純白の少年とスクールアイドルの物語   作:ハトル

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純白の少年

 

 

―――――――――――――翌日

 

 

白羽はカーテンの隙間から差し込んでくる日の光に目を覚ます。昨日の疲れがまだ取れていないのか、体が思うように動かない。あまりの眠たさに二度寝しようかと考えたが、学校に遅れてしまうかもしれないので、無理矢理に身体を起こした。

 

太陽によって暖められていく空気の匂いを嗅ぎながら、重い身体をフラフラと動かし洗面台へと向かう。

 

 

洗面台で顔を洗い終え、自室に戻って来た白羽は中学の制服に腕を通し、学校に行く準備を完了させた。

 

 

 

 

「兄さん、おはようございます」

 

「ん……………ぉはよ〜」

 

「ふふっ、いつにも増して眠そうですね」

 

真白はリビングにやってきた兄のとろんとした顔を見て、少し微笑む。瞼は上がりきってなく、眠たそうにウトウトしている白羽の表情はとても愛らしいものだった。

 

「少し待っててください。眠気覚ましにコーヒーでも淹れます」

 

「ん………」

 

白羽は真白の言葉に力なく頷いて、テーブルに用意されていた朝食に手をつけ始める。

 

「………どうぞ」

 

「ん……ありがと」

 

真白からコーヒーを貰い、それをチビチビと飲む白羽。それを見てクスクスと笑いながら真白も朝食を食べ始める。

 

(ふふっ、兄さん可愛いです♡それに、今は2人きり……)

 

「おはよう!!我が子達よ!今日もいい天気ね!!」

 

真白が白羽との二人っきりの時間を堪能していると、朝だというのにバカみたいに高いテンションで母がリビングへとやって来た。せっかくの二人っきりの時間を邪魔されてしまった真白は怒りの感情が湧いてくる。

 

「………………チッ」

 

「真白………アンタ今、舌打ちした??」

 

「いえ、気のせいです♪」

 

「いや、でも「気のせいです♪」……ア、ハイ」

 

真白の黒い笑みを見て、これ以上追求しようものなら殺されると判断した母は大人しく口を閉じた。

 

※英断だった

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ行ってくるよ」

 

朝食を食べ終えた白羽はすっかり目を覚ましたようで、席を立ち玄関へと向かった。いつも通り、真白も見送るために白羽の後を着いていく。

 

「はい。兄さん、コレを……」

 

真白は白羽にいつも使っている帽子を差し出した。しかし、白羽は首を横にふり、受け取らないという意志を示した。

 

「今日から()()()()()()()事にしたんだ」

 

その顔は今まで見せていた何処か怖がっているような表情ではなく、勇気に満ち溢れた笑顔。

とても綺麗で、美しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――昔、見せていた笑顔程ではないが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!……………そうですか」

 

真白は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに笑顔を浮かべる。

 

「はい、兄さんはその方が素敵です!」

 

「ありがとう、じゃあ行ってき「兄さん」……ん?」

 

「ハグ………お願いします」

 

真白は腕を横に広げ、満面の笑みでハグを要求する。

 

「はいはい………ほらっ!ギュ〜〜〜ッ!」

 

白羽は真白を自身の胸元に引き寄せて、両腕でギュッと抱きしめる。それも、息が止まるほどに力強く。優しく抱きしめられるより力一杯抱きしめる方が真白はお好みらしい。

 

「苦しくない?」

 

「はい………頭も撫でてください」

 

「うん……よしよし」

 

白羽は背中に回していた右手を真白の頭に持っていき、サラサラの髪を傷つけ無いように優しく撫でる。

 

(暖かくて………優しい。やっぱり、兄さんは誰にも渡したくありません………)

 

頭を撫でられた真白はさらに幸せそうな笑顔を浮かべ、兄の温もりを心ゆくまで堪能する。

 

「あの〜〜、真白さん?そろそろ……」

 

「もう少しお願いします」

 

「あ、はい」

 

真白は白羽の制服を掴み、離れないようにした。

 

(ふふっ……今日は甘えたさんなのかな?)

 

自分の妹の可愛いらしい姿を見て、ほわほわな気持ちになる白羽。少しの間、可愛いワガママに付き合ってあげようと決めて頭なでなでを再開した。

 

 

 

 

 

 

「すみません……もう大丈夫です」

 

「ふふっ……満足した?」

 

「はい……ありがとうございます」

 

「そっか……じゃあ、行ってくるよ」

 

そう言って白羽は家を出て、学校へと向かった。

 

白羽は女性を苦手になった事をきっかけに帽子を被り、自身の顔を隠し続けてきた。

 

……………まるで何かから怯えるように。

 

そんな兄が帽子無しで外に出ることが出来た。兄が一歩踏み出してくれたことは、妹として喜ばしい事であった

 

「…………………兄さん」

 

傍から見たら些細な事かもしれない……しかし、確実な前進

 

「嬉しそうね。大好きなお兄ちゃんが成長して」

 

「母さんもですよね」

 

「母親だもの、当然嬉しいわよ。あの子は変わり始めてる。いや、正確には()()()()()()のかもしれないわね。あの()()が起こる前の優木白羽(あの子)に……」

 

「…………どちらにしろ、いい傾向です。穂乃果さん達には感謝しなければいけません」

 

「そうね………………それはそうと、このままだとお兄ちゃん取られちゃうわよ〜?」

 

真白の母は揶揄うようにニヤニヤしながらそう言った。自分の娘がブラコンなのは勿論知っている。この母親の性格上、それを否定したりしない。だが、白羽の周りには今まで女が少ない状況だったので、揶揄う事が出来なかった。そして今、ようやく揶揄うチャンスが来たと思い、どんな反応をするかワクワクしている。

 

「いえ………兄さんは誰にも渡しません。そもそも兄さんは穂乃果さん達を恋愛対象として見てませんし」

 

(穂乃果さん達は不憫ですけど、兄さんがそう簡単に乙女の恋心に気付くとも思えませんし)

 

 

「いや、アイツも年頃だから分かんないわよ。あんなに可愛い子達が近くにいたら、案外簡単にコロッと落ちて「母さん」……ん?」

 

「今日から一週間、母さんの晩ご飯はカップ麺にしますね♪」

 

「すいませんでした!!!」

 

真白が母親に向けたのは、この世の男すべてを魅了するんじゃないかと思うほど綺麗な笑顔だったが、母には悪魔の笑みに見えた。

 

この時、1人の母親が自分の娘を二度と揶揄わないことを心に誓った。

 

そして、小学5年生の幼気な少女が大の大人を土下座させるという、傍から見ればやばい光景が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ん~~今日もいい天気」

 

家を出た白羽は体を伸ばし、いつも通り登校している。いつもと同じ桜並木の道、いつもと同じ町の風景、いつもとなんら変わらない朝。

 

だが、今までの日常とは全く違うことが1つだけあった。

 

「やっぱり帽子を外すと周りが見やすいな」

 

この数年間、白羽が外に出る時は必ず帽子を被っていた。そんな彼が数年ぶりに外で顔を出し、爽快感を味わっていると―――

 

「なんか………すべてが見える!!」

 

―――まるで神のような事を口走った。

 

今まで感じることが出来なかった風を久しぶりに肌で感じることが出来たのだ。新鮮な気持ちになり、テンションが上がってもしょうがない。

 

 

「ねぇ!あの人だれ!?」

 

「外国人?」

 

「髪白っ!!」

 

「綺麗…………」

 

 

今日は特に早い時間に登校しているわけではないので、周りには当然、学院の生徒や中学の生徒、違う学校の生徒など色々な人がいる。そんな人達は男女関係なく白羽の顔に目を奪われた。珍しい髪色をしていることで元々人目には付きやすいのだが、それだけではない。本人に自覚はないが、白羽の顔が整っていることも注目されている要因の一つだろう。

 

 

そんな白羽は…………

 

「あ、そういえば!今日から体育始まるんだよね。楽しみだな~!」

 

周りの視線など気にせずに……というか気づかずに、年頃の男子中学生のような事を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着き、白羽は自分の教室に入る。すると、教室内にいた全員がびっくりしたような視線を白羽に向けた。

 

「え?…………誰?」

 

「何あの人…………」 

 

「綺麗な髪…………」

 

 

そして、何人かの女子生徒がそう呟いた。

 

突然、教室に白髪の美少年が入って来た事により、教室内にいた人間は言葉を失い、息を呑む。

 

 

それ程までに……白羽の容姿は、人を惹きつける魅力で溢れていた。

 

 

 

この学校にいる男子は白羽一人なのだから、普通は彼だと気づくはずなのだが、クラスの女子達が知っている優木白羽とは印象が違いすぎて、この少年が優木白羽だと気付けなかった。

 

そんな女子達の声や視線も白羽はなんら気にすることなく、自分の席に腰を下ろす。それから少しすると教室には桜が登校してきて、白羽の隣の席に座った。

 

