―不変、変わりゆく者―   作:Atisamay.Wiseman

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―不変、変わりゆく者― 『承』

案の定、食堂幕舎で鉢合わせた山さんに熊野中尉は怒られていた。

 熊野機の破損した装甲板修理で遅くなった山さんと、始末書(はんせいぶん)で遅くなった自分の小隊が遅飯(おそめし)で居合わせるのは当然といえば当然の運び。

 

「――だから、試験運用中の電波吸収塗料(フェライト)は、レーザー蒸散膜との兼ね合いもあって薄塗りのうえ、ムラ無く塗らないといけないから凄くシビアなの。そのうえ乾燥させるのに時間がかかるからほかの機体も整備する都合上――」

 

 熊野中尉が山さんから今回の件で、ありがたい説教を受けている。本人は食事どころではなく、椅子の上で正座をしていた。それも自発的に。

 ときおり山さんの視線の隙をついて目だけをこちらにチラチラと動かし、救援要請をしてくる。

 いや、そんな涙目で助けを請われても現状無理だって。

 一方、傍らで食事する小隊の上司達は、黙々とプラ製のスプーンとフォークで戦闘糧食(レーション)――先遣隊という任務の性質上、二次隊が入ってくるまではパック飯生活を強いられる――をやっつけている。

 曰わく“機体修理隊員には刃向かうな”と。

 

 

 戦術機を運用するにあたり、機体の点検やメンテナンスを主とする整備隊に加えて、もうひとつ欠かすことが出来ないのがこの修理隊という部隊である。その構成は、機体の動力源を整備するエンジン整備や、駆動の要の油圧を点検する油圧整備などからなるが、山さんこと山下1等軍曹は機体の外板全般を修理する機体修理員。

 ボルト一本から作ることの出来る、直すことに特化された専門中の専門の兵科職種。そのため、職人気質が特に多い部隊であり、とりわけ全帝国軍の部隊から選抜された我が部隊の整備兵ともなれば……特に山さんはそのひとりなのだ。

 

 

 しかし、ただ口うるさいわけではない。

 自分の小隊は、幕舎で使いたいから携行型ライトを作ってくれとお願いしたところ、親指大の超小型LEDライトを作ってもらい、他の小隊から羨ましがられていたりする。

 要は作る側(メカニック)と使う側(パイロット)の持ちつ持たれつであり、今回明らかに非があるこちら側(パイロット)は黙って灸を据えられるべきなのだ、南無。

 

「ここ、いいかしら?」

 

 珍しい人物が割って入った。

 

「お、少佐!久しぶりっすね。近頃は機体を大事に使ってくれて助かりますけど、この前作ったフットペダルの調子は……」

 

 会話の矛先が神楽少佐に向かいホッとする熊野中尉。自称少佐の強敵である小隊長は「オレはお先に失礼しますわぁ」と、居心地が悪いのかそそくさと席を立つ。

 

「んじゃ、オレもお先」

 

 それに香椎中尉が続く。

 

 なんとなく、飯を切り上げる機会を逃した感じだ。

 

――神楽少佐か……

 

 連隊の戦力化訓練の際、何度か戦闘訓練や座学で戦技指導を受けたことはあったが、こうやって間近で見たのは初めてだ。

 切れ長の眉に目尻、西洋風な顔立ちに加え、流麗な四肢は、おおよそ戦場に似つかわしくない異質な美しさを放っている。

 伸びた黒髪を後ろ一本で束ねたその背中からは、数々の戦場を乗り越えてきた者だけが持つ独特の凄みの様な雰囲気に、触ったら切れてしまう鋭さを感じた。

 

「柏木少尉」

 

「っ、はい!」

 

 ちょうどぼんやり眺めているところだったため、意表を突かれた。

 

「おまえは、もう少し周りを見て戦術機を動かせ」

 

「なっ!?」

 

――いきなり、なんだっ!!?

 

 突然な頭ごなしの戦術機機動の否定に反駁しようとしたが、言いたいことが多すぎて言葉が詰まる。さらにその間、看過できない言葉が続く。

 

「今のままじゃ全然駄目だ。もう少しそこの熊野中尉から戦術機の扱い方を教えてもらえ」

 

「へ、私?」

 

突然の指名に慌てる熊野中尉。

 

――冗談じゃない!

 

 今回の工兵支援の効率でいったら小隊で、いや中隊でも一番成果をあげているかもしれない自分が、誉められはしても否定される対象なるなどとは思ってもいなかった。

 

――しかも、小隊で一番“トロい”熊野中尉を参考にしろだって!?

 

「神楽少佐、それは一体どういう意味ですかっ!」

 

 もの凄い嫌みを含めた皮肉か、そうでなければ言いがかりにしか聞こえない。

 

「言葉のまんまだ少尉。“戦術機の扱い方”を教えてもらえ。今のままではまるで使えないどころか、連隊のお荷物だ。それと熊野中尉」

 

「は、はい!」

 

「世話を焼くのはいいけど、やりすぎるのは本人のためにならないわよ」

 

「い、いや、あの、そんなんじゃなくて私はただ……!」

 

 何故か必死になって否定する熊野中尉。

 いや、気にするのはそんなことじゃなくて、

 

「ですから、それは具体的にどういう――」

 

「ご馳走さま。先に失礼する」

 

いつのまに食べ終えたのか、パックの中にあった戦闘糧食をものの数分できれいに平らげると同時、少佐はさっさとこの場から立ち去った。

 その背中からは「もはや話すことなどない」と言っている様な気がして。

 追うことなど、できなかった。

 

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