―――――翌日
昨日の夜、ツバキの言葉をよく考えてみたけど結局答えは出ず、いつのまにか寝てしまった。
午前中の授業も全然集中出来ず、何度か先生に怒られてしまった。
…………前田先生って、怒ったら超怖いんだな
「美味しい!」
「…………そうだね」
今は桜と一緒に屋上で弁当を食べているが、全然味を感じない
「……大丈夫?今日ずっと顔色悪いよ」
「……うん、大丈夫だよ。ちょっと考え事してて、気にしないで」
「そ、そう…?」
「そういえば、何で今日は屋上で食べようって言ったの?いつもは教室なのに」
「ちょっと教室だと話しにくくて…………しろはっちに報告があるんだよ」
「報告?」
「良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
そのセリフ現実で言う人初めて見たよ
「じゃあ、良いニュースから……」
こういうのって大抵は良いニュースの方から聞くのが定石だからね。
「しろはっち、学院にできたスクールアイドルの手伝いしてるんでしょ?」
「え、何で知ってるの!?」
「掲示板に書いてあったよ。ほらっ!」
桜に携帯の掲示板を見せてもらうと、そこにはスクールアイドルのライブのお知らせが書いてあった。
これ書いたの穂乃果さんだよな…………園田さんやことりさんの事は分かるけど、僕の事まで書く必要はないじゃないですか!?
っていうかこれ、園田さんが知ったら怒られるんじゃ?
「そして、私は応援することに決めました!頑張ってね!!」
「ありがとう。でもその言葉はあの人達に言ってあげて」
「OK!機会があれば言っておくわ」
「それで、悪いニュースは?」
「……しろはっちに対する悪い噂が流れてる。例えば…美人な先輩達に近づくのが目的で入学したとか、大人しそうに見えて実は女たらしなんだとか」
「…………マジ?」
「マジ」
ヤバくね!?これ、本当に孤立する可能性がある!!
絢瀬さんの言った通り、このままだとテスト生の役割を果たせなくなるかもしれない
「…………どうしよう」
「ねぇ、その帽子取ったら?」
「結局それ!?」
やっぱりそこに行くのね!?
これ、1人で悩んでも無理だわ!よし、相談しよう!!
「え、何?どうしたの?」
「実は、昨日の夜なんだけど……」
―――――――――――――――――――――
「大切なものを見つければ、周りの視線を気にしなくなる………しろはっちの友達は面白い事言うね!もしかしてその事で悩んでたの?」
「いや、それもあるけど……僕はその後に言われた「やりたい」事じゃないなら手伝いはやめとけって言われたことの方が悩んでる」
「成る程。っていうか、しろはっちって女の子が苦手なんだ?私とは普通に喋れてるから全然気付かなかった」
「喋るくらいなら大丈夫なんだよ。さっき言った友達と妹のおかげでなんとか」
「ふ~ん…………ねぇ、私にもしろはっちの顔見せてよ!」
「なんで?」
「だってコンプレックスとかじゃないんでしょ!良いじゃん!先輩達にも見せたんでしょ!!」
「顔なんて毎日見てるでしょ」
「いやいやいやいや、そんなに深くかぶってたらほとんど見えないよ!「何で前見えてるの?」って言いたいぐらいだし!」
見ても面白くはないと思うけど…………まぁいっか
「……ほら」
僕は周りに誰もいない事を確認し、帽子を取って素顔を桜に見せた
「…………お、おおー!こ、これは中々…」
「何その反応………でもこれで分かったでしょ、僕が隠してた訳」
「いや、分かんない……」
「え……?」
「だって!そんなに綺麗な顔してるのに隠すなんて勿体無いでしょ!みんなの見る目もきっと変わるよ!」
「……ソウデスネ」
いや、綺麗とかその顔で言われてもな………
お世辞にしか聞こえない
「…何その棒読み」
「だって、絶対奇異な目で見られるでしょ?」
「そんなことないと思うけど………実際、私はそういう目でしろはっちの事見てないじゃん!」
「………」
それはそうだよ。だって、桜はそういう目で見ないと思ったから見せたんだ。以前、園田さんに見せたのもことりさんの友達ってこともあったけど、あの人ならそういう目で見ないと思ったからだ。
「……う~ん、これはしろはっちの友達が言う通りかもね。要はそんなことが気にならない程、大切にできるものを見つければいいんだよ!!」
簡単に言ってくれるよ。そんなものがポンポン見つかるわけが無い
「……まぁ、がんばってみるよ」
「うん、ガンバレー!」
「軽っ!」
そうは言っても、どうしよう?なんか考えなきゃいけないことが増えたぞ。ライブの事、クラスメイトの事、大切なものを見つける事
………あと、僕があの人達のことを手伝っていいのか
いや、ダメだ!今、考えることはライブの事だけでいい!とりあえずファーストライブまでは手伝う!!
