純白の少年とスクールアイドルの物語   作:ハトル

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ライブ前

 

 

―――――――――――翌日

 

 

遂に、ライブ本番の日がやって来た。今日はライブ本番ということで朝練は無いのだが、かなり早い時間に目を覚ました。この一ヶ月、毎日早い時間に起きていたせいか、それが習慣になっているようだ。でも、気だるさは全く無く、不思議と目が冴えている

 

 

「…………………………いよいよ本番か」

 

まだ朝早いというのに体の重さを感じずに、僕はリビングへと向かった。まだ真白も母さんも眠っているようだったので、久しぶりに朝食を作ろうと決め、台所に立った。

 

「………フレンチトーストでいっか」

 

食パンが余っていたので、メニューはフレンチトーストとサラダにした。朝から甘いものは食べられないので、砂糖は使わず、しょっぱい味付けにして、ベーコンと目玉焼きを添えた。もちろん、自分の分だけじゃなく真白と母さんの分も作る。

 

 

「………うん!美味しい!」

 

僕は完成した料理を一口食べ、そう呟いた。自慢じゃないが、料理にはかなり自信があるんだよね!!

 

「兄さん、おはようございます。いい匂いですね」

 

朝食を食べていると、真白が起きて、リビングにやって来た。

 

「おっ!おはよう!真白の分もあるから食べな」

 

「はい。いただきます」

 

「…………どう?」

 

「美味しいです。やっぱり、兄さんは料理が上手ですね」

 

真白はフレンチトーストを一口食べて、そう言った。久しぶりだったからちょっと不安だったけど、口に合って良かったとそっと胸を撫でおろした

 

「兄さん、今日ですよね。ライブ」

 

「………うん。今日の放課後にね」

 

「私も見に行きたかったんですけど…………」

 

「真白は学校あるでしょ。心配しなくていいよ」

 

「そうですか………」

 

「……………………」

 

真白は頭が良い子だ。今日のライブが上手くいかないかもしれないという事は分かっているんだろう。

 

「じゃあ、僕は行ってくるよ!ライブの準備とかあるし!」

 

「…………分かりました。お見送りします」

 

僕は真白が気にしないように、笑顔で玄関へと向かった。玄関に着くと、真白からいつもの帽子を受け取った

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「…………兄さん」

 

「ん?どうしたの……?」

 

「ハグ…………お願いします」

 

真白はそう言って、上目遣いで僕を見て、手を横に広げた。

 

「………はいはい。ほらっ!」

 

僕は真白の要望に応え、真白を自分の胸に抱き寄せた。入学式の日からハグが気に入ったらしく、ほぼ毎日要求してくる。大人っぽいと言ってもまだ小学生の女の子だ。兄に甘えたいのだろう

 

「ふふっ、やっぱり兄さんのハグは落ち着きます」

 

「そうか?」

 

「はい、心が暖かくなるというか、不思議と安心するんですよね」

 

―――心が暖かくなる、か

 

「…………ありがとうございます。もう大丈夫です。今日も頑張ってください」

 

「うん、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出た後、僕はいつも通り桜並木を歩いて登校している。この道はお気に入りなので、中学に入学してからずっとこの道を通って登校している。今はまだ咲いているが、もう直ぐここの桜も散ってしまうだろう。そう思うと、少し悲しい気持ちになってくる。

 

 

「白羽君?」

 

「え?………穂乃果さん?」

 

桜を楽しみながら登校していると、穂乃果さんが後ろから声をかけてきた。まだ登校するには早い時間なので、少し驚いた。

 

穂乃果さんに会った事にではなく、朝練でもないのに穂乃果さんがこんな時間に起きれている事にだけど

 

「どうしたんですか?こんな時間に」

 

「白羽君こそ」

 

「え〜っと…………なんか、目が覚めちゃって」

 

「…………うん、私も」

 

「「…………ふふっ」」

 

僕達は顔を合わせると、つい笑みをこぼしてしまった。別に何か可笑しいというわけではないが、お互い顔を見ていると自然と笑顔になった。

 

