―不変、変わりゆく者― 作:Atisamay.Wiseman
今も昔も変わらない夏の日差し。
その中で『変わり者』と言われた彼女(あね)が曖昧な笑みを浮かべた。
嬉しい様な、困った様な、悲しい様な。
それは今まで努力した彼女の結果(あかし)。
刻一刻と変わっていく日本(せかい)。
その中にあって、なお揺らぐこと無かった、オレ達(かぞく)への瞳。
その意味を、粛然たる笑顔を、寂寞の風にそよぐ紙―――――衛士合格通知書―――――のみが踊る。
これはある物語の末の話し。
おわりからはじまる。
たいせつなものを受け継いだ、ある姉弟の物語。
『マブラヴ オルタネイティヴ』(Muv-Luv Alternative)
―不変、変わりゆく者―
乾いた大地に、のっぺりと生えた建物群が横たわっている。まだ住んで1年と経っていない居住地区が、かつての郷里のように懐かしい。
3ヶ月と10日ぶりの宇都宮基地(こきょう)。
しばらくぼんやりと営舎を眺め、塵ひとつなく磨き上げられた廊下を歩き、自分の部屋に着くと同時に、荷物と装備を放り投げた。
そして、ボロい官品の寝台(ベッド)に倒れこむこと幾数分。
ようやく無事に帰って来たことを実感した。
清潔感のある、というよりは生活感のない部屋(くうかん)。唐突に、机の引き出しの中に仕舞ってある派遣前に書いた遺書を、ビリビリに破いて部屋にまき散らしたい衝動に駆られたが、
――隊長!エマー発生!駆動系の主機がこちらのコマンドを完全に拒絶しています!
――何ィ!?もう一度入力しろ!自己診断プログラムもだ!
――既にやってますがダメです、感無し!
――ちぃ!……なら仕方ない。一度主機(メインエンジン)を切って再起動だ!
――再起動、……ってことは!
――うむ、それしかない!
「ぐ、おぉ、お、お……」
はい、喜んで爆睡させて頂きます!
さすがは三大欲求(おおごしょ)の一角。突然湧いて出た軍団規模のBETA増援の如きそれに、戦術機たった1機に等しい思いつきの衝動が適うわけもなく、オレはあっさりと白旗を揚げ、対馬海溝よりも深いであろう眠りへと身を投げ出す。
ボロいといってもそこは懐かしき我が寝台であり、複数人と共同で生活していた砂埃まみれの幕舎(テント)ではない、久しぶりの他人に干渉されない個人部屋。
という訳で、おやすみー……
意識を落とそうとした瞬間、爆音に近い音を立て、もの凄い勢いでドアが開け放たれる。
「タイチっ!早くしないと中隊の集合時間に遅れちゃ……コラ!なに寝てるのさ!起きなさい!」
予期せぬ深海からのサルベージ。
さようなら、ささやかな自由空間。
こんにちは、熊野 美佳子。
「コンニチハ、じゃないでしょ!早く起きなさい!それに私は中尉よ、ちゅ・う・い。新米少尉のあなたより偉いんだからね!ちゃんと階級を付けなさい。あと私の方が年上なんだから、せめて“さん”くらいは付けないと人として失礼だよ、タイチ」
部屋に勝手に入ったことは見事に棚の上だ。そもそも、それをいったらオレもちゃんと階級、氏名“陸軍少尉 柏木 太一”で呼ぶように、という問答はもはや美佳子にしても無意味だということくらいには、意識が浮上していた。すげーな、ミカコサルベージ。
「ん?」
そこで、ある違和感に気が付いた。
俺は派遣から帰って、そのまま寝台だ。つまり、迷彩服(BDU)。
「なんでミカ……熊野中尉は制服に着替えてんの?」
「え、今から団司令への帰還申告だからだけど?」
――ん、申告?
「いや、たしか帰還申告は明日の朝一に変更になって……それに今日の終礼はいつも通り持装じゃ―」
「―うああ!忘れてたぁ!!」
ダイナミックエントリーして来た勢いをそのままに、部屋を出て行く。
「先に行ってていいからー!」
すでにこの階に姿はなく、せっかくプレスしたのにぃぃぃー、と次階の女性衛士居住区から恨めしい叫び声が聞こえてくる。
――ああ、そうだ。
思い出した。
この後ある変則的な基地終礼の内容は、派遣から帰って来たオレたちの出迎え行事だ。
3ヶ月弱、オレにとって初めての海外任務の最終過程(しめくくり)であり、ここからはじまる長い長い、闘い(たび)の初源。
それは、柏木 晴子の弟、“柏木 太一”という物語の始まりだった。