一度手伝うって決めたなら途中で投げ出したりはしない。ファーストライブまでは全力であの人達を支えよう!
―――――――――――――放課後
放課後になり、今日も手伝いをする為に穂乃果さんの教室にやってきた
「う~~ん、こうかな?」
「………ことりさん?」
穂乃果さん達の教室に着いたら、ことりさんがスケッチブックを持って何かを真剣に描いていた。穂乃果さんと園田さんはどこかに行っているようで教室にはいなかった
そういえば、講堂は借りられたのかな?朝に生徒会室に行くって言ってたから僕はついていけなかったんだけど
「ことりさん、おはようございます。もしかして昨日頼んでたやつですか?」
「あっ!シロ君、おはよう!うん、もうちょっとで完成するよ!」
僕は昨日の夜、電話でことりさんにライブで着る衣装のデザインの事を頼んでおいた。ことりさん、昔からこういうの得意だったんだよな
ちなみに、どうやってことりさんの機嫌を直したのかというと…デザインの事を頼んだ時に「なんでも1つ言うこと聞きます」と言ったら機嫌を直してくれた
…………マジで何をお願いされるんだろう
「まったく、穂乃果は………あれ、優木君?もう来てたんですか」
「おはよう!白羽君!」
あっ!2人とも戻ってきた…………もしかして、掲示板のことで園田さんに怒られてたのでは?
「はい、おはようございます」
「うん!こんなもんかな?」
「………ことり?」
どうやら、タイミングよくデザインが完成したようだ
「見て、ステージ衣装考えてみたの!」
見せてくれたスケッチブックにはピンクを主体にした、いかにもアイドルが着るような可愛い衣装を着た女の子が描かれていた。
この顔立ちからして穂乃果さんの衣装なのかな?
「おお!可愛い!」
どうやら穂乃果さんは気に入ったようだ
「はい!すごくいいと思います!これ、本当に作れるんですか?」
「うん!ここのカーブのラインが難しいんだけど、なんとか作ってみようかなって」
「うんうんうん!」
「…………」
よしっ!これで衣装の件は解決………あれ、なんか園田さんの反応が悪いような
「園田さん…?」
「海未ちゃんはどう?」
「可愛いよね?可愛いよね?」
「ことり……ここの、スーッと伸びているものは?」
「足よ♪」
………それ以外の何に見えるんですか?
「素足にこの短いスカートって事でしょうか?」
「アイドルだもん♪」
その言葉を聞き、園田さんは視線を下に向け、足をモジモジさせた。
あぁーそういうことか。多分、いや間違いなくこの衣装を着ることが恥ずかしいんだ
「大丈夫だよ!海未ちゃんそんなに足太くないよ」
穂乃果さん……それ全然フォローになってませんよ
「人の事言えるのですか!!」
「…………えーっと…ふん、ふんふんふん………」
穂乃果さん……あの、男の前で自分の足をベタベタ触るのはやめてください。なんか、恥ずかしいので
「よしっ!!ダイエットだ!!」
……絶対言うと思いました
「2人共大丈夫だと思うけど」
一ヶ月しかないのにダイエットしてる暇はありませんよ!!っていうか皆さんは何を心配してるんだ?
「3人共今のままでも十分綺麗ですから、ダイエットなんて必要ありません。それより、他にもやらないといけないことが沢山あるので、まずはそっちを片付けましょう」
ルックスに関して問題は無い。問題があるなんて言うやつはよっぽど見る目が無い人間か頭がイカれてる人間だ
「「「…………」」」
「……ん?どうしました?」
……なんか3人共、顔が赤いような気がするんだけど
「……こ、ことりちゃん、白羽君って」
「う、うん。昔からああいうことサラッと言うんだよね。しかも本人は無自覚だから」
「……うぅぅ、恥ずかしいです」
3人が集まってなんか話してるけど、何の話してるんだ?…まさか、綺麗って言ったのが不快だったとか?でも3人共めちゃくちゃ可愛いし、昔から言われ慣れてると思ったんだけど
「……あの~そろそろ話し進めませんか?」
「「「は、はい!!」」」
「??」
なんで敬語?