「せっかくですから、一緒に行きませんか?」

 

「うん!もちろん!」

 

 

―――そういえば………前にもこんなことがあったな

 

 

「………ここでしたよね、僕達が初めて会ったのは」

 

「うん!あの時はビックリしたよね!」

 

「ビックリしたのは僕の方ですよ!!」

 

「あ、あはは………ごめんなさい」

 

「まぁ、もう気にしてないんでいいですけど。そういえば、海未さんとことりさんは一緒じゃないんですか?」

 

「うん。メールも入れてるから大丈夫」

 

「そうですか………」

 

「…………いよいよだね」

 

「…………はい」

 

穂乃果さんは真剣な表情と声でそう言った。彼女の顔からは楽しみという気持ちで溢れている。

 

「絶対!成功させようね!!」

 

「…………はい!!」

 

僕が抱えている気持ちを、この後向き合わないといけない現実を悟らせないように、僕は優しく微笑んだ

 

「よ~っし!それじゃあ学校まで競争しよう!!」

 

「またですか!?」

 

確か、僕とぶつかったのも海未さん達と競争してたからって言ってたよね。

この人、全然懲りてないじゃん!!??

 

「うん!いくよ~!よ~い、ドンッ!!」

 

「あ!ちょっと!ズルいですよ!!!」

 

まだやるとも言っていなのに、穂乃果さんは学校に向けて走り出した。

 

「速っ!?」

 

一ヶ月のトレーニングの成果で、穂乃果さんはかなり体力が向上した。それによって、かなりのスピードで走れるようになっているので僕も全速力で追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッハロー!しろはっち!…………なんで死んでるの?」

 

「ハァ…ハァ………ちょ、ちょっと…ゲホッ…朝から、軽めの運動を………」

 

「いやいやいや、絶対軽めじゃないでしょ」

 

 

あれから穂乃果さんと学校まで競争したのだが、先に走り出した穂乃果さんに結局追いつけず、負けてしまった。年上とは言え、男として女の人に負けるのは嫌なので全力で走った結果、僕は体力を全部使い切った。今の僕は机に頭を乗せ、桜の言う通り屍のようになっている。

 

 

「ライブって今日の放課後だよね。頑張ってね」

 

「お、おう………ガ、ガンバリマ~ス」

 

「…………水飲む?」

 

「…………ありがとう」

 

桜から水をもらって、何とか復活できた。と思っていたのだけど、授業が始まったと同時に疲れて眠ってしまった。最悪なことに一限目が前田先生の授業だったので、鬼のような形相で叱られた。

 

寝ている生徒にチョークを投げてくる先生って本当にいるんだな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――放課後

 

 

 

「お願いしまーす!!この後、午後4時から初ライブやりまーす!!」

 

「是非来てください!!」

 

ライブまでまだ時間はあるので僕達はチラシを配って、ライブの宣伝を行っている。

 

「午後4時からμ'sのファーストライブがありまーす!!」

 

当然、僕もチラシ配りで手を抜かない。ツバキの言う通り、こんな事じゃお客さんは集まらないと思う。それでも、もしかしたらこのチラシを見て、来てくれる人がいるかもしれない。たとえ受け取ってもらえなくても、この宣伝だってμ'sにとって全くの無駄というわけではないはず

 

…………………だけど

 

「吹奏楽部の入部希望者はこちらに集まってくださ~い!!」

 

「ねぇねぇ!どこの部活にする?」

 

「私は演劇部!一緒に行かない?」

 

「いいよ!!」

 

 

やっぱり、新入生は有力な部活の体験に行く人が多いみたいだ。さっきから、チラシを全然受け取ってもらえない。

 

「うぅ、他の部活に負けてられないよ」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「よろしくお願いしまーす!!」

 

「「「ん?」」」

 

僕達3人は声がした方に目を向けると、そこには昨日と違い、臆せずにチラシを配っている海未さんの姿があった

 

「午後4時からです!!お願いしまーす!!」

 

(海未さん……………本当にすごいなぁ)

 

