その子供”鷹の目”   作:天翼種@ジブリール

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(はじめに)





 キャラ崩壊やセリフ間違いや設定の違い、



 誤字脱字があると思いますが、



 温かい目で読んで下さると助かります。


 この話には一刀君も登場いたします。


 どうぞよろしくお願いします。



第一章
一矢目


作られた外史───。

それは新しい物語の始まり。

終焉を迎えた物語も望めばその新たな姿が紐解かれる。

物語は無限大───。

故に世界は無限であり、可能性もまた無限。

だからこれは一つの可能性。

数多ある外史の一つ───。

 

さあ、外史の突端を開きましょう。

 

 

世は乱れていた。

漢王朝の衰退はそのまま統治能力の消失───国としての機能を維持する能力すら失わせ、

民の生活は荒廃し、人心が乱れ、世はまさに乱世に向かおうとしていた。

時が英雄豪傑を求め、人が、天が世を治める人物を欲する───

 

後に三国時代と呼ばれる時代の始まりである。

 

 

「ふむ…もう春だというのに肌寒いのう」

 

 

馬上で祭が腕をさする。

時刻は戌の時を過ぎようとする辺り───普段であれば閨で酒の一つも飲んでいる時刻である。

 

 

「気候が狂ってるのかもね。……世の中の動きに呼応して」

 

と、隣に並ぶ雪蓮が嘆くように答えた。

 

「確かに……最近の世の動きは少々狂ってきておりますからな」

 

「圧政に飢饉、盗賊の横行……ほんと、世も末ねぇ」

 

 

馬上の二人は揃ってため息を付く。どちらも絶世、と言って良い美女である故に、見るものがいれば

それだけで絵になったであろう。

 

 

「だけどまあ、大乱は望むところよ。乱になれば私の野望も達成しやすくなるもの」

勝気な目をした雪蓮が笑いながらそんな事を言う。

 

「全くじゃな。いい加減、あの阿呆どもの下で働くのは飽きてきたしの」

 

「そういう事。ま、私たちの力はまだまだ脆弱。何か切欠でもあればいいんだけどね」

 

「切欠か…。策殿、こんな噂を知っておるか?」

 

「どんな噂よ?」

 

 

黒点を切り裂いて一筋の流星。その流星は天の御遣いを乗せ、乱世を鎮める───

 

 

「まあ良くある救世話じゃな。何でも占い師の菅路という者の言じゃそうだが」

 

「そういうの余り良くないんじゃない?縋りたいって気持ちは解らないでもないけどね」

 

 

救世論───世が乱れる時は往々にしてそのようなものがまかり通る。

馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、そうでもしないと庶人は平穏を保てないのだろう…。

その気持ちは解るがと、二人で苦笑い。

 

 

「さて、策殿。偵察も終わった。そろそろ帰ろう」

 

「そうねー。さっさと帰らないと冥琳に───」

そう言って、雪蓮が馬を返そうとした時…

 

 

───不思議な音がした。

 

 

「…何この音?」

 

「っ!!策殿!儂の後ろへ!」

 

 

異変を察知した祭が雪蓮の前へ出る。

 

 

「大丈夫よ。それより祭、気をつけて……」

 

 

雪蓮も腰の剣を引き抜き、構えた。

 

 

「盗賊か、妖か…。何にせよ、来るなら来なさい。殺してあげるから……」

 

 

しかし続けて来たのは予想外の出来事だった。真っ白な光───閃光が雪蓮の目の前で炸裂した。

 

 

「何これ……視界が、白く……っ!」

 

「策殿ぉ!」

 

 

二人の目の前を真っ白な光が覆った。

 

「で、拾ってきたのがこやつという訳か」

 

 

城門の前で二人の帰りを待っていた冥琳は、雪蓮の説明を聞いていた。

 

 

「ええ。本物の天の御遣いなら孫家で保護するのが上策……。妖の者なら私が殺す。どっちにしろお得でしょ?」

 

「簡単に言ってくれるな。…ふむ、名を得るには最適の贄か」

 

 

そう言ってから冥琳は祭が抱えている“それ”を見る。

 

 