「さっきも言った通り、ライブに向けてまだまだやることはあります」
「そうだよねー!サインでしょ?街を歩く時の変装の方法でしょ?」
「そんなの必要ありません」
うん……マジで要らない
「違いますよ。そういうのではないです」
「じゃあ……何??」
この人、マジで言ってんの?ボケとかじゃなくて本当に何も考えてないの?
「…………まず、皆さんのグループ名を決めないと」
「「「おおぉ……!!」」」
穂乃果さんだけじゃなく園田さんとことりさんも声を出した。
え、まさか?…………3人共まったく頭になかったんですか?
――――――――――――――――――
というわけで、グループ名を考える為に図書室にやってきたのだが…………
「う~ん、なかなか思いつかないよねぇ……」
「何か私たちに特徴があればいいんだけど……」
「3人共性格はバラバラですし……」
「僕もちょっと考えてみたんですけど、あまり良いものは……」
と、こんな風に全然思いつかないのである
「じゃあ、単純に3人の名前を使って…………
『穂乃果!海未!ことり!』」
「漫才師みたいですね……」
うん……僕もちょっと想像してみましたけど
そんな3人見たくありません
「却下ですね……」
「だよねぇ……そうだ!海未ちゃんは海、ことりちゃんは空、穂乃果は陸!名付けて『陸・海・空!』」
………もっと嫌です
「全然アイドルっぽくないけど……」
「可愛くないので却下です……」
「だよねぇ……う~ん、じゃあ……じゃあ……」
もう穂乃果さんは考えなくていいと思います……
正直、お腹いっぱいです。でも、このまま4人で考えてもいいものは出なさそうだよな
「もうこの際、他の誰かに決めてもらうとか?」
「……それだよ!」
「「「え?」」」
――――――――――――――――――――
「……なるほど、グループ名を募集するんですね?」
「うん!さっきことりちゃんに作ってもらったんだ!」
さっきの僕の言葉を聞いてどこに行ったと思ったら、この箱を作りに行ってたんですね
「…………丸投げですか」
「こっちの方がみんなも興味持ってくれそうだし!」
「そうかもね………」
「いいんじゃないですか。このまま考えても良い案はでないと思いますし」
それに、その時間を練習に回せるなら一石二鳥だ
「よぉーし!じゃあ次は歌と踊りの練習だー!」
「どこでやるか決まってるんですか?」
「ううん!今から探しにいくよ!」
というわけで練習できそうな場所を探しにきたのだが…………
――――グラウンド
「ナイスボール!!」
「そっち行ったよー」
「ほら!もっと早く走れ!!」
「「ハイ!」」
…………陸上部や野球部が使っているみたいですね
「う~ん、ここだと邪魔になりそうだね………」
「ですね………」
――――体育館
「ナイッサー!!」
「こっちこっち!!」
……………バレー部とバトミントン部が使っているみたいですね
「うわぁ、ここも全部埋まってる…………」
「次行きましょう……」
――――――空き教室
「んぎー!ふんぐー!」
「穂乃果さん、鍵がかかってますから開かないですよ」
「空き教室は使えないんですね………」
「「「「…………」」」」
まさかの全滅ですかっ!?
グラウンドに体育館、教室もダメとなると……
――――――屋上
「…………ここしかないようですね」
「日陰もないし、雨が降ったら使えないけど、贅沢は言ってられないよね」
「うん、でもここなら音とか気にしなくてよさそうだね」
「そうですね、練習できる場所が無いよりマシです。じゃあ早速始めましょう!」
「「「はい!」」」
「本番では歌と踊りを同時にやってもらいます。けど、いきなりは無理ですので、まずは歌の練習から行きましょう!」
「「「はい!!」」」
「では………どうぞ!」
「「「…………………………………………」」」
「…………………………………あれ?」
………まさか、これって
「…………………曲は…?」
「………私は知りませんが…」
「…………私も…」
「「「………」」」
3人がなにかを期待しているような視線を向けてくるが、僕が知っているわけないので、首を横に振って応えた
「「「「…………」」」」
………これ、終わったんじゃないか?