「ヤッハロー!しろはっち!昨日はうまくいったの?」

 

「うん。何とかね」

 

桜はいつもの独特な挨拶と一緒に白羽のあだ名を呼んだ。それを聞いたクラスの女子はようやく、目の前にいる男子生徒が優木白羽だということに気が付いた。

 

そして…………

 

【ええええええええ!!!??】

 

 

 

教室……いや、この学校中に女子達の声が響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

「優木、君……??」

 

「ん?…………あ、おはよう」

 

1人の女子生徒が体を少しモジモジさせながら白羽に近づいてきた。それをきっかけに教室にいたほとんどの女子生徒が近づいてきて、白羽を囲うようにして立った。

 

「その声………本当に優木君なの!?」

 

「………………うん、そうだよ。驚かせちゃった?」

 

今まで誰にも話かけてもらえなかったのに、突然話かけられて驚いた白羽は少し間を置いて、彼女の質問に答えた。それを聞いた女子達はそれぞれ反応を見せる。

 

「う、うん………」

 

「ほんとにびっくりしたよ~」

 

「何で帽子取ったの?」

 

「まぁ………ちょっとした気分転換だよ」

 

本当は違うのだが、わざわざ説明するのもめんどくさいので、白羽は一番納得しやすそうな答えで返した。

 

「変………かな?」

 

「「「「「!!!!???」」」」」」

 

白羽は口元に手を当てながら、少し首を傾げて自分を取り囲んでいるクラスメイトにそう聞いた。その仕草に周りにいた女子は顔を紅潮させて、頬に手を当てた。

 

以前、穂乃果が白羽の事を綺麗と言っていたように、白羽は間違いなく綺麗な顔をしている。ぱっちりとした大きな銀の瞳、きめ細やかな白い肌、作り物ではないことがすぐに分かる程の綺麗な白い髪。白羽はまさに『容姿端麗』『眉目秀麗』と言った言葉が似合う容姿をしていた。

 

そんな男子から、そんな仕草をされれば年頃の女の子はドキドキしてしまう。

 

「そ、そんなことないよ!!」

 

「う、うんうん!」

 

「そうそう!……むしろ、その……良すぎると言いますか

 

 

今までの白羽は帽子で顔を目元まで隠していることもあり、話しかけづらい印象が強かったが、今はまるでお伽話から飛び出してきたような幻想的な容姿をしているので、その印象は消え去った。白羽の事を離れて見ていた女子達も頬を染めながらぎこちなく白羽の話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………疲、れた」

 

「大丈夫?」

 

「全然…………」

 

「だよね………」

 

昼休みに入り、白羽と桜はいつも通り屋上で一緒に昼食をとっている。白羽が疲労している原因は、休み時間になるたびにクラスメイトの女子達が自分の周りに集まって来たからである。昨日までの独りぼっち生活が嘘のように人が周りに来て、しまいには他クラスの人間まで来たくらいだ。

 

「やっぱり……………まだ苦手みたいだ。女の子」

 

「治ってないんだ?女性に対する苦手意識」

 

「………………………うん」

 

(治ってると思ったんだけど…………やっぱり、そう簡単にはいかないか)

 

白羽がこんなに疲弊しているのは質問攻めにあっただけではなく、自分が苦手としている女子に囲まれたことが大きい。穂乃果達、μ'sのメンバーとは触れ合う事が出来たので、克服できたのではと考えたが、やはりだめだったようだ。

 

朝に囲まれた時も会話は何とか出来ていたが、内心では今すぐ逃げ出したいと思うくらいにはキツイと感じていた。

 

「桜……ありがとね。色々フォローしてもらって」

 

白羽がなんとか昼休みまで体調を崩さずにこれたのも、休み時間中に桜が色々とフォローしてくれたからである。先ほども、白羽はクラスの女子から『一緒にお昼食べよう!!』っと誘われていたのだが桜がキッパリと断り、なんとか屋上まで逃げてきたのだ。

 

「気にしないでいいよ。あのままだと、しろはっちが本当に倒れそうだったしね…………それに、ちょっとムカついてたし

 

今まで白羽に対して散々無視したり、根も葉もない噂を流したりしていたくせに、顔を見たとたんに手の平を返してくるクラスメイトの女子達に、桜は良い感情を抱かなかった。

 

「ん?なんか言った?」

 

「ううん、何でもないよ。それより、早くご飯食べよ。次体育だから急がないと」

 

正直、文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、その事について白羽は特に気にしていないので、桜もイライラの感情をあまり表には出さないようにしていた。その事を口にしても白羽は良い思いをしないし、せっかく友達が一歩踏み出したのでそんな野暮な事はしない。

 

「うん、そうだね。いただきます」

 

桜は白羽が帽子をとった事には特に聞かなかったし、驚きもしなかった。まるで、そうなることが分かっていたみたいに。しかし、いつもと何ら変わらずに接してくれる桜に居心地の良さを白羽は感じていた。

 

「いまさら聞く必要ないと思うけど…………続けるの?」

 

「え、何を?」

 

先輩達(スクールアイドル)の手伝いの事よ」

 

「…………うん、続けるよ。今は『助けたい』じゃなくて『やりたい』って気持ちがしっかりあるから!」

 

「……………そっか!」

 

白羽の答えを聞いて、桜は笑みを浮かべた。正直、彼の顔を見れば答えは分かっていたのだが、実際に彼の口から聞くと、友人が成長したのだと感じて嬉しかった。

 

「そういえば………今日の体育って何するの?」

 

自分一人だけ男なので体育の内容に少し不安になってきて、白羽は質問した

 

「確か、3年生と合同でドッジボールって言ってたよ」

 

「ドッジボールか…………」

 

「うん…………」

 

2人は顔を見合わせて…………

 

「「楽しそう!!」」

 

…………満面の笑みでそう言った。

 

やはり二人ともまだ中学一年生。体育の授業は楽しみだし、その内容がドッジボールだと聞くとテンションが上がるのは当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

昼ご飯を食べ終えた白羽は穂乃果達に会いに行くため、学院へとやって来ていた。特に用事があるわけでは無いのだが、桜から『せっかくなら、帽子取ったこと先輩たちにも報告してくれば?』と言われたので、そうすることにした。

 

「よくよく考えてみれば………何だよ?帽子取った事をわざわざ報告って?」

 

来てみたものの、よく考えてみれば別にわざわざ報告することでもないのでは?と思い始めた白羽。ちなみに、なぜ桜がそんな事を言ったのかというと、この姿の白羽が学院に行くとなんか面白い事が起きそうと思い提案したのだ。

 

つまりは、ただの娯楽である

 

 

 

 

 

「なんか視線が………………まぁ、いっか」

 

向かう途中、何人かの学院生徒とすれ違ったのだが、やはり白羽は注目されていた。最近は生徒たちも慣れてきたのか、男の白羽が学院を歩いていても特に視線を集めることは無かった。それ故に一か月ぶりに向けられる多数の視線に少しだけ戸惑っていた。

 

 

 

 

「失礼します……………」

 

教室に着いた白羽は挨拶をしながら扉を開けた。この一ヶ月、何度もこの教室に来たが、昼休みに来たのは初めてだったので、内心少し緊張していた。

 

「……………………ん?」

 

教室に入ると、中にいた女子生徒は白羽の方に注目した。そして、次の瞬間………………

 

「「「「「………………き」」」」」」

 

「き?」

 

「「「「「きゃあ~~~~♡」」」」」

 

……………本日2度目である、女子生徒の叫び声が学院中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ボクは何て名前なの?」

 

「え~っと……………優木白羽って言います」

 

「白羽君かぁ~」

 

「可愛い〜♡」

 

「肌白~い」

 

穂乃果達に会いに来たのだが、今白羽は学院の先輩たちに囲まれてしまっている。先ほどと似たような状況だが、ここには助けてくれる桜はいないので、かなり困っている。

 

まぁ、当然白羽は……………

 

(穂乃果さん、海未さん、ことりさん…………………タスケテクダサイーー!!)

 

……………このように、今すぐにでも逃げ出したいと思っている。

 

ちなみに、穂乃果達は丁度席を外していて教室にはいなかった。なのですぐに去ろうとしたのだが、先輩達に捕まってしまい今の状況になっている。

 

「ねぇ、その髪って生まれつき??」

 

「は………はい」

 

「………………………ちょっと触っていい?」

 

「えっ!?……………………」

 

「あ、ズルーい!!」

 

「私も触りたい!!」

 

一人の生徒が白羽の髪に触りたいと言い出し、それを聞いた周りの生徒も自分も触りたいと言い出した。白羽の髪はなんとなく触ってみたくなるふわふわ髪なので興味を示しても不思議ではない

 

(絶対嫌だ!!触られたくない!!)

