もし、刺されたのがアクアだったら   作:八秒で泣くオタク

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今からアニメの二期を待っている自分がいる 



3-星野アイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も私は嘘をつく。

 

人の視線を集める瞳、誰からも好感を得られる笑み、傍から見て輝いて見えるように演出に演出を重ねた容姿と声色、それら全てを使って私は私を作り上げる。

 

打算に打算を重ねて、誰かの望む自分でいるために望まれた言葉を口にする。黒くてドロドロとした素顔を隠すように仮面を被っていく。

 

鏡の前でみんなに愛されるアイドルの顔を調律していく。

 

ミリ単位で目の細め方、口角の位置、目線の角度、表情筋の動きを微調整してみんなが望んでいる偶像を作る。

 

本当の自分はいつも真っ暗な闇の中。底のない闇色の世界が広がっているだけ。一番星なんてどこにもない。

 

ラメ入りのカラコンのようにキラキラした星の瞳。偽りの姿を飾るためだけの装飾。嘘に塗り固められた私の中身は虚無そのもの。

 

空っぽの器にみんなに好かれるための演技を詰め込んでいく。

 

────私は嘘でできている。

 

頭の中であれやこれや考えるよりも先に体と口が勝手に動いて場の空気や状況にあった言葉を吐き出していく。

 

それは私自身にも止められないくらいに加速しながら思考を置き去りにして進んでいく嘘の姿。

 

生まれついての嘘つきなのか、それとも環境がそうさせたのかは解らないけれど気づいた頃にはごく自然に嘘を吐けるようになっていた。

 

暴力や暴言ばかりをふるってきて娘を娘とも思わない母親から愛情なんて注がれるはずもなくてただひたすら殴られ蹴られ罵られてばかりいた私を唯一、守ってくれるのが嘘だった。

 

ある時は母親の機嫌を取るために、ある時は周囲の大人の同情を引くために、ある時は施設でいじめられないために嘘を吐いて吐いて吐き続けて嘘に染まって染まり切った私。

 

嘘によって作り出された仮面はいつしか私の顔そのものになっていて外す事すらもできなくなって自分でも何が本心で何が嘘かの区別もつかない。

 

嘘つきで人嫌いで上辺だけをキラキラとした言葉で飾った私の後ろ暗い姿をまばゆい光と声援で覆い隠してくれる舞台の上は好き。

 

誰かに愛されたことも誰かのことを愛したこともない、そんな私も心の中のどこかで誰かを愛したいと願っていたんだと思う。

 

愛してるって嘘を振りまけばきっといつかこんな自分でも嘘を本当にして誰が愛することができるんじゃないかって淡い期待を抱いてた。

 

··········でもアイドルとしてどれだけ脚光を浴びても私には愛しているという嘘を本当にすることができなかった。

 

むしろ人の目を集めれば集めるほど 白々しくて虚しくなる。その感情さえも全部嘘で誤魔化してしまう自分が嫌になる。

 

それでも嘘をやめることができない。

 

だって私は嘘しか知らないから。

 

だから今日もまた嘘をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────アイドルとしての自分に何の価値も見いだせなくなってきた頃、私は『彼』に出会った。

 

劇団ララライに所属する若き天才役者、それが彼の肩書きだった。

 

誰の目から見ても整った容姿をもちながら人混みの中に入れば必ず埋もれる徹底的なまでの無個性。

 

何の絵の具も付着していない新品のキャンバスのような透明感とその印象とは相反してドロドロに煮詰まって淀んだ真っ黒な存在感。

 

一度舞台の上に立てば誰よりも黒々と輝く才能の持ち主でありながら普段はどこにいてもすぐに消えてしまうような希薄さを併せ持つ不思議な男の子。

 

鏑木さんに紹介されたワークショップで知り合った彼の姿に私は一目で彼が私と『同じ』だと感じた。

 

その場限りの嘘と演技で全てを塗り固めて、本当の自分を覆い隠していく私と同じ嘘つきの少年。

 

何より同じだったのはその『瞳』。

 

偽って偽って偽って作り出した星の瞳。キラキラと輝く偽りの星々。その奥の奥に潜む闇色の虚無。

 

愛を知らない、愛が分からない彼と私。

 