本番まで残り1ヶ月。曲を作り、歌詞も考えなくちゃいけない。
これは………やばい。早く何とかしなければ
結局、この日に得たものは練習場所のみであった。
……前途多難ってこういう状況の事を言うんだろうな
―――――――――――――――――――――――
「……それで、今日はもう何もせずに終わったと」
「いや、これから穂乃果さん……先輩の家で作戦会議するってさ」
僕は荷物を取りに中学の方にいったん戻ってきた。
ていうかなんで桜はまだ残ってるんだ?
「私は先生に頼まれごとがあってね」
「ナチュラルに心読まないで………」
………何?この間も思ったけど、桜ってひょっとして超能力者だったりするの?
「じゃあ、手伝おうか?」
「えっ?でもこの後、先輩の家に行くんじゃないの?」
「別に急いでるわけじゃないし、桜には色々助けてもらってるから」
「ありがとう!じゃあこの資料まとめてくれる?」
「分かった……」
その後、2人で仕事を片付けていった。
意外と量が多く、終わったのは僕が手伝い始めてから1時間くらい経ってからだった
「終わったぁ~~」
「お疲れ様……」
「うん、しろはっちもね!手伝ってくれなきゃマジでやばかった。本当にありがとう!!」
確かに結構量があったな。こんなの一人に頼む仕事量じゃないだろ
「じゃあ、私はこれを先生に渡してくるから、しろはっちはもう先輩のとこ行っていいよ」
「そうか?………じゃあ、また明日」
「うん!本当にありがとね、バイバーイ!」
桜に見送られ、僕は教室を後にした。
ことりさんは穂乃果さんと一緒に先に行って、園田さんは弓道部の練習に行ってくるって言ってたな。結構時間経っているからもう行っちゃたかな?
「え~っと、確か穂むらっていう和菓子屋だよな?」
雪穂さんに場所を聞いててよかった~。家の近くではあるけど僕は行ったことが無いんだよな
「優木君?」
「……あれ、園田さん?」
マップを見て、穂むらに向かおうとしていたら園田さんが後ろから声をかけてきた。
「まだ学校にいたんですか?てっきりもう行ったものとばかり」
「ちょっと友達の仕事を手伝ってまして……」
「そうですか、じゃあ一緒に行きましょうか」
「はい……」
「「……………」」
あれ、そういえば園田さんと2人っきりて初めてだよな。いつも穂乃果さんとことりさんが一緒にいるし
「そ、そういえば優木君は穂乃果の和菓子屋さんに行ったことはありますか……?」
「い、いえ。この近くに住んでいるんですけど、行ったことは無いですね」
「そ、そうですか…………」
「「…………」」
………き、気まずい。いつもは穂乃果さんが積極的に話してくれるから話題には事欠かないけど……多分、園田さんも積極的に話すタイプじゃないしな
「あ、あの…もしかして私の事、怖がってますか?」
「え?………な、何でですか?」
「いえ、何となくそんな気がしたんです。私も人前に出たり、男性と会話するのは怖いと感じることもあります。優木君はその時の私とよく似ているんです」
怖がっている……か。そんなことはないと言いたいけど、やっぱりまだ女性に対して苦手意識はあるようだ
「はい…多分、そうなんだと思います」
「多分?」
「はい………実は僕、異性に対して苦手意識がありまして。あっ!でも会話とかなら問題ないですよ。友達や家族のお陰で何とかそこまでは克服できたので。皆さんと一緒にいることも無理してるわけじゃありません。でも、まだ少しだけ苦手という気持ちがあって」
「………そのことをことりは」
「わかりません……少なくとも僕は言ってないです。僕が女性を苦手になったのはことりさんと会わなくなってからですし」
雛奈さんが説明していると思ってたけど、あの様子だと多分知らないだろうな。別に隠しているわけじゃないけど、言っても心配させるだけだし
「では…なぜテスト生として音ノ木坂に入学を?」
「母が勝手に僕をテスト生に推薦して、その後はトントン拍子に話が進んだんです。でも、僕もこの苦手意識を完璧に克服したいと思っていたので丁度良かったんですよね」
最初は雛奈さんが困っていたから、母に言われたからしょうがなくという気持ちだった。でも、真白やツバキとの約束もあるし、今は前向きに頑張っていこうと決めたんだよな
「…………すごいですね」
「え……?」
「私は、そんな風に自分の弱さと向き合うことはできません。先程も言いましたが、私は人前に立つのが苦手です。でも、それを治そうという努力はしてきませんでした」
「園田さん………」
そんな事はないと思うけど……実際、人の前に立つのが苦手なのにアイドルをやろうとしてるんだから
「いえ!園田さんの方が凄いです!友達や学校の為にアイドルをやるなんて普通できませんよ!」
「い、いえ!それを言うなら女性に苦手意識を持っているのに、私達の事を手伝ってくれてる優木君の方が凄いですよ!」
「いえ、園田さんのほうが!」
「優木君です!」
不毛な争い。自分でもそう思うけど、なんか引くに引けなくなったので、僕は園田さんと向かい合う。
「「………………ふふっ、あははっ!!」」
そうして、どちらが凄いのか言い争って向かい合っていると、お互いに何をやっているのか分からなくなり、つい笑ってしまった。
「あははっ!僕達、何を言い争ってるんですかね」
「ふふっ、そうですね」
「園田さん、もうこの話は終わりにして早く行きましょう。あんまり遅いと怒られちゃいます」
「海未……」
「え?」
「海未でいいですよ。穂乃果やことりは下の名前で呼んでるのに私だけずっと苗字は不公平です」
「そ、そうですか?じゃあ……海未さんって呼びますね。僕のことも白羽って呼んでください。穂乃果さんみたいに呼び捨てでもいいですよ!」
「はい、では…白羽と呼びますね」
なんか……海未さんとの距離が縮まった気がする。
うん……めっちゃ嬉しい!!
