ことりさん達と別れてから、穂乃果さんは一言も喋らずに僕の隣を歩いている。彼女からはいつもの元気が全く感じられない
「「…………」」
いつもなら、明るい笑顔で話しかけてくるんだけどな……
「穂乃果さん……」
「何…?」
穂乃果さんは太陽みたいな人だ。この人の笑顔は周りの人を明るくし、自然と人を惹きつける。
でも、太陽だって沈む事も当然ある。彼女が沈めば、周りも暗くなってしまう。
―――なら、彼女が沈んだ時は近くにいる人間が支えてあげればいい
「……間違ってませんよ」
「え……?」
「穂乃果さんは学校が大好きで、学校の為に本気で頑張っている。そんな人の行動が間違っている筈がありません」
「…………白羽君」
「だから迷わなくても大丈夫です。貴女のやりたい事を、貴女の信じる道を進んでください。だから、そんな暗い顔してないでいつもの素敵な笑顔に戻ってください!」
僕は穂乃果さんの頬を優しく掴み、口角が上がるように引っ張った
「貴女がいつものように前へと進めば、きっと何とかなります!…………貴女の笑顔には、それだけの
「……っ!!」
「応援してくれる人は必ずいます。きっと、すぐ近くにも……」
「………」
「……穂乃果!」
突然、後ろから穂乃果さんの名が呼ばれた。後ろに目を向けると、そこには僕の知らない先輩が3人いた。
――――もしかして、穂乃果さんの友達かな?
「どう?練習は」
「ライブ、何か手伝えることがあったら言ってね」
「照明とかお客さんの整理とか、色々やらなきゃいけないでしょ」
――――ほらね…………僕以外にもいるんです。貴女を応援する人は
「え、本当に?」
「うん。だって穂乃果達、学校の為に頑張ってるし」
「クラスのみんなも応援しようって言ってるよ!」
――――貴女達の事を見ている人は、僕だけじゃありません
「……そうなんだ!」
「頑張ってね!」
「……うん!ありがとう!」
穂乃果さんの顔にようやく明るさが戻った。
どうやら……もう大丈夫みたいだ。
「それで、その子が前に言ってたテスト生の子?」
そう言って先輩達は穂乃果さんから僕の方に視線を移した。
あ、そういえば自己紹介してなかった。
「えっと、テスト生の優木白羽です。穂乃果さん達のお手伝いをしています」
「私はヒデコ。こっちがフミコとミカ。よろしく」
「「よろしくね」」
「はい、よろしくお願いします」
話によると3人は穂乃果さんのクラスメイトで仲良くしている友達らしい。
「それで………君は穂乃果のどこに惚れたの?」
「「……え”?」」
………え、ヒデコさん…何言ってるんですか?惚れてませんけど!?どこをどう聞いたらそんな事になるんですか!?
「ヒ、ヒデコ!?な、ななな何言ってるの!?」
ほら、穂乃果さんも驚いてるじゃないですか。っていうか動揺しすぎです。
「だって、さっき情熱的な殺し文句言ってじゃん。『暗い顔してないでいつもの素敵な笑顔に戻ってください!』とか」
「『貴女の笑顔にはそれだけの魅力があります』とも言ってたよね!」
――――みなさん、いつから聞いてたんですか……?
「穂乃果ちゃんも隅に置けないね♪」
「ち、違うよ!そ、そんなんじゃ………そ、そうだよね!白羽君!」
「え、えっと~……よくわかりませんが、僕はただ本当の事を言っただけですよ?」
「「「「………………」」」」
あれ……?なんでそんな目で見るんですか?
「穂乃果、あの子って………」
「う、うん。そういう子みたい………」
「え……あれ、天然なの!?狙ってるんじゃなくて!?」
「口説いてるとかじゃなかったの!?」
「ことりちゃんも被害者の1人」
「「「………うわぁー」」」
聞こえてますよ。っていうか被害者って何ですか!?
……え、別におかしな事言ってないよな?
でも、前にも生徒会室でクサイ台詞言っちゃってたし………もう一回確認してみよう
――――貴女のやりたい事を、貴女の信じる道を進んでください
――――暗い顔してないでいつもの素敵な笑顔に戻ってください!