「………穂乃果さん、ことりさん。僕達も負けてられませんよ!」

 

「もちろん!!」

 

「うん♪」

 

それからも、あきらめずにチラシ配りを続けた。受け取ってくれる人は少なかったが、さっきも言った通り、全くの無駄というわけでは無い筈だ

 

「じゃあ、時間になったので、穂乃果さん達は講堂で準備してきてください」

 

「うん!……白羽君は?」

 

「僕はもう少し宣伝してからそっちに行きます」

 

「分かった!」

 

「お願いね、シロ君」

 

「お願いします」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

3人と別れた後、僕が向かったのは校舎の中だ。校門で配っても帰り始めている人がわざわざ戻ってライブを見に来てくれるとは考えにくい。なら、まだ予定があって学院に残っている人の方が可能性はある。

 

「よろしくお願いしまーす!!この後4時からμ'sのファーストライブがありま~す!!是非見に来てください!!」

 

僕は、必死に声を出してチラシを配る。

 

(最後まであきらめない!絶対にあの人達を泣かせない!!)

 

「お願いしま~す!!」

 

「頑張ってるな……」

 

「っ!?東条さん、絢瀬さん………」

 

チラシを配っていると、後ろから東条さんが話しかけてきた。隣には絢瀬さんもいて、少し鋭い目で僕の事を見ている。

 

「…………久しぶりね。優木君」

 

「…………はい。お久しぶりです」

 

絢瀬さんは話しかけてくれたけど、その声からは少し圧を感じた。絢瀬さんの威圧的な声に、思わず顔を下に向けて少し怯んでしまった。

 

あの生徒会での一件以来、絢瀬さんとは会っていないからな。以前、穂乃果さんに言った事……僕も思うところがあるので、少し話しにくいけど……………

 

「あの………良かったら、コレ」

 

「チラシ?」

 

「はい!知ってますよね?この後、μ'sのファーストライブがあること。良かったら、見に来てくれませんか?」

 

「…………私はいいわ」

 

絢瀬さんは僕が差し出したチラシを返してきた。

…………やっぱり、無理か

 

「そ、そうですか…………」

 

「ウチはもらっておこうかな」

 

東条さんは優しく微笑んで、僕に手を差し出してきた。

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

「ちょっと希!」

 

「受けとってあげるぐらいええやろ?」

 

「ありがとうございます!」

 

「どういたしまして」

 

「それじゃあ、僕はまだ仕事があるので失礼します」

 

僕は二人に頭を下げてお礼を言い、その場を後にした。今は1分1秒でも無駄に出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白羽が去った後、絵里と希は―――――

 

「…………どうして、あんなに頑張るのかしら?」

 

「エリチ?」

 

「だって………あの子は関係ないじゃない。あの娘達と知り合ったのも一ヶ月前のはずなのに…………」

 

白羽は以前言っていた。穂乃果達を手伝う理由は彼女たちが困っていて、助けたいからだと。だが、絵里には理解できなかった。いくらお人好しな人間でも、会って一ヶ月の人間の為にあそこまで必死にはなれない。なのに、どうしてあの少年はあんなにも一生懸命になれるのか

 

 

「分かってるからやと思う…………このままだとライブがどうなるか」

 

「…………希?」

 

「あと…………()()なんやと思う。あの娘達が」

 

「大切……?」

 

「…………うん」

 

(まぁ、本人にはまだ自覚が無いようやけど……)

 

絵里の疑問に、希は去って行った白羽の背中を微笑みながらそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――講堂

 

 

僕はもうすぐライブの時間ということで、宣伝を切り上げて、会場の講堂に向かった。

 

「ここが講堂か……」

 

この一ヶ月、学院にいることが多かったけど講堂に来たのは何気に初めてだ

 

「あ、優木君!お疲れ様」

 

「ヒデコさん?……フミコさんにミカさんまで、どうしてここに?」

 

「穂乃果達の手伝いをしに来たんだよ」

 

「証明とかは私達がやるからね」

 

「リハーサルもさっき終わったよ!」

 

 

――――本当に……いい人達だな…………

 