―――――――――――――
それから海未さんと会話を弾ませて穂むらに向かった。最初の気まずい雰囲気が嘘みたいに楽しかった
「ここですか?」
穂乃果さんの家、穂むらは見るからに和の雰囲気があるお店だった。
僕の家はマンションだからこういう家ってちょっと憧れてるんだよな
「はい……こんばんは」
「モグモグ…………あ、あら!いらっしゃい」
中に入ると若い女性の店員さんがお団子を食べていた
ん?…店員さんがお団子を食べてる?…いいのか?
「穂乃果は?」
え?……海未さん、あれスルーするんですか?
「上にいるわよ。それよりその子は?もしかして、海未ちゃんの彼氏?」
「か、かかか彼氏!?ち、違います!!白羽とはそういう関係ではありません!!」
そこまで否定しなくても…………ちょっとだけ悲しい
「あ、あはは……えっと優木白羽って言います。海未さん達の手伝いをしているものです」
「あぁ!あなたが穂乃果と雪穂が話してた白羽君ね。初めまして、穂乃果の母です」
「はい、よろしくお願いします」
それにしても、穂乃果さんのお母さん若すぎない!?お姉さんって言われても疑わないよ!?雛奈さんも大概だけど、この人も凄いな
「そうだ、2人ともお団子食べる?」
「いえ、結構です。ダイエットしないといけないので」
「そう?白羽君は?」
「僕も大丈夫です。ありがとうございます」
「そう、じゃあ2人とも上がって」
「「お邪魔します」」
僕達は穂乃果さんの部屋へと向かった。
あのお団子美味しそうだったな〜
せっかくだから帰りに真白に買って行こう
「……食べても良かったんですよ」
「いえ、流石にダイエットを頑張る海未さんの前で食べるのは…」
「ふふっ、ありがとうございます」
手伝うと決めたならそういう事もしっかりしないといけませんしね
「ここです。穂乃果、入りますよ……」
「「練習お疲れ様ーー」」
「「………………」」
「2人ともお団子食べるー?」
「今お茶淹れるねー」
「「………………」」
部屋の中に入ると、穂乃果さんとことりさんはお団子を美味しそうに食べていた。
うん、とりあえず僕の決意を返してください!
「貴女達……ダイエットは?」
「「あぁぁ!!」」
……………………ダメだこりゃ
「はぁ〜、努力しようという気はないようですね。
それで曲の方はどうなりました?」
「うん!一年生にすっごく歌の上手い子がいるの!ピアノも上手で、きっと作曲もできるんじゃないかなって。明日、聞いてみようと思うんだ」
歌とピアノの上手な一年生………あっ!もしかして
「あの赤毛の先輩ですか?」
「そう!前に音楽室で会った子だよ!!」
成る程、確かにあの人なら作曲も出来るかもしれない。けど……引き受けてくれるかな?まぁ、今考えてもしょうがないか
「じゃあ歌詞はどうするんですか?」
「その事なんだけど、さっき穂乃果ちゃんと作詞はなんとかなるよねって話してたの」
「「なんとか?」」
「「うん!ねぇー!」」
なんか穂乃果さんとことりさんの2人だけで話が進んでて、僕と海未さんは全くついていけないんですけど??
