―――――――――――――数十分前
白羽が控室を出た後…………
「…………???」
優木白羽は困惑していた。
(…………なんでだ??)
その理由は、先ほど穂乃果達を抱きしめることができたからだ。
知っての通り、白羽は女性に対して苦手意識を持っている。ツバキと真白のおかげでかなり弱まったとは言え、今でも女性を苦手としているのは変わらない。
それなのに…………先程は
「なんで………抱きしめようなんて思ったんだろう??」
そう言いながらも白羽は行動した理由を分かっている。3人の緊張をほぐす為。それが一番リラックス出来ると考えたから。しかし、何故すんなり行動出来たのかが分からなかった。今までなら、例えそれを考えついても女の子を抱きしめるなんてしなかったはず。
…………………………それなのに
自分の変化に困惑していた白羽だったが…………
「いや、今はそんなことどうでもいい」
頭を横に振り、直ぐに考えることをやめた。今考えるべきはそんなことじゃないからだ
「穂乃果さん……あの様子だと大丈夫そうだな。ここからは……………
…………"僕の仕事だ"」
ツバキの言う通り、チラシを見たお客さんが見に来てくれる…………そんな可能性はもう捨てたほうがいい
―――今、観客は誰も居ない。そんな
……………でも、泣いて欲しくない!!
嬉しい時に涙を流せば、次に来るのは喜びの笑顔。
悔しい時に涙を流せば、人は前を向き、その悔しさを糧にして成長する事が出来る。
だけど………
その後………笑顔にはなれない
……………だから、僕は人を泣かせたくないんだ
「ライブまであと30分…………急がないと」
白羽は急いでその場から離れ、とある場所に向かった
――――――――――――――――――――――――
白羽が講堂を離れ、やって来たのは1年生の教室だった。ここに来た理由は、ある人物を探しに来たのだ。
「ハァ……ハァ……あ、あれ?いない?」
教室に着き、中を見渡してみたがその人物の姿は何処にも居ない。考えてみれば、今日は一年生歓迎会。1年生である彼女が此処に居る可能性は低いのだが、今の彼にはそんな判断が出来ない程に焦っていた。
「あ、あの……!!」
白羽は教室にいた2人の先輩に声をかけた。教室にいないなら、闇雲に探すより人に聞いた方が効率がいい
「ん?どうしたの?」
「あ!君って中学の…………」
「はい。テスト生の優木白羽って言います」
「………それで、何か用かな?」
「あの……
(僕が探しに来たのは小泉さんだ。一番来てくれる可能性が高いのは間違いなくあの人だ!!それに、せっかく連れていくならライブを楽しんでくれる人の方が良いに決まっている。あの人なら、きっとライブを楽しんで見てくれる!!)
「小泉さん……?」
「ああ!あの眼鏡かけた人だよね」
「はい!そうです!どこにいるか知りませんか!?」
この時、僕は急いでいたので先輩に顔を近づけて詰め寄った形になってしまった。そのせいか、その先輩は少し驚きの表情を見せた
「っ!!?……………え、えっと~。小泉さんならさっき廊下で『ダレカタスケテ~~!!』って叫びながら誰かに引っ張られて行ったよ」
―――え?誘拐現場??大丈夫なのソレ?
「…………え、えっと~。それで、どこに行ったかはわからないですか?」
「うん………そこまでは」
「………そうですか。分かりました、ありがとうございます」
白羽は2人に頭を下げて礼を言った後、教室を出て行った。
「あの子って、確かスクールアイドルの先輩の手伝いしてる子だよね」
「………………………うん」
「ん?どうしたの?……って顔真っ赤じゃん!?」
「ねぇ…………あの子の顔って見たことある?」
「え?顔?……ああ、そういえば、あの子っていつも帽子を深くかぶってるから誰も顔を見たことないって有名なのよね」
「……………………すごく綺麗だった」
「え、何が??」
「…………あの子の顔」
この時、白羽は帽子をいつもより浅く被っており、少しだけ顔が見えていた。理由は周りを見やすくし、小泉花陽を探しやすくする為だ。
そのため白羽は先程詰め寄った時、あの先輩に顔を見られた事も当然気付いている。
………だが、そんなことは
今、彼の頭にあるのはμ'sの事だけ。あれだけ気にしていた周りの視線など
―――――――――――――――――――――――
「ハァ……ハァ…小泉さん、どこにいるんだろう?」
(もしかして、引っ張られていった場所って講堂?
