―不変、変わりゆく者―   作:Atisamay.Wiseman

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―不変、変わりゆく者― 『起』

「柏木(C04)、1時から3時方向の瓦礫を至急撤去しろぃ!トレーラーが入るとのお達しだ!」

 

 気合い入れろっ!と、通信から響く声は熱っくるしいことこの上ない。

 本日の鉄原は派遣されて以来の記録的な猛暑日。

 とはいっても、外界と操縦席(コックピット)内を完全に遮断する装甲板と空調を装備しフル稼動させている冷房が効いた戦術機の中では関係ない。あくまで気持ちの問題だ。

 精神衛生は非常に大事である、とは派遣前に受けたメンタルヘルス座学。

 それに則り、ついつい無線の回線を閉じたくなる。

 

「なんばしよっとか柏木ぃ!手前ぇ、任務中に回線切るんじゃねぇ!死にてぇのか!」

 

 しまった、ホントに切るんじゃなくて、音量を絞ればよかった。

 

 

 2003年4月。甲20号目標攻略『錬鉄作戦(オペレーション・スレッジハンマー)』により人類は鉄原ハイヴの無力化に成功。

 日本帝国の防衛ラインは本州から押し上げられ、同年に全世界を視野に入れた他国派兵を主任務とする戦術機甲部隊『中央即応戦術機甲連隊――中即連――』を発足。BETAの日本帝国本土侵攻の折、本土防衛軍へ統合された大陸派遣軍の後釜と位置づけられているが、その実態は2002年に発足した国防省の国防大臣直轄部隊、『中央即応軍団』隷下の即応任務部隊である。深緑の迷彩が施された不知火・弐型を装備し、国防大臣の出動要請がかかれば24時間以内に日本帝国全土のみならず、世界規模で即時展開を可能とする戦術機甲部隊である。

 この部隊……帝国軍の陸、海、航空宇宙だけでなく、斯衛からも選り抜きで人員を集めてるってトンデモ部隊とのことだが、何故か訓練校を卒業したばかりの自分なんかが配属されるあたり、人手が足りないってことなのか?

 

 

「まあ、戦闘機動から細かい操作まで、戦術機の扱いには結構自信あるんだけどな、と」

 

 組み入った瓦礫の山を愛機の手腕(マニピュレータ)で器用に仕分け、手頃な物から後ろに控える工兵隊のクレーン車のフックを掛けていく。

 工兵支援でそこまで気合いを入れる必要はない。作業日程にも、予備日を含めてかなり余裕がある。もちろんここ鉄原の情勢も。

 どうやら自分の小隊指揮官殿は、先週行った陣地構築の際に、戦技訓練班の神楽少佐――詳細は知らないが、風の噂で『雪女』の異名を持つらしい――に事前通告無しで小隊区域の作業まで持っていかれたのが悔しいのだろう。

 

 オレの小隊長である、ソフトモヒカンがトレードマークの林田大尉(C01)は、九州出身の古参衛士らしく、多少熱っくるしいがテキパキと指示を出している。

 富士教導隊から転属して来た凄腕衛士……と云うにはかなり説得力に欠ける軽いノリの、我が中隊で先任中尉を張る香椎中尉(C02)は、たかが工兵支援と手を抜くことはなく、寡黙に与えられた命令をこなしていた。もちろん自分の2機編成(エレメント)にだって不備はない。

 

 にも関わらず、あの少佐の操る不知火・弐型は、単機で小隊以上の作業効果を叩き出す掛け値なしの怪物(バケモノ)。

 

「たださぁ……」

 

 オートバランサをオフ、センサをサーモからパッシブに切り替える。

 

「中隊指揮官じゃないにしても、少佐って階級の人間が、わざわざ工兵支援に乱入してくるか?それともこの穴掘りまで戦技指導のひとつです、ってか?」

 

 小隊長とはまた違った意味ではあるが、納得が出来ないところはオレも一致している。

 あの独立遊撃隊のような部隊は、決まった編隊(フォーメーション)どころか、2機編成すら組まないのだ。

 そこには従来の戦術機部隊の指揮系統など存在せず、その場の状況で衞士自身が独断の判断で任務に従事しなければないということだ。

 とても理解し難い。

 モーションセンサは赤外線受動で足場を捉えていく。主脚走行で猿(ましら)のように瓦解した街跡を進む。

 

「コラー、勝手に突出しない!あ、タイチ、またセンサ切り替えてるでしょ? 訓練以外じゃ熱線感知器は常に起動しとかないといけないのよ。まったくもう、派遣前の座学で聞いたの覚えてないの?」

 

エレメント機であるC03が、ずいぶん後ろでつらつらとご高説をぶつ。

 熱線系はあくまで対生物感知器だから、対物感知器の赤外線系の方が効率が善いのだ。それと……

 

「熊野中尉、どうでもいいですから早く来て除去作業をお願いします。あと、何度も申していますが、自分は『柏木』であります。名前は止めて下さい」

 

 この部隊……中即連は階級の垣根を超えてやたらと馴れ馴れしい。堅っ苦しいのは極限状況下で背中を預ける戦友意識の向上の妨げとなるというのも、まあ、分からなくもない。

 だが、名前は容認できない。

 

「えー、いいじゃない名前で呼ぶくらい。柏木 太一だから『タイチ』。うん」

 

 “その名”で呼ばれるこっちの気持ちも知らずに。

 

「……ひとり納得しているところを申し訳ありませんが、可及的速やかに来てもらえませんか?く・ま・の・中尉殿」

 

 このオレの相方であり、エレメントのリードでもある上官の彼女には、お姉さんぶる前にまずやるべき仕事をこなして欲しい。戦闘技術やの知識はかなりのものみたいだが、戦術機の操縦技術がおざなりだ。口だけ達者でいざ実戦では。そんな上官じゃあ下はついて来な……あ、そこらへんパッシブの反応が曖昧な場所――

 

「あ、ちょちょ、崩壊は待って~!」

 

 彼女の乗る深緑迷彩の不知火・弐型は、まるで誰かが意図的につくったんじゃないかと思わせるような、見事に瓦礫で隠れた、戦術機1機なら簡単にスッポリと収まるであろう地下空洞に下半身を埋めた。

 

 あーあ、ありゃあ、修理の山さんにまた怒られるんだろうなあ……

 

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