毒殺された脳筋マーシャルのやり直し~義兄と義妹が幸せになるため、タイムリープして生き残る道を探す~   作:わんた

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第5話 何かあった場合だけ報告しろ

「特別報酬はないが、任務はあるぞ」

 

 仕事の話だと察した二人は小さく舌をだして嫌そうな顔をした。

 

 他人から見ると騎士団長である俺を下に見ているように感じるかもしれんが、親愛がこもっているから許している。こいつら、興味ない相手は無視するからな。

 

「これはお前達にしか任せられない仕事だ。拒否権はない」

 

 重めの前置きをするとクライディアとエミーの顔が一変した。真剣な面持ちになって静かになる。

 

 気持ちを切り替える速さも優秀な騎士になる条件の一つだ。

 

「本日より魔物討伐の任を解く」

 

 周囲にいる騎士たちがざわめいた。

 

 俺たちの存在意義は魔物と戦うことなのに、その仕事をしなくても良いと宣言したからである。これで新しい任務の重要性が伝わったことだろう。

 

「代わりにナターシャの護衛を任せる。外敵に指一本触れさせるな。不審人物を見かけたら捕らえて俺の前に連れてこい」

「お嬢様の護衛が魔物や魔族退治より優先度高いんっすか?」

「無駄な質問をするな。この仕事が失敗したらブラデンク領は終わると思って動け」

 

 俺が死んだ後、領地は間違いなく終わっていただろうから嘘ではない。

 

 なぜそこまで断言できるかといえば、ブラデンク領は常に滅亡の危機に瀕しているからだ。

 

 最前線の砦には毎日のように魔物が襲いかかっているし、一部はこの街にまでやってくる。魔族が出現したら災害が発生したレベルの被害が出るほどだ。

 

 魔物のせいで街の外に畑なんか作れないから領内の自給率は低い。肉は魔物から手に入るが、それ以外は他領から頼っている。報告していない金の鉱山があるおかげで資金はあるから食糧難にはなっていないが、魔物が減らない限り状況は良くならないだろう。

 

 俺から見えれば奇跡的なバランスで、ブラデンク領は維持できている。

 

 何の準備もなく、重要人物が一人でも欠けたら滅亡へまっしぐらだ。

 

「わかったっす!」

「拝命いたしました」

 

 独自の鈍りがあるクラウディア続き、エイミーも胸に手を当てて敬礼した。

 

 疑問は残っているだろうが、仕事はきっちりとこなしてくれることだろう。

 

「毎日の報告は必須でしょうか?」

「何かあった場合だけ報告しろ」

 

 二人は安堵したような顔になった。騎士団のメンバーは肉体労働以外は苦手なので、報告作業が面倒とでも思っていたのだろう。

 

 ストークの手下が近づいてきたところで、ちゃんと俺に教えてくれるだろうか。できれば捕獲的に動き出す前に気づいて欲しいのだが。もう一人ぐらいマメなヤツを入れるべきか? いや。そもそも騎士団にマメなヤツはいない。無い物ねだりだな。

 

「お兄様っ!!」

 

 考え事が終わったタイミングで声をかけられた。

 

 日傘を差しながら手を振っているナターシャが、こちらに歩いてきている。後ろには専属メイドのメアリーがいた。

 

 過去に戻る前にナターシャが訓練場にきたことは、ほとんどなかったのになぜここにいるのだ?

 

「珍しいっすね」

「そうだな」

 

 クライディアに同意しつつ待っていると、俺の前にナターシャがついた。

 

 手には籠があって中にリンゴなどの果実が入っている。

 

「もしかして配りに来たのか?」

「はい! みんなお腹減ってるかなーって!」

 

 明るく元気が出るような笑顔を振りまき、ナターシャは騎士たちに果物を配り始めるが、騎士たちはすぐに食べることなく俺の顔を見ている。

 

 許可が出るまで待っているのだ。

 

「お兄様もどうですか?」

 

 最後に残った果実を俺に差し出した。

 今までになかった行動が気になりつつも手に取る。

 

「ありがとう」

 

 口に入れるとほんのりとした甘みが広がった。噛めばしゃくしゃくと音が鳴って心地よい。飲み込めば水分が不足している体がいっきに吸収した。

 

 焼き菓子ではなく果実を持ってきたことから、繊細な気づかいを感じる。愛しい義妹の好意をむげにするわけにはいかない。

 

「お前達も食べて良いぞ」

「やったっす!!」

 

 食べるのが大好きなクラウディアが勢いよくリンゴを食べ始めた。幸せそうに食べるので見ている方も嬉しくなる。

 

 騎士たちの様子を見守っているナターシャに声をかけた。

 

「どうして果実を配ろうとしたんだ?」

「皆さんのおかげで今日も平和に過ごせてますから」

 

 真っ当な答えだ。昔から優しい性格だったので怪しい点はないが、やはりこの場にまで来るほどではないと感じる。

 

「それだけの理由だったら、果物はメイドに持ってこさせれば良かったんじゃないのか?」

「お兄様は何も分かっていませんね」

 

 ナターシャが俺の方を見た。澄んだ瞳が美しい。さらさらと流れるように動く髪なんて触りたくなるほどだ。

 

「会いたかったんです。お兄様に!」

 

 子供の頃はよく聞いていた言葉だ。俺の後をずっとついて回り、訓練を眺めていた日々を思い出す。

 

 懐かしさを感じてしまい思わず頭を撫でてしまう。髪が乱れると怒られてしまうかもと思ったが、ナターシャは優しく微笑んでいるだけだ。

 

 言動に違和感を覚えることもあるが家族なのは変わらない。

 

 やはりストークごときには任せられないと、改めて思う。他の男でも同様だ。少なくとも俺よりも優秀でなければ認められない。

 

「ちょうどナターシャの専属護衛を決めたところだったんだ。騎士を紹介させてもらえないか」

「私に? 人員不足だと聞いていたのですが、よろしいのですか?」

「大切な義妹のためだ。騎士の一人や二人、問題ない」

 

 ナターシャさえ守れば俺の死、そして領地の滅亡は防げるのだ。ベテラン騎士二人を生け贄に捧げてもお釣りが来るほどの価値がある。

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