もし、刺されたのがアクアだったら   作:八秒で泣くオタク

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ちょっと短いです





6-星野アイ②

 

 

 

 

 

─────虚しい。

 

溢れんばかりの声援と照明、全てが自分を中心に回っていると錯覚しかねないほどの圧倒的熱気。

 

私の一挙手一投足に沸き立つ客席、鳴り止まぬ喝采の海。光を反射して煌めくサイリウムの波。

 

会場そのものが一つの大きな生き物であるかのような一体感。全ての光と音が噛み合い、調和した美麗なハーモニー。

 

どれもこれもが今まで経験してきたどのライブよりも最高の出来だと確信できる。

 

一秒ごとに輝きを増し、一分ごとに洗練されていくパフォーマンス。毎日のように重ねてきた準備。歌もダンスも、演出も、衣装も、曲も、全てに妥協はしていない。

 

けれどこんなにも素晴らしい景色が広がっているのに胸の中にはポッカリと穴が空いているような喪失感がある。

 

満たされない。何かが欠け落ちてしまっている。寒気にも似た震えが背筋に走る。

 

曲も終盤に差し掛かり、盛り上がりは最高潮に達していく。だが、その先にあるはずの感動がない。

 

ファンや他のメンバー達は皆楽しげに笑みを浮かべているのに私だけは何もかもを失ったような顔をしていることだろう。

 

必死で嘘の仮面をかぶり、誤魔化し続けている。憂鬱とした内心とは裏腹に身体は軽々と動いてくれる。

 

この会場の誰もが幸せそうに笑っていて、この世界の全てが祝福されているように感じられすらする。

 

だが、それでも足りない。

 

この幸福な空間に私は一人取り残されている。この場にいる誰よりも輝いている自信はある。

 

だが、それでも虚しさが拭えない。

 

─────アクアが死んでから、殺されてから一ヶ月が経った。

 

あれからいろいろなことが変わった。B小町は一時活動休止となり、公演を行う予定だったドームも当然ながら中止。

 

当然だ、他のメンバーには悪いけれど私も歌える気分では到底なれなかった。

 

犯人はあの後自殺したらしく、共犯者のような人物はいないらしい。

 

葬儀は内々で行い、事件は突発的なものとして処理された。マスコミ関係には一切情報は漏れていないようだが、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。

 

事務所としては私の自宅で起きた殺人事件について何らかの説明を世間に行わなければならなかった。

 

筋書きとしては運悪く遊びに来ていた社長夫妻の子供が運悪くストーカーと鉢合わせてしまい、そのまま殺害されたというもの。

 

真実を話すわけにはいかない以上、それ以外に言いようがなかった。

 

「(嘘、どれもこれも嘘嘘嘘···········嘘ばっか)」

 

 本当はアクアが自分の息子だってことを公表したかった。もう子供のことで嘘はつきたくなかった。

 

死んだ後もなお自分の子供として扱えないなんてそんなのあんまりだ。

 

確かに私に子供がいないという嘘は私がアイドルとして大成するために必要不可欠な嘘だった。

 

でも、アクアが死んだ今になってはそんなことすら些事に過ぎない。

 

批判されたところでそれがなんだというのだろうか、非難されたって構わない。

 

顔も知らない人たちになんと言われようと知ったこっちゃない。他のメンバーにも迷惑かかると思うけど正直どうでもいい。

 

もうこれ以上子供のことで嘘をつきたくなかった。

 

でもそれはミヤコさんに止められた。

 

上っ面の笑顔を浮かべながらどうして止めると言う私を見てミヤコさんは悲痛な表情を浮かべ、こう言った。

 

『今、このタイミングで公表してはまず間違いなく模倣犯が出るわ。···············それに今はルビーの事だけを考えてあげさない』

 

 模倣犯。私が子持ちだと知れば似たような考えを持って殺意を抱く人は必ず現れる。

 

ただでさえマスコミや週刊誌、ネット記事が好き勝手に憶測を垂流しているのだ。

 

その矛先が明確な向き先を見つけたら一体何が起きるのか想像もしたくない。

 

それどころか下手すればアクアの死すらも下衆なエンタメへと堕とされるかもしれない。

 

アクアの事を公表して家族として胸を張りたい、自分の息子だって言いたい。

 

けれどそれによって引き起こされるであろう事態を思うと確かに踏み出せない。

 

何より、仮にそれが原因でルビーまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

実の子供が死んでも大っぴらに悲しむことすらできないアイドルという嘘。キラキラとした輝きが呪いのように纏わりついて離れなくなる。

 

ここで公表してもアクアのためにもルビーのためにもならない。

 

アクアは死後、その名誉を穢されてルビーには危険が迫る。

 

「(嘘、何もかもが嘘ばっかり。私はただ、二人と一緒に···········)」

 

 三人での生活は本当に幸せだった。仕事が忙しくて中々構うことができなかったけれど、あんまり良いおかあさんじゃなかったけど、それでも二人は私に懐いてくれた。

 

あの時、チェーンを掛けておけば、真っ先に私が刺されておけばアクアは死ななかったんじゃないだろうか?

