うちのバグ個体さんは腹黒くて生き汚い性格をしています。ご了承ください
「…知らない天井…私、生きてる?」
意識が戻った私を待ち受けていたのは衝撃の展開の数々だった。
私がワタシとの戦いで頭の血管が切れて死にかけていたこと。
今日がワタシとの戦いから1週間経過していること。
最終的に私とワタシは双子として対使徒との戦いに参戦することになったこと。
ワタシの名前は式波・アスカ・ラングレー、私はその姉、式波・アスナ・ジュピターになるらしいことを伝えられた。
私が姉なのは識別番号が私の方が若かったからだったらしい。
私はエヴァのパイロットの地位を巡る蹴落とし合いを生き延びることが出来た。
そのことを理解した私は隠すことが難しいほどの喜びを感じた。
名を得るということは戸籍を得るということ、戸籍を得るということは人権を得るということなのだ。
人権さえ得てしまえば理不尽な扱いを受けることはない。
私は人間になれるのだ。
少なくとも今後使徒を倒し切るまでは。
使徒を倒した後のことについては考えないことにした。
それよりも仮初の人としての生活を楽しむことに決めた。
退院した私は、NERV所属となった事によって与えられたマンションの一室に向かうことにした。
そこには先住民として、設定上の私の双子の妹、式波・アスカ・ラングレーがいた。
アスカは私のことを見つけると嫌悪の表情を隠そうともせずに、此方に向かって指を差し、
「ふん!ずいぶんと悪運が強かったようね、でも残念ね?この私さえいればアンタなんか不必要な存在だってことすぐにでもを証明してやるわ!」
アスカは自分が言った言葉に私がどう反応するかなんて分かりきっている、なんて顔をしていた。
そう、今までならばこの言葉に対して売り言葉に買い言葉で彼女の想像通りの反応を演じていただろう、だがしかしこれからは違う、私の本当の思いを打ち明けられるのだ。
そう考えて思わず頬が緩んでしまった私を見てこの反応は予想外だったのだろう、アスカは驚いた様な顔をしていた。
「何が可笑しい!」
「何も可笑しいことなんて無いわよ?ただ、嬉しくってつい」
「嬉しい、ですって?」
「ええ、だってもうあなたと敵対しなきゃいけない、なんてことが起きないんだから」
このときのアスカの意味の分からないものを見る顔は結構面白かったわ、自分と同じ顔だけど。
「だってそうじゃない?私達は共に使徒と戦う仲間、パイロットの座を巡って争う敵対者ではもうないんだから。」
「ふざけんじゃないわよ!自分と同じ存在なんて存在そのものが忌々しいのよ!」
「まぁあアスカはそう感じるでしょうね、でもねアスカ、私たちは本当にお互いがお互いを憎み合う同じ存在だと思う?」
ここで私は今後のしがらみを無くすために一気に畳み掛けた。
「だってよく考えてみて?たしかに私達は同じ顔で同じ声で同じ体を持っている、だけどね身体能力は完全には同じじゃないし技量なんかもあなたの方が上、おまけに私とあなたの考え方は決定的に違う。私達式波タイプは必要とされながら必要とされなかった、一番でなければ認められなかった。あなた達は必要とされたくてエヴァのパイロットの座を求めて争った。でもね、私の理由は違った、違ってしまっていた。私は死にたくなかった。必要とされないことよりも死による自己の消滅、それがとてつもなく恐ろしかった。だから唯一の生存の道であるエヴァのパイロットの座を求めて争い、たまたま勝ち取ることが出来た。ね、私とあなた、結果は同じように見えて実は、全然違う思考の末目的が収斂した、ただそれだけのことなのよ。今まで私達が蹴落としてきたあの子達だってそう、あなたからすれば皆同じように見えたかもしれない、でも私からはそれぞれ皆が違う子に見えたわ。それでも私は生きるためにあの子達を踏み台にしてしまったけれど」
ここまで話したところでもう一度アスカに問う。
「ほら、私とあなたは本当に同じ?少なくとも私はあなたと私は同じじゃない、式波・アスナ・ラングレーと式波・アスカ・ラングレーだと思ってるし、私は使徒との戦いを生き残る為にあなたを必要としているし、あなたの一番を奪おうなんてつもりもないわ。」
この時のアスカはもう、何がなんだか分からなくなっていた。
「…そ、そんなあんたの考えがどうとか、信用できるわけ無いじゃない!」
「それはそうでしょうね、私が一方的に告げているだけだもの、だからアスカ、」
私が生き残るために、いつまで続くかも分からない人生を楽しむためにも、
「仲良くなりましょ♪」
「…へ?」
「姉妹らしいこともいっぱいやろう、やりたいことをたくさんやろう、やりたいことが無かったら探して見つけてやろう、いっぱいお話しよう、その中で少しづつでいいから私がどんな人間なのか、どんなことが好きなのか、普段私がどんなことを考えているのか、どれだけ私があなたを必要としているのか、それを見て、聞いて、感じてお互いのことを知って仲良くなりましょ!」
「…っ」
伝えれるだけのことは伝えることが出来たと思う。
手応えはあった。
アスカの反応は今は顔を下に向けていて分からないがこの想いは伝わったと思う。
「だ、誰がアンタなんかと!」
しかし、そう言ってアスカは部屋の一つに逃げ込んでしまった。
だけど最初はこんなものだ。つい最近まで敵対していたやつに仲良くなろうと言われてすぐに仲良くなる方がおかしい。
けれども私はバグってるとはいえ式波タイプのクローン体、どのような言葉が一番刺さるかどうかなんて簡単にわかるのだ。
あれは堕ちるなと、私はアスカの逃げていった部屋に向かって暗黒微笑を浮かべていた。