いや、ならさっき教室に行った時にすれ違うはず)
あれから学院の敷地内を走って探し回ったが、花陽を見つけることは出来なかった。部活体験に行ったと考えた白羽は、彼女が行きそうな部活を手当たり次第に行ってみたものの成果は無かった。
「ハァ…ハァ……小泉さんが行くなら、文化系の部活だと思ったんだけど…………」
(演劇部、吹奏楽、合唱部、書道部、写真部……………文化系の部活には顔を出してみたけど、何処にもいなかったんだよなぁ。そこでも小泉さんの事聞いてみたけど、誰も見てないって言ってたし)
「読みが外れたかな?………………あれ?」
――――え、えっと~。小泉さんならさっき廊下で『ダレカタスケテ~~!!』って叫びながら
「……………………あ」
ああああああ!!!そうだったぁぁぁ!誰かに連れていかれたなら、その連れて行った人が行く部活なんじゃないか!!なら運動部もあり得る。なんで思いつかなかったんだ!!??
「お、落ち着け……一旦落ち着け………多分、連れて行ったのって星空さんだよね??」
この前会った時も一緒に居たし。あの人なら絶対に運動部に行きそうだし(超偏見)
………………でも、どこの部活に行ったんだろう?
「いや、考えていてもしょうがない!とりあえず……陸上部に行ってみよう!」
白羽はここから一番近い場所で活動している陸上部の元まで全速力で走った。
――――――――――――――――――――――――
「り、凜ちゃん……………」
「ん?かよちんどうしたの?」
「う、ううん…………」
「にゃ??」
「次の体験の人、どうぞ!!」
「あ!凜の番にゃ!!かよちん、行ってくるね~!」
「う、うん…………」
白羽の予想は当たり、花陽は凜と一緒に陸上部の体験に来ていた。もちろん、ライブを見に行くという約束を忘れたわけでは無い。
(ど、どうしよ~!もうすぐライブ始まっちゃうよ。優木君とも見に行くって約束したのに…………………でも、凜ちゃんすごく楽しそうだし)
凜と花陽は小学校から付き合いのある親友だ。花陽の性格上、親友があれだけ楽しそうにしていれば、言い出しづらくなってもおかしくはない。
(……………どうしよう)
「……………小泉さぁぁぁん!!」
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
花陽が頭を悩ませていると、後ろから突然、自分の名前を叫ぶ大きな声がグラウンドに響いた。それによって花陽だけじゃなく、凜やその場にいた人間はそちらに目を向けた。
「ゆ………優木君?」
花陽は声のした方に振り向くと、そこには汗だくの優木白羽の姿があった。彼は息切れを起こしており、肩で息をしている。
「ハァ……ハァ……よ、よかった……見つかって」
言うまでもないが先ほどの大声を出したのは白羽である。ようやく見つけられた喜びと興奮で想像以上に大きな声が出た。
「だ、大丈夫!?すごく汗かいてるけど…………」
「だ、大丈夫です。それより……ハァ……もう、すぐ……ライブが始まるんです!」
「っ!?」
花陽はその言葉を聞いて理解した。この少年は自分の事を探し回って、こんなに汗だくになったのだと。そんな彼の事を見て、花陽は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「優木く「お願いします!!」…っ!?」
花陽は約束を破ってしまった事を目の前の少年に謝ろうとすると、その少年は勢いよく頭を下げてきた。
「ライブ、見に行ってあげてください!!」
「ゆ、優木、君………??」
…………………………以前と雰囲気が違う
一瞬、花陽はそう思った。
花陽が白羽に抱いていたイメージは落ち着いていて物静かな男の子だった。なので、花陽は今の少年を見て少し困惑した。
―――本当に…………この子は優木白羽なのかと
『何々?どうしたの?』
『さぁ?なんかあの子が急に来て………』
『あの子って、中学のテスト生の子だよね………』
周りにいた陸上部の生徒や体験に来ている学院の生徒は突然現れた白羽に注目している。いつもなら目立つことは嫌いな白羽だが、今は全く気にしていない。そんなことより目の前にいる少女をライブに連れていく事の方が大事だからだ
