ENDER LILIES×Arknights 作:偽巫女
「――ろ……きろ……起きろ」
少女は、その言葉で瞼を開け、起き上がった。それと同時に、一つの疑問も浮かび上がった。わたしは、いつ眠ったのだろう?と。そして、周りの光景が目に入った。
そこには見たこともない建物がずらりと並んでいた。少女が理解できるのは、それが建物で、廃墟だろうということだけ。しかし少女は綺麗な建物だと思っていた。
ボーっと見ていると、少女の拳ほどの、少し明るい赤色をした光の球が、人型となって少女の後ろに現れた。
その見た目は、騎士のようで、しかしそのような輝きは感じない黒衣を纏った男だった。右手には薄汚れ、ひびが入った直剣を持っている。
少女は恐れるわけでもなく振り向き、男の甲冑に隠れている顔と自分の顔を合わせる。どうやら少女を起こしたのはこの男のようだった。
男は少女に声をかける。
「どこか、痛みはないか?苦しさは?」
少女はふるふると首を横に振る。
「そうか……起きたばかりで悪いが、目が覚める前の場所を覚えているか?」
少女は再度ふるふると振る。男はそうか、と言って左手を顎につける。男はその状態で話を続ける。
「私も
そういえばそんな気がすると、少女――リリィも同調する。
二人は旅をしていた。誰にも出会わず、傍から見れば希望もない、暗い道だったが、それでも二人は――
そんな二人だが、知らぬ間に知らない土地に来ていたらしい。物知りな黒衣の男――黒騎士でも見たことのないものもある。
そのまま動かないのも進展が無いため、リリィは歩くことにした。黒騎士は光の球に戻り、ついて行く。
ゆっくりと進みながら、周りを見渡すと、やはり見慣れない。壊れているか、もしくは壊れかけかの建物しか見たことが無くても、それとは大分様子が違う。
リリィ達の知らない言葉で言えば、現代的、と言えるだろうか。
そのまま周りを見ながら歩いていると、何か物音がした。物が倒れる音だろうかと男は考え、リリィは好奇心のままその音の方向へ歩いていった。
音が発生したと思われる場所には、
リリィはそれを見て、息を忘れるほどに、一瞬時が止まってしまったかのように驚く。
「……少女?」
倒れていたのは、リリィほどの小さな少女。リリィは駆け寄り、倒れている少女の手を握ってみる。
温かい。そう感じたのは、いつぶりだろうかと。日や、風の温かさは感じていたこともある。だが、人肌と触れあい、そして温かく感じたのはリリィにとって久方ぶりだった。心の端っこで、もう二度と感じられないのではないかと思っていたリリィにとって、とても嬉しいことだった。
「温かいか?」
黒騎士の言葉に縦に首を振る。黒騎士はまた姿を現し、リリィとは反対側に倒れている少女の横に立つ。
少女の全身を見ながら、いくつかの不思議な点を見つける。
リリィほどではないにしろ、質素な服。そんな少女がなぜこんな人気のないところに?まさか、ここにはこの少女しかいないのだろうか。だが男は、それよりも気になるものがあった。
それは、頭についている獣のような耳と、腕から生えている黒い石だった。
黒騎士は考える。穢者だろうか、だがそれにしては石を除けば身綺麗で、人らしい。しかしこのような人間は見たことがない。だが……
その時だった。
後ろから、何かを振りかざす存在がいた。
「ふっ!」
「なっ――がはっ!?」
黒騎士は振りかざされるそれを剣で受け止め、その存在の腹に一撃蹴りを入れた。
その存在は白い仮面を付けた、不気味な人型だった。こうも連続で人らしき者に出会うとはな、と思いながら黒騎士はリリィ達を庇うようにしながら声をかける。
「何者だ」
「……お前こそ、何者だ。感染者か?」
「感染者?」
聞きなれない言葉にオウム返しする黒騎士に、苛立ったような声を吐く仮面の存在。
「知らないとは言わせないぞ……そこの娘も含めて、非感染者だな?」
「何のことだか分からないが、この少女は穢者では……」
「黙れっ!」
意識の錯乱か、まともな会話もままならず、仮面は長い棒――鉄パイプを再度振りかざしてくるが、黒騎士は今度は剣で弾き、すぐに懐に入り、首元を柄頭で強く打った。
仮面はそのまま倒れ、起き上がらなくなった。黒騎士はふぅ、と息を吐き他に敵はいないか周りを見渡す。
そうしていると、一つの視線が刺さる。リリィのものだった。
黒騎士はリリィと目を合わせると、その中には不安を感じ取った。先ほど倒した仮面のことだろう。
「安心しろ。殺してはいない」
リリィという少女にとって生きている人間は初めて―
どれほど、人の死を感じ、想いを受け取ったとしても、だからこそか、このような少女に見せたくはなかった。
がさがさと、何か音がする。リリィと黒騎士が周りを見渡せば、先ほどの仮面に似た人間が、次々と現れてくる。
多いな……と心の中で呟く黒騎士。リリィと私だけなら、簡単とは言えないだろうが逃げ切れるだろう。しかしこの倒れている少女を放っておくわけにもいくまい……放っておけと言ってもリリィは拒否をするだろう、と。
黒騎士は剣を構え、迎え撃とうとする。
しかしそうはならなかった。何故なら、仮面の人間達が次々と倒れていったからだった。
ある者は何かに当たり、ある者は謎の人物に首を絞められ……鮮やかとも言えるその制圧は、ものの数秒で終わった。
「大丈夫か?」
そう声をかけてきたのは、襲ってきた者達とはまた別の、一人のマスクを被った者だった。
黒騎士は二人を庇うようにして相手する。
「助けてもらった、という認識で構わないか?」
「ああ。襲われそうになっているところを見つけて、介入させてもらった。……奥の子は、無事か?」
「……まだ温かい。無事の筈だ」
「分かった。後は我々に任せてくれ」
そう言ってマスクを被った者は、後ろに待機していた者達に命令し、少女を運ばせる。
リリィは少し駆けて、黒騎士の傍に寄る。
「名乗っていなかったな、私はロドスに所属している……ドクターと呼んでくれ。君達は?」
名乗ったマスク姿――ドクターに対して、リリィは、一歩前に出て、初めて、声を出した。
「リリィ」