 

「ありがとうございます!本当に……!!」

 

僕はヒデコさん達に頭を下げて礼を言った。

 

「ちょ、ちょっと。頭なんて下げなくてもいいよ!」

 

「そ、そうだよ!」

 

「私達も何か手伝いたかっただけだし!」

 

 

ヒデコさん達にとっては、友達の為に当たり前の事をしているだけなのだろう。でも、僕以外にもいる。背中を押してくれている人は僕だけじゃない。その事実はきっとあの人たちの力になる。

 

 

「…………それで、今どれくらいお客さんは入ってますか?」

 

「「「…………………」」」

 

 

僕の言葉を聞いて、ヒデコさん達は顔を下に向けてしまった。僕はヒデコさん達の顔を見た瞬間、自分の予想が当たっていたことが分かった

 

(………………………………やっぱりか)

 

 

「…………まだ………誰もいないよ」

 

「ちょっとヒデコ!」

 

「…………ゆ、優木君」

 

ヒデコさんの言葉を聞いて、フミコさんとミカさんは僕の事を心配するような表情を向けている。きっと、年下の僕が悲しむのではないかと心配しているんだろうな

 

 

―――――本当に………いい人達だ

 

 

「…………………大丈夫ですよ」

 

分かっていたこととは言え、流石に僕も悔しい気持ちでいっぱいになった。

 

………………それでも!落ち込んでなんていられない。そんな暇があるなら、今僕に出来ることをやるんだ。

 

「…………優木君?」

 

「………………穂乃果さん達は今どこに?」

 

「え、えっと…今は控室で衣装に着替えてるけど…」

 

「分かりました!じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

「分かった…………………優木君」

 

「はい?」

 

ヒデコさんは真剣な表情で僕を呼び止めた。

 

「穂乃果達の事…………お願いね」

 

「……………はい。もちろんです」

 

 

 

僕はヒデコさん達に場所を教えてもらい、控室に向かった。

 

 

 

 

 

――――最後に、もう一度背中を押すために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「あ!白羽君!!チラシ配りお疲れ様!!」

 

僕が控室に入ると、3人共衣装に着替えていた。その姿はまるで本物のアイドルのようだった。

 

「「どうかな?」」

 

穂乃果さんとことりさんはクルッと一周回ってから、僕にそう聞いてきた。きっと衣装が似合ってるかどうかを聞いているのだろう。

 

「はい!皆さん、本当によく似合っています!」

 

「「ありがとう!!」」

 

僕は2人の質問にそう答えた。それを聞いた2人は嬉しそうな表情を浮かべて、僕にお礼を言ってきた。穂乃果さんとことりさんは、本番に向けて準備OKっと言った顔をしている。

 

しかし、海未さんは……………

 

「それで…………またですか?………」

 

「「……うん」」

 

「…………………やっぱり無理です」

 

海未さんは昨日と同じように足を抱えてうずくまっていた。一応、衣装は着てくれているから、ライブに出られないってことは無いんだろうけど………

 

「え!?なんでですか!?さっきまでの海未さんはどこ行ったんですか!?」

 

「それは私も思った………衣装を着る前はやる気満々だったんだけど、衣装を着てみたら恥ずかしくなってきたみたいで。さっきなんかスカートの下にジャージ履いてたもん」

 

ジャージって………なんて往生際の悪い

 

「白羽君、なんとかならないかな?」

 

「なんとかって………」

 

「…………うぅぅ」

 

やっぱり、恥ずかしいようで海未さんは顔を手で隠してしまっている。

顔を隠しても意味ないと思うけど………

 

「ほら、海未ちゃん!一緒に頑張ろう!!」

 

「私達も一緒だから大丈夫だよ」

 

「穂乃果………ことり………」

 

2人は緊張している海未さんを必死に勇気づけている。それでも、やはり恥ずかしいようだ……………

 

う〜〜ん、逆効果になるかもしれないから、あんまり言葉は掛けない方がいいけど………仕方ない!

