ようやく目的の家に辿り着く。

 

表札を見るとそこには"天童寺"と書かれていた。間違いない、ここが私の家だ。

 

何年も帰らなかったというのに不思議と懐かしいと感じてしまう。緊張と恐怖で身体が強張るが覚悟を決めてインターホンを鳴らした。

 

「·············っ」

 

 ドタバタとドアの向こう側から近づいてくる足音に思わず身を固くする。心臓が煩いくらいにバクバクと鳴る。

 

それから数秒後、カチャリと鍵を開ける音が響き、ゆっくりとドアが開き始めた。

 

現れたのは─────

 

「─────ぇ?」

 

「キミ、誰?」

 

 私を見て驚いたように目を見開いている"子供"がいた。私も驚いて声が出せなかった。

 

7歳か8歳ぐらいの男の子がそこにいた。

 

息が詰まる。

 

その見た目、その年齢に"それ"はないだろとさりなとしての心が悲鳴を上げる。

 

ありえない、ありえるはずがない、だって、それは···········!!

 

心が欠ける。現実を突きつけられて世界から色が消えた。目の前が真っ暗になる。

 

立っていることすらままならず、崩れ落ちるようにしてその場に座り込む。

 

「ちょ、大丈夫?!」

 

 男の子は歳下の私を心配してくれたのかしゃがみこんで私と視線を合わせる。

 

心配そうな表情を浮かべていてその瞳に私の姿がくっきり映っていた。

 

近づけば近づく程、その顔がよく見えて残酷な現実が突きつけられる。

 

似ている、髪に、目に、雰囲気が。

 

あぁ、やっぱり、この子は私の─────

 

「なん、でもない」

 

 ぎり、と歯を食いしばりながら絞り出す。気を抜いたら泣いてしまいそうで必死に堪える。

 

この子は何も悪くない、何も知らない。私が勝手に期待して勝手に絶望しているだけ。

 

わかっている、理解はできている、それでも心が追いつかない。

 

こんなことってあるの?

 

だって、そんなのあんまりじゃないか。

 

私が娘としてダメだったのは自覚しているけれどそれでも、これはあまりにもキツい。

 

「天童寺まりな·······さん、の家ですか?」

 

 泣きたいのを我慢しながらなんとか訊ねる。違っていて欲しい、否定して欲しいと願う。

 

万が一、そうじゃない可能性に綴るように。だが、彼はごく自然に頷いて肯定する。

 

「そうだけど"お母さん"は仕事で家にいないよ」

 

 お母さんになにか用事あるの、と続けて問われる。あぁ、そうだよ、お母さんに会いに来たんだよ。

 

でも、もういいや。

 

なんだか疲れちゃった。色々考えるのも面倒になってきた。心が折れる音がした。

 

髪も、目も、雰囲気も。その全てが 彼があの人の息子でさりな()の弟である事を物語っている。

 

性別こそ違えどその見た目はまだ私が健康だった時に鏡で見た姿と重なって見える。

 

その小学生に上がったかぐらいの年齢は彼が私が死んでからすぐに生まれた子供だということを如実に示していた。

 

─────代わり。

 

そんな言葉が脳裏に浮かぶ。最初から私に居場所なんてなかったんだ。薄々わかっていたことではあるけれどこんなにも鮮明にそれを実感するとは思わなかった。

 

「お母さん帰って来るまで待つ?」

 

「··············いや、大丈夫、です」

 

 心配そうに聞いてきた彼に私は力なく首を横に振って答える。これ以上、ここに居たら自分が何をするかわからない。

 

だから、早くここから立ち去ろう。

 

立ち上がり、ぺこりと頭を下げて踵を返す。その優しさが痛くて辛い。

 

後ろから呼び止める声が聞こえるが構わず歩き続ける。

 

そして、最後に一度だけ振り返る。

 

あぁ、本当によく似ている。

 

この家に来ればお母さんとまた会えると思っていたけれど、そこにいたのは私を知らない弟。

 

私の知らない家族がそこにはあった。それが無性に悲しくて虚しい。私は今どんな顔をしているんだろう。

きっと酷い顔だ。

 

涙が溢れてくるのをぐっと堪えて前を向く。

 

二度とここには戻らない。

 

吐き気を抑えるように口元を押さえながら心の中でさようならを告げた。

 

 

 

 

 

 






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