「それで、結局だれが書くんですか?」
「「……うふふっ」」
「え?……な、なんですか?」
2人は少し悪い笑みを浮かべ、海未さんに詰め寄った
あ、この人達なんか悪い事考えてるな
「海未ちゃんさぁ、中学の時にポエムとか書いた事あったよね」
「……え"」
「……え?」
ポエム?………海未さんが?
「読ませてもらった事もあったよねぇー」
うわぁ……これ恥ずかしいやつだ。大人になった時に見たら死にたくなるようなやつだよね
「…………っ!?」
あ、逃げた……
「逃げたー!」
「あぁ、海未ちゃん……」
まぁそりゃ逃げますよね。自分の黒歴史を暴露されれば誰だって
ヤメテクダサイ!カエリマス!!
ウミチャーン!!
イイカラッ!!
ヨクアリマセン!!
2人は逃げた海未さんを追いかけて店の前で引き留めている。
海未さん、ご愁傷様です……
「………お茶美味しい」
僕はことりさんに淹れてもらったお茶を一口飲んだ
数分後、海未さんを連れて穂乃果さん達が戻ってきた
予想通り、海未さんに作詞をしてほしいとの事だった。そのお願いに海未さんは……
「お断りします!」
と答えた
「えぇ!何で何で!?」
「絶対嫌です!中学の時のだって思い出したくもないくらい恥ずかしいんですよ……」
「アイドルの恥は掻き捨てって言うじゃない」
「言いません!!」
…………なんですかその言葉?
「でも、私は衣装を作るのに手一杯だし……」
確かに、ことりさんは衣装を作ることに専念したほうが良い。衣装作りだって大変なのに作詞まで手伝わせるのはさすがにダメだ。僕が書いてもいい歌詞が出来るとは思えないし、やっぱり3人の誰かが書いた方が良い気がする…………でも、海未さん嫌がってるしな
「あの、嫌がってるのに無理矢理書かせるのはちょっと、穂乃果さんは書けないんですか?」
「え、え〜っと……私は……」
「シロ君、これは小学生の頃に穂乃果ちゃんが書いた作文なんだけど、ちょっと読んでみて……」
「え……は、はい?」
ことりさんから渡された紙に目を向ける。そこには…
『おまんじゅう うぐいすだんご もうあきた』と書かれていた
………………うん!無理だね!!
「無理だと思わない?」
「海未さん……」
「はい?……えっ!?」
僕は海未さんの手を握り、顔を近づけ詰め寄った。
「し、白羽!?」
「お願いします!書いてください!穂乃果さんに任せると人に聞かせられない歌になります!」
「白羽君ひどいっ!?」
うるさいです!
「お願いします!!」
「海未ちゃん、お願い!」
「な、何か元になるような物だけでも!」
「ですが………」
仕方ない、この手だけは使いたくなかったけど………なりふり構っていられない!!
「………ことりさん、アレやってください」
「うん!まかせて♪…………海未ちゃん……」
「……ん?」
「おねがぁい♡……!!」
「なっ……!!」
うん………やっぱり凄いよな……このお願いの仕方。昔、僕もやられたけど断れなかった
「もう…ズルいですよ……ことり……」
「良かったぁ!!」
「やったー! そう言ってくれると思ってたんだ!」
よしっ!これで後は作曲の件が何とかなれば、歌は大丈夫そうだな
「…………ただし、ライブまでの練習メニューは私が作ります!」
「「練習メニュー?」」
海未さんはパソコンを起動させ、A-RISEの動画を再生する。そこには笑顔を絶やさずに激しく踊る姿が映し出された
「楽しく歌っているようですが、ずっと動きっぱなしです。それでも息を切らさず笑顔でいる。かなりの体力が必要です。穂乃果、ちょっと腕立て伏せしてもらえますか?」
「え?………こーう?」
「それで笑顔を作って」
「こーう?」
「そのまま腕立て、出来ますか?」
「う………あ……えっ、うわああぁあ!!いったーい!!」
穂乃果さんは笑顔のまま腕立て伏せをしようとしたが、力が入らず顔を床にぶつけてしまった
「弓道部で鍛えてる私はともかく、穂乃果とことりは楽しく歌えるだけの体力をつけなくてはなりません」
「アイドルは笑顔が大切です。踊れるだけじゃダメです!疲れをお客さんに感じさせないようにしなきゃいけません」
「そっか。アイドルって大変なんだね」
「でも……やるんですよね?」
「うん!もちろんやるよ!」
「では………明日から神田明神にて体力トレーニングを始めます。2人共、学校が始まる前に体操服で着てください」
「「はい!」」
朝練………2人共、大丈夫かな?海未さんって凄く厳しそうなんだけど。まぁ2人共、根性ありそうだし、きっと大丈夫か。それより朝練をするなら僕も水とかタオルとか準備しないと
――――――――――――翌日
昨日言った通り、穂乃果さん達は神田明神にて練習をしている。正直、驚いた。ことりさんはともかく穂乃果さんは遅刻してくると思ってたから