 

私がもう少し賢ければ今も三人で一緒に暮らしていたんじゃないか?

 

今になって後悔ばかりが押し寄せてくる。呪縛のように悔やみが私を縛り付けて離そうとしない。

 

ステージの上で歌いながら、踊りながらも、ふとした瞬間に罪悪感に押し潰されそうになる。

 

歌えば歌うほど、踊れば踊るほどにアクアとの思い出が脳裏を過る。

 

そして、アクアを殺した彼の顔が浮かんできて怒りで頭がおかしくなりそうにすらなる。

 

彼さえいなければ、アクアは生きていたはずなのに。彼さえいなければ、ルビーは今でも幸せなままだったのに。

 

こんなことになるなら真っ先に私を殺してくれれば良かったのに。

 

激情が込み上げてきて、叫び出したくなる衝動に駆られる。醜い感情が身体の奥底から溢れ出してくる。

 

こんなにも辛いのならばいっそ今にでも死んでしまいたいとすら思ってしまう。

 

─────多分、彼の後ろには黒幕がいた。

 

引っ越したばっかりなのに住所を突き止められたのも、子供がいるって事もバレていたのも全部そのせいだ。

 

アクアが死んだ原因になった人は今ものうのうと生きている。

 

きっと、私やルビーが知らないだけで他にも被害者はいるかもしれない。

 

誰だかはわからないけれど許さないし、許せない。

 

復讐したいという気持ちがないと言えば嘘になる。

 

私から、ルビーからアクアを奪った人をこの手で殺したいとすら思える。

 

仮に私の子供がアクアだけだったら確実に復讐の道を選んでいただろう。

 

でも、私にはルビーがいる。

 

アクアを亡くして悲しみに暮れるルビーがいるのに母親の私が復讐なんて黒い道に行くわけにはいかない。

 

私が復讐の過程で死んだり、相手を殺して捕まったりしたらルビーは一人になってしまう。

 

何よりも優先するべきはあの子だ、あの子の幸せだ。

 

私の子供に生まれちゃったばかりに死んでしまったアクア、負わなくて良い悲しみを背負って生きていくしかないルビー。

 

ルビーだけでも私が守らなくてはいけない。

 

だから私は耐える。我慢し続ける。

 

どんなに辛くても、苦しくても、憎くとも、綺麗な嘘をつき続ける。

 

これから習い事をさせたり、行きたい学校に行かせてルビーの人生の選択肢を増やしてあげるためにもどんなにつきたくない嘘でもついてアイドルとしてお金を稼ぐ。

 

もし仮に黒幕が尻尾を出したら容赦をするつもりはないけれど、復讐の為に生きることはしない。

 

あれ以来、ルビーは一度も笑ってない。

 

いつも明るかった笑顔からは光が消え失せ、人形のような無表情しか見せてくれなくなった。

 

アクアの死は私たちにとって大きすぎた。

 

私だってアクアの死を未だに受け入れられず、受け入れたくないあまり現実逃避を続けている。

 

もう二度と取り戻すことのできない時間、大切なものを私たちは失った。

 

アクアのことを忘れさせるなんて無理だし忘れてほしくもない。

 

でも、いつまでもこのままじゃいけない。

 

───ルビーに笑顔を取り戻させる。

 

それが今の私の願いであり、アクアへの手向けだ。その為だったらなんだってしよう、どれだけだって嘘をつこう。

 

それが例え、真に自分の心を偽ることになろうとも構わない。

 

どれだけ醜いものだろうとも、それがルビーの幸せに繋がるのであれば喜んで嘘をつき続けよう。

 

死んでしまったアクアにも届くくらいアイドルとして輝いてみせる。

 

元に戻るなんて無理だ。

 

なかったことにすることなんてできやしない。

 

でも、ルビーの母親として、アクアの母親としてうずくまってばかりではいられない。

 

だから私は今日も嘘を振りまく。

 

ファンサービスをしながら笑顔で歌い、踊り、ステージの上を走り回る。

 

この世界は汚いもので満ちている。綺麗なものなんてほんの一握りだ。

 

黒く淀んだものが世界を覆い尽くしている。

 

でも、だからこそ嘘に塗れた私でも光になれる。

 

穢れを知らない純白でも、影の中で黒く輝く闇でもない。

 

どっちつかずな嘘で塗り固められた偽りの輝き。

 

だけどそれでいい、それで構わない。

 

本当のことだけを歌うアイドルなんてどこにもいない。

 

そんなのは偶像だ、幻想だ。

 

私は嘘つきなアイドルとして歌い、踊り続ける。

 

いつか、二人のことを胸を張って子供と言えるようになるまで。

 

 

 

 

 








元医者が主人公の原作と同じにしちゃうとカミキが詰むくらいにアイが賢くなりすぎちゃうんだよな·····。

このSSで困るのは書きたいifが多すぎるところ、ちょっと考えるだけでも展開が180度変わる分岐点が多すぎる。

あともう少しルビーを書いて死亡ルートは一旦区切ります。





モチベーションにつながるので高評価、コメントよろしくお願いします!!

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