「あの人達は…………本当に頑張ってきたんです!!今日の為に……学校を廃校から救う為に!だから、お願いします!観に行ってあげてください!!」
「優木君……………」
この時、花陽は驚きの表情を浮かべた。この少年は見に行くという約束を破ってしまった事をまったく気にしていないのだ。口約束とは言え、ライブに行くと言った人間がこんな所にいれば文句の一つを言ってもおかしくは無いのに。
「か~よちん!!どうしたの?」
「あ、凜ちゃん………」
白羽と花陽が話していると、凜が騒ぎを聞いて二人の元に駆け寄って来た。
「あ!たしか優木君だよね?」
「は、はい。お久しぶりです、星空さん」
「うん!それで、かよちんに何か用にゃ?」
「はい。実は――――」
白羽は凛に事情を説明した。
「――――というわけなんです」
「ご、ごめんね!凜が無理矢理かよちんを連れてきたから。そういうことなら、かよちん!行っておいでよ」
「で、でも………」
「いいから!かよちん昔からアイドルが好きだったもんね!」
「凜ちゃん………」
「ほ~らっ!行っておいで。凜も後から行くにゃ!」
凜は花陽の手を握り、笑顔でそう言った。
「……………うん!!」
花陽もそんな凜に笑顔で返事を返した
「ありがとうございます!!じゃあ行きましょう!え~っと……ライブまであと………え”?」
白羽が時計に目を向けると、そこには午後3時57分と表示されていた。ライブの開始は午後4時。つまり、ライブまであと3分も無い。
――――ヤ、ヤバい!!!このままだとヤバい!!
白羽は冷や汗をダラダラと流しながら、これでもか言うほど顔を真っ青にした。
「こ、小泉さん!!」
「は、はい!……………へっ!!??」
「急ぎますよ!!」
白羽は花陽の手を掴んで、全速力でグラウンドから走り去り講堂へと向かった。中学生とはいえ突然男子から手を握られ、かなりのスピードで引っ張られる。
そんな状況になれば……
「ダ、ダレカ…………ダレカタスケテ~~!!」
………と、花陽が叫んだことは言うまでもないだろう
―――――――――――――――――――――
そうして、2人は息を切らしながら講堂へとやって来た。走り回った白羽はもちろん、かなり急いで来た花陽も額から汗が流れている。
「ハァ………ハァ………あ、あれ?ライブは……?」
「ハァ……ハァ……すみません。少し………遅れました」
白羽は呼吸を整えながら壇上にいる3人に目を向ける。
(良かった、泣いてない……………なんとか、ギリギリ間に合った)
ステージにいる3人の瞳は確かに濡れていたが、決して泣いてはいなかった。それを見た白羽は安心して少し微笑んだ。
「…………白羽君……………花陽ちゃん」
穂乃果達は白羽の姿を見ると、安心したのか、先程まで流れそうになっていた涙は目から溢れ落ちる事はなかった。
「あ、あれ?………ゆ、優木君。もしかして…………もうライブ終わっちゃった?」
花陽はもうすでにライブが終わってしまったのかと不安になり、白羽の隣でオロオロしている。
「……………」
花陽の言葉を聞いて、白羽はもう一度ステージにいる3人の顔を見た。
そして………
「いえ!大丈夫ですよ!これから始まるんです!!」
………精一杯の笑顔を浮かべてそう言った。
「ほら!せっかくですから、真ん中で一緒に見ましょう!!」
白羽は花陽と繋いでいる手をもう一度引っ張り、ステージが見やすい真ん中に連れて行く。
「え?う、うん」
見やすい位置に着くと、再び白羽はステージに目を向ける。
普通の人間なら、ここで『頑張れ!』や『大丈夫!』などと、励ましの言葉を3人にかけていただろう。
しかし………優木白羽は声を掛けない
…………ただ、彼女達を優しく見守るだけだった
少年の笑顔を見た瞬間、穂乃果の心は暖かい気持ちでいっぱいになった。
不安……恐怖……悲しみ……絶望……痛み……
まるで……先程まで心にへばりついていたそれらのモノが、一瞬で壊されたように……
そして、いつの間にか身体の震えは止まっていた。
(僕の伝えたい事は、もう全部伝えた…………)
―――僕も聴きたいです。皆さんの………μ'sの歌を
(もう十分伝えた…………もう、言葉は必要ない)
―――見せてください。最高のライブを!!