 

「えっと………触るのは………ちょっと」

 

白羽は触られることを拒否して、彼女達から少し距離を取ろうとしたが、一人の女子生徒が白羽の腕をつかんだ。

 

「っ!!?」

 

白羽は腕を捕まれてしまった事に驚きと()()の表情を浮かべた。腕を振り払おうとしても相手は年上、しかも白羽は非力なので全然はがすことが出来ない。

 

「は……離してください……」

 

「コ〜ラッ、暴れないの」

 

「いいじゃん!ね!ちょっとだけ」

 

「うんうん!ちょびっとだけだから」

 

そう言って白羽の髪に触ろうと、彼女達は手を伸ばし始める。それを見た白羽は少し涙を浮かべながら、もう一度断るために力なく声を出した。

 

「あ、あの……ヤ、ヤメテク「白羽君?」………穂乃果、さん?」

 

「白羽?」

 

「あ!シロ君、どうしたの?」

 

「海未さん………ことりさん……」

 

もう一度断ろうとした時、教室に穂乃果、ことり、海未の3人が帰って来た。それを見た白羽は救世主が現れた気持ちになり、素早く穂乃果の元まで駆け寄った。

 

「えっ!?白羽君、帽子はどうしたの?」

 

「白羽?」

 

「シロ君?」

 

「………………………」

 

白羽は穂乃果の元まで駆け寄り、何も言わずに穂乃果の後ろに隠れてしまった。そして、白羽は穂乃果の背中に顔を埋め、離れないように制服を掴んだ。普段大人っぽい白羽の可愛らしい行動に穂乃果達は母性本能を爆発させた。

 

(((………か、可愛い〜〜!!)))

 

特に穂乃果は今、制服を掴まれているので普段の白羽とのギャップにやられていた

 

「ん”んん”…………………皆、白羽に何かしたんですか?」

 

海未は自分を落ち着かせるために、咳払いを一つしてからクラスメイトを問いただす。

 

「いや、ごめんね園田さん。あんまりにも優木君が可愛かったから」

 

「うん。ごめんね白羽君、怖かったかな?」

 

「そりゃ怖いでしょ、年上の人に囲まれたら」

 

「アンタも囲んでたでしょうが!」

 

それから、怖がらせてしまった白羽に穂乃果のクラスメイト達は謝罪し、白羽も謝罪を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、白羽はせっかく来たのだから穂乃果達と次の授業が始まるまでお話しすることにした。当然、なぜ急に帽子を取ったことも聞かれたが………

 

『貴女達が大切だと気付きました!!だから一歩踏み出せたんです!!』

 

………なんて事を言うのは白羽でも流石に恥ずかしい

 

そんな訳で理由を説明するのはちょっと恥ずかしいと思い誤魔化しておいた

 

 

 

 

そして、白羽は今………

 

「いや~優木君。めっちゃ可愛いね」

 

「いつまでも撫でてられる」

 

「兎さんみたい」

 

「………………………ど、どうも」

 

教室に戻って来たヒデコ、フミコ、ミカの三人にペットのように可愛がられ、ワシワシと撫でられていた。

 

(ま、まぁ……ヒデコさん達なら……別にいっか)

 

知り合いでもなんでもない人間に触られるのは嫌だが、ヒデコ達には昨日のライブでお世話になったので、白羽も強く拒否しない。

 

「「「…………………………」」」

 

しかし、穂乃果達は白羽が撫でられている光景を黒い笑顔を浮かべて眺めている。いくら友達のヒデコ達とはいえ、他の女に自分達が好意をもっている少年がベタベタ触られているのだから、面白くないのも当然である

 

(むぅ~~)

 

(シロ君のバカ………)

 

(なんか………イラッときますね)

 

ことりだけではなく、今は穂乃果と海未も黒い笑みを浮かべて白羽を見ているので…………

 

(…………………………………な、なんか怖い)

 

………白羽は穂乃果達の顔を見るのが怖くなった。

 

「ねぇ!穂乃果」

 

「…………………なに?」

 

ヒデコの呼びかけに穂乃果は頬を膨らませ、そっぽ向いて応えた。友達とはいえ白羽にベタベタしているので少し怒っている

 

「「「優木君、頂戴!!」」」

 

そんな穂乃果にヒデコ、フミコ、ミカの三人は声を合わせてそう言った。よほど白羽の事を気に入ったらしく、3人は傍から聞いたら少しヤバい事を言い出した

 

「「「ダメ(です)!!!!」」」

 

もちろん、3人がそんな事を了承するはずがない。

穂乃果が白羽の腰に手を回し、ことりと海未はそれぞれ少年の腕にしがみつく。まるで『これは私達の!』とでも言わんばかりに自分達の元へと白羽を抱き寄せた。

 

それを見たヒデコ達は……………

 

(((うわぁ~完全に恋してるじゃん)))

 

…………と思った。

 

「あははは!優木君愛されてるね~」

 

もちろん、ヒデコ達は本気で言ったわけじゃない。昨日のライブで穂乃果達が白羽の事を異性として意識しているのは分かっていたので、少し揶揄っているだけである。

 

「もう!ヒデコ!白羽君に手を出さないでよ!!」

 

「はいはい。分かってるって」

 

「フミコちゃんとミカちゃんもだよ!!」

 

「分かってるよ~」

 

「了~解。じゃあ、後は4人でごゆっくり~」

 

穂乃果とことりは3人に忠告し、それを聞いたヒデコ達はニヤニヤしながら去って行った。

 

その後、白羽は少しの間3人に拘束されていたのだが、もう少しで授業が始まるということで、何とか解放してもらった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。では皆さん、今から体育の授業を始めます」

 

「「「「「「「「「は〜い!!」」」」」」」」」

 

昼休みも終わり、白羽と桜が待ちに待った体育の時間がやって来た。ちなみに、女子達は教室で着替えたのだが、白羽は一人トイレで着替えた。別に『差別だ』とか言うつもりは無いが、これから体育の時間のたびにトイレで着替えるのは大変なので、また今度雛奈さんか前田先生にでも相談しようと考えた白羽であった。

 

「はい。それでは、そろそろ3年生の先輩が来るので各自で準備運動をしておいてください」

 

先生の指示を聞いて、白羽達はそれぞれストレッチや柔軟を始める。ちなみに白羽と桜は2人組になって、柔軟をしている。

 

お互いに向き合って開脚をしたり、背中合わせで相手を持ち上げるストレッチをしている。

 

年頃の男子と女子がすることではないので、周りのクラスメイト達は…………

 

【え?あの二人距離近すぎない???】

 

…………と、困惑の表情で二人を見ていた

 

 

「そういえば、しろはっちは3年に知り合いっているの?」

 

「え?……ああ、一人だけいるよ」

 

「へぇ~、その人のクラスだといいね」

 

「…………うん」

 

白羽が言った知り合いとは以前会った高坂雪穂の事だ。この一ヶ月、何度も穂乃果の家の『穂むら』には行っていたので、当然雪穂とは何度も顔を合わせている。しかし、全くと言っていいほど会話をする機会は無かった。ライブの事や練習メニューの事、なによりダンスを考えないといけなかったので、白羽にそんな余裕はなかった。雪穂も白羽が穂乃果の手伝いをしているのは当然知っているので、邪魔しては悪いと遠慮し、白羽には話しかけなかった

 

「あ、先輩達が来たみたい」

 

桜は体育館の扉を指さして、白羽もそちらに視線を向けた。白羽は以前から雪穂とは仲良くなりたいと思っていたので、どうせなら桜の言う通り雪穂と一緒に授業を受けたいと考えている。

 

「え~っと……………」

 

 

「それでね、亜里沙。お姉ちゃんがまた…………」

 

白羽が一人一人に目を向けて雪穂を探していると、ブロンド髪の先輩らしき人と楽しそうに話している雪穂を見つけた。

 

「あ!!雪穂さんだ!!」

 

白羽達は体育館の入り口から離れた場所に居たため、少し探しにくかったのだが、遠くからでもその少女が雪穂だとすぐに分かった。

 

「雪穂さ~ん!!」

 

「「ん?」」

 

白羽は久しぶりに会えた事と、見つけられた嬉しさで片手を思いきりふり、雪穂を呼び掛けた。雪穂と隣にいたブロンド髪の少女はそれに気づいた。

 

「ん???………あぁ!…………ふふっ」

 

雪穂は一瞬、白羽の姿を見ても誰なのか分からなかったが、白羽の声は特徴的だったので手を振っている少年が白羽だと気づき、雪穂も笑顔で手を振り返した。

 

「あ!気づいてくれた!雪穂さ~ん!!」

 

「「「「「「「っ!!!????」」」」」」」

 

白羽は反応してくれたのが嬉しかったのか、まるで『にぱぁぁぁぁ!』という効果音がつきそうな笑顔を浮かべ、ピョンピョン跳ねながら両手をブンブン振っている。その姿は完全に飼い主(雪穂)にかまってもらえて嬉しそうにしている(ペット)であった。

 

