毒殺された脳筋マーシャルのやり直し~義兄と義妹が幸せになるため、タイムリープして生き残る道を探す~   作:わんた

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第1話 面倒な女と結婚したが、ようやく報われるときがきた

 父が戦友の忘れ形見として引き取った義妹――ナターシャと家族になってから十五年経過し、魔道士として成長した彼女に婚約の申し込みがあった。相手はストーク・ドルク男爵だ。

 

 我がブラデク家は辺境伯として長い歴史があるので、本来であれば男爵だと家格があわず婚約なんてできるはずなかったのだが……。

 

「イケメンなので結婚してもいいです」

 

 貴族として一緒に教育されてきたとは思えないほど、自由な発想と価値観で婚約を受けると言ってしまった。ナターシャに甘い父は反対せず、婚約は成立してしまう。

 

 俺は可愛いナターシャのお願いに反対できず賛同してしまったのだが、それが最悪の結果を呼び寄せたのだ。

 

「毒を盛った……のか……ッ」

 

 ナターシャからお茶会に招待する手紙をもらい、ストークの屋敷にまで来たのはよかったのだが、まさか紅茶に毒を盛られているとは思わなかったぞ。

 

 呼吸ができない。苦しい。

 新鮮な空気を求め、無意識のうちに喉を触ってかきむしっている。

 

「ごめんなさい。お兄様。本当は私だって、こんなことはしたくなかったんです」

 

 本当に悲しんでいそうな声を出しながら、ナターシャはストークと腕を組む。

 

「でも、婚約を認めちゃったお兄様が悪いんです。私だけを見てくれないから……」

「……お…………ま……」

 

 もう声は、出せない。

 爪が剥がれて血は流れているが、痛みは感じない。息苦しさに、全ての感覚が上書きされてしまっているのだ。

 

 ナターシャに対する恨みや憎しみなんて感情はなく、ただ何故こうなってしまったのか、という疑問だけが湧き上がる。お兄様と後ろをついてきた可愛い義妹だったのに。俺のことを殺したいと思ってしまうほど、どす黒い感情を持っていたのだろうか。

 

「ブラデンク家は私が引き継ぐから安心してね」

 

 母は俺が子供の頃、この世を去ってしまった。病に伏せっている父は、しばらくすれば死ぬ。直系はナターシャしか残らなくなるのでブラデンク家を引き継ぐことになる。夫であるストークも領地運営に口を出してくることだろう。

 

 代々、魔の森に住む魔物や人の形をしている人類の敵、魔族の脅威からブラデンク領とロアゴーラ王国を守ってきたが、ナターシャとストークにできるだろうか。

 

 答えは明白だ。

 

 不可能である。

 

 体内の魔力を使ったオーラが使えなければ、兵を率いて大量の魔物とは戦えない。頻繁に襲ってくる魔物に負けて、ブラデンク領にある都市は滅んでしまうことだろう。そんな未来が見える。

 

 殺され、家が乗っ取られても俺が愚かだったと諦められる。しかし、俺たちを慕ってくれた臣下や領民たちは別だ。不憫で仕方がない。力と知恵が足りなかったばかりに不幸な運命をたどらせてしまう。許してくれとは言わないが、あの世で会ったら謝らせてくれ。

 

 

 ストークがナターシャから離れて、倒れている俺の前に移動するとしゃがんだ。ヤツの汚い口が耳に近づいた。

 

「面倒な女と結婚したが、ようやく報われるときがきた。お前たちが隠し持っている金の鉱山を全てもらうからな」

 

 せめてナターシャのことを愛していればと思っていたが、その願いすら叶わなかったようである。

 

 愛があるなら身分など関係ないと言っていた父の気持ちを踏みにじみやがって。

 

 こいつだけは絶対に許さない。

 

 最後に残った力を全て振り絞り、唾を吐き付けてやった。

 

「お前ッ!!」

 

 ストークに頭を踏まれてしまう。頭蓋骨が割れて目や口から血が流れ落ちる。

 

 俺は妹が仕掛けた毒ではなく、薄汚い男の手によって殺された。

 

 その事実だけが唯一の救いであった。

 

* * *

 

 目が覚めたら見慣れた天蓋が視界に入った。

 

 亡くなった母が強い子になれと願いを込めて、画家に描かせた騎士の絵画がある。魔物の首を掲げているから小さい頃は怖くて泣いていたな。

 

「死んだはずでは?」

 

 体を起こして周囲を見ると俺の部屋だった。壁には成人したときにもらった真っ黒な片手剣が飾られている。金属よりも固く柔軟性があり、体内の魔力で作るオーラとの親和性が高い。このオーラを刀身にまとわせると通常よりも切れ味が高まる逸品だ。

 

 俺は父の代わりに騎士団長として魔の森で魔物を討伐しているのだが、その時に何度もこの剣に助けてもらった記憶がある。

 

 そんな重要な物が、ナターシャの婚約が決まってストークが我が家へ訪れた日に消えてしまっていた。

 

 侵入された形跡があったので外部の犯行だと思っていたのだが、もしかしたらストークが盗んだのかもしれないな。

 

 ベッドから降りて全身鏡の前に立つ。

 

「若返っている……?」

 

 父が病で倒れたときから髪を短くしていたのだが、鏡に映る俺は肩に掛かるほどの長髪だ。

 

 十八歳前後でしていた髪型である。

 

 あり得ないことだが、時間がまき戻ったのか?

 

「マーシャル様。入ってもよろしいでしょうか」

 

 ドアの外から懐かしい女性の声が聞こえた。

 

「許可する」

 

 返事する声は少し震えていたかもしれない。

 

 ゆっくりとドアが開き、俺専属メイドのユリアが入ってきた。輝くようなブロンドヘアと透き通った青い瞳、陶器のようなつるりとした肌が彼女の魅力を引き立てている。背はやや低く守ってあげたいと思わせるタイプの女性だ。

 

 俺が毒殺される半年前、町で歩いていたとき強盗にあって死んでいたはず。

 葬儀にも出たので間違いはない。

 

「朝食の用意が出来ました」

「父様はいるのか?」

「もちろんでございます。今日はナターシャ様の婚約について話をするため、必ず出るように言われておりました」

 

 記憶が正しければ、朝食の場でストークの話をした後、正式に書状を送って婚約が成立したな。

 

 あの場で婚約を反対していたら未来は大きく変わっていただろう。

 

 もし本当に過去へ戻ってきたのであれば急いで食堂に行かなければならない。今の状況を考えるのは後回しにしよう。

 

「そうだったな。すぐに行くぞ」

「かしこまりました」

 

 ユリアはクローゼットから服を取り出すと着替えを手伝ってくれる。何度も繰り返してきたので慣れた手つきだ。女性とは違って髪のセットに時間はかからないので、身支度はすぐに終わる。

 

 疑問と不安を感じながら、家族が待っているであろう食堂へ向かっていった。

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