自分よりも少しぐらい若目の青年だった。

輝くような純白の羽織に、蒼い下穿きを着ていて、見たところ上等な絹で出来ているらしい。

その顔立ちは今はあどけない寝顔を晒しており、少し長めの髪の毛が汗で額に張り付いている。

 

 

「まあ、平原に一人こんな子がいたという時点で只事ではないわね。……分かった。扱いはどうする?」

 

「本物なら、孫呉に天の血を入れるわ」

 

 

雪蓮はきっぱりと言った。

 

 

「天の御遣いの子孫・・・・・・・その風評を得るために、そいつには種馬になってもらう」

 

「……また突拍子も無い事を考え付いたものね」

 

 

冥琳は呆れながら祭に抱えられている青年を見る。相変わらず、スヤスヤと良く眠っている。

 

 

「……その前に、何処の生まれで何処の者かはっきりさせないとな」

 

「ああ、それなら大丈夫よ。きっとね」

 

 

訝しげに見る冥琳に、雪蓮はにっこりと笑いながら言い放った。

 

 

「たぶん本物よこの子。……私の勘が告げているもの」

 

「また勘、か。あなたの勘の良さは認めるけどね。全面的に賛成は出来ないわよ?」

 

「ま、こ奴を尋問してからでも遅くはなかろう?」

 

 

横で見ていた祭が言った。

 

 

「・・・・・・そうしましょう。黄蓋殿、すまんがこ奴を適当な部屋へ」

 

「おう。一応数人と共に監視は付けておくが…ま、この様子じゃ大丈夫かの」

 

 

そう言って祭は青年の頬を突く。少しむずがったのか、少し顔をしかめながら身を捩る。

 

 

「んぅ・・・・」

 

「ふふっ、邪気の無い顔をしよって。それに良く見れば中々愛い顔立ちをしておるのう」

 

「戯れはそこまでにして置いて頂きたい。あと……雪蓮」

 

「何?」

 

「あなたは明日までそ奴に近づかない事。良いわね?」

 

 

冥琳の言葉に雪蓮は「あちゃ~…」という顔。

 

 

「……先読みしすぎ」

 

「あなたの考えてる事なんてお見通しよ。……約束して頂戴」

 

「はぁ……了解。じゃあ、この子のこと、よろしくね二人とも」

 

 

雪蓮はそう言うと、手をひらひらとさせながら城門の中に入って行った。

その姿が見えなくなると、冥琳と祭が苦笑いを浮かべ、

 

 

「相変わらずなお方じゃな」

 

「夜にでも部屋に忍び込むつもりだったんでしょうね。油断も隙もありません」

 

「爛漫娘のお守りも大変じゃの。……では公謹よ、儂も行くぞ」

 

「お疲れ様でした。雪蓮を入れないように、お願いしますよ?」

 

「平気じゃろこの一角には近寄らせんよう、一応うちのに声掛けておくわい」

 

「”孫呉の鷹の目”がつくなら何も問題無いな」

 

 

そして祭も城の中へと入って行く。

時は乱世の前兆───後の呉を建てる孫一族と、北郷一刀の出会いはこれが最初であった。

 

 

 

「ポッ─────────────────はっ!・・・・かんしかんし・・・」

 

 

 

 

「────ん」

 

 

どこからともなく聞こえてくる鳥の声。

 

 

「ふああぁ~…朝だー…」

 

 

目を覚まして、顔を洗って───それから着替えをして学校に。

今日は授業の中でも比較的好きな時間割だし、いつもより少しだけテンション上がるな。

そんな事を考えながら、北郷一刀青年は、ゆっくりと目を開けた。

 

 

「は?ここ、どこ?」

 

 

目に入ってきたのはいつも見慣れている自分の部屋ではなく───どこか見知らぬ場所。

変な色の壁に、変な色のベッド。

 

 

「俺の部屋じゃ……ない?」

 

 

寝起きの回転しない頭を辿っても、自分の住んでる家にこんな部屋は存在するはずがない。

 

 

「じーさん?」

 

 

祖父を呼んでみるも、返事はなし。何度呼んでも、返事はない。

そして段々と頭が理解する。

見ず知らずの場所に一人にされ───そして誰も来ない。

 

 

「お、おいおい、冗談がすぎるぜ」

 

