ENDER LILIES×Arknights 作:偽巫女
暗い夜の空にきらり輝くビル群が並び立つ都市、
その輝きが届かない場所に、彼女は立っていた。
前を閉め切った、裏地が青の黒色のパーカーに、青いチェック柄のスカート、分厚いブーツ。
着慣れない衣装を身に纏い、リリィは周りから視線を感じる。なぜだろうと心の中で首を傾げていると、
『お前のような小さい子どもがここにいるのが不思議なんだろう』
光の球の黒騎士がそうリリィに言う。そういうものなのか、とリリィはなんとなく理解する。確かに、このような場所に自身は似合わないと、少しは理解している。
検疫所。感染者が入れないようにする場所。
賢く、この場所に来るまでに様々なことを学んでいたリリィはその意味が分からないわけではない。所謂、差別であることが。
鉱石病は確かに人から人へ移る病気だ。しかし、それは感染者が死亡した場合のみ。生きている内には掛からない筈なのだ。
しかし、大勢の非感染者はそれを知らず、いや知ったとしても近づけさせないだろう。自分達を殺す毒となり得るのだから。
リリィは悲しそうに、歩いていく難民達を見る。今すぐにでも、この力で助けられるのなら……
「リリィちゃーん」
その思考は後ろからの呼び声でかき消される。
振り向いて見てみると、腰に剣を携えた、長髪の女性がいた。女性は手を振りながら、リリィに声をかける。
「どう、お元気?」
「……?」
「フランカ、急にそんなことを言われても困ると思う。ましてや、相手は私達のこと知らないだろうし」
フランカと呼ばれた女性の後ろから、今度は盾を持った女性が現れた。どちらもリリィにとって初めての人物だ。
「今から名乗るところだったわよ。あたしはフランカ。よろしくね、リリィちゃん」
「はぁ……リスカムです。よろしくお願いします」
フランカ、リスカム。リリィは確認するかのように呟く。二人は同じロドスのようだ。
リリィが二人を見つめていると、フランカが話を進める。
「あんまり、こんな景色なんて見たくないわよね……気持ちは分かるけど。さっきなんか、感染者が連れてかれちゃったしね」
「……」
「そういえばあたし達は、ウサギちゃんが戻るまで近衛局を手伝えって言われたけど、リリィちゃんはどうしろって言われたの?」
「……待って、いろんなものを見なさい、っていろんな人から」
「なるほど。……ということは、社会勉強のためについてきたわけね?」
フランカの想像する通り、リリィはその特異性もあり、本来待機の筈だった。だがドクター達と話していくうちに、リリィ達はほとんどの物事を知らない状態のことをロドスの面々が知り、これではいけないだろうと、本人も行きたいとの希望もあり、今回の仕事に参加させた。つまるところ、フランカの言う通り社会勉強のために参加したのだった。
リスカムはリリィの全身を見ながら言葉を溢す。
「リリィさんは、戦えるのでしょうか……姿形で図るのも失礼なのは承知していますが」
心配の声が含まれているその言葉に、なぜかフランカが安心させるように返す。
「大丈夫よ、なんたって、素敵な騎士様が守ってるものね?」
「騎士……?」
訳の分からないという風にリスカムは首を傾げるが、リリィはその通りだと伝えるように控えめに頷く。それを聞いていた黒騎士は何とも言えない複雑な気持ちになる。
素敵なら、このような苦しみを味あわせないのだろうな、と。
「っと、そろそろ戻らないと、怖ーい近衛局に怒られるわね。じゃ、また後でね」
「誰のせいで……ではまた」
二人はリリィに手を振り、離れていった。人と関わることがほとんどなかったリリィにとっては、まだ関わったことのないタイプの人物に驚きと衝撃を感じた。
それと同時に、フランカの苦しみも、感じ取っていた。
時間は飛んで、空が明るくなり始めた頃。
リリィ達はドクター達と合流し、とある場所に来ていた。
美しく輝いているものには必ず影が生まれる。それを体現したかのような場所。
スラム街。
リリィは目覚めたばかりの場所を思い出す。思えばそこに似ている気がする、違うとすれば人の気配が多くするくらい、と。
そこで何者かが暴れている音が聞こえてきた。
最後尾から何とか見ようとすると、そこには複数人の大人らしき人物が、子ども達を襲っていた。リリィは動こうとしたが、待てと黒騎士に制止させられる。曰く、アーミヤが何かしようとしていると。
何か大人がアーミヤに言っているようだが、リリィには聞こえなかった。が、アーミヤがアーツを飛ばしたことで、大人は退散していった。アーミヤは子ども達と会話し、離れさせた。
アーミヤが攻撃したということは、悪い人だったんだろうと、リリィは納得しようとする。しかし、同時に感じた。