 

「海未さん………」

 

「白羽……?」

 

僕は座り込んで、うずくまっている海未さんに目線を合わせた。

 

そして………

 

「凄く可愛いです!!自信持ってください!!」

 

「なっ!!??」

 

 

海未さんを褒めた。

 

 

「その服も凄く似合ってます!!だから、うずくまってないで、しっかりと前を向いてください!」

 

「………白羽」

 

人は心の持ち方ひとつで劇的に変われる。言葉をかけられる………たったそれだけで、人は強くなれるんだ

 

「前をしっかり向いて歌ってください」

 

僕は以前、穂乃果さんとことりさんにやったように、頬を優しく掴み、口角が上がるように引っ張った

 

「海未さんが1番綺麗な時は笑っている時です。だから、笑ってください。そして、見せてあげてください。あなたの笑顔を!見てくれる人達に!」

 

「………………」

 

………あれ?なんか海未さん、また顔を手で隠しちゃったんだけど……なんで?やっぱり逆効果だった??

 

 

 

ことりちゃん………白羽君またやってるよ

 

…………うん

 

(もう白羽君!!この前そういうことは軽々しく言っちゃダメって言ったのに!!)

 

(むぅ~~、シロ君………あとでお仕置き!!)

 

「「はぁ~~」」

 

穂乃果とことりは今までの説教でまったく懲りていない白羽に対し、これから先何があっても、天然タラシな性格は治らないと思い、呆れてため息をはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、海未さん?大丈夫ですか?」

 

「ダ、ダダダダダ、ダイジョウブ!!………です」

 

 

いや、全然大丈夫そうに見えないんですけど…………自信を持ってもらおうと思ったのに、なんでそんなに顔真っ赤になるんですか?

 

 

※あなたの所為です

 

 

「海未ちゃん、シロ君もこう言ってくれてるし、3人で頑張ろう!」

 

「そうだよ!海未ちゃん」

 

「…………はい。そうですね」

 

海未さんは穂乃果さんの手を取り、立ち上がった。

 

「……………」

 

なんとか海未さんもいつもの調子を取り戻せたようだ。でも、緊張や恐怖が消えたわけでは無い。海未さんの顔にはまだ緊張が残っていた

 

 

………そして、それは穂乃果さんとことりさんもだ。

 

 

海未さんが不安にならないように、穂乃果さんもことりさんも表に出さないようにしているが、2人もかなり緊張している。

当然だよね。初めてのライブでオリジナルの曲を披露するんだ。どんな人間だって緊張するに決まっている

 

 

――――なら、僕のやることは一つだけだ

 

 

 

「………………………穂乃果さん」

 

「白羽……君?」

 

「………………………ことりさん」

 

「シロ君?」

 

「………………………海未さん」

 

「白羽……?」

 

 

僕は、彼女達の目を一人一人しっかりと見て名前を呼んだ。穂乃果さん達はいつになく真剣な表情で名前を呼ばれたので、疑問の表情を浮かべている

 

 

「…………すみません。少しだけ、許してください」

 

 

 

 

僕は皆さんに近づき……………優しく()()()()()

 

 

 

 

「「「……えっ!?」」」

 

抱きしめたと言うより、抱きついたと言った方が正しい。僕の体は小さいし、3人同時となると背中まで腕を回すことは出来なかった。それでも、不安を少しでも取り除くために、僕は精一杯の優しさをこめて抱きしめた

 

「し、白羽君!?」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「しししししし、白羽!!??」

 

 

 

 

 

「………………笑ってください」

 

「「「???」」」

 

「笑って、このライブを全力で楽しんでください。笑っていない人間が、誰かを笑顔になんてできませんよ」

 

 

きっと……………これから彼女達は辛い思いをする。悲しい思いをする。向き合わなければならない現実を見ることになるだろう。

 

 

「心配しなくても大丈夫です………きっと、皆さんの歌は聴いてくれる人の心を動かせます」

 

 

だから、言葉をかけて背中を押すんだ。僕の言葉で支えるんだ。少しでも、彼女たちの力になれるように

 

 

「僕も聴きたいです。皆さんの………μ'sの歌を。

だから、見せてください。最高のライブを!!