 

誘拐───そんな不安が頭をよぎり、不安に頭が痛くなっていき、パニックお起こしそうになった時───

 

 

「おっ?目が醒めたか、儒子」

 

「……へっ?」

 

「気分はどうだ?怪我はしとらんか?」

 

 

部屋に入ってきた女性は、一刀の方に近づくと顔を覗き込んだ。

 

 

「え、ええっと…」

 

 

突然見知らぬ女性が目の前に来たので、一刀の頭は混乱しっぱなしだった。

 

 

「あ、あの…誰ですか?」

 

「ん?儂か?儂の名は黄蓋。字は公覆という。以後見知りおけ」

 

「はぁ?えーっと…こ、こ、こ…」

 

「黄蓋じゃ。……お主、儂の言葉をちゃんと理解しとるか?」

 

「えっとこうがいって黄河の黄に天蓋の蓋で黄蓋?」

 

「何じゃ?知っておったのか?」

 

「い、いや初対面だけど・・・・・デモコウガイッテ・・・オンナノヒトダシ・・・」

 

「何をブツブツ言っておるんじゃ」

 

「な、何でも無いですっっ」

 

「うむ、そうか。それで、どこかおかしなところはないか?」

 

 

そう言われて一刀は改めて自分の置かれた状況を思い出す。見ず知らずの部屋、知らない女性。

 

 

「ここ、何処だよ…?」

 

 

また不安で頭が痛くなりだし、頭を抱えた。

 

 

「何じゃ?頭痛か?ここは荊州南陽。我が主、孫策殿の館よ」

 

「けいしゅ~?なんよ~?」

 

 

どちらも自分の住んでいた近くでは聞いた事のない土地である。少なくとも一刀の憶えはない。

しかし、歴史好きの一刀には少し気になる地名だと感じた。

 

 

「荊州じゃ。……お主、まさか荊州を知らんとでも言うんじゃなかろうな?」

 

「まさかな…。はぁ…もしかしてホントに…」

 

「ああもう、だからブツブツ言うでないわ!……だから子どもの相手は苦手なんじゃ…」

 

 

そう言われても、一刀にも止められるものではない。

そうやってしばらく黄蓋の横で考え事をしていると、

 

 

「おっ、起きてる起きてる。おはよう少年、気分はどう?」

 

 

扉が開くと同時に気さくな声が部屋に響く。

その声の主は、綺麗な髪を靡かせ、笑顔を浮かべていた。

そして、その笑顔のまま一刀の目の前に座る。

 

 

「あなたは・・・・誰ですか?」

 

「さあ、誰でしょう?それより、何か変わった事はないかな?」

 

「んー…いや特に無いけど」

 

 

不思議とその笑顔を見てると不安が収まってくる。

 

 

───なんだか、あったかい人だな。

一刀は少しだけ目の前の女性に安心感を覚えた。

 

 

「そう。じゃあお名前を教えて貰えるかしら?私は孫策。字は拍符。この館の主よ」

 

「そ、孫策・・伯符・・・モウオドロカンゾ・・・・俺の名前は、北郷一刀だ」

 

「姓が北、名が郷。字が一刀?」

 

「へ?あ、あざな?」

 

 

一刀の一言に、黄蓋と孫策は困惑しつつ目を合わせる。

 

 

「……この子、字を知らないの?」

 

「もしくは無い、とか?いや、しかしそんなはずは…」

 

 

二人で腕を組んでと考え込む。

 

 

「ま、まあ良いわ。それじゃあ…」

 

 

その後、出身地や身分、何故あそこにいたのかを聞かれたが

 

 

「俺は自分家の部屋で寝てて…そしたら目が覚めたらここにいてて」

 

 

一刀にはそう答えるしかなかった。

 

 

「ふむ…にほんという国がどこにあるのか、とうきょうとかいう町がどこにあるのかは気になるが」

 

「ま、少なくとも嘘は付いてないわね。目を見れば分かるわ」

 

 

そして孫策は腕を組み───

 

 

「まあ良いわ。とりあえず危険は無いみたいだし、こんな面白そうな子を切るのは私も嫌だし───

あとは夜に公謹が帰って来てからにしましょうか」

 