――――貴女がいつものように笑顔で進めば、きっと何とかなります
――――貴女の笑顔にはそれだけの魅力があります
……………………………え、別に変じゃなくない?
※(白羽にとっては当たり前の事を言っただけなので、恥ずかしい事を言ったという自覚が無い)
「じゃ、じゃあ私たちは帰るね」
「「また明日」」
「う、うん!バイバーイ!」
僕が何か変な事を言ってないか考えていたら、ヒデコさん達は帰っていった。何が変だったのか聞こうと思ってたのに
「……し、白羽君。あんまりそういう事言っちゃダメだよ」
「そういう事?」
「だ、だから………前に言ってた綺麗とか………魅力があるとか」
「何でですか……??」
「いいから!!」
「は、はい!!」
………………やっぱり、女の子ってよくわかりません
「じゃあ、募集箱を確認しに行こう!!」
「あ、ちょっと!走らないでくださいよ……!」
穂乃果さんはいつもの笑顔を浮かべて走っていった。
その時、顔が少し赤かったような気がするけど………気のせいかな?
――――――――――――――――――
というわけで、僕達は募集箱の前までやってきた。
「入ってますかね?」
「どうだろう……」
まぁ、僕としてはどっちでもいい。もちろん入っていれば嬉しいけど。此処へ来たのも穂乃果さんの気分転換になればと思ってただけだし、もうその件は解決できた。
「じゃあ、開けるよ……」
「はい……」
正直、あまり期待をしていなかった。入っている確率は低いと思っていた………………だが
「あぁー!!は、入ってる!!」
「えっ!本当ですか!?」
「うん!ほらほら!」
入っていたのは綺麗に折りたたまれたピンクの紙だった。
「さっそく!ことりちゃんたちの所へ行こう!!」
「はい……!」
――――――――――――――――――――
僕達は急いで二人のいる教室へと向かった。
「入ってた!?」
「本当!?」
「あったよー! 1枚!」
「さっそく確認しましょう!!」
お願いですから、ここまできてふざけた名前っていうオチはやめてくださいね!!そんなことになったら、せっかく元気になった穂乃果さんがまた落ち込んでしまう!
少し不安な気持ちで穂乃果さんが開いた紙を覗くと、そこには「μ's」と書かれていた
「………ユーズ?」
「多分、
「ああ!石鹸?」
「「違います……」」
…………絶対言うと思った
「恐らく、神話に出てくる女神から付けたのだと思います……」
「確か、音楽を司る女神だったはずです……」
「へぇー」
「良いと思う。私は好きだな!」
「どうします……?」
「……μ's……うん! 今日から私達は、μ'sだ!」
μ's……いい名前だ
でも、たしかμ'sって9人の女神だよな。
もしかして……………いや、さすがに考えすぎか
「じゃあ、名前も決まりましたし、今日も練習に行きましょうか!」
「「「はい!」」」
グループの名前は決まった。あとは………
「穂乃果さん………」
「どうしたの……?」
「作曲の事なんですけど、やっぱりあの人に作って欲しいですか?」
「……………うん!私、あの子に作ってほしい!!」
「………海未さんとことりさんも同じですか?」
「……はい。私も、穂乃果がそこまで言う人に作ってもらいたいです」
「うん!私も同じ気持ちだよ」
そうですよね……僕も、あの人が作った曲がいいです。どうせ歌うなら、あの人が作った曲で歌って欲しい
「わかりました。じゃあ3人共、先に行って練習しててください!僕はあの人にもう一度頼みに行ってきます」
「………ですが、一度断られてますよ」
「うん、シロ君でも難しいと思うよ」
「頼みに行ってみるだけです。「絶対に作って貰います!」とは言えませんが……取り合えず、この事は任せてもらえませんか?」
「白羽君………うん!分かった!じゃあ、海未ちゃんが書いた歌詞、渡しておくね!」
海未さん、もう歌詞書き終えてたんだ。ちょっと仕事速すぎません?
