異世界のんびりTS旅 作:ノン火
最近の転生モノはゲームみたいだという話がある。
他人のゲームプレイを実況動画や生配信で追体験するような、そういう楽しみ方が転生モノにはあるという話だ。
実際、異世界を自由に冒険し、様々な体験を共有するのは転生モノの醍醐味だと自分は思う。
異世界に転生したら、気楽な立場と多少のチートを手に入れて、世界を自由に見て回りたいと思うのは自分だけではないはずだ。
そして、自分が実際に転生し、それが可能な立場になったとしたら。
迷うこと無く自分は旅に出る。
誰に縛られることもなく、世界を己の目で見て回る。
世界中の美味しいものを食べて回って、宿や温泉を楽しんで。
時には旅先で困っている人と出くわすこともあるだろう。
そういう時は、後腐れが残らない程度には人助けをして。
魔物に出くわしたら、転生者特有のチートで撃退する。
そういう旅を、自分はしたい。
まぁ、そういった考えを持つようになったのは、結局のところ。
本当に異世界へ転生してしまったから、というのが大きいのだけど。
しかも、性別が男から女に変わる、いわゆるTSのおまけ付きで。
ともかく、そういう経緯で“私”は旅をするようになった。
そして、今のところ――異世界でのんびりと旅をする生活を、私は心底気に入っていた。
#
異世界と前世の現代との違い。
一番大きいのはやはり景色だ。
現代にも美しい景色は山程あるが、それはあくまで現実的な景色に過ぎない。
今、目の前にあるような幻想的な風景は、まちがいなく前世では見られない光景だろう。
「すごい……」
溢れる吐息に、白が混じる。
私の眼下には冬景色が広がっていた。
一面に広がる森に、白雪が積もっている。
それだけなら前世でも、雪国であれば拝むことのできる光景だ。
しかし、この世界の場合はそれだけではない。
白化粧の冬の森が、七色に輝いているのだ。
色とりどりの光がまるでツリーに巻き付いた電飾のように、冬景色を彩っている。
「
何故そんな現象が起きるのか。
あれらの光は、妖精が飛行した後に残る魔力が反応しているのだ。
異世界なので妖精と呼ばれる存在は普通に存在する。
そんな妖精は空を飛ぶために魔力を使う。
使われた魔力は空中にとどまり、魔力同士が反応するとああして光を帯びることがある。
故に、七色の光に照らされる冬の森、なんていう光景がこの世界には生まれるのだ。
しばらく、それを堪能する。
ただぼーっと眺めてみたり、持ってきたお昼を済ませたり。
今日のお昼はサンドイッチだ。
この世界で一般的に使われる卵と、「ジルバーヴィンガ―」というこのあたりの地域で親しまれている調味料をあわせて、「ライドボア」という魔物の肉を加工したハムで作った単純なもの。
シルバーヴィンガ―は酸味の強いマヨネーズみたいな調味料で、卵とパンによく合う。
ハムは、そのまま前世のハムと変わらない味で、食感が最高だ。
そうやって一通り景色を楽しんだ後、私は手元の携帯型のデバイスを操作する。
現れたのは、カメラだ。
携帯型のデバイスと合わせて、この世界の技術を使って作られたマジックアイテム――魔道具である。
「パシャリ、と」
そう言って、目の前に広がる幻想的な光景を写真に収めた。
これで大体やりたいことはやった。
そろそろここに来て数時間が経つし、日が落ちる前に移動しようかと考え始める。
魔力の光は夜のほうがキレイな光景になる……と思うかもしれないが、残念ながらそうはならない。
なぜなら妖精は夜になったら寝るからである。
魔力の痕跡は夜の森には残らず、それ以外の光源もないので、この森を夜に見る理由は残念ながら無いのだ。
星空は、別の場所でも見れるし。
で、最後に少し考える。
――自撮り、するか?
私はTS転生者、自分で言うのも何だがかわいい。
美少女と言えば自撮り、自撮りといえば美少女。
身長は小柄だが、出ているところは出ているし、透き通るようなプラチナブロンドはとにかくばえる。
結構いい写真が取れるんじゃないかなと、適当に考えた。
「……いや、それだとこれまで自撮りしてこなかったのがもったいないじゃん」
結論、オタク特有のコンプ欲が湧いてしまいよくないので、諦めることにした。
カメラをしまって、足元を見る。
僕が立っているのは、
「降りますか」
このあたり一帯を見渡せる高い山の上だ。
眼の前には、足を滑らせたら死確定の崖がある。
そして、
私は躊躇うこと無く山の上から飛び降りた。
#
なんてことはない、異世界なんだもの、高所から落下しても対処する方法はいくらでもある。
私の場合はとても単純、魔道具を使い崖を沿うように滑空しているのだ。
一定の速度で落下を続け、激突しそうになったら減速、落下を再開したらまた一定速度で進む。
そんな効果の靴の形をした魔道具で、私は山を一息に降りていた。
なんというかそれは、オープンワールドのゲームで崖から飛び降りた後、いい感じに地面へ着地する感覚に近い。
とはいえ、それをリアルでやると危ないので、ノーリスクで飛び降りれるようにしているが。
そうすると今度は、オープンワールドで何かしらの乗り物に乗って、高速で移動している感覚になる。
どちらにしても爽快感のある、ゲーム的な感覚だった。
オープンワールドの醍醐味は飛び降り自殺だよね、とはよく言ったものだが。
現実でも、安全に崖から飛び降りれるなら、それはそれで楽しい。