僕は…………皆さんの事を、ちゃんと見てますから」

 

「「「………………」」」

 

抱きしめているからか、僕の言葉を聞いて、3人の体の震えが止まり、少し落ち着いたのが分かった。

 

「………すみません、急に抱き着いて。驚きましたよね?」

 

「うん………び、びっくりしたよ」

 

「う、うん」

 

「うぅぅ…………」

 

や、やっぱり抱き着くのはまずかったかな?落ち着かせるためにはハグが一番だって思ったんだけど。今朝も真白に僕のハグは心が暖かくなるって言ってたし。でも、3人共顔真っ赤だし、海未さんとかまたうずくまっちゃったし

 

「あの………もしかして、気持ち悪かったですか?」

 

「「「違うよ!(違います!)」」」

 

僕がそう聞くと、3人は声を合わせて否定した。そう言ってくれるのは嬉しいのだが、凄い勢いで言われたので、少しびっくりして後ずさりしてしまった。

 

「っ!?………そ、そうですか?」

 

まぁ、穂乃果さんとことりさんは、よく僕に抱き着いてくるから心配はしてなかったけど、海未さんはてっきり『破廉恥です!!』とか言って怒ると思ってた。

 

「じゃあ、僕は観客席で見てるので、がんばってくださいね」

 

「白羽君!!」

 

控室から出ていこうとすると、穂乃果さんは笑顔で僕を呼び止めた。その顔からは恐怖や不安は一切感じられない

 

「見ててね!私達のライブを!!」

 

「…………はい!!」

 

 

――――大丈夫だな。この人なら、きっと…………

 

 

僕は穂乃果さんの笑顔を見て安心し、控室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

白羽が控室を出て行った後、ライブまで30分程あるので、穂乃果達は控室で最後の練習をしていた

 

「ふぅー、これぐらいにしておこっか」

 

「そうね」

 

「はい。あんまりやっても本番で良いパフォーマンスが出来なければ意味がありません」

 

3人は水を飲み、少しかいてしまった汗をタオルで拭き、呼吸を整えた。これから歌うのに疲れている表情でステージに立つわけにはいかない

 

「…………もう少しだね」

 

「うん……」

 

「はい……」

 

「この一ヶ月、本当に大変だったよね。今までで一番頑張ったよ!」

 

「うん、穂乃果ちゃんが一番頑張ってもんね」

 

「はい。練習に遅刻してこなかったのは本当に驚きました」

 

「もう!海未ちゃんのいじわる!!」

 

「「ふふっ、あはは」」

 

「ことりちゃんまで!」

 

海未の言葉に穂乃果は頬を膨らませ、ことりと海未はそんな穂乃果を見て、自然と笑みをこぼしてしまった

 

「あ、穂乃果ちゃん。そろそろ向かった方が……」

 

ことりが時計に目を向けると、時計の表示は午後3時50分と示していた

 

「うん!…………それじゃあ、行こう!!」

 

「うん♪」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スクールアイドル。μ'sのファーストライブ、間もなくでーす!ご覧になられる方はお急ぎくださーい!』

 

穂乃果達がステージに立ち、準備をしていると、講堂にヒデコのアナウンスが入り、それを聞いた穂乃果達は顔を引き締めた

 

「いよいよだね………」

 

「うん………」

 

「…………うぅぅ」

 

やはり海未はまだ少し緊張しているのか、顔が少しこわばっている。

 

「大丈夫!私たちがついてるから!!」

 

「………穂乃果」

 

それに気づいた穂乃果は海未の手を握り、ことりとも手をつないだ。彼女の手からは不安や恐怖といった感情が全く感じられない。

 

「でもこういう時、何て言えばいいのか?」

 

海未の緊張をほぐすために、ことりは違う話題を切り出した。海未もそれに気づき、心の中で2人の大切な幼馴染に深く感謝した

 

「μ's!ファイッオー!」

 

「それでは運動部みたいですよ………」

 

「だよね………あ、思い出した!番号を言うんだよ、みんなで」

 