「そうじゃな。儒子、それでもいいか?」

 

「あぁ、はい…」

 

「決まりね。それじゃ、一刀?良い子にしてるのよ?」

 

 

そう言って、孫策は席を立つ。

 

 

「それでは北郷。この部屋から出てはいかんぞ?厠に行きたい時はこの鈴を鳴らせ。飯も同様じゃ」

 

「わかりました」

 

「夜の訊問でお主をどうするか決める。……まあ、それほど構えんでもいきなり放り出したりはせん」

 

 

そして黄蓋も笑いながら部屋を出る。

 

 

「それでは……大人しくしておるのじゃぞ?」

 

 

再び扉が閉まり、部屋には一刀一人だけになる。

また訪れた静寂に、再び一刀の胸に不安が首を擡げてくる。

 

 

「……俺、どうなっちゃうんだろう?」

 

 

ぽつりと呟いた言葉に、答えてくれる者は誰もいなかった───。

 

そして時刻は過ぎ、その日の戌の刻───。

 

 

「おい……おい、北郷。起きろ」

 

「んぅ…だれだ?」

 

「だれだ?ではない。お前に話を聞くためにだな…」

 

「話…?ふあ…」

 

 

そうだった。昼間黄蓋とやくそくしたんだっけ…

そこまで思い出して、一刀はようやく目を醒ました。

 

 

「おはようございます……」

 

 

とりあえずぺこりとお辞儀してごあいさつ。

 

 

「何がおはようか。……まあ、疲れていたであろうから、仕方もないことか」

 

「おぅ、ごめんなさい」

 

「はっはっはっ。なぁに、誰も怒りはせん。しかし中々肝が据わっておるの」

 

 

黄蓋はそう言って一刀の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

 

「あら、ずいぶんと仲が良いのね」

 

と、いつの間にか横に居た孫策が近づいてくる。

 

「あんまり気持ちよく眠ってたから、声を掛けるのずいぶんと悩んじゃったわよ?」

 

 

孫策はクスッと笑いながら、一刀の横に座る。

 

 

「さて、それじゃ始めましょうか。良いかな?」

 

「は、はい…」

 

 

一刀はちょっと緊張しながら、答えた。

 

 

「ふっ、なかなか良い度胸をしているな」

 

 

その声を聞いて、一刀は部屋にもう一人女性が居る事に気が付く。

含み笑いとともに、その長身の女性が一刀の前に出る。

 

 

「私の名は周喩。お前の訊問官…まあ、話を聞きに来た一人だ」

 

「ほ、北郷一刀です…」

 

 

思わず、横に座る孫策に目を移し助けを求める。

 

 

「こら冥琳、いきなり怖がらせちゃ駄目でしょ?」

 

「やれやれ…嫌われたものだな」

 

 

一刀としては別に嫌っていた訳ではなく、あまりの雰囲気に呑まれてしまっただけなのだが

周喩は苦笑いをしながら一歩引いて一刀の前に改めて座った。

 

 

「さて、ではまず生地を聞かせて貰おうか」

 

 

……その後、一刀は周喩に朝の質問と同じ答えをした。

自分は目が醒めたらここに居たこと。

日本の東京、浅草というところで生まれたこと。

それ以外はどうやってここに来たのか、どうしてこんなところに居たのかも分からないということ。

 

 

「ふーむ…まあ嘘はついていない様だが」

 

「そうね、嘘だったら昼間私が斬ってるわよー?」

 

 

孫策は笑いながら一刀に目をやる、

 

 

「私の勘がね?この子は悪い子じゃないって言ってるから大丈夫♪」

 

「へっ…?」

 

 

一刀は孫策の笑った顔を見て身体の力を抜いた。緊張がほぐれて行く。

───まるで、母さんみたいなあったかい笑顔。

一刀は隣にある孫策の顔を見つめてみる。

 

 

「ん?どうしたの?」

 

「な、なんでもない、です・・・」

 

 

そこにあるのはとても綺麗な顔で…一刀は自分の顔が赤くなるのを感じた。

 

 

「だが天の御遣いという証明がない。ただの迷子かも知れん」

 