「ちょ、ちょっと穂乃果!!」
「いいじゃん!白羽君もμ'sの
「そうだよ海未ちゃん!」
……………………仲間か
「そ、それはそうですが!やっぱり恥ずかしいんです!!」
まぁ、自分が書いた歌詞を見られるのは誰だって恥ずかしいですよね………
「あ、あはは………じゃあ行ってきます」
「うん!お願いね」
穂乃果さん達と別れ、僕は1年生の教室に向かった。
――――――――――――――
穂乃果さんの話によると学院の1年生は1クラスしかないらしい。なら探すのは簡単だと思い、僕は一年生の教室に向かった………のだが
「…………あれ、誰もいない?」
どうやら、先輩達はみんな帰ってしまったらしい。
まぁ、授業が終わってから結構経ってるし、しょうがないか………
「どうしよう、まだ学校に残ってるといいんだけど―――」
「―――にゃん?」
………………にゃん?……なんで学校に猫がいるの?
声のした方に振り向くと、そこにはショートカットの先輩と眼鏡をかけた先輩が横から僕の事をのぞき込んでいた
「うちのクラスに何か用にゃ?」
えっと……この語尾はツッコまない方がいいのかな?
「………どちら様でしょうか?」
―――あれっ?この場合は僕の方がどちら様って言われる立場じゃないか?
「凜は
「こ、
「僕は優木白羽って言います。中学のテスト生で決して怪しいものではありません!」
「うん!君、結構有名だから知ってるよ。スクールアイドルの先輩のお手伝いしてる子でしょ」
あ、やっぱり学院の方でも結構目立ってるんですね。いや、放課後は大体こっちにいるから目立つのは当然か……
ってそんなこと言ってる場合じゃない!あの先輩を探さないと
「え、え~っと……あの、このクラスの赤毛の先輩ってどこにいるか知りません?」
「赤毛の先輩?」
「はい、ピアノと歌が上手な人なんですけど………」
「に、西木野さん……だよね。歌の上手い………」
「え……西木野さん?」
「う、うん………
そう教えてくれたのは星空さんの隣にいた、小泉さんだ。
―――あの人、西木野真姫さんって名前なんだ。
「はい!その西木野さんを探してるんですけど、何処にいるか知りません?もしかして、もう帰っちゃいましたか?」
「音楽室にいると思うにゃ」
「音楽室?」
「あの子あんまり周りの子と話さないの。休み時間はいつも図書館だし、放課後は音楽室だし」
………やっぱり、あまり人と関わらないようにしてるんだな。前に会った時も1人の方が好きって感じがあったし
「お二人共、ありがとうございます!」
「気にする事ないにゃ!」
「ど、どういたしまして」
「それじゃあ、失礼します」
「あ、あの!」
「??」
さっそく音楽室に向かおうとすると小泉さんが僕を呼び止めたので、僕は彼女の方に目を向けると何か言いたそうな顔をしていた
「あの………私、応援してるね。スクールアイドル」
「っ!!………はい!ありがとうございます!!穂乃果さん達にも伝えておきますね!」
「う、うん」
僕は小泉さんにお礼を言い、音楽室に向かった。
――――――――音楽室
「あ、いた!」
星空さんの言う通り、西木野さんは音楽室でピアノを弾いていた………本当に音楽が好きなんだな
「西木野さん、こんにちは」
「っ!?あ、貴方はこの前の……何で私の名前」
「すみません、ここに来る前に先輩から聞きました」
「べ、別にいいけど」
「そういえば、まだ名乗ってませんよね。僕は優木白羽って言います。この学校のスクールアイドルのお手伝いをしています」
「………それで、何の用?作曲の件なら断ったわよ」
「はい、知ってます。何で断ったんですか?」
もし、作るのが嫌だとかめんどくさいって理由なら頼むつもりは無い。そんな人に作って貰ってもいい曲は出来ない。でも、この人はそう言う理由で断った訳じゃないと思う
「私、ああいう曲一切聴かないのよ。聴くのはクラシックとかジャズとか……」
「どうしてですか?」
「軽いからよ。なんか薄っぺらくて……ただ遊んでいるみたいで」
成る程……そういう理由か。軽いっていうのは合っていると思う。でも、遊んでるわけじゃないんだけどな