(僕は…………
「…………やろう!!」
―――
「え………?」
「歌おう!全力で!!」
「穂乃果…………」
「だって………そのために今日まで頑張って来たんだから!!」
ステージにいる穂乃果は前をしっかり向き、ことりと海未を言葉で鼓舞した。
彼女の瞳からは……先程までの悲しい気持ちは微塵も感じられない。
「歌おう!!」
「穂乃果ちゃん…………海未ちゃん!」
「ええ!」
穂乃果の言葉に勇気を貰い、ことりと海未は再び前を向きなおした。そして、ライトが消え、ステージが暗くなると3人は配置に着き始める。
「小泉さん…………」
穂乃果達が配置に着こうとしている時、観客席では白羽がステージに視線を向けたまま、隣にいる少女の名前を呼んだ。
そして…………
「ありがとうございます………」
「え……?」
………静かにお礼を言った。
隣にいる白羽から突然お礼を言われて、花陽は何に対してのお礼なのかわからずに、困惑の表情を浮かべた。何に対してなのか聞こうとしたが、白羽はステージに集中しており、とても聞けるような雰囲気ではなかった。
だが、尋ねなくても何となくは理解できた。
当然、花陽も気づいている。
このライブに来た観客は自分以外に居ないことを。
もし、自分が来なければ、観客は誰もいなかった。そんな状態ではライブをすることは出来なかっただろう。おそらくこの少年は、ライブに来てくれた事………あの先輩達を勇気づけるきっかけになったことに対してお礼を言ったのだと花陽は思った。
しかし、花陽は自分が来たから、あの先輩達が元気になったとは微塵も思っていなかった。
ステージにいる彼女達の顔を見ればわかる。
きっと………あの人達の支えになっているのは、隣にいるこの少年なのだと。
「優木君……………」
「……………………」
花陽はお礼を言う必要はないと伝えようとしたのだが、その少年に彼女の声は届かなかった。なぜなら、白羽は瞬き一つせず、ステージにいるμ'sを見守っているからだ。
………そして、今から始まるライブを全力で楽しもうという気持ちで溢れていた。そんな彼を見て、花陽も余計な事は考えず、今はただこのライブを楽しもうと思い、ステージへと目を向けた
そして…………μ'sのライブが始まる
ステージは暗転し、歌が流れだした。それと同時にスポットライトが彼女達を照らした。
――――――――START:DASH!!――――――――
それが…………μ'sがこのライブで歌う曲だ。
海未が歌詞を考え…………
白羽がダンスを作り…………
真姫が作曲した歌…………
曲が始まり、彼女たちが踊りだすと少しずつ白羽と花陽以外にもお客さんが集まって来た。
ある少女は小泉花陽を追いかけて…………
ある少女は自分の作った曲が気になって…………
ある少女はまるで計画通りだと言わんばかりに………
ある少女はアイドルを辞めさせるために…………
ある少女は彼女達を批判するつもりで…………
彼女達を応援する人間、ライブを純粋に楽しむ人間、そうじゃない人間。それぞれがそれぞれの思いで、彼女たちのライブを見ていた。そして、ライブを見ている観客は彼女達の歌やダンスに様々な気持ちが込み上げてきた。
小泉花陽は憧れた。
以前、彼女達と会った時は自分となんら変わらない普通の女子高生だという印象だった。しかし、ステージに立った彼女達は紛れもなくアイドルだった。
子供の頃から憧れているアイドル。そして、自分には向いていない……叶わないと思い諦めた
いつか………いつか自分も、彼女達みたいになれればという思いを胸に抱きながら
星空凜は魅了された。
正直、親友を追いかけてここに来なければ、このライブに興味すら抱かなかっただろう。でも、いつの間にか彼女達の歌とダンスに目が離せなくなってしまい、完全に魅了されていた。彼女がここまで夢中になった理由は、歌やダンスだけではなく、ステージで踊っている穂乃果達の可愛さにあった。自分には似合わない素敵な衣装に身を包み込んだ彼女達を見て、凜は胸が熱くなってくるのを感じていた