そんな白羽を見た1年生や3年生の生徒は…………

 

【え………クソ可愛いんですけど】

 

…………と思った。

 

「し、しろはっち………も、もうその辺でストップ。みんな(私も含めて)萌え死にしちゃうよ」

 

「へ?何言ってんの?」

 

このままでは、周りの生徒が全員倒れて体育どころではなくなるので、桜はその行為を辞めさせた。ちなみに、白羽は完全に無自覚なので、みんなが何で悶絶しているのかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、先生が全員に声をかけ、体育の授業が始まった。予定通り、まずはドッジボールをするようなのだが、まずは一年生だけで行うようだ。雪穂と一緒にやりたいと考えていた白羽は少しショックを受けて不貞腐れていたが、後ほど合同でレクリエーションをすると聞いて機嫌を直した。

 

「あ、優木君と同じチームだ!!」

 

「優木君!頑張ろうね!」

 

ちなみにチーム分けは、近くにいた人とグッパーをすることになり、一緒にいた白羽と桜はチームが別々になってしまった。そのことで周りとうまくやれるか心配だったが、その心配は杞憂に終わり、白羽はそっと胸を撫でおろす。

 

(桜が居なくて不安だったけど……大丈夫そうだな)

 

「うん。そうだね」

 

 

 

「それでは今から、柏木さんチームと優木くんチームによる、ドッジボール対決を始めます!!」

 

「「「「「「いえ~~~い!!!」」」」」」

 

先生の開始の合図に周りの生徒は腕を上にあげて、大声で応えた。

 

 

――――意外とみんなノリ良いな………っていうか、勝手にチームリーダーみたいにされてない!!??

 

 

「それでは、柏木さんチームのボールから始めます」

 

そう言って、先生は桜のチームの内野にボールを入れた。白羽はじゃんけんで決めるのかと思ったが、よくよく考えてみればこっちは男子(じぶん)がいるから当然か、と思い気持ちを切り替えた。

 

「フフッ………ふふふふっ………」

 

「???」

 

ボールを受け取った桜はなにやら不敵な笑みを浮かべる。それを見た白羽は、何が可笑しいのかわからないとでも言いたげな表情を浮かべ、首を傾げた。

 

「しろはっち、覚悟しなさい!!こう見えて私は小学生の頃『ドッジボールの女神・桜』と呼ばれていたのよ!!」

 

(異名ダッッッッサ!!?)

 

あまりにも桜の二つ名がダサかったので、それは嫌がらせなのでは?と思った。あと、名付けたのは一体どんな人間だったのか気になる白羽であった。

 

「見てなさい!今から必殺の【拡散破壊砲撃(サクラ・スマッシュ)】をお見舞いしてア・ゲ・ル♡」

 

そう言いながら桜は白羽に対してウインクをする。その顔は男女関係なく見惚れる程とても可愛らしいものだった…………が、白羽は技名を聞いた瞬間、自分の顔から血の気が引いていくのを感じていた。

 

「ちょっと待って!!!??文字文字文字!!!!!なんか今、ものすっっごく物騒な文字が並んでた気がするよ!?」

 

(あと技名もダサい!!)

 

「問答無用!!」

 

桜は白羽に向けて、アスリート顔負けの見事な投球フォームでボールを投げた。桜から放たれたボールはとんでもない速度で白羽に向かっていき、彼の顔面にクリティカルヒットした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、試合は進み………………終わった。

言うまでもないが結果は柏木チームの圧勝である。

桜が終始無双していたので、優木チームの内野は一瞬で全滅させられた。それから、2試合目にいこうとなったのだが、みんなから『柏木さんは休んでて!!』と言われて、2試合目は見学となった。

 

 

ちなみに、白羽は最初の拡散破壊砲撃(サクラ・スマッシュ)を受けた後にリタイアした。顔面なのでセーフだったのだが、このまま内野にいてもプレイするのは無理と判断され、今は体育館の端っこで寝そべっている。桜は見学なので白羽の事を看病している。

 

 

 

 

「ねぇ……………まだ痛いんだけど?」

 

「あ、あはは…………ご、ごめんね。しろはっち」

 

「あのナントカスマッシュ封印ね」

 

拡散破壊砲撃(サクラ・スマッシュ)ね。でも、しろはっちラッキーじゃん」

 

「え、何が?」

 

「こ~んなに美少女な女子に()()で看病されてるんだから」

 

「自分で言う??」

(まぁ、美少女ってのは否定しないけど)

 

言い忘れていたが、今白羽は目の上に濡れタオルを乗せた状態で、桜に膝枕してもらっている。もちろん、白羽がして欲しいと頼んだわけでは無い。『ぶつけてしまったお詫びに』と桜が半ば無理矢理に白羽の頭を自分の膝に乗せただけである。

 

「だって、可愛いでしょ?私」

 

「まぁ、そうだね………」

 

「キャ~♡しろはっちに口説かれちゃった〜♡」

 

「桜………君、本当に反省してる??」

 

白羽は今、タオルで視界がふさがれていて見えないが、桜が体をくねくねと動かし、頬に手を当てて満面の笑みを浮かべている事は分かった。全く反省の色が見えない友人に対して、白羽は少しイラッとした。

 

※ちなみに余談ではあるが、この時、穂乃果とことりと海未も当然ながら学院で授業を受けていたのだが

………3人共、何故か怒りの感情が湧いて来たらしい

 

 

 

 

「……ああ、でもしろはっちはやっぱり、膝枕して貰うならμ'sの人達の方が良いのかなぁ〜〜?」

 

「あ、うん。それはそうかも」

 

「……………………イラッ

 

いひゃいいひゃい、ほほをひっはらないれ(痛い痛い、頬を引っ張らないで)

 

桜は自分で言った事とはいえ、流石に今の返しにはイラッとして白羽の頬を少し強めにつねった。揶揄うつもりで言ってみたのだが、まさか即答されるとは思っていなかったからだ。白羽からすれば理不尽極まりないのだが、乙女心というのは複雑なのである。

 

「怒るよ?」

 

「ごめんごめん」

(っていうか、別に僕が膝枕頼んだわけじゃないのに………)

 

「ん?…………あ!…………ふふっ

 

「桜??」

 

突然、桜は面白い事を思いついたような声を出し、ナニかを企んでいるような悪い笑みを浮かべた。当然、タオルで目を覆っている白羽はそのことに気が付いていない。

 

「じゃあさ!さっき手を振ってた雪穂先輩?あの人とはどんな関係なの?あの人にも膝枕して欲しいって思う?」

 

「え?突然何を言い出すの?」

 

白羽は何故いきなり雪穂の名前を出したのかわからず、桜の疑問に疑問で返した。さっきまで雪穂の事については特に聞いてこなかったのに、突然聞いてきたので、白羽は何か嫌な予感がした。

 

「いいから!せっかくだから教えてよ!」

 

「雪穂さんは…………友達、なのかな?あの人は穂乃果さんの妹なんだよ。この一ヶ月で何回か会う機会はあったんだけど、全然話せてないんだよね」

 

「ほうほう!それでそれで?しろはっち的には仲良くしたいの?」

 

「うん。それはもちろん!雪穂さん絶対いい人だし、優しそうだし、せっかくなら仲良くなりたいよ」

 

「にゃるほど~~」

 

白羽の答えに桜はニヤニヤしながら反応した。

 

「それで…………膝枕は?」

 

「いや、それは別に「どっちでもは無しで!」

…………ハイ、シテホシイデス」

 

してもらうのが嫌だとは言わないが、そういうことに興味関心が無い白羽にとっては本当にどうでもいい。なので、白羽は半ば適当に答えを返した。白羽は、どうせ()()()()()()()()()()()のだから、別に答えても問題ないと思ったのだろうが………………………

 

 

…………それは失敗だった

 

 

「だそうですよ…………()()()()()()

 

「…………………………………………………………………………………………………………………え!?」

 

白羽は桜が言った言葉を理解できずに少しの間フリーズした。そして、フリーズ状態が解けると、音速レベルの速さで自身の視界を塞いでいるタオルを取った。

 

「あ、あははは………え~っと…………白羽君、体は大丈夫?」

 

そこにいたのは、少し頬を赤く染めて、白羽を心配するような視線を向けている高坂雪穂の姿があった。

 

「桜……………嵌めたな?」

 

「さぁ?なんのことかな~?」

 

白羽は少し睨みつけるように桜を見て、桜は白々しい笑顔を浮かべ、視線を逸らした。

 

「それじゃあ、高坂先輩!しろはっちの要望に応えて、膝枕お願いします!!」

 

「ちょ、ちょっと桜!?痛っ!!??」

 

桜はそう言うと、雪穂を座らせて、膝にある白羽の頭を無理矢理動かして、雪穂の膝の上に乗せた

 

「では、あとは若いお二人でごゆっくり~~」

 

ほぼ無理矢理に雪穂に膝枕をさせた桜は、まるで余計なお世話をするおばさんみたいなことを言って、ニヤニヤしながら去っていった。

 

「「…………」」

 

当然、2人はいきなりこんな状況になったことに理解が追いつかず、すこしの間固まってしまった。

 

「え~っと、なんか、すみません。桜が勝手な事を。不快だったら今すぐ退きますけど?」

 

「う、ううん。別にいいよ。白羽君もまだ休んでた方がいいでしょ」

 

「でも………」

 

「いいから。別にいやな事でもないしね」

 

「そうですか…………」

 

白羽は雪穂の言葉を聞いて、せっかくならその言葉に甘えようと決めた。雪穂の言う通り、まだもう少しだけ休んでいたいし、床に頭をつけて寝るのはさすがにしんどい。

 

(この状況、男としてはプラスかマイナスかで言えばプラスなんだろうけど……………何故だろう??桜のニヤニヤした顔を思い出すとイラッと来るのは?)