「確かに、西木野さんが聴くような曲と比べたら軽いって感じると思います。実際、僕だってそう思ってますし」
「え……?」
「でも………遊びでやってるわけじゃありませんよ」
「………」
「西木野さん、踊りながら歌ったことあります?」
「はぁ!?あるわけないでしょ!」
デスヨネー。なら想像しにくいのも無理はない
「それって結構大変なんですよ。歌っている時も常に笑顔でいなきゃいけませんから体力も必要なんです!それで今、穂乃果さん達は体力作りを頑張っているんですよ。すごいですよね、朝と放課後にきつい練習メニューをサボらずにきっちりこなしているんですから」
「な、なんの話よ?」
「…………穂乃果さん達は一生懸命やっている。っていう話です!」
「…………」
「これ、どうぞ!」
僕は穂乃果さんから貰った歌詞の書かれた紙を西木野さんに差し出した。此処に来るまでに読んでみたけど本当に良い歌詞だと思った。だからこそ、僕はこの人に作曲してほしい
「歌詞です。一度読んでみてください」
「………だから私は」
「読んでくれるだけでいいです」
「え………?」
「これ、本当に良い歌詞なんです。この歌詞を読んで、それでも気が変わらなかったら諦めます。きっと穂乃果さんも分かってくれます」
「………気持ちは変わらないと思うわよ」
西木野さんは僕が差し出した歌詞を受けとってくれた。
「はい、それでも構いません」
「…………何で?」
「え……?」
「なんで私なのよ?作曲なら別に他の人でも………」
「…………ふふっ」
僕は西木野さんの問いかけに対して少し微笑んだ後、そっと目を閉じた
「…………??」
「さあ!大好きだバンザ~イ♪ 負けない勇気~♪ 私達は今を楽しもう♪」
「っ!?」
僕は西木野さんに初めて会った時、ここで彼女が演奏していた歌を歌った。西木野さんが驚いたことは、目を瞑っていてもすぐに分かった
「大好きだバンザ~イ♪ 頑張れるから~♪ 昨日に手を振って♪ ほら~前向いて~♪」
歌い終えると、目を開け、西木野さんの顔をもう一度見た
「その歌………」
「この歌を聞いた時、本当に感動したんです。僕は西木野さんが作曲を出来るから頼んでるわけじゃありません。あんなに綺麗に歌える西木野さんなら、きっといい曲を作ってくれると思ったからです。穂乃果さんもきっとそう思っています」
「…………」
「僕の言いたいことは、これで全部です。それじゃあ僕は練習の手伝いに行かなきゃいけませんので、これで失礼します。あ!よかったら練習見に来てください!神社の前でいつも練習してるので………」
「………待って」
僕が音楽室を出ようとした時、西木野さんは少し大きな声で呼び止めた
「………あなた、歌上手ね。さっきの歌声、綺麗だったわよ」
西木野さんはそう言い、初めて笑顔を見せてくれた。
僕は歌を褒められた事より彼女が微笑んでくれたことが嬉しかった。
「はい!ありがとうございます!」
僕も笑顔でお礼を言い、音楽室を出て行った
――――――――――――――――――――
神田明神に着くと、穂乃果さんとことりさんはいつものように階段を走り、海未さんがストップウォッチを片手に2人のタイムを計測している
「海未さん、すみません。遅くなりました」
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「歌詞は読んでくれるみたいです。まぁ、作曲してくれるかは分かりませんが」
「……そうですか」
「ハァ……ハァ………し……白羽君、お、お疲れ様」
「シロ君……ハァ…ハァ……ど、どうだった?」
「…………と、取り敢えずスポドリ買ってきたので、これ飲んでください」
落ち着かせる為に、来る道中に買っておいたスポドリを2人に渡した。そんなに呼吸を荒げていたら話なんて出来ない。少しずつ落ち着いてきた2人は、また結果を聞いてきたので、3人に先程あった事を説明した
「―――という訳です」
「……そっか」
やっぱり、3人とも期待していたようで、少し残念そうな顔を見せた。
(うっ………なんか、罪悪感がすごい………)
「す、すみません。なんの役にも立てず……」