まぁ、躊躇なく飛び降りれるようになるにはそれなりに慣れが必要で、私もこうやって何気なく降りれるようになるまでは一年くらいかかったけど。
――なんてことを考えているうちに、地面が見えてくる。
上りは旅を楽しみたかったから、休憩等も挟んで数日かかった。
だが、下りはこの通り。
十分もかかっていない。
ゲームでも、クリア時に出口までの移動を挟まないとストレスやばいからね。
「よっと」
そういうわけで、爽快感たっぷりに山から降りてきたわけだけど――
「きゃあ!?」
その瞬間を、誰かに目撃されたようだった。
自分の声ではない声の悲鳴が、近くから響く。
やっべ、と思いながらそちらを見ると、尻もちをついた女の子がこちらを驚愕して見上げている。
「だ、誰!?」
「あ、いやこれは、えっと」
この地域特有のフード付きコートを身にまとった、十歳前後の少女だ。
僕が今いる場所は、街道から少し逸れていて魔物が出る可能性もある。
このくらいの子が歩き回るには危険な場所なのだけど、地元の人間ならうまく歩き回れるのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
今はこの状況を言い訳しないと。
「えっと……こんにちわ?」
だめだ、何も思い浮かばなかった。
なにせ……
「ち、痴女だ……」
今の私は、雪国では考えられないくらい露出が多いんだから。
言い訳をさせてもらうと、この世界基準ではそこまで痴女ではない。
肩はノースリーブだし、だいぶ丈の短いミニスカだし、へそのところだけダイヤ型の穴が空いてるけど。
いわゆるソシャゲの美少女やVのものが着ているちょっとえちえちな衣装って感じ。
よくあるよくある。
つまり、明らかに寒そうなのだ。
「お姉ちゃん、そんな格好だと死んじゃうよ。お姉ちゃんは死んでもいいから服を脱ぎたいの?」
「落ち着いて、これは確かに寒そうだけど、私は寒くないの」
女の子は、どうやら優しい子のようだ。
痴女みたいな女が空から降ってきても、こうして心配してくれるんだから。
「そ、そうだお姉ちゃん。早くここから逃げないとだめだよ! 魔物が近くにいるの!」
しかも、私のせいで意識から逸れていただろう魔物の存在を警告してくれた。
これが良い子でなくて、何だというのか。
とはいえそれは――
「……ちょうどいい」
「へ?」
都合がいい。
何故か?
「下がってて、その魔物は私がどうにかする」
私がただの痴女ではなく、こういう衣装で動いていても問題ない強者だということを女の子に示すことができる。
携帯デバイスを起動すると、空中にスクリーンが投影される。
ステータス画面があるタイプの転生モノによくある、空中に出現するスクリーンみたいなアレだ。
そこには、私が自作したUIで表示される幾つかの項目がある。
「え、なにこれ!?」
驚く女の子を他所に。
その中から、「装備」の項目をタップして、続いて出現した『装備呼び出し』と『クイック装備』、『カスタマイズ』の中から、『クイック装備』を選ぶ。
同時に、スクリーンには警告画面が表示されていた。
これはオートで出現する画面で、近くに敵意のある存在がいることを示す。
この場合は、女の子の言っている魔物だ。
そして――私の手に武器が握られる。
槍に、杖のような装飾が施された、儀礼用に見える槍だ。
実際には、杖に槍の穂先を取り付けた杖なのだけど。
まぁ、見方はどちらでもいい。
直後。
「ヴォオオオオオオオオ!!」
だいたい身長が150ほどの私よりも二周り大きいイノシシが、飛び出してきた。
「ライドボア!」
ちょうど、私が昼に食べたサンドイッチに入っていたハムだ。
こういう縁もあるのだな、と感じながらも、後ろで上がった女の子の悲鳴を無視して飛びかかる。
「無茶だよ!」
「動かないで!」
止めようとする女の子の声にそう返して私は軽くジャンプすると――
背中に、複数の光が灯り、私の身体は一瞬で加速した。
今の現象は、妖精が空を飛ぶ際に魔力を使う機構に似ている。
それを、私の着ている衣服――魔道具が再現したのだ。
まさか、目の前の人間が自分以上の速度で突っ込んでくるとは思わなかっただろう。
ライドボアは反応することすら出来ず。
「やあああ!」
私の手に握られた槍が光を帯びて、ライドボアに突き立てられた。
――沈黙。
私もライドボアも動かなくなり、一瞬の静寂が広がる。
そして、しばらくすると。
ライドボアは、ぐらりと地に倒れ伏すのだった。
「大丈夫?」
いいながら、女の子に振り返る。
「あ、え、あ――」
女の子は、
「――七色の、光翼」
今の私の姿を見て、なにかに思い至ったようだ。
「光を、纏う槍」
どれも、私にとっては聞き馴染みのある表現である。
おそらく彼女は、私を知っているんだろう。
多分、何かの拍子に私の冒険譚を知ったのだ。
「――――やたら短い、スカート丈」
待って?
「……“魔道士”、アイス・マギステリア?」
最後の一言は聞き捨てならないけれど。
ともかく、私は結構な有名人なのだ。
まぁ、これだけ目立つ格好と戦闘スタイルで旅をしてたら、嫌でも記憶に残るしね。
スカート丈はちょっとまってほしいけど。
「そうだよ、私がそのアイス・マギステリア。よろしくね?」
いいながら、尻もちをつく少女に、手を差し伸べた。
旅の最中に、人助けをするのも旅の醍醐味。
私は、軽く笑みを浮かべて、少女に呼びかけるのだった。