ロックスと言う男の作る巨大な闇が世界全てを飲み込んでいた暗黒時代。人間の欲望は解放され、世界各地で殺しや強盗、強姦が多発していた。
子供を殺された者
妻や娘を犯された者
奴隷として売り飛ばされた者
故郷を焼かれた者
親を失った者
正義は踏みにじられ、強き者が弱き者から奪うことが当たり前となった世界。
虐げられた者達の助けを願う叫びは誰に届くこともなく、ヒーローの存在しない世界で、希望を見失った人々は俯いて生きていくしかない。
そんな絶望の時代に生まれたのが、サカズキやボルサリーノら世代の子供達だった。
彼等は物心つく頃から虐げられる者達だった。家族を奪われ、故郷を焼かれ、家財も家も失って、心に残ったのは海賊の笑い声だけだ。
それは後に苛烈な正義で部下からすら怖れられる男に「海賊と言う悪を許してはならない」と言う思考を植え付けるには充分すぎる悲劇だった。
彼はこの絶望の世に終止符を打つことを夢見て、海兵に志願する。徹底的で苛烈な正義こそがこの世を平和に導く唯一の手段なのだと信じて。
───と、なるはずなったのだが、この世界では何を間違ったのか、サカズキは全く違う人生を歩むことになる。切っ掛けはサカズキの故郷が海賊により燃やされた時。本来ならサカズキしか生存者がいないはずの事件で、もう一人の生存者が生まれてしまったからだ。それはサカズキより一歳年下のまだ五歳の子供だった。
海円歴1471年 夏
海賊の襲撃から三日後。森に逃げていたサカズキが村に戻ると、そこは焼け野原になっていた。家族も村人も貴族も平民も、等しく殺され、只の一人として生存者はいない。家財は奪われ、家や屋敷は焼かれ、街の象徴である木像は遊び半分にボロボロにされていた。
焼け払われて灰と基盤だけになった家の間を歩く。道行く先々で村人の死体が転がっていた。どれ一つとしてマトモな死に様のものはなく、只楽しむために奪われ汚された人間の成れの果てが転がっていた。サカズキは何度も吐いて、何度も泣いた。もう一歩も動きたくなかったし、何も見たくなかった。それでも、生存者がいるかもしれないと言う希望だけは捨てることができず町中をくまなく探し、裏切られ続けた。結局、生存者など誰一人もいなかったのだ。
サカズキは墓を作った。墓の下には死体も何もない自己満足のハリボテだ。全ての死体を集めるには子供の力では到底足りなかったからだ。
「ごめん、皆。まともな墓を作ることもできなかった」
サカズキはハリボテの墓の前で謝罪と別れの言葉を語り掛ける。
「それに、もう行かないと。出航の時間が迫ってる。国が滅んだと知らずに来た船があってさ、何とか下働きとして潜り込めたんだ──さよなら。仇は取るから天国で見ててよ」
サカズキは拳を血が出るほど握りしめながら、まるで自分の憎悪と悲しみを覚悟に変えるように目標を語る。しかし、それは目標と言うには余りにも暗く、どろついた感情の表出でしかなかった。
その後無事に船に乗ったサカズキは、そこでもう一人の国の生き残りと出会う。それは自分より一歳年下の少年だった。
サカズキは復讐を誓った復讐者だ。しかし、流石に唯一の同胞、それも年下の同胞に「俺は復讐があるからお前は自力で生きろ!」、と見捨てることはできず、少年が一人立ち出来る年齢になるまで面倒を見る事に決める。元々15には海軍に入る予定だったが、その計画も数年間後修正した。
(たった数年だ。それが終われば復讐に戻る。俺は海賊を絶対に許さない!)
しかし、この数年間がサカズキの人生を大きく変えることになるとは、この時神ならざるサカズキには知る由もなかった。
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サカズキの故郷のもう一人の生き残りはハクレンと言う少年だ。雪のような真っ白い短髪と赤く大きな瞳、線の細い白い躯が特徴で、それは少年の天性の美貌と合いまり少女と見紛う程だった。また、美貌だけではなく、高く耳障りの良い声は他者を従えるような格があり、船の男達は早くもハクレンの取り巻きと化している。それに、何よりサカズキが気になったのは特徴的な白髪だ。サカズキの故郷で王家の者に現れる純白の髪。もちろん、市井でも白髪がいないわけではないが、あそこまで汚れの無い白髪は見たことがない。
「なあ、お前、もしかして王家の人間か?」
だから、サカズキはある日、トイレ掃除の途中、かなり覚悟を決めて問うたのだが、ハクレンはあっさりと肯定する。
「そうだよ。でも、僕の母親は情婦だったからずっと市井で暮らしてきたんだ。王宮にも年に数回しか行ったことがないし、王位継承権も無いも同然さ。ま、そのお陰で生き残れたわけだし、恨みもないけどね」
今物凄いスキャンダルを聞いてしまったんだが。
え?情婦の息子?てことは、不倫?あの愛妻家の王様が?嘘だろ。
あんなに綺麗な奥さんがいたのに不倫して子供まで作ってたのかよ。
サカズキは正義感の強い王様の事を尊敬していたが故に、少し幻滅した。
「あ、一応王様の名誉の為に言っとくけど僕の父親は王様じゃないよ。王様の父君、つまり先王陛下なんだ。だから、ちょっと複雑な家庭事情ってやつさ」
「ちょっとどころじゃねえよ!」
予想以上にドロドロとした家庭環境を聞かされサカズキは一杯々々である。てか、トイレ掃除しながら聞く話じゃねえ!聞いたの俺だけど!