「う、ううん!そんなことないよ!」
「そ、そうだよ!シロ君はがんばってくれたし!」
「そうです!気にすることありません」
………まぁ、3人の言う通り気にしてもしょうがないか。それに作ってもらえないって決まったわけじゃないし
「よしっ!それじゃあ、白羽君も合流したし、練習続けよう!」
「「「うん(はい)!!」」」
3人が休憩を終え、練習を再開しようとした時―――
「きゃああ!!!」
―――何処からか、少女の叫び声が聞こえてきた。
「え?今の声って…」
3人は突然の出来事に戸惑っているようだが、僕はその声が誰のものなのかを理解し、少し嬉しくなった
――――西木野さん、見に来てくれたんだ
「………ふふっ」
「シロ君?どうしたの……?」
「いえ、優しい人だなって思っただけです」
「「「??」」」
3人は僕の言葉に首を傾げ、よくわからないって表情を見せた。
「さぁ!時間はありません。練習再開しましょう!」
「「「はい!!!」」」
そう言うと、3人は気持ちを切り替えて練習を再開した。
あれ?………そういえば、叫び声あげてたけど………西木野さん大丈夫かな?痴漢とかにあってたら洒落にならないんだけど
「一応、見に行こ「心配せんでもええよ」っ!?」
ちょっと心配になってきて、西木野さんの声がした方に向かおうとした時、東条さんが耳元で話しかけてきた。
………なんか、前にもあったな
「と、東条さん!?」
ビックリした!?この人、なんか突然現れることが多くない!?
「う~ん、残念。前みたいな反応はせえへんか」
「残念って………それより、さっきのって東条さんが何かやったんですか?」
「ウチはアドバイスしただけや」
東条さんはそう言って、少し微笑んでウインクをしてきた。
「アドバイス?」
「うん………優木君と同じように、ちょっと背中を押しただけ」
「??」
東条さんはそれだけ言って仕事に戻っていった。僕は彼女の言葉を理解できずに首を傾げた。
―――やっぱり……何を考えているかわからない人だ
―――――――――――――――翌日
「………………ふわぁ~~」
僕は今日も朝練の為に早い時間に目を覚ました。昨日、少し寝るのが遅かったため、大きなあくびが出た。
「………真白、おはよう」
「おはようございます。今日も練習の手伝いですか?」
リビングに着くと、真白が朝ごはんを作ってくれていた。
最近は、手伝いが大変という理由で朝食は作れていないんだよね。真白にそのことを謝ったら、「兄さんは大変なんですから、朝ぐらいゆっくりしてください」っと言われた。
………え?こんなに兄想いの妹が他にいます??
「うん。ファーストライブまで時間が無いからね」
ちなみに、スクールアイドルの手伝いをしていることは真白も知っている。最初は、わざわざ伝えることも無いかなと思って黙っていたんだけど………この前、「兄さんから女の匂いがします」と詰め寄られてしまったので説明した。
…………女の匂いって
「そういえば。こんな物が郵便受けに入ってましたよ」
「ん……?」
真白が僕に差し出したのは、1枚のディスクが入った封筒だった。
「それ何?」
「分かりません。差出人の名前が書いていないので………「μ's」と書いてあることしか」
「………え!?」
僕は真白からその封筒を受けとり、直ぐに確認した。真白の言う通り、封筒の裏にはたしかに「μ's」と書かれていた。
「もしかして…………ごめん真白!!ごはんは帰ってから食べる!!」
「え?ちょ、ちょっと兄さん!?」
僕はこのディスクの中身が何なのかを理解し、直ぐに学校に向かった。一刻も早く伝える為に………なにより、早く4人で聴くために
――――――――――――――――――――――
学院の屋上に着くと、すでに穂乃果さん達は練習を始めていた。僕は穂乃果さん達にディスクの事を説明し、持ってきたパソコンにディスクを入れた。
「………じゃあ、流しますよ」
「「「………」」」
『I say♪…Hey!hey! hey!START:DASH!!』
「この歌声…!」
「はい、間違いありません。西木野さんの声です!」