「んー…まあそうねぇ。一刀、何か証明出来るものってない?」

 

「はえ?」

 

 

そもそも天の御遣いがどういうものかも分からないのに、それを証明しろと言われても

一刀にはどうすればいいのか分かるはずもない。

しかし、自分が何かを求められているのは分かる。

一刀は悩んだあと、

 

 

「んーっと、えーっと…あ!そうだ!」

 

 

自分の何故か着ていたの制服のポケットを探る。多分制服ならいつも持ち歩いてるはずのアレが入ってるはずだ。

これを見せてどうなるとも思えないけど、とにかく今は何かをしなくてはいけない。

しばらくして、取り出したそれを皆に見せる。

 

 

「これじゃ…ダメ、か?」

 

「これは…箱か?」

 

 

周喩は一刀からそれを受け取ると、しげしげと回して見る。

一刀が取り出したのは、薄い水色の箱───現代日本に住むものであれば、誰もが知っている携帯ゲーム機だった。

 

 

「これはどう使うものなんだ?」

 

「これをこうやって…」

 

 

一刀は周喩の手元の覗き込む。電源を入れ、画面を開き───軽快な起動音が鳴った。

 

 

「むっ!?」

 

「わっ!お、落としちゃダメだよ!」

 

 

音に驚いてゲーム機を落とそうとした周喩を慌てて止める。

 

 

「こ、これは面妖な…。箱の中で人が動いておる…」

 

 

横から覗き込んだ黄蓋が恐怖とも感嘆とも取れる声を上げた。

 

 

「他にも音楽が聴けたり、カメラがついてたり…いろいろ出来るんだよ?」

 

「かめら?かめらってなに?」

 

「えっと…」

 

 

そうして一刀によるゲーム機の解説は一時間近くに及んだ。

 

 

「なるほど…確かにすごいわね。これは妖の術?」

 

「ちがうよ。これはゲーム、ただの娯楽のひとつだよ」

 

「ただのって…お前の住んでいるところではこんなものが当たり前に存在するのか?」

 

 

周喩は一刀の言葉に驚愕する。

 

 

「うん。ほとんどみんな持ってる筈だよ?」

 

「ふ、ふむ…」

 

 

科学というものを知らない周喩でも、これが自分の知らない何かをもって作られている事ぐらいは解る。

そして、それを持っているこの青年は……

 

 

「天の御遣い、か…。本当かどうかは知らんが、我らの知らない国から来た事は確かな様だな」

 

「理屈っぽいわねぇ」

 

「性分でな。まあ雪蓮と祭殿の見立てどおり、性根も悪くない様だし…天の御遣いとして祭り上げる資格はあるだろう」

 

「じゃあ決まりかな?」

 

「そうね。雪蓮の好きにすればいいわ」

 

「あ、あの…俺、どうなるんですか?」

 

 

話の展開に着いていけず一刀は、孫策の顔を見る。

 

 

「んー?ま、しばらくは私たちがあなたを保護してあげるって事」

 

「で、でも…いいのか?」

 

「何も出来ない儒子が何を遠慮するか。それに儂はお前の事が気に入った」

 

 

黄蓋は笑いながらまた一刀の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

 

「うぉ・・・」

 

「あはは。良かったわね、一刀」

 

 

そして一刀に笑顔を向ける孫策。一刀は隣でまた顔が赤くなるのを感じた。

 

 

「その代わり、私たちに一刀の知ってる事を教えて欲しいの」

 

「知ってること?」

 

「そ。一刀の居た国はどんなところで、どんなものがあったのかっていうのを私たちに教えて欲しいの」

 

「うん。わかった」

 

 

一刀は即答する。

別に何も隠すものでもないし、何より自分の知ってる事でこの綺麗な人の役に立てるならと思っていた。

 

 

「良い子ねー♪あともう一つ、私に仕えてる将……まあみんな可愛い女の子なんだけどね?