似ているようで似ていない、そんな彼に惹かれたのは必然的なことだったのかもしれない。

 

女としてなら誰かを愛することができるんじゃないかという淡い期待、私が彼に抱いたのは愛なんかじゃなくて、親近感と同族嫌悪に近い何か。

 

試すように言葉を重ねて、試すように手を重ねて、試すように体を重ねる。

 

試すように嘘を重ねていく。

 

それでも、どんなことをしても私に彼を愛することはできなかった。

 

だから別れた。

 

愛を知らない者同士の間に愛なんて生まれるはずがないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が妊娠してるって事が発覚したのはその後すぐのこと。

 

やることやってたしそういうこともあるかと驚きはしなかったけどどうしようかと頭を悩ませることになった。

 

私はアイドルだ。

 

普通に考えて今売り出し中のアイドルに子供ができたなんてことがバレたら大問題になるだろう。

 

炎上どころの話じゃない。何をどう考えてもファンからのバッシングやマスコミからの追及は免れない。

 

そうなったらアイドルとしての活動がおろかグループの人たちや社長も巻き込んだ破滅へと一直線に進んでいくことになる。

 

何より16歳で子供を産むなんて 普通じゃあない。これからのことと今のことを考えたら残酷だけど堕胎するしか選択肢はない。

 

···········けど、愛を知るチャンスなんじゃないかと私は思った。

 

娘として、女として誰かを愛すことも愛されることもできなかった私だけど親としてなら、母親としてなら、初めて人を愛する事ができるんじゃないかと思った。

 

私みたいな人間でも、嘘つきでも、自分の子供なら心の底から愛することができるんじゃないのかって。

 

それが最後の最後に残った希望のように思えてからは迷わなかった。

 

みんなには悪いけどこのままアイドルとして活躍するよりも私は私の嘘を本当にしてみたい。

 

妊娠したことは社長にも隠していたけど結局はごまかしきれなくて私は産みたいという気持ちを打ち明けた。

 

当然のように社長は反対したけれど私は頑として譲らなかった。全てを失ってもいいという覚悟があったから。

 

20週目頃になって一目で妊娠してると分かるような見た目になっていよいよとなって人の目につかないよう隠れるように地方の病院に行った。

 

社長に付き添われながら診察を受けて私のお腹にいるのは双子だということがわかった。

 

私の担当になったゴローセンセは私がアイドルのアイってことを知っていて妊娠してるって事にとても驚いていたけど親身になって色々と相談に乗ってくれたりアドバイスをしてくれた。

 

センセと話して私は改めてアイドルとして活動しながら子供を育てることを決心した。

 

私の決断に社長は渋い顔をしながらも最終的には折れてくれてグループの子達にもこの事は伏せたまま出産することにした。

 

私は根っからの嘘つきで嘘をつくことでしか人と関われない。

 

ならその嘘をつき通して子供がいるってことを公表せずにアイドルとして一番に輝きたい。 

 

嘘で塗り固められた私を本当の私にするために、嘘こそがとびきりの愛だって証明したい。

 

アイドルとしての幸せも母親としての幸せもどっちも手に入れてみせる。

 

出産の方法とかそれまでの体の労り方とかをセンセと一緒になって考えていくうちにいつの間にか私の理想は固まっていた。

 

日々、大きく重くなっていくお腹を抱えながら私は毎日を過ごしていく。

 

いよいよ出産予定日が近づいたある日、センセは前触れもなく姿を消した。

 

病院側もセンセがどこに消えたのか把握していないらしくて連絡も取れなくなっていた。

 

病院に来てからの2ヶ月にも満たない付き合いではあるけどセンセが訳もなくどこかに消えるような人ではないことは分かってる。

 

センセの身になにかあったんじゃないかと心配になったけれどその頃にはもう私は自分の体のことで精一杯で結局、センセは出産の時まで戻ってこなかった。

 

すごくお世話になったからちゃんとお礼を言いたかったのにちゃんとお礼を言いたかったのにそれは叶わず生まれてきた2人の顔もセンセに見せれないまま退院することになった。

 

必要以上に留まってはどこかで足がつくかもしれないし何よりアイドルとしての活動を再開するためには早い方がいい。

 

いつかまたどこかで会えたらいいと思いながら私は事務所に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから4年が経って私はハタチになった。

 