 

この状況を作った元凶()にいつか絶対仕返しをしようと心に決める白羽であった。

 

「あの………白羽君。ありがとね」

 

「ん?何がですか?」

 

いきなり雪穂からお礼を言われて、一体何に対してのお礼なのかわからずに少し白羽は困惑した。

 

「お姉ちゃんの事だよ。色々助けてくれたんだよね」

 

「ああ、お手伝いの事ですか」

 

「ううん。それもあるんだけど、私が言ってるのはお姉ちゃんを助けてくれたことだよ」

 

「え……?」

 

「……………ライブの時、お姉ちゃん達を助けてくれたんだよね。お姉ちゃんから色々聞いたよ」

 

「別に………大した事はしてません。結局、辛い思いをさせたのは事実ですから」

 

穂乃果達はなんとか泣かせずにすんだ。しかし、辛い思いをさせてしまったのも事実。なんでも一人で解決しようなどと傲慢な考えだと理解しているが、白羽は悔しい気持ちを拭いきれなかった。

 

そんな白羽を見て、雪穂は……………

 

「………………ううん。凄いことだよ」

 

白羽の頭を優しく撫でた。

 

「雪穂さん……?」

 

「お姉ちゃん言ってたよ。白羽君のおかげでライブをする事が出来た。白羽君のおかげで歌えたんだって」

 

「……………」

 

(…………いや、僕が居なくても、結果はあんまり変わらなかったと思う。きっと、あの人達3人だけでも、何とかしていたような気がする)

 

自分が居なくても………雪穂はそんな考えをしている白羽に気づき、今度は白羽の頬を優しく両手で包んだ。

 

「白羽君…………お姉ちゃんを助けてくれて、ありがとね!!」

 

白羽に対して、雪穂は何かを言うわけでは無く、ただ笑顔で感謝を伝えた。

 

「………………………はい。どういたしまして」

 

雪穂の笑顔を見た白羽も、これ以上『自分がいなくても』なんてくだらない事を考えていたら失礼だと思い、笑顔を浮かべ返事した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十分程、白羽と雪穂は2人で久しぶりの会話を楽しんだ。この一ヶ月、全然話す暇がなかったので、その分を取り返すように。

しかし、白羽は少し気になることがあった………

 

「じぃぃぃぃぃぃ」

 

「お姉ちゃん、最近家だと白羽君の話ばっかりなんだよ。昨日も家に帰ってきた途端に白羽君白羽君って」

 

「へ、へぇー。そ、そうですか…………」

 

「じぃぃぃぃぃぃ」

 

白羽が気になっている事、それは、先ほど雪穂と会話していたブロンド髪の少女が白羽の事を至近距離からガン見してくることだ。その少女は少し前から二人に近づいてきたのだが、何か話しかけてくるという事もなく、ただ寝ている白羽の事を横から凝視している。

 

「じぃぃぃぃぃぃ」

 

「「……………」」

 

当然、白羽と雪穂はそんな少女の行動にどう反応したらいいのかわからなくなっている。白羽も最初は「何かようですか?」と話しかけようとしたのだが、あまりにも彼女が真剣に観察していたので、なんかよくわからないが邪魔しては悪いという気持ちが出てきて、話しかけるのを辞めた。

ちなみに、雪穂は彼女の親友なので、彼女が何を考えているのかは何となく分かっている。なので、最初は彼女にやめさせようとしたのだが、ちょっと面白そうなので少しの間反応しないことにした。

 

(何なんだこの人??いや、別に変な視線とか嫌な視線を向けているわけでは無いから、別に見てくるのはいいんだけど…………さすがに数分間も至近距離で見つめられるのはしんどい)

 

「あの……………すみません。僕に何か用ですか?」

 

流石に我慢の限界を迎え、白羽は寝ている体を起こし、ブロンド髪の少女にそう聞いた。この人が先輩なのは当然分かっているので、流石に寝たまま話しかけるのは失礼だと考えての事だ。

 

「ううん。特に用事は無いよ」

 

「え?…………じゃあ、何で僕の事凝視してたんですか?」

 

「え?う~~んとね~…………なんか気になったからかな」

 

「そ、そうですか…………」

 

「うん!!」

 

(いや、そんな良い笑顔で『うん!』って言われても)

 

 

白羽は彼女のよくわからない行動に苦笑いするしかなかった。

 

 

「あ~~ごめんね白羽君。亜里沙(ありさ)が変な事して」

 

「亜里沙………??」

 

「うん、覚えてるかな?前に話した白羽君に会いたがってた私の親友だよ」

 

「え?……………ああ!!」

 

 

 

―――今度私の友達にも紹介させて。亜里沙って子なんだけど、テスト生の子に会ってみたい!って言ってたし   

 

 

 

 

白羽は一ヶ月前の入学式の日、雪穂と出会った時に言われた言葉を思い出した。最近はスクールアイドルの手伝いなど色々ありすぎて、すっかり頭から抜けて忘れていた。

 

「初めまして。私の名前は絢瀬亜里沙(あやせありさ)。よろしくね!」

 

「え~っと………優木白羽です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「うん!!」

 

「……………あれ??」

 

亜里沙は白羽の挨拶に笑顔で応えた。白羽はその笑顔を見た瞬間にある人物の顔を思い浮かべた。綺麗なブロンド髪、空みたいな青い瞳…………そして、絢瀬という苗字。

 

「あの………もしかして、絢瀬絵里さんの妹さんですか?」

 

「うん!!絢瀬絵里は私のお姉ちゃんだよ!!」

 

「や、やっぱりですか…………」

 

「優木君の事はお姉ちゃんから色々聞いてるよ。だからずっと会ってみたいって思ってたの!」

 

(ああ、そういうことか…………)

 

何故亜里沙が自分と会いたいと言っていたのかが分からなかった白羽は、彼女の言葉を聞いてようやく理解した。白羽は最初、テスト生に興味でもあるのかと考えていたが、どうやら違ったみたいだ。彼女は姉の話を聞いて、テスト生にではなく優木白羽という人物に興味を持ったらしい。

 

(……………でも、なんか意外だな)

 

亜里沙の言葉を聞いた白羽はそう思った。正直、白羽と絵里の関係は良いものとはいえない。白羽もそれは自覚している。それなのに、自分の話を妹にしているとは思っていなかった。

 

(でも……あの2人の妹達が仲良しって……なんだかなぁ〜って感じ)

 

「ねぇ優木君。雪穂みたいに私も名前で呼んでいい?」

 

「え………あ、はい。もちろんいいですよ」

 

ちょっと天然な所はあるけど………いい人そうなので、白羽も彼女とは仲良くなりたいと思い承諾した。

 

「ホント!?じゃあ、白羽って呼ぶね。私も亜里沙でいいから」

 

「はい。亜里沙さん」

 

お互いに、仲良くなりたいと思った人間にはグイグイ行く性格なので、2人が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

あれから体育が終わり、今日の授業は終了した。

生徒は帰る時間になったのだが、白羽と桜は帰らず3年の教室に雪穂と亜里沙に会いに来ていた。ちなみに、桜と雪穂達は体育の時間に仲良くなり、お互いに名前呼びにしている。

 

それを見た白羽は……………

 

―――女子って距離を詰めるの早いよね!