「はっ、はぁっ、ハァ……ッハァ……っ!」
「ハァ…ハァ………ヒィ………はぁっ」
海未さんは問題ないが、やはり二人はまだまだ体力が無いようだ
「ハァ……もう、キツイよお……!」
「もう足が動かないっ……!」
「どうぞ、しっかり水分補給してくださいね」
「「ありがと~~~」」
持ってきたペットボトルを渡し、2人はそれを勢いよく飲んでいる。
やっぱりこのメニューはきついよなぁ。
「これから毎日、朝と晩、ここでダンスと歌とは別に、基礎体力をつける練習をしてもらいます」
「「一日2回もぉー!?」」
「そうです、やるからにはちゃんとしたライブをやります!そうじゃなければ生徒も集まりませんから」
「……はぁ~~い」
文句を言いながらも、練習メニューはちゃんとこなしている。それだけで穂乃果さんの本気が伝わってくる。なら、僕も精一杯頑張らなきゃ!
「皆さん、タオル渡しますのでちゃんと汗拭いてくださいね」
「「「はい!!」」」
「じゃあ、もうワンセット―――」
「―――君たち」
練習に戻ろうとした時、僕達は誰かに声をかけられた。そちらに目を向けると巫女服姿の東条さんがいた
「副会長さん……?」
「おはようございます。今日も朝から手伝いですか?」
「ふふっ、ここで会うのは二度目やね」
「あの…その恰好は……?」
「ここでお手伝いしてるんや。神社は色んな気が集まる、スピリチュアルな場所やからね」
「ああ!そういえば前に白羽君がいってたよね?副会長とは神社で会ったって」
「…………はい」
やめてください、あの時の事を思い出させないでください!まだ、ことりさんの笑顔はトラウマなんですから!?
「4人共、階段使わせてもらっているんやから、お参りくらいしていき」
そう言われて、穂乃果さん達はお参りをしに行った。
「初ライブがうまくいきますように!」
「「うまくいきますように!」」
そういえば学校が始まる前、僕もここでお願いしたんだよな。確か、大切な人がたくさん出来ますようにってお願いしたんだっけ。今思い出しても恥ずかしいな
「あの3人、優木君の言う通り本気みたいやな」
「はい!そうでなければ、あんなに頑張れませんよ」
「せやね、ウチも応援してるで」
「ありがとうございます。でもその言葉は3人に言ってあげてください。きっと喜びます」
「うん、そうするわ」
「白羽く~ん!!練習再開するよー!」
東条さんと話していると、いつの間にか3人は参拝を終え、練習を再開しようとしていた
「…………ほな、また学校でな」
「はい、失礼します!」
「―――――優木君、ウチは君の事も応援してるで」
それから朝練を終え、僕達は学校に向かった。
「しろはっち、ヤッハロー!」
「ヤッハロー!」
桜がいつもの挨拶をしてきて、僕もそれに答えた。
なんか、僕もこの挨拶にだんだんハマってきた
「ねぇ………あの子でしょ?噂の」
「うん………柏木さんといつも一緒にいるよね」
「やっぱり噂通りなんじゃない?」
「そうかも……」
なんか………周りの生徒が僕たちの事を見てるけど、これってまさか
「桜、これって昨日言ってた………」
「うん、例の噂が広まってるんだと思う………」
もしかして桜と一緒にいることも噂を加速させてないか?だって学校にいる時はほとんど一緒にいるしな。
まぁ僕はいいんだけど……
「桜は大丈夫なの?僕と一緒に居て」
「うん!心配無用!私は他の女子と喋ることは少ないけど、クラス内での立場は上だからね。私を敵に回したらヤバいってことは他の女子も分かってるはずだし」
「…………聞きたくなかったよ、そんな女子の裏側」
「あはははっ!女子何てそんなもんだよ」
なんか、女子の黒い部分を知ったような気がする
「じゃあ行こうか」
「OK!!」
噂の事も何とかしなきゃだけど、今はそんな事を考えている暇はない。考えるべきはライブのことだ!作曲の件は今日の昼に頼みに行くって言ってたから後でどうなったか聞かないと
―――――――――放課後
というわけで、今日も学院の方にやって来た…………のだが
「…………穂乃果さん、どうかしたんですか?」
「…………」
朝まで元気だったはずの穂乃果さんが何故か落ち込んでいた。いつもはこれでもかってぐらい元気なのに
「もしかして……作曲、断られたんですか?」
「はい。3人で1年生の教室に行き、頼んでみたのですが………」
やっぱり…あの先輩なら「オコトワリシマス!」とか言いそうだわ
「………それで落ち込んでると?」
「ううん、違うのシロ君。穂乃果ちゃんが落ち込んでるのはその事じゃないの…………」
「え……?」
「実は………」
ことりさんの話によると、さっき絢瀬さんに―――
――――スクールアイドルが今まで無かったこの学校で、やってみたけどやっぱり駄目でしたとなったら、みんなどう思うかしら?