流れてきたのは海未さんが書いた歌詞に演奏がつき、西木野さんが歌っている音声だった
「……すごい、歌になってる」
「………私たちの」
「私たちの歌……」
僕達がその歌を聴いていると、パソコンにはμ'sのランキングに変動があったことを示す知らせが入った。
「あ……!」
「票が入った!」
画面には「RANK 999」と表示された。それは、今まで一票も票が入っておらず、ランキングにも乗っていないμ'sが初めて票を獲得した瞬間だった。
………僕には、誰が票を入れてくれたのかが直ぐに分かった。いや、きっと穂乃果さんも気づいたはずだ。
「さぁ!練習しよう!!」
「「はい!!」」
穂乃果さんの声に応え、ことりさんと海未さんは立ちあがり、練習を再開した。
「西木野さん……本当に、ありがとうございました」
僕は、票を入れてくれたであろう彼女にお礼を言った。ここに西木野さんはいないけど、僕はお礼を言わずにはいられなかった
「………白羽君!練習始めるよー!」
「はい!今行きます!」
―――――――――――――――――――――――
それから、あっという間に時間は過ぎていった。穂乃果さん達は今日も変わらず、神社にて練習をしている
「ワン!ツー!スリー!フォー!ファイブ!シックス!セブン!エイト!」
あれから、3週間。穂乃果さん達は見違える程に成長した。
今では、笑顔を崩さずに走り込みも出来るようになり、ダンスも前とは比べ物にもならない程上手くなった
「ことりさん、左手を意識してください」
「はい!」
「穂乃果さん、ちょっとリズムが乱れてます」
「はい!」
「海未さん、顔を下に向けないでください」
「はい!」
僕のカウントに合わせて穂乃果さん達が踊り、おかしな所があれば僕が指摘していく。
基礎のステップはマスターしているので、最近は躓くことも無くなってきた。本当に驚いた、たった一ヶ月でここまで仕上げるとは
「はい!それじゃあ今日の朝練は終わりです。しっかり水分補給してください」
「「「はい!!」」」
ダンスについては僕がツバキから教えてもらい、なんとか完成することができた。今では、アドバイスを言えるレベルには理解できてきた。
…………まぁ、ステップを考えられるってだけで、踊れるわけじゃないけど
「はぁ~、終わった~」
「まだ放課後の練習がありますよ」
「でも、随分出来るようになったと思うけど……シロ君はどう思う?」
「はい!大丈夫だと思います。この調子なら、明日の本番で大きなミスはしないと思います」
「2人がここまで真面目にやるとは思いませんでした。穂乃果は寝坊してくるとばかり思ってましたし」
本当に驚きましたよ。この一ヶ月、一度も寝坊や遅刻をしてこないとは………穂乃果さんって結構真面目?
「大丈夫!その分授業中にぐっすり眠てるから!」
「……………」
……はい、前言撤回!!この人やっぱりダメだわ!
「まったく………あれ?」
僕は寝そべっている穂乃果さんに呆れて、視線を階段の方に向けると、そこには西木野さんが隠れながらこちらを覗いていた
「………西木野さん?」
「………っ!!」
「え?……あぁ!西木野さ~ん!!真姫ちゃ~ん!!」
穂乃果さんも気づいたようで、大声で彼女の名を呼んだ。
ーーー近所迷惑になるのでやめてください。
「……大声で呼ばないで!!」
―――そうです、もっと言ってやってください。
「………どうして?」
「恥ずかしいからよ!!」
「そうだ!あの曲、3人で歌ってみたから聴いて!」
―――無視したよこの人。
「っ!!………はぁ?なんで?」
「だって……真姫ちゃんが作ってくれた曲でしょ!」
「………だから、私じゃないって!!」
「まだ言っているのですか?」
この一ヶ月、何度も西木野さんにお礼を言いにいったのだが、その度に「私じゃない!!」って言うんだよな。恥ずかしいんだろうけど、あのディスクに入ってた歌声は、どう聴いても西木野さんの声なんだよな
「西木野さん、せっかくなので聴いてあげてください」
「…………」
「ガオー!!!」
「「「「!?」」」」
突然、穂乃果さんが怪獣みたいな声を出して、西木野さんに抱き着いた。
―――え、何してんの?