 

………………と思った。

 

※あなたも大概です

 

 

 

 

話を戻すが、2人が此処に来たのは………

 

「「遊びに行きたい??」」

 

雪穂と亜里沙を遊びに誘いに来たのだ。

 

「はい!今からしろはっちと遊びに行くんですけど、せっかくならお二人も一緒にどうですか?」

 

2人を誘おうと提案したのは桜だ。前から白羽と桜はライブを終えたら遊びに行く約束をしていたのだが、せっかく仲良くなれたので雪穂達も誘いに来た。

 

「私はいいよ。亜里沙は?」

 

「亜里沙も行きたい!」

 

「よしっ!OKだってしろはっち。やったね!!」

 

「はいはい。それじゃあ、僕ちょっと穂乃果さんに連絡するね」

 

流石に無断で手伝いを休むわけにはいかないので、白羽は携帯を取り出して、穂乃果に電話を掛けた。

 

『白羽君?どうしたの?』

 

「あ、穂乃果さん。すみません、今日の放課後そっちに行けないです」

 

『え?何か用事?』

 

「それが…「えいっ♪」……え!?」

 

白羽が事情を説明しようとすると、雪穂が白羽から携帯を取り上げて、おもむろに自分の耳に当てた。

 

「お姉ちゃん、私だけど」

 

『ゆ、雪穂!?なんで白羽君の携帯に!?』

 

「実は今日、私達()()()(他にもいるけど)遊びに行くんだ。というわけで、白羽君借りるね♪」

 

『え!?ちょ、ちょっと待って!?それってデー』

 

―――ピッ!

 

雪穂は穂乃果の言葉を言い終える前に電話を切った。

 

「はい白羽君。携帯返すね」

 

「はい、ありがとうござ………じゃなくて!何やってるんですか!?」

 

「え?お姉ちゃんに遊びに行くって伝えただけだよ?」

 

「いや、そうなんですけど…………なんか、穂乃果さん動揺してませんでした?」

 

「気のせいだよ」

 

「そ、そうですか?」

 

もちろん、雪穂の言葉は嘘である。雪穂は穂乃果が動揺したことにちゃんと気が付いている。というか、わざと動揺させた。雪穂は昨日の晩、穂乃果が白羽の事を異性として意識しだしたことに気づいている。いつも振り回されている姉に対してのほんのささやかな仕返しである。

 

「じゃあ、早速行きましょうか!!」

 

「「「おおー!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白羽達がやって来たのは秋葉。

4人共、近場で遊ぶ場所と考えた時に真っ先に秋葉が浮かんだので此処にした。

 

「それで桜、何して遊ぶの?」

 

「………………………何しよっか?」

 

(まさかのノープラン!!??あれだけ楽しみ楽しみ言ってたくせに!?)

 

「じゃあ、とりあえず服でも見に行きます?」

 

「お!いいね。私も見に行きたい!」

 

「亜里沙も行きたい!」

 

やはり年頃の女の子。桜の服を見に行こうという提案に雪穂と亜里沙は賛成した。ちなみに白羽は…………

 

(遊びに来て、真っ先にやる事が買い物って…………女の子って不思議だよね)

 

………と、男子と女子の思考の違いに驚いていた。

 

「でも、()()()()()と一緒に服を見れるなんて、ちょっとラッキーかも」

 

「あの?」

 

雪穂が言った妙な言い回しに白羽は首を傾げた。

 

―――そういえば、雪穂さんも亜里沙さんも何故か桜の事を知ってる感じだったんだよな。

 

「ねぇ、桜ってもしかして有名人だったりするの?」

 

「「えっ!?」」

 

「え?」

 

「あ、あはははは…………………」

 

白羽の言葉を聞いた雪穂と亜里沙は驚きの声を出して、桜は苦笑いを浮かべている。

 

「白羽…………知らないの?」

 

「え…………な、何がですか?」

 

「桜って、超人気のモデルなんだよ」

 

「あ、私雑誌持ってるよ………………ほらこれ」

 

雪穂はカバンから一つの雑誌を取り出した。そこに映っていたのは、普段ポニーテールにしている髪をほどいて、可愛いらしい服を着ている桜が雑誌の表紙を飾っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……………………桜ですね」

 

「「うん」」

 

「…………へぇ~、桜ってモデルなんだ。すごいね」

 

「「「反応薄っ!!??」」」

 

あまりにも淡白な反応に雪穂と亜里沙だけではなく、桜も声を上げて驚いた。別に何か大げさな反応が欲しかったわけでは無いが、そこまで冷静に反応されると、自分に興味が無いのでは?と桜は少し心配になった。

 

「しろはっち、もしかして私に興味ない?」

 

「いや、そんなことないよ!!本当にすごいって思ってるよ!」

 

「ホントに~~??」

 

「ホントホント!!」

 

普通の人間なら知り合いがモデルをやっていると知れば、多少なりとも驚いた反応を示すものだ。白羽があまり反応を示さなかったのは、ツバキの存在が大きいだろう。ツバキもかなりの人気を誇るモデルだ。そんな人間が身近にいるので、すっかり慣れてしまっても無理はない。

 

「……………ま、いっか。じゃあ、さっそく服を見に行きましょう」

 

「「「は~い」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間程、4人は買い物を楽しんだ。女性の服が売られている店に入るのはさすがにいたたまれないので、白羽は店の外で待機することが多かった。しかし、長い買い物にも文句を言わず、しかも荷物まで持ってくれるので、3人の中で白羽の評価は密かに上がった。

 

そして今は、少し休憩することになり、白羽と亜里沙はベンチに座っている。桜と雪穂は少しお腹が空いたということでクレープを買いに行った。

 

「ごめんね白羽、買い物に付き合わせて荷物まで持ってもらって」

 

「いいですよ。そんなこと気にしないでください。こういうのは男である僕の仕事なんです!!」

 

白羽はそう言って、腰に手をあてて胸をドンと張り、まるで『任せてください!!』とでも言いたげな表情を見せた。

 

「ふふっ、ありがと」

 

そんな白羽を見て、亜里沙はとても可愛らしいものを見るかのように微笑んだ。自分より年下の子がまるで『自分は男ですから!』なんてアピールする姿には母性本能がくすぐられた。

 

「それにしても、2人共遅いですね?」

 

「うん…………あ、そうだ。せっかくだから音楽でも聴く?」

 

「いいですね!」

 

「じゃあ………はい!」

 

亜里沙はカバンから音楽プレイヤーを取り出し、片方のイヤホンを白羽に差し出した。それを受け取り耳に付けると、亜里沙は音楽を再生した。そして、白羽の耳に流れてきたのは……………

 

I say♪…Hey!hey! hey!START:DASH!!

 

「っ!!?」

 

…………μ'sのSTART:DASH!!だった

 

白羽は亜里沙が持っている音楽プレーヤーの画面に目を向けると、そこに映っていたのは昨日のライブ映像だった。

 

「亜里沙さん、その動画…………」

 

「うん。亜里沙はいけなかったんだけど、お姉ちゃんが動画を撮っててくれたの」

 

(絢瀬さんが………)

 

なぜ絵里が動画を撮影していたのか気になった白羽だったが、それ以上に気になることがあった。

 

「亜里沙さん………もしかして、μ'sの事が好きなんですか?」

 

「うん!大好きだよ!」

 

「っ!!…………………やった!

 

白羽は亜里沙の言葉を聞いて、小さくガッツポーズをした。心の中で留めようとしたのだが、嬉しさのあまり、つい漏れ出してしまった。

 

「僕も好きですよ。μ'sの歌」

 

「本当!?亜里沙はね、特にサビの所が好き!!」

 

「分かります!!サビに入る直前、センターの穂乃果さんが後ろを振り向いた後にバッ!て前を向く所が良いんですよね!!」

 

(あのダンス考えた人は天才だと思う!!!)

※自画自賛

 

「うんうん!!あと、園田海未さんのウインクも可愛いよね!!」

 

「はい!!それに、ことりさんの切なそうな顔と笑顔とのギャップがまた良いんですよ!!」

 

2人は好きな物(μ's)について思いっきり語り合える相手を見つけたことにテンションを上げた。誰しも、自分の好きな物を話すのは楽しいものだ。それが、好きな物が共通している者であればなおさら

 

「「ハァ………ハァ………」」

 

曲が流れ終わるころには少し息切れしてしまう程、自分の好きな所をお互いに伝えあっていた。

 

「白羽って、本当にμ'sが好きなんだね」

 

「亜里沙さんこそ」

 

「「ふふっ…………もう一回!!」」

 

それから、2人が戻ってくるまでの間、何度もμ'sの歌を聴いた。そして、桜と雪穂が戻っている頃には、白羽と亜里沙はまるで付き合ってるのではないかとツッコミたくなるほどの至近距離で会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

4人は桜が買ってきたクレープをベンチに座りがら食べている。ちなみにトッピングは白羽がイチゴチョコ、桜がバナナ、雪穂がカスタード、亜里沙がメロンである。

 

「うまぁ~~~♡」

 

(((…………天使??)))