活動を再開してすぐに人気を取り戻すなんてことはできなかったけれど少しずつ勘を取り戻せてなんとかやっていけてる。

 

キラキラとした光で照らすその先にあるのは嘘だらけの世界。そこは私と同じ嘘つきたちの巣窟で最も綺麗な嘘をつけるアイドルこそ人気になっていく。

 

前以上にファンを増やしてこれ以上ないことほどに順調なアイドル人生。

 

これまで以上に嘘を重ねて嘘を積み重ねていく。嘘で塗り固めて嘘で隠して嘘で誤魔化して嘘で欺き続ける。

 

全てを覆い隠すほどに綺麗で眩しい嘘。そんな嘘を本当のことにしてみせようと私はステージに立つ。

 

正直なところを言えば出産してからしばらくの間、私は生まれてきた子供たちのことを愛することができなかった。

 

可愛いとは思うし憎らしいなんてことも当然思わない。けど母親としての愛情を注げているかと聞かれれば答えは否だった。

 

子育て自体は2人が子供とは思えないほどに聞き分けが良い上に社長たちが協力してくれていたから何とかなったけどそれだけだった。

 

 

どっちがどっちなのかなんてことすら覚えられずに名前を間違えるなんてことは日常茶飯事で可愛がることはできても母親として接することができなかった。

 

仕事があるから常にそばに居れるわけでもなく、子供がいるってことが外に漏れないように家の中以外では一緒にいることが許されない。

 

そんな状況の中で愛を育むこと自体が難しいのかもしれないけれどとにかく私は二人のことを愛せなかった。

 

わずかな落胆と失望と絶望感。

 

やっぱり私は誰かを愛することができないんだと突きつけられた現実。

 

せめて自分の母親のようにはならないと心に決めて私は子供と向き合った。

 

幸いなことに二人とも頭が良くて物分かりの良い子たちだったから特に苦労することはなかった。

 

愛することはできなくとも自分のような苦労や孤独は味わわせたくない。

 

そう思って必死になってお金を稼いでたある日、グループでの当たり障りのないライブをしていた私の目に映ったのはベビーカーに乗りながらサイリウムを一生懸命振っている2人の姿。

 

その時、なにかが溢れ出すのを感じた。

 

ぽわーと胸の奥から熱くなるような感覚。今まで感じたことの無い感情。演出としての嘘ではなく自然と口角が上を向いて笑顔になってしまう。

 

楽しそうに応援する二人の姿にぽかぽかと暖かくなっていく心。

 

あぁ、これが愛なんだと理解すると同時にようやく私は自分が子供を愛せた気がした。

 

そこからは早かった。

 

もう名前を間違えるなんてことはなくて、二人と接する時間が増えていってどんどん本当の家族になっていった。

 

アクアもルビーも私にこれでもかってくらいになついてくれていてそれが嬉しくって楽しくって仕方がなかった。

 

恥ずかしがり屋なアクアに甘えん坊なルビー。2人ともとっても可愛くてとっても頭が良かった。

 

毎日が楽しくて世界が輝いて見えた。

 

本当に本当に幸せな毎日。

 

口に出したら嘘になっちゃうんじゃないかと思って愛してるって言葉はまだ言えてないけれどそれでも幸せだと断言できる。

 

これからもずっと三人で暮らしていきたいと心の底から思っていた。

 

···············本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘、やだっ、血が·······ッ」

 

 鼻をつく金物臭い鉄の匂い。目の前に広がる真っ赤な鮮血。じわじわと広がっていく血の水たまり。

 

なんでこんなことになっているのか分からない。どうしてこうなっているのかも理解できない。

 

理解を拒むように視界は歪んで思考は停止する。まるで夢の中にいるみたいにふわふわとしていて意識が曖昧になる。

 

これは悪い夢?それとも幻? どっちでもいい。早く覚めて欲しい。お願いだから目を覚まして。

 

現実逃避したいほどに残酷な光景。脳髄に氷柱を差し込まれたかのような恐怖。

 

何度瞬きをしても変わらない悪夢のような現実。

 

「死なないで、嫌ぁっ、アクアっ!」

 

 いつも通りの日々に何気なくなったチャイムの音。私はチェーンをかけることもなく無警戒に玄関の扉を開けてしまった。

 