その子たちと出来るだけ仲良くすること」

 

「仲良く?」

 

「そうよ、一刀の事がみんな好きになっちゃうぐらい仲良くするの」

 

「はぁ!?」

 

「うふふふ…頑張りなさい♪」

 

 

そう言う孫策は満面の笑みを向ける。一刀はそうされると何も言えなくなる。

 

 

「//////…」

 

「それじゃ決まりね。じゃ改めて自己紹介、私は姓は孫、名は策、字は伯。そして真名は雪蓮よ」

 

「まな?」

 

 

聞きなれない言葉に一刀は首を傾げる。

 

 

「自分の誇り、生き様…そういうものがいっぱい詰まったとっても大切で神聖な名前よ」

 

「そう。自分が認めた相手、心を許した相手にしか言ってはいけない大切な名前じゃ」

 

「そ、そんな大事なの…いいのか?」

 

 

困惑する一刀に雪蓮は頭を撫でながら笑いかけた。

 

 

「いいの。一刀は私たちにいろんな事を教えてくれたでしょ?これはそのお礼」

 

「うん…ありがとう。えと、しぇ、しぇれん?」

 

黄蓋も一刀の前に立ち、顔を近づける。

 

 

「儂は黄蓋。字は公覆。真名は祭じゃ」

 

「さ、祭さんですね」

 

 

そして最後に周喩が一刀の前に立って名乗った。

 

 

「姓は周、名は喩。字は公謹・・・真名は冥琳だ。一刀、お前には期待しているぞ」

 

「は、はい!」

 

「それと・・・・・祭殿、一刀の世話役に彼女を付けようと思うのですが・・・」

 

「ん?世話役ぅ~?あ奴にそんな器用なことが出来るかの~・・・・まぁやらせてみるか・・・・・・お~い蒼空(そら)~」

 

「・・・・・・・・・・・・・・呼んだ?」

 

「へ?うわぁ~!?」

 

 

呼びかけて少し経つと部屋の窓の外に逆さまになっている少女が突如現れた。

 

 

蒼空(そら)には今日からこの儒子の世話役を任せる」

 

「せわやく?・・・・・・せわ・・・焼く」

 

「あぁ~、まあ一緒に居って頼まれたことを手伝う仕事じゃ」

 

「・・・・・かんし」

 

「一緒に居れば監視し易かろうて」

 

「わかった」

 

「ほれこやつなら問題ない」

 

「・・・・・黄月詠(こうげつえい)・・・・・・蒼空(そら)

 

「へっ?」

 

「名前、黄月詠・・・・・真名が蒼空(そら)

 

「あぁ、俺は北郷一刀。よろしく蒼空(そら)

 

「それじゃあ自己紹介も終わったところで…今日はもう寝ましょうか」

 

 

時刻はいつの間にか亥に入りかけている。もうかなり遅い時刻だ。

 

 

「それじゃ一刀、いろんな事は明日にするとして。まあ、とりあえず今日はおやす、み…?」

 

「……すぅ」

 

蒼空(そら)?おーい?」

 

 

雪蓮が声を掛けるも、蒼空(そら)は一向に起きる気配がない。

 

 

「…良く寝ておるの。まったく監視と言っておきながらすぐコレじゃ」

 

「あ、あのさ、どうしたらいいかな?この子俺の服の裾すごくつかんでるんだけど…」

 

「世話役なのだろう?一緒に寝てやればどうだ?」

 

「俺が世話するのか!?」

 

「ほら、そんなに大きな声を出すと蒼空(そら)が起きてしまうぞ?」

 

 

冥琳がそういうと、一刀は慌ててすぐそばを見る。

蒼空(そら)は静かに寝息を立て、一刀のすぐそばで眠っていた。

 

 

「ほっ…」

 

「かかか、一刻も経っておらんのに随分と心を開いたのう」

 

「まぁそれだけ無害って事よ…」

 

「まあ、これからのためにも仲良くするのは良い事だ。さて、私たちも帰るとするか」

 

「一刀、しっかり添い寝してやるんじゃぞ?まぁそ奴は儂の大切な娘故おかしなことはする出ないぞ・・・・・・」

 

「だから何で放っていくのよ!ちょっと!このまま置いてく気!?」

 

「んぅ…」

 

「あー…もう、誰か何とかしてくれ~」

 

 

こうして───北郷一刀の慌しい出会いの一日が終わった。

世は三国時代の始まり……黄布党の乱が各地で多発し、本格的な乱世が訪れようとしていた頃である。

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