 

クレープを食べる白羽の姿を見て、雪穂達3人はそう思った。

 

クレープを思い切り頬張った白羽は、鼻の先端に少しクリームをつけ、頬にはチョコがついている。しかも幸せそうな笑顔を浮かべるというダブルパンチ。もはやわざとやってるのではないかと思えるほどあざとい姿であった。

 

「しろはっち……ほらティッシュ」

 

「ん?……ああ!ありがとう!」

 

白羽は桜からティッシュを受け取り、自分の顔についてしまったクリームとチョコを拭き取った。

 

「なんか、しろはっちってチョコが似合うよね」

 

「……………はい?」

 

突然桜がそんな事を言い出して、白羽は意味が分からず首を傾げた。

 

「え?ど、どういうこと?」

 

「何て言うか……しろはっちにチョコぶっかけて食べたら美味しそうだなぁって思って!」

 

「「「……………………………」」」

 

今の桜の発言には、白羽だけでなく雪穂と亜里沙も結構ガチで引いた。白羽は身の危険を感じて桜から距離を取る

 

「え、待って。冗談だから。そんな離れないで」

 

「いや………あの、近づかないでください」

 

「敬語やめて!!!!泣くよ私!!」

 

「白羽君…………こっちおいで」

 

「白羽は見ちゃダメだよ」

 

雪穂と亜里沙は危険人物()から白羽を守るため、自分たちの元に白羽を引っ張り、桜から見えないように背中へと非難させて隠した。

 

「雪穂さん達も悪ノリしないでください!!冗談ですから!!」

 

「「「………………………」」」

 

「ちょっと!『こいつヤバ……』みたいな目で見ないでください!」

 

それから桜は少しの間、白羽から目を合わせてもらえずショックで泣き始めてしまう。それを見た白羽はさすがにやりすぎたなと反省して、泣いている桜を慰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

((でも………ちょっと分かるかも))

 

雪穂と亜里沙は桜の言葉に少し引いたものの、心の中で密かに同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ白羽、亜里沙の一口あげるから、イチゴチョコ一口頂戴!」

 

「いいですよ」

 

「じゃあ、まずメロンから!あ~~ん」

 

「あ~~ん」

 

亜里沙が差し出したクレープを白羽はためらいなく頬張った。それを見た桜と雪穂は……………

 

((あ~んするんだ??))

 

…………と思った。

 

「美味しい?」

 

「はい、美味しいです。じゃあこっちもどうぞ!」

 

「あ~~ん!」

 

白羽もクレープを差し出して、亜里沙はそれを頬張った。言うまでもないが、2人がやっているのはいわゆる『はい、あ~ん♡』というやつである。

 

「おいしいですか?」

 

「うん!おいしいよ!」

 

まるで本当のカップルのような言動をする2人に、桜と雪穂は…………

 

(尊い……萌……可愛い。この場面を後世に残さねば!!)

 

(桜、その動画後で私にも送って)

 

(了解です)

 

桜は白羽と亜里沙を携帯で撮影し、雪穂は凝視して目に焼き付けている。

 

※2人共、白羽と亜里沙が大好き

 

 

 

「あ!…………ふふっ、亜里沙さん。口元にクリームついてますよ」

 

「えっ?」

 

白羽はそう言って、亜里沙の口元についているクリームを指で取った。

 

ここまでは良かった!!

(いや、この行動も十分おかしいんだけど!!)

 

しかし次の瞬間、白羽は驚きの行動に出る。

 

 

 

 

………………ペロッ

 

「うん。甘い♡」

 

「「「っ!!!!???」」」

 

なんと、その取ったクリームを自分の口に運んだのだ。それを見た3人は驚愕の表情を浮かべた。

 

「ん?どうかしました?」

 

「「「……………………」」」

 

「え………何?」

 

いくらパーソナルスペースが狭い亜里沙も今の言動には驚いた。もちろん、気持ち悪いというわけでは無い。白羽も下心があってやったことではないのは一目瞭然だった。しかし、いくらなんでもあんな行動されれば、年頃の女の子にとってはかなり恥ずかしいのだ

 

(はわわわわっ!……おばあちゃんから『日本の男の子は奥手だよ』って聞かされてたけど……ロシアの子より積極的なのでは!?)

 

「………………ハ、ハラショー」

 

「あ、亜里沙さん??顔赤いですけど……大丈夫ですか?」

 

「う、うん…………だ、大丈夫……」

 

亜里沙は恥ずかしさのあまり、頬を赤く染めて顔を下に向けてしまった。

 

(桜……………白羽君ってやっぱり)

 

(はい、そうです。ド天然の女タラシです。本人はマジで無自覚なので余計に(たち)が悪いんですよね)

 

雪穂も姉の穂乃果から聞かされていたのだが…………まさかこれほどまでに重症だとは思わなかったので、桜と一緒に頭を抱えた。

 

「しろはっち、ひとまず亜里沙さんから離れよっか」

(正直、もうちょっとだけ見てたいけど………)

 

「うん。もう、勘弁してあげて……」

 

「え?何言って「「いいから!!」」は、はい!」

 

白羽は2人が何を言っているのかわからず質問しようとしたが、言い切る前に怒鳴られてしまい、びっくりして警察官のような敬礼で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから桜と雪穂が40分程かけて、なんとか亜里沙を落ち着かせることができた。

 

ちなみに白羽は、亜里沙が何か落ち込んでるのかと勘違いして慰めようとしたのだが、桜から『もう余計な事はしないで!!』と強く言われてしまい、少し離れた場所でいじけている。

 

「ナンデナンデ??ボク、ナニカシチャッタ?」

 

※しました

 

「ほら、しろはっち。何時までいじけてるの?そろそろ行くよ」

 

「…………行くってどこに?」

 

「映画館」

 

「映画館?何か観るの?」

 

「うん、せっかくだから皆で何か観ようって、さっき雪穂さんと話してたんだ」

 

「分かった。じゃあ、行こっか」

 

次の目的地が決まり、白羽達は映画館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画館に着いた白羽達だったが…………ここである問題が発生する。

 

「で、何を観ますか??」

 

「「「う~~ん」」」

 

白羽の質問に3人は頭を悩ませる。問題とは今から観る映画がなかなか決まらないのだ。白羽はどれでもよかったので早々に選ぶ権利を3人に渡したのだが、3人は観たい映画が沢山あってどれか一つに絞るのが難しいようだ。

 

(3人に選んでって言った僕が言うのもなんだけど、早く決めてほしい。ここに来てかれこれ20分近く経ってるし…………)

 

「もうこの際、白羽君が決めてよ」

 

「そうだね。亜里沙たちだと悩んで決められないし」

 

「じゃあ、しろはっちに決めてもらうということで」

 

「「異議なし!」」

 

(何で!!??)

 

このままだと時間がもったいないということで、雪穂は白羽に選んでもらうことにした。他二人も賛成してしまったため、もう逃げられる雰囲気ではなくなった。白羽はため息を吐きながら、仕方なく映画の一覧に視線を向ける。

 

「え~っと、それじゃあ………………………これにしましょう」

 

「「ホラー映画??」」

 

白羽が指さしたのは、(ちまた)でめちゃくちゃ怖いと騒がれているホラー映画であった。

 

「えっ!!??」

 

雪穂は白羽が選んだ映画を見た瞬間、顔を青くして固まってしまった。

 

「はい。これにしましょう」

 

「しろはっちってホラー映画好きなの?」

 

「いや、怖いって評判だったからどれぐらい怖いのか気になって選んだ」

 

どれでもよかったのだが、強いて言うならネットで『怖い』だの『ヤバい』だの騒がれていたモノに少しだけ興味が湧いたので、この映画を選んだ。

 

「ふ~ん、まぁいいんじゃない!」

 

「うん!亜里沙もそれでいいよ」

 

「雪穂さんもコレでいいですか?」

 

「えっ!?…………………う、うん」

 

「じゃあ、チケット買いに行きましょう!」

 

「「おおー!!」」

 

(……………………………ど、どうしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チケットを購入した白羽達は館内に入り、客席に座る。

ちなみに席順は 雪穂 白羽 亜里沙 桜 の順で横並びに座っている。

 

映画を見るのは久しぶりなので、白羽は少しワクワクしながら上映開始を待っている。

………………だが、一つだけ気になることがあった。

 

「あの………………雪穂さん?」

 

「ダイジョウブ、ダイジョウブ………怖くない。今から流れるのは作り物だもん

 

「ゆ、雪穂さん………??」

 

先程から、隣に座っている雪穂が生まれたての小鹿の様に足をガクガクさせ、頭を抱えて自分に何かを言い聞かせている。

 

「あの…………もしかして、怖いの苦手ですか?すっごく顔色悪いですけど?」

 

「えっ!?う、ううん!!全然大丈夫だよ!!」

 

(あ、苦手なんですね………)

 

白羽は彼女の反応を見て、ホラーが苦手なのを確信した。苦手なのを隠そうとしても全然隠しきれていない。

 

雪穂がホラーを苦手としている事を知らなかったとはいえ、映画を選んだ白羽は少し罪悪感を感じていた。

 

(どうしよう、お金も払っちゃったしなぁ……………あっ!そうだ!)