「面白そう!」

 

「じゃあ、いっくよー!」

 

穂乃果の提案を受け入れ、3人は大きく息を吸い込み……

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

穂乃果、ことり、海未の順番に番号を口にした。言い終えると彼女達は自然と笑顔を浮かべた。

 

「「「ふふっ………あははははは!」」」

 

もう、彼女たちの中に恐怖は無い………

 

「次は………白羽君と一緒にやりたいね」

 

「うん………」

 

「はい………」

 

「「「…………」」」

 

笑い終わった後、3人は顔を下に向け、その場は静寂に包まれた。

それは、決して暗い気持ちになったわけでは無い。3人共、此処にいないもう一人の仲間の顔を思い浮かべていた………

 

 

 

この一ヶ月、3人は何度も倒れそうになった。挫けそうになった。でも、その度に()が支えてくれた。彼が言葉をかけてくれた。

 

 

 

―――迷わなくても大丈夫です。貴女のやりたい事を、貴女の信じる道を進んでください。だから、そんな暗い顔してないでいつもの素敵な笑顔に戻ってください!

 

―――貴女がいつものように前へと進めば、きっと何とかなります!…………貴女の笑顔には、それだけの魅力がありますから!

 

(白羽君………)

 

穂乃果は、彼に勇気をもらった

 

 

 

 

―――ことりさん………貴女は魅力的な人です。綺麗なところも優しいところも、穂乃果さんにも負けないぐらい魅力的です

 

――― 笑ってください。僕は、ムスッとしてることりさんより、笑っていることりさんの方が好きですから

 

(シロ君………)

 

ことりは、彼に優しい言葉をかけてもらった

 

 

 

 

―――園田さんの方が凄いです!友達や学校の為にアイドルをやるなんて普通できませんよ!

 

―――海未さんが1番綺麗な時は笑っている時です。だから、笑ってください。そして、見せてあげてください。見てくれる人達に、あなたの笑顔を!

 

(白羽………)

 

海未は、彼に励ましてもらった

 

 

 

 

 

―――笑って、このライブを全力で楽しんでください。笑っていない人間が、誰かを笑顔になんてできませんよ

 

―――心配しなくても大丈夫です………きっと、皆さんの歌は聴いてくれる人の心を動かせます

 

―――僕は……皆さんの事を、ちゃんと見てますから

 

3人共……………彼に背中を押してもらった

 

 

 

 

「………なんでだろうね」

 

「穂乃果?」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

「私、今すっごく緊張してる。でも、全然怖くないんだ………」

 

初めてのライブ。普通であれば緊張だけでなく、恐怖や不安で心がいっぱいになるだろう。それでも、穂乃果の心は暖かさで満ちていた。

 

穂乃果は分かっている……

 

 

それはきっと、あの少年が支えてくれているからということに

 

 

そしてそれは………ことりと海未もそうだった

 

 

 

「そうだね………私も緊張してるけど、怖くはないよ」

 

「私もです…………きっと、白羽のおかげですね」

 

「「海未ちゃん………」」

 

「今まで、白羽にかけてもらった言葉を思い出すと、何故か……勇気が湧いてくるんです」

 

「うん………私も」

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん………」

 

ことりはともかく、穂乃果と海未はまだ出会って一ヶ月。それなのに、彼女たちにとって、優木白羽という少年はそれほどまでに大きな存在となっていた

 

「やろう!白羽君の為にも…………μ’sのファーストライブ、最高のライブにしよう!」

 

穂乃果は下に向けていた顔を、再び前に向けた。その顔に、もう迷いは無い。

あの少年の言葉通り………笑顔で歌う!