彼らも、感染していたことを。
きっと、何か意味があって子ども達を襲っていたんだろうと、悲しみを感じながら、アーミヤ達について行っていると、急に止まり、何かを話し始める。
リリィも聞こうとするが、強い
普通なら、無視か、もしくは報告などで待機するだろうが……
「……」
今まで集団行動などしてこなかったリリィの頭の中にはそのような選択肢は浮かばなかった。つまり、そのまま追いかけた。
それを止められそうな黒騎士はというと、選ぶのはリリィだと言ってしまった手前、止めるに止められなかった。後でドーベルマンなどに怒られそうだなと思いながら、ついていく。
「というわけで皆さん……リリィさん?」
道を歩き、壁を登り、建物から建物を飛び移る。見た目によらずアクロバティックだ。人影を追いかけ、しかし出来るだけ人には見つからないように移動する。
リリィはその途中で別の気になる存在を見つける。
『あれは……レユニオン?』
襲われたこともあり、記憶にも新しいその姿を見て、リリィは悩む。戻るか、探すか。
この後の事を考えてみれば、戻って報告をするのが確実だろうが(怒られはするだろうが)。
『どうする、まだ追いかけるか?十中八九、ここの住人だろうが……』
「……うん」
黒騎士の問いに肯定を一度入れるだけで、会話は終わる。なぜかは分からない。しかし、リリィはその何かに何かを感じ取った。
上手く言葉にはできないが、何かを。
いや、一つだけ強く感じ取り、分かったものがあった。会話は始まる。
「……足、痛そうだった」
『……鉱石病か?』
「たぶん。酷そうだった」
『助けるのか?』
「……分からない。でも、会いたい」
『そうか。なら、行くぞ』
そうして、またリリィは動く。
皆の力を借りながら、人影を追いかける。と言っても、もちろんすぐに移動するため、確実に居場所が分かるわけはない。だがリリィの、例えるなら隠し部屋を見つけるほどの鋭い勘と、黒騎士の足跡や、物の配置などで考える推理で、追いかけていた。
着いたのは一つの建物。
リリィは
白い髪に、自分と同じくらいの身長の少女。種族は……
『ウルサス人……アーミヤ達が探していた少女と、同じ外見だな』
そこでリリィはアーミヤ達が誰かを探していたことを知った。その話を聞く前に目の前の少女を追いかけてしまったため、しょうがない事ではあるが。代わりに黒騎士が少しだけ聞いていたことで、一切を知らずに会うことはなくなった(もっとも、その話の前にも同じ人物の話をしていたのだが、リリィは聞いていなかった)。
リリィはどうしようかと悩み始める。話しかけるにしても、突然現れた人に話しかけられれば、驚くのが人だろう。初めて黒騎士と会った時のことを思い出しながらそう考える。
考え込んでいると、建物の中の少女が動き始めた。追いかけようとするリリィに黒騎士が助言を放つ。
『一度、アーミヤ達に連絡を取らないか。話すのが苦手な私達だけで会っても困るだろう』
リリィはその通りだとは思ったが、しかしどのように連絡を取ればいいか分からなかった。
『……服の、右の辺りを探ってみろ』
黒騎士の言葉通りに触ってみると、何か硬いものが手に触れた。ポケットに入っているようで、取り出してみるとそれは、通信機だった。
『服を渡されるときに説明されていたはずだが、忘れていたのか?』
「……」
『……まあ、いい。使い方は憶えているか?』
「うん」
リリィは
『――リリィさん?』
通信機の先から聞こえる声は生真面目そうな、聞き覚えのある声。会ったばかりの……
『私です、リスカムです』
リスカムだった。リスカムは次々と言葉を溢れ出し、リリィに飛ばす。
『リリィさん、今どこにいますか?皆さんが心配していますよ。単独行動は危険です、するにしてもまず一言「探していた人、見つけた」はい?』
長くなりそうになったのを察知し、すぐに伝えるべきことをリリィは口にした。すると、リスカムの声は聞こえなくなり、別の人物の声が聞こえてきた。
『代わりました、アーミヤです。本当ですか?』
「うん」
『ではその場で待機してください。我々も丁度見つけたところなので。合流は……えっと、黒騎士さん、聞こえてますでしょうか?』
「ああ」
アーミヤが黒騎士に合流地点の説明をする。黒騎士はリリィの服の左側に入っていた地図を手に取り、それを見ながら聞いて理解した。
数十秒後には終わり、黒騎士は通信機と地図をリリィに返した。
「場所は分かった。行くぞ。……ただ、一つ言っておくべきことがある」
リリィは地図と通信機を元の場所に戻しながら、聞く。
「ロドスに帰ったら、お叱りとのことだ。お前も、私も」
次からは、ちゃんと話そうと、リリィは心に決めた。