 

「雪穂さん…………」

 

「な、何?…………え!!??」

 

白羽はとなりにいる雪穂の手を掴み、自分の手と絡ませた。いわゆる、恋人つなぎである。そして、雪穂がすこしでも安心できるように彼女に対して笑顔を向けた。

 

「じゃあ、手を繋いで観ましょう!これなら少しは安心できますよね?」

 

「い、いや!本当に怖くは…………」

 

「じゃあ、僕が怖いので手を握っててください。

………それならいいですよね?」

 

「う、うん…………………あ、ありがとう」

 

雪穂は湯気でも出るのではないかと思えるほど顔を真っ赤に染め、白羽に対して小さくお礼を言った。

 

「はい!!どういたしまして!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

((あの子…………またやったよ))

 

隣でずっと聞いていた亜里沙と桜は少年の行動に頭を抱えた。もう、この少年は常に人をタラシ込まないと死ぬんじゃないか?とツッコミたくなった。

 

 

 

 

 

そして、映画が始まると、雪穂は映画どころではなくなるほどに心臓がバクバクしていた。

 

(い、今更だけど…………こ、これって、恋人つなぎ……だよね?なんで白羽君はこんなに平然としてられるの!!??どうしよう!!?映画どころじゃないよ~~!!!)

 

白羽のお陰というか、白羽の所為というか、雪穂は映画に集中出来ず、怖い思いをすることは無かった。

…………まぁ、ある意味結果オーライと言う形になった。

 

 

 

そして、となりで雪穂が今にもパンクしそうになっているとも知らずに、白羽は…………

 

(おお!最近のホラー映画はリアリティあるなー!)

 

…………めちゃくちゃ映画を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから映画も終わり、雪穂の顔が赤くなっていることに気が付いた白羽は『え?そんなに怖かったですか?』とか的外れな事を言い、それを聞いた3人は『『『君のせいだよ!』』』と少し怒気を含んで言い放った。

 

 

「今日は楽しかったね」

 

「うん!亜里沙もまた行きたい!」

 

「しろはっちも今日は楽しかった?」

 

「………………………うん、楽しかったよ」

 

(穂乃果さん達とも遊びたいなぁ…………)

 

この一ヶ月はライブの準備でそんな暇なかったので、白羽は近いうちにμ'sのメンバーとも遊びに出かけたいと思った。

 

(今度誘ってみよ♪)

 

穂乃果達を誘うことを決めた白羽は、その日が楽しみになりルンルン気分で3人の後ろをついていった。

 

「しろはっち、この後どうする?ご飯でも行く?」

 

「いや、明日も早いし今日は「よ~し、もう一軒行くぞー!!」……ん?」

 

白羽がそろそろ帰ろうと提案しようとした時、近くの居酒屋から3人組のサラリーマンが出てきた。そのうち一人は明らかに酔っぱらっている

 

「ちょっと部長、飲みすぎですって」

 

「流石に今日はもう帰った方が…………」

 

「うるせぇ!さっさと行くぞ!」

 

「「「「……………………」」」」

 

悪い酔い方をしているので、白羽達はその酔っ払いと関わらないようにする為、この場を離れようとした。

 

「ん?…………あ〝ぁん〝!?」

 

しかし………最悪な事に、その酔っぱらいのサラリーマンは白羽達に目をつけた。

 

「なんだぁ~!?学生の分際でこんな時間まで遊んでんのかぁ~!!?」

 

「ちょっと部長、まずいですって!!」

 

「………………………最悪

 

雪穂は小さな声でそう呟いた。そう言いたくなるのも当然だ。せっかく4人で楽しく遊んでいたのに、これでは台無しである。

 

「はぁ~、行きましょう」

 

雪穂の言葉を聞いた白羽は、深いため息をはき、今すぐにここから離れようとした。しかし、その声が聞こえたのか、酔っぱらいは白羽をターゲットにした。

 

「なんだぁ!ガキの癖に女を三人も侍らせてデートとは、生意気だな!!それになんだあのふざけた髪は!!()()()()()!!」

 

「「っ!!!」」

 

「……………チッ」

 

酔っぱらいの言葉を聞いた雪穂と亜里沙は怒りで顔を歪ませ、桜は舌打ちをして軽蔑しきった目でその男を睨んだ。

 

「あんなガキのどこが良いんだか!!どうせ碌な大人にはならねぇぞ!!」

 

「………………………」

 

白羽はその男の言葉を聞いて顔を下に向けてしまった。しかし、それは男の言葉を聞いて落ち込んでいるわけでは無い。あんな人間の言葉など本当に何も気にしていない。ただ、これ以上絡まれたら面倒なので目を合わせないようにしてるだけだ

 

「白羽君……………こっちおいで」

 

「大丈夫だから。ね?」

 

それを見て白羽が落ち込んでいると思い、雪穂は自分の側に白羽を寄せて酔っぱらいから距離を離し、亜里沙は安心させるために手を繋いだ。しかし、それを見た酔っぱらいはさらに機嫌が悪くなり、もう一度白羽を罵った。

 

「はっ!!なんだあのガキ!女に守られて言い返しても来ない。情けない男だな!!」

 

「ちょ…………部長」

 

「酔いすぎですよ……………」

 

「うるせぇ~!!」

 

この男はなぜここまで突っかかってくるのか?

そんな疑問を抱く白羽だったが、その答えは単純だった。酔っぱらってるってことが理由なのでは無く、ただの醜い()()である。

 

 

桜、雪穂、亜里沙、この3人は誰がどう見ても美少女だ。そんな3人を連れている男子学生が目の前におり、しかもその男子は自分と違ってモテそうな外見をしている。その光景を見て、自分の灰色な学生時代と重ね合わせてしまったが故に、面白くないと思ったのだ。

 

「………………………はぁ~、ツマラナイ男」

 

桜はその事を理解したのか、深いため息と共に、その男に対してゴミを見るような視線を向けた。

 

「っ!!あ”あん!!」

 

桜の言葉が聞こえた酔っぱらいは彼女に怒りの視線を向けた。

 

「ちょ、ちょっと桜。僕は気にしてないから……」

 

「雪穂さん、亜里沙さん…………しろはっちの事、お願いします」

 

「「「えっ??」」」

 

桜は白羽の言葉を無視して、サラリーマンたちに近づいていく。その顔は今から人を殺すのではないかと思えるほどの怒りに満ちている。

 

「な、なんだ、テメェ……」

 

桜のその表情に気圧されたのか、酔っぱらいは先ほどの強気な態度が嘘のように弱弱しい声を出した。

 

「私の友達を侮辱して…………タダで済むと思ってる?」

 

「はぁ!?なに睨んでんだよ!!」

 

男は桜の目が気にらなかったのか、桜を殴ろうとして拳を振り上げた。白羽はそれを見てすぐに助けようとしたのだが、その心配は杞憂に終わる。

 

「………………………ぶっ飛べ」

 

「ぐはっっ!!!」

 

「「「っ!!??」」」

 

なんと、桜は自分よりデカい男性を拳で殴り飛ばした。桜の拳を喰らった酔っぱらいは3メートル程後ろに吹っ飛び、白目をむいて気絶してしまう。

 

「ぶ、部長!!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「ねぇ、あなた達…………」

 

「「ハ、ハイ!!」」

 

「その男連れて、今すぐ消えてくれる?」

 

「「は、はい!!すみませんでしたーーー!!!」」

 

桜は残り二人のサラリーマンにここから去るように命令し、それを聞いた二人は酔っぱらいの男を連れて情けなくその場を去って行った。

 

「はぁ~~…………しろはっち、大丈夫?」

 

「いやそれはこっちのセリフだから!何やってんの!?危ないでしょ!」

 

「大丈夫大丈夫。今見た通り、私めちゃくちゃ強いの!!」

 

「いや………………強すぎでしょ」

 

「「うんうん」」

 

桜の身体能力が異常に高いことは知っていたが、まさかこんなに喧嘩が強いとは思わず、白羽達3人は驚きを隠せなかった。

 

(漫画かよ!あの細腕でどんなパワーしてんの??)

 

桜の馬鹿げた力を目の当たりにした白羽は凄いを通り越してもはや呆れてしまい、口角をピクピクさせて苦笑いを浮かべた。

 

「でも、スカッとしたよね!!」

 

「うん!自業自得よ!」

 

雪穂と亜里沙はあの男がひどい目にあってスッキリしたような表情だった。自分たちの大切な友達をバカにされたのだから当然である。

 

「まったく…………それじゃあ、帰りましょう。また絡まれたら厄介です」

 

「「「うん!」」」

 

「あと……………」

 

「「「ん??」」」

 

「その…………………ありがとう、桜。雪穂さんと亜里沙さんも僕の為に怒ってくれて、嬉しかったです」

 

白羽は自分の為に怒ってくれた3人に対して、少し頬を染めながらお礼を言う。その表情からは嬉しかったという気持ちが溢れていた。

 

「「「ふふっ……どういたしまして!」」」

 

それを聞いた3人は微笑ましい物を見るように、自然と笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回 第2章 これからのSomeday編 突入!!
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