 

「うん!」

 

「もちろんです!」

 

 

 

 

3人は繋いでいた手を離し、ゆっくりと目を閉じた。

………そして、ライブ開始の合図である、ブザーが講堂に響き渡った。3人の耳にはステージと客席を遮っていたカーテンが開く音が聞こえてきた。

 

 

いよいよ始まる………μ'sのファーストライブが

 

この一ヶ月、積み上げてきたものを披露するときが

 

 

高坂穂乃果は学校の廃校を止めるため、スクールアイドルを始めた

 

南ことりは親友の誘いに応え、衣装を作った

 

園田海未は親友の本気でやるという意思に応え、歌詞を書いた

 

 

決して楽ではなかった。練習も大変で、普通なら途中で辞めたくなってもおかしくない。

それでも……ここまでこれたのは、全員が同じ目標を目指して走ったから

 

 

廃校を阻止したい……

 

 

そして……ライブを成功させたい!

 

 

それを叶えるために、ここまで頑張って来た。

 

そして今、3人の気持ちは一つ…………

 

 

(((最高のライブにしてみせる!!)))

 

 

その気持ちを胸に抱き…………

 

3人はそっと閉じていた目を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………彼女達に突き付けられたのは――――

 

 

 

「…………………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――あまりにも非情な現実だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講堂の客席には誰一人としていなかった。ライブの宣伝をして、チラシを受け取ってくれた人、ライブを見に来てくれると言っていた生徒。

 

 

 

そして……………()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ここまで一緒に頑張って来た。ライブを見てくれると約束した。自分達の歌を聴きたいと言ってくれた少年すらもいなかった

 

 

「………ごめん……頑張ったんだけど……」

 

フミコは壇上にいる穂乃果達に声をかけ、謝罪した。その声はとても弱々しく、悲しみが籠ったものだった

 

「ほのか…ちゃん………」

 

「穂乃果…………」

 

ことりと海未はなんとか声を出し、穂乃果の顔を見た。2人とも、先ほどまでの明るい声ではなく、今にも泣きそうなほどに震えた声だった。

 

「そ、そりゃそうだ!世の中そんなに甘くないっ!」

 

穂乃果は何とか明るく振舞うために震えた声を出した。はっきり言って、ただの強がりでしかない。だが、そうでもしないと目から涙が溢れてしまいそうなほど、穂乃果の心は悲しみで満ちていた。

 

「穂乃果ちゃん………」

 

「穂乃果…………」

 

そして、それはことりと海未も同じだった。目の前に広がる厳しい現実。少しでも気を抜けば、2人共涙を流してしまうほどに悲しかった

 

 

 

 

 

 

 

「………しろは……くん」

 

 

 

…………無意識だった

 

穂乃果は無意識的に、此処にいない白羽の名前を弱々しく口にしていた。なぜ白羽の名前を呼んだのか、穂乃果自身にもわからなかった。

 

 

 

助けてほしかったのかもしれない

 

 

 

何か言葉を掛けてほしかったのかもしれない

 

 

 

慰めてほしかったのかもしれない

 

 

 

………優しく抱きしめてほしかったのかもしれない

 

 

 

(………シロ、君……)

 

(白羽…………)

 

穂乃果が白羽の名を呼んだことは、隣にいたことりと海未には聞こえた。そんな2人も心の中で名前を呼んだ。

 

(…………どう、して?どうして居ないの?)

 

見ていてくれると約束した彼すらも見てくれない。その事実が、彼女達をさらに悲しい気持ちにさせていた。

 

 

「………………しろは……くん…」

 

 

白羽は此処に居ない

 

穂乃果の声は彼には届かない…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――届かないはずだった

 

 

 

バンッ!!!

 

穂乃果達が悲しさで、顔を下に向けていると、突然講堂の扉が勢いよく開いた。

 

 

「「「っ!!??」」」

 

壇上にいた3人は、反射的に顔を扉に向けた。そこには、穂乃果達の知っている2()()の人間が息を切らし、手を膝について肩で息をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――もう少し…………

 

 

「ハァ………ハァ………あ、あれ?ライブは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――もう少し遅かったら、彼女達の目からは涙が溢れていたはずだ

 

 

「……………ハァ………ハァ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――まるで、そうさせない為に…………

 

 

「ハァ……ハァ……すみません…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――彼女達の声に応えるように…………

 

 

「少し……………………遅れました」

 

 

 

 

純白の少年(優木白羽)は現れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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