「お前そういう話簡単に言わねえ方がいいんじゃねえのか?」
「サカズキだから教えたんだよ。僕はサカズキを信じてるからね」
「なっ!」
物凄く純粋な笑顔で笑うハクレンにサカズキは顔を赤らめる。そして、雑巾を床に高速で擦りながらぶつぶつと照れ隠しをするのだった。
海円歴1474年 サカズキ9歳
それから数年ほど船の下働きとして過ごしながら体を鍛えていたサカズキとハクレンは一年前海賊に支配されている島を鍛え上げた武力で救う。島民達の要請もあり、二人はその島で暮らすことになり、半年後、ハクレンが自警団を設立するのだった。
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「海賊だー!海賊だー!」
グランドライン、とある島。農業で栄えるその島にも等しく海賊はやって来る。
見張り台で警戒に当たっていた男は、接近する海賊船を望遠鏡で捉え、警戒の声を上げる。
カンカンカンカン!と鐘の音が鳴り、兵舎から男達がわらわらと出てくる。正規軍ではないのか、皆統一性の無い格好をしており、中には女もいた。
「か、数が多いぞ!」
「ガリオン船が三隻もいやがる!」
「しかも、ありゃ、茶髭海賊団だ!」
「な、なにーーー!茶髭えええー!狙った町は骨すら残らないって言うあの茶髭だと!」
「とうとうこの島に来やがったのか!」
「くそっ!もう終わりだ!」
「う、狼狽えるな!我等島を守る自警団!身命をとして海賊どもを止めるのじゃ!」
悲嘆にくれる男達に檄を飛ばす初老の男。
その前にトンっと二メートル近い巨漢の男が現れる。
「わしに任せい!おどれらは撃ち漏らした敵を片付けい!」
「おお!サカズキさんだ!」
「来てくれたのか!」
「よっしゃー!これで勝ったぞ!」
歓声と期待を背負った男は、右腕をドロドロとした高熱の液体に変化させ、斜め前方へと振り上げる。
「三連大噴火!!」
三回振り抜かれた右腕からそれぞれ巨大な拳様のマグマが発射される。それは狙い違わず海賊船に激突し、一瞬にして船を大破させた。
「「「うぎゃあああ!!」」」
「「「アチイイ!!」」」
「「「ぐおえあ!!」」」
海賊達の悲鳴が響く。熱せられた海面からは濛々と水蒸気が上がり、炎上する船の煙と合わさり、異常気象を起こしている。
その様子を砂浜から見届けたサカズキは肩に掛けたマントを靡かせ、腕を大仰に組ながら「よし!」 と頷いた。
「いや、よし!じゃねーよ!賞金首燃やしちまったら金にならねーんだよ!何度言わせりゃ分かんだよ、このタコ!」
「タ、タコだと!遅れて来おった分際でえ!」
「うるせえ!お前が早まらなけりゃ充分間に合う時間だったんだよ!くそ!生きてんだろうな!茶髭!あいつは一億の賞金首だぞ!せめて首から上だけでも残っててくれ!」
「───そう言うの部下の前じゃ言うなよ。聞いたら幻滅されるぞ」
サカズキの冷静なツッコミは最もだが、幸いにして部下達や島民はサカズキの戦いに巻き込まれないために離れていた。尊敬する自警団長の言葉は聞こえることはなく、都合よく解釈されるのだった。
「おお!ハクレン自警団長まで来てくれた!」
「何やら怒ってらっしゃる」
「きっと島を襲おうとした海賊どもに義憤を抱いておられるのだ!」
「さすが、正義の男!」
「俺はあの人に憧れて自警団に入ったんだ!」
「俺もだ!」「俺も!」「俺も!」
「凄い人気ね。気持ちは分かるけど」
「あったりめーよ!何てったって、海賊に支配されていたこの島を救ってくれた英雄だからな!俺はあの方の為なら命を掛けられるぜ!」
「バカ野郎!俺の方が10倍掛けられるに決まってんだろ!」
「はあ?お前が10倍なら俺は20倍は掛けられるぜ!」
「俺は30倍だ!」
「「ああ、やんのかテメエ!」」
「何で喧嘩になってんの!」
コントのような言い争いをする血気盛んな若者ども。そんな部下達の犬も食わないような言い争いに呆れたように「やれやれだな」と溜め息を吐くサカズキだが、不自然に揺れる海面を見て、ピクリと眉を上げる。その変化は隣にいた自警団長も気付いたようで、ニヤリと笑みを深める。
「お、どうやら生き残りがいるみたいだな」
「マグマが当たる前に海に逃げたか。賢明な判断だな」
「一、二、三…、10人も生きてんじゃねえか。やるなあいつら。茶髭は生きてんだろうな?」
その問いに答えたわけではないだろうが、豊かな茶色い顎髭を伸ばした男が青筋を浮かべながら海水から起き上がって来た。
「やってくれたな小僧ども!この茶髭様を怒らして、覚悟は出来てるんだろうな!」
「やべえっすよ!船長!こいつの能力、きっとロギアだ!逃げましょう!」
「逃げるだあ?!こんな虚仮にされたまま戦いもせずに尻尾捲れってか?!てめえ!それでも海賊か!」
忠言する部下を撃ち殺す茶髭。それを見ても二人は慌てる事なく佇んでいる。
「茶髭は俺が殺るぜ。顔面燃やされたら叶わんからな」
「好きにせい」
二人は一斎に動く。それは戦いと言うより蹂躙と呼ぶ光景だった。