『アイ、ドーム公演おめでとう。双子の子供は元気?』 

 

 両手に抱えられた花束の間から覗く冷たい鉄の輝き。それが何か理解して思わずへたり込んでしまう私に容赦なく振り下ろされる刃。

 

次の瞬間死ぬかもしれないというのに不思議と怖さはなかった。

 

自分でも驚くほど冷静に「あぁ、死んじゃうんだな」って思って受け入れてしまっていた。

 

スローになった視界に映ったのはナイフの鋒と────それから庇うように私とナイフの間に割って入った一つの小さな影。

 

鈍い音が響いた直後、私の顔に降りかかる生暖かい液体。やけに粘っこいその血の感触に私は悲鳴を上げた。

 

何が起こったのかはすぐに理解できた、できてしまった。

 

アクアの小さな体を突き破って血を滴らせるナイフと愕然とした表情を浮かべる男の人。

 

アクアを刺した男の人はそのまま私に襲いかかることもなく私の『目』を見て悲鳴のようなものをあげながら逃げ出した。

 

そんなことは気にもならずにアクアを抱き上げて必死に傷口を手で押さえる。

 

止まれと念じるけど一向に止まる気配はない。涙で滲む視界の中、震える声で何度も名前を呼ぶ。    

 

狼狽しながら呼んだ救急車が来るまで私はただひたすらに泣き続けながら狂ったように。

 

1秒ごとに血を吸って重くなっていく服の感触、1秒ごとに血を流して軽くなっていくアクアの体。

 

「嘘、嘘っ、ねぇ、起きて·········」

 

 嘘だって言って欲しい。冗談だと誰かに笑い飛ばして欲しかった。だけどどれだけ呼びかけても瞼は閉じたままで返事をしてくれることもない。

 

浅くなっていく呼吸と冷たくなっていく体に恐怖と絶望が募っていく。

 

「っ」

 

 これからなのに。

 

ようやく見つけた愛せる存在。ようやく本当の家族になれたのに。

 

やっと手に入れた幸せ。

 

ようやく掴めた温もり。

 

初めて浮かべられた笑顔。

 

それら全てが泡のように消えていく。何もかもが音を立てて壊れていく。

 

「愛し、てる」

 

 これまで言わなかった、言えなかった言葉を今更になって口にする。

 

狂ったように壊れたように連呼する。意味がないと分かっていても、無駄だと知っていてもそうすることしかできない。

 

「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」「愛してる」

 

 ようやく掴んだ愛を奪わないでと。初めて嘘じゃない愛の言葉を口にする。ドバドバと小さな体から不釣り合いなほどに溢れる血液。

 

全てが赤黒く染まっていく。

 

私の手も、顔も、瞳も、心も。

 

全部、ぜんぶ、ゼンブ。

 

抱きかかえるアクアの体が少しずつ冷たくなってくる。命が零れて落ちていく。

 

失いたくない、一緒に居たい、これから3人で生きたい。そう願っても私の腕の中でアクアの命が消えていく。

 

神様がいるならどうかお願いします。

 

死ぬなら私が代わりに死ぬから。

 

だから、だからお願いだから。

 

私から愛を奪わないでください。

 

「愛してる」

 

「だからっ」

 

「死なないで、アクア」

 

 白が黒に塗り潰されていく。世界が暗転していく。何も見えなくなる。足元からドロドロとしたものが這い上がってくる。

 

あぁ、もう駄目なんだ。

 

もう助からないんだ。

 

あぁ、でもせめて最後にもう一度だけ。

 

「───────俺も愛してる」

 

 私の頬を伝う指がその言葉を最後に芯を失ったように落ちた。

 

こちらに近づいてくるサイレンの音を聞きながら私は─────。

 

 

 









アクア死亡ルートのアイ編一話でした。

救急車の中での話は聞いているのかもしれないし、聞き逃すかもしれない

あともう一、二話には書いて死亡ルートの話は一旦区切ります(死亡ルートは原作の今後の展開がわからないと書けないことが多いので)。

それ以降は後遺症ルートの話を書こうと思っています。

········出血が原因の歩けなくなるような後遺症って何があるんだろう。




沢山の評価とコメントありがとうございました。
更新の励みになりますので良ければこれからもよろしくお願いします。
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