西木野真姫は驚愕した。
真姫はμ'sのライブに興味を持っていなかった。
でも、自分の作った曲がどんな風に披露されているかが気になり、講堂へと足を運んだ。そして、ライブが始まると彼女達の歌に引き込まれた。以前、あの少年の言っていた通りだった。アイドルの事を遊んでるみたいなんて言ってしまったけど……そんなことない!彼女達からはしっかりと一生懸命さや真剣にやっているという気持ちが伝わってくる。そんな彼女達に自分が作った曲を歌ってもらい、誰かに届けてくれている。そのことが嬉しくなり、少女は少し笑みを浮かべた。そして、ライブを………いや、彼女達をもっと見やすいように、講堂の中へと入っていった。
東条希は微笑んだ。
何もかも計画通りといった表情を浮かべて。
きっとあの3人……………いや、あの
だから彼女もμ'sと同じように、廃校を阻止する為。
何より、周りが見えなくなっている親友の為に動く。
絢瀬絵里は認められなかった。
彼女達の歌や踊りはまだまだ未熟。たまにリズムがズレている部分もあるし、ステップを間違える事も少なくない………………やはり、スクールアイドルの活動は音ノ木坂学院にとってマイナスになる。そんなものを認める訳にはいかないと思い、彼女は強張った表情でライブを見届けた。
矢澤にこは嫉妬した。
『羨ましい』…………彼女達を批判するつもりで隠れながらライブを見ていると、そんな気持ちが湧いて来た。誰かに強制されたわけでは無く、1人1人が楽しそうにやっている。自分達のやりたいことを全力でやっている。自分では出来なかった
そして……………優木白羽は感動した。
この一ヶ月、白羽はダンスを学ぶために他のスクールアイドルの動画を何度も見た。正直に言って、歌もダンスも有名なスクールアイドルと比べると、まだまだ未熟なものだ。
それでも…………白羽はμ'sから目を離すことが出来なかった。練習で何度も見てきたにもかかわらず、目を奪われてしまった。一瞬たりとも目を離したくなかった。瞬きすらしたくないと思えるほどに。
こんな気持ち、他のスクールアイドルの動画を見た時は感じ無かった。白羽にとって、今の
そして……………ライブは終わりを迎える
彼女達が歌い終えると、講堂には拍手が響く。
それは………お世辞にも盛大な拍手とは言えないものだった。
10人足らずのまばらな拍手。
しかし、適当に拍手する者は誰も居なかった。
ライブをやり切った彼女達に向け、1人1人がしっかりと思いのこもった拍手を送った
素晴らしいライブを見て、満足そうな笑顔で拍手する小泉花陽
彼女達のライブに圧倒されて、口をぽかんと開けながら拍手する星空凜
彼女達を労うように拍手する西木野真姫
白羽と共に、ずっと彼女達を支えてきたヒデコ、フミコ、ミカも頑張った彼女達に優しい拍手を送った
そして………誰よりも近くで見守ってきた優木白羽はこの場にいる誰よりも大きく、そして精一杯の優しさを込めた拍手を壇上にいる彼女達に送った
「穂乃果さん、ことりさん、海未さん…………………本当に…………本当によく頑張りました」
白羽は拍手だけではなく、言葉にして彼女達に伝えた。今の気持ちを表すためには拍手だけでは無く、しっかりと言葉で伝えたなければ足りないと思ったからだ
「白羽君…………」
「シロ君…………」
「白羽…………」
彼女たちにとって彼からのエールは言葉に出来ない程嬉しいものだった。3人は今まで支えてくれた彼のもとに駆け寄ろうと、ステージを降りようとした時、 1人の女性がステージに向かって歩いて来た。
「生徒会長……………」
穂乃果がそう呟くと、白羽も後ろを………絢瀬絵里の方に目を向けた。
「絢瀬さん……………来てくれたんですね」
「……………えぇ」
絵里は白羽の質問に一言だけそう答え、ステージに目を向けた。その顔は絶対に彼女達を認めないという厳しい表情だった。