――――私もこの学校に無くなってほしくない。本当にそう思っているから簡単に考えてほしくないの!
と言われたらしい
「なるほど…………」
厳しいよなぁ、絢瀬さん。でも、今回も意地悪で言ってるわけじゃない。絢瀬さんも穂乃果さんと同じで学校を守ろうと必死なんだ
「……私、ちょっと簡単に考え過ぎだったのかも」
「やっと気付いたのですか……」
「でも、ふざけてやろうって言ったわけじゃないよ。海未ちゃんのメニューは全部こなしているし、おかげで足は筋肉痛だけど……」
「それは分かっています。きっと絢瀬さんも………。だから僕も手伝うって決めましたし。でも、あの人の言葉に間違っている所はありません。実際、まだライブが出来るかどうかも怪しい段階ですし……」
「そうだよね……あと一ヵ月もないんだもんね……」
「ライブをやるにしても、歌う曲くらいは決めないと……」
「今から作曲者を探している時間はありません。歌は他のスクールアイドルのものを歌うしかないと思います……」
「そうだよね……」
まずいな、皆さんの気持ちが沈んできてる。このままだとこれからの練習にも影響しそうだ……………なら
「取り合えず……絢瀬さんの言葉は忘れましょう!」
「「「…………えぇぇぇ!!」」」
おっ!やっと穂乃果さんの顔が上を向いたな!
「で、でも………」
「でもじゃありません!今のままだと本当にライブ出来なくなりますよ!なら、一旦忘れたほうがマシです!」
「「「…………」」」
どうやら3人共、かなり落ち込んでるみたいだな。いつもならこういう時は穂乃果さんが場を明るくするんだけど
「………よしっ!穂乃果さん、行きましょう!!」
僕は穂乃果さんの手を取り、彼女を立ち上がらせた。今は気分転換をさせた方が良い
「えっ!ど、どこに…?」
「名前を募集している箱を確認しに行きますよ!もしかしたら入ってるかもしれません!」
「う、うん。分かった………」
「はい!2人は教室とかで待っててください。後で行きますので」
「は、はい………」
「…………うん!」
海未さんは少し困惑し、ことりさんは笑顔で返事をした。
「じゃあ、行きましょう!」
僕は穂乃果さんの背中を押し、募集箱の所へ向かった
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「穂乃果、大丈夫でしょうか?かなり落ち込んでましたけど………」
「……海未ちゃん、きっと大丈夫だよ」
「ことり……?」
「だって…………シロ君がいるもん!」
ことりは去っていく二人の背中を安心したように見ている
南ことりは知っている
優木白羽という少年は誰よりも頼もしく、優しい人間なのだということを
「海未ちゃん、行こっか。私達は教室で待ってよ」
「…………そうですね」
海未も心のどこかで期待していた…………
彼なら穂乃果を元気づけてくれるのではないかと
(………どうしてでしょう?)
海未は心底不思議に思った。
なぜ……会ってまだ数日の少年に期待なんて気持ちが出てくるのか。
(どうして………白羽なら、この状況を何とかしてくれるかもしれない。そんな気持ちが湧いてくるのでしょうか?)