「っ!!?はぁ!?何やってんの!?」
「ウフフ!ウヒヒヒヒヒッ!!」
「…………い、嫌ぁぁあああ!!」
………いやっ!ホントに何してるんですか!!??
「えいっ!……よし!作戦成功!」
「……っ!!」
穂乃果さんは西木野さんの耳にイヤホンをつけた。
「結構上手く歌えたと思うんだ!行くよ〜!」
「穂乃果さん、この前決めた
「アレ?………あ!うん!海未ちゃん!ことりちゃん!」
「はい!」
「うん♪」
「な、何??」
「「「μ’s ミュージック!スタート!」」」
その言葉と同時に西木野さんの耳には3人の歌が流れてきた
―――――――――――――――――――――――
それから朝練を終え、僕は中学に登校した。ちなみに、西木野さんは歌を聞き終えた後「まぁ、いいんじゃない」とだけ言って去ってしまった。
僕の歌は褒めてくれたんだから穂乃果さん達の事も素直に褒めてあげて欲しかった。
まぁ、穂乃果さんはめちゃくちゃ喜んでいたけど……
「ヤッハロー!しろはっち。今日も朝練だったの?」
「うん。もう明日だしね」
「大変だね〜……それで、どうなの?成功しそうなの?」
「……………」
「……しろはっち?」
「……え?ああ!ごめん。うん、この一ヵ月でかなり成長してるよ」
最初の頃に比べたら歌もダンスも上手くなっている…………でも、それはあまり関係ないんだよな……
「……………成功か」
「うん?なんか言った?」
「ううん、何でもないよ……何でも」
僕は桜の言葉に少し顔を下に向けて応えた。
「…本当にごめんね、本当は見に行きたいんだけど、明日はどうしても外せない用事があって」
「謝るの何回目?気にしないでって言ってるのに」
最初は桜も見に行く気満々!!って感じだったんだけど、どうやら予定が入ってしまったらしい。それから、何回もその事について謝ってくる
「次!次は絶対行くから!!」
「はいはい。分かったから顔を近づけないで」
今回行けなくなった事が余程気にしているのか、桜は僕に凄い顔で迫ってきた。
「それで……しろはっちはどう?」
「どうって?」
「悪い噂は流れなくなってきたけど、まだしろはっちの事を良く思ってない人はいるよ」
「あーー、別に虐められてる訳じゃないから大丈夫だよ。まぁ、一ヵ月経った今でも会話は出来てないけど」
この一ヵ月、僕は何の進展もしていない。
結局僕は帽子を取れず、クラスメイトからは敬遠されている。
つまり……まだ、大切な物は見つかっていないと言う事だ
「そのスクールアイドルの先輩達は、しろはっちの大切な人じゃないの?」
「……分からない。でも、僕はまだ助けたいって気持ちの方が強い気がする」
「じゃあ、どうするの?友達から「助けたい」って気持ちなら辞めとけって言われたんでしよ?」
「…………」
それは……もう決めてある。明日のライブが終わった後もまだ「やりたい」って気持ちがなければ…………
「辞めるよ…手伝い。その方が穂乃果さん達の為だ」
「……本気?」
「……うん」
これは、ツバキに言われたからではない。僕が自分で決めた事だ。このままの気持ちだとあの人達の邪魔をしてしまうかもしれない。手伝いをするなら心の底からやりたい人がやった方がいい
「…………しろはっちが決めたことなら、私は何も言わないよ」
「ありがとね。心配してくれて」
「いいよいいよ!友達なんだから当然でしょ?」
「うん、ありがとう。じゃあ、ちょっと僕は職員室に行ってくる」
「うん、いってらっしゃ〜い」
「しろはっち………貴方は先輩達の気持ちも…………自分の事も、全然分かってないよ」
白羽が教室を出て行った後、桜がそう呟いた事を白羽は知る由もなかった