「……………どうするつもり?」
絵里の質問の意味は、白羽、穂乃果、ことり、海未の4人にしかわからないものだった。
スクールアイドルを続けるか否か…………
ライブは確かにやり遂げた。
だが、このライブは誰がどう見ても失敗だった。
完敗だった。
それは、ここに居る全員が分かっている。
これが現実………努力しても成功するとは限らない。このまま続けても、結局何も変わらないのかもしれない。
それでも…………………………………
「続けます!!」
穂乃果はその事実が分かっていても、絵里に対して何の迷いもなく、はっきりとそう言った。
「なぜ?………これ以上続けても、意味があるとは思えないけど」
絵里は誰もいない観客席を見渡してそう言う。
まるで、『現実を見ろ』とでも言わんばかりに
「
「っ!!??」
その言葉を聞いた瞬間…………白羽の心が震えた
「今、私もっともっと歌いたい、踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんも、ことりちゃんも」
穂乃果はそう言って、両隣にいることりと海未の顔を見る。そして、その言葉を肯定するように2人は微笑んだ
「こんな気持ち初めてなんです!やって良かったって本気で思えたんです!」
(…………穂乃果さん)
白羽は自分の想いを吐き出す彼女の名前を、心の中で呼んだ。
彼女の言葉に心を震わせながら
「今はこの気持ちを信じたい。このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない……………でも、一生懸命頑張って、私達がとにかく頑張って届けたい!今、私達がここにいるこの想いを!!」
彼女の言葉に多少なりとも心を動かされたのは、白羽だけではなかった
「いつか……いつか私達、必ず……ここを満員にしてみせます!!」
穂乃果は言い切った。
自分の気持ちを……
自分の想いを……
自分の目標を……
………そして、
「そう…………分かったわ。せいぜい足搔くことね」
穂乃果の言葉を聞いて、絵里はそれだけ言い残して講堂を出て行った。
「あっ……………」
白羽は絵里にライブを見に来てくれた礼を言いたかったのだが、そんな空気ではないので、また後日にすることにした。
(きっとあの人は、穂乃果さん達を否定する為にライブを観にきた。そんな事分かってる………)
白羽は絵里が善意でライブを観にきてくれた訳ではないと分かっている。だが、どんな理由でも、ライブに来てくれた事は嬉しかった。
「…………白羽君」
「穂乃果さん…………」
絵里の方に目を向けていると、いつの間にか穂乃果達はステージを降りて白羽の元まで駆け寄っていた。
そして…………
「白羽君!!」
「シロ君!!」
「白羽!!」
「うわっ!!?」
3人は白羽を思い切り抱きしめた。今まで支えてくれたこと、助けてくれたこと、自分たちの感謝の思いを全力で表すために。
なにより……………みんなでライブをやり切ったという喜びを分かち合う為に
「ありがとね、白羽君!」
穂乃果は少年に、助けてくれた事に対して笑顔でお礼を言い……
「シロ君………シロ、くん」
ことりはライブをやり遂げられた事を安心し、少年の名を呼びながら腕にしがみついて………
「白羽……わたし………わたし、頑張りました……」
海未は泣きながら白羽の胸に顔を埋めている。
「お疲れ様でした…………本当に………よく頑張りましたね」
白羽はそんな彼女達を優しく受け止め、力一杯抱きしめた。
白羽に抱きしめられると、3人も精一杯力を込めて抱きしめ返した。泣いていた海未も少しずつ笑顔になっていき、数秒後には4人共、笑顔でお互いを抱きしめ合っていた。
そして……………彼女達の笑顔を見た白羽は、自分の気持ちにようやく気が付いた。
―――――ツバキ、見つけたよ。
―――――いや……気づかなかっただけで、ずっと前から見つけてたんだと思う。
―――――僕のやりたい事……………