その日、グラスレーの地球における教育機関であるスクールに、ひとりの来客があった。
「だぁぁぁから!!この辺のことは言われなくても知ってるっての!!」
「しかし、貴女お一人で行かせるわけには…」
「アタシが許すってんだろ〜!!融通効かねーなぁ〜!!」
「い、いえ…しかしそれで御身に何かあれば…」
「なぁんもねぇよ〜!!義兄貴連中じゃあるまいしよ〜!!」
黒塗りの高級車から降りて来たのは黒服達と口論する若い女だった。
170センチはあるだろう身長に、雑にまとめ上げられたウェーブのかかったロングの金髪の髪にアメジストの瞳。
透き通るような白い肌に、どこか勝気な笑みを浮かべている。
これまた仕立てはいいだろうに雑に着崩されたスーツ姿が何故だか妙にサマになっていたと言うか…似合っていた。
同時に、そんな服を着られると言うことは、彼女がそれだけの地位にある特権階級…つまりはスペーシアンなのだと言うことも、物語っていた。
そんな彼女は逃げるように去っていく高級車にぶっきらぼうに手を振る。
「がっはっは!!いくら堅物なオヤジ殿でも施設の査察っていやあ首を縦に振んだろうと思ったらやっぱりだぜぇ〜…んぉ?」
そして施設の子どもらと目が合うと、ニヒッと笑う。
「よぉ、ひっさしぶり〜♪懐かしのクソッタレスクール!!そんではじめましてアタシの可愛い後輩達!!」
突如としてやって来た予定外の来客に、教員達は驚きの表情を隠せない様子でいたが、彼女はズカズカと教壇に立つと自己紹介をした。
「ライカ・ゼネリ。コレでもグラスレーの後継者候補様第三位のちょ〜っとスゴい人なんだぜ〜♪」
それを聞いた『プリンス』イエル・オグルとその仲間達は、どうにか彼女に取り入ろうと必死になっていた。
今後のコネ作りに役立つのもそうだし、何よりグラスレーの跡取りレースの参加者と会うなど、滅多にないチャンスなのは間違いなかったから。
教員にこの施設にいる間の彼女の世話役を名乗り出て、顔と名前を覚えてもらおうと勉学にもこれまで以上に必死になって励んだ。
だが、彼女はそんな彼の対応に、露骨にイヤな顔をしていた。
「ンだぁ?そのヘラヘラヘラヘラ薄っぺらい面の皮はよぉ〜〜?んん!?」
「ひでででで!!」
不機嫌な表情でほっぺたをつねられ、思わず素の性格が出てしまい、それ以来敬語を禁止された。
ほんのわずかな時間で分かったことだが…彼女はガサツで乱暴な面はあるが、同時に人のことをよく見ており、それでいて豪快かつ気遣いもできるために大いに好かれるタイプだった。
リーダーと言うよりは、ボスといった方がしっくりくる人だ。
後に彼女が
「ま、どーせ兄貴達のどっちかがグラスレー継ぐだろ〜し?アタシはアタシで結婚とか無理な人だから?どーせならテキトーにやることやって、後は好きにさせてもらおっかなぁ〜?ってね〜♪」
などと口走った時は失敗したか…などと思いもしたが。
「そんなわけで〜……よ〜しお前ら遊ぶか〜〜!!」
厳しい授業を中断してのかけっこやら縄跳びやら、そう言った子どもっぽい遊びを彼女は好んでいた。
彼女自身の気分転換というのもあったのだろうが…少なくともそれ以来、彼女の前でだけは子ども達は厳しいスクール生活から年相応に子どもに戻って振る舞えた。
そんな平和な日々が続いたある日のことだ。
「はぁ?馬鹿義兄貴二人が同士討ちぃ?!?」
聞けば、自身の地位を盤石にしたがった長兄が観劇中の次兄を射殺。
そのまま祝い酒と称して次兄の保有するワインの一本を開けて飲んだら、運悪く誰かを毒殺する用にとっておいたのだろうワインに当たり、懸命の救命活動にも関わらずそのままお陀仏。
そのままの流れでライカに御鉢が回ってきたというわけだ。
「ちっ…たく…どいつもこいつも生き急ぎやがって…」
心底めんどくさそうに舌打ちする彼女を、イエル達は不安そうな眼差しで見つめていた。
以来、ライカは忙しさからかなかなか施設にやって来られず、来たとしても以前に増して疲れた表情を浮かべるようになっていた。
そしていつからか、彼女は首にスキットル下げてを持ち歩くようになり、その吐息や服からは酒臭さがするようになっていた。
「ぶは〜〜〜!!まっずい!!」
遊びの合間にもスキットルに口をつける。
「ライカねぇ、まずいのに飲んでんの〜?」
「ヘンなの〜!!」
「がっはっは!!まぁお薬みたいなモンよ!!不味くても飲まなきゃやってらんね〜ってね!!」
後になってわかったことだが…当時の彼女は生まれ持っての病により日に日に短くなっていく己の命と、突然御鉢がやって来た偉大なるサリウスCEOの後釜としての期待への不安から酒に逃げるしか無く、それが余計に彼女の寿命を縮めていたこと。
なまじ演技力と仕事の能力は高かったから、なんとかなっている風に見えてはいたが…そんな上っ面も時の経過と共にもはや吹けば飛ぶほどに脆く、弱くなっていってしまっていた。
彼女の心と体は、当時すでにボロボロだったのだ。
それでも子ども達の前では常に笑顔であり、頼れるカッコいいお姉さんであり続けた。
まるで、そこにしか居場所が無いと言うかのように。
それを知らなかったイエル少年たちはある日、質問を投げかけたことがあった。
迷子になっていたイエルと、後のその側近達がうっかり反スペーシアンを謳うアーシアンの過激組織に人攫いにあいそうになった。
恐怖と罪悪感から、サビーナ達はずっと謝っていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…嫌わないで、見離さないで…」
「あん?別に嫌いになんてなりゃしねーよ。ンなことより…無事で何よりだよ」
どうにか間一髪で助かった彼らは、本気で心配していた彼女につい聞いたのだ。
「あん?そんなの、愛してるからに決まってんじゃん?」
夕焼けの中でそう言ってニヒッと無邪気に笑い、彼らの頭を順々に撫でていった彼女の姿は、美しく…しかし、今にも消えてしまいそうなほどに儚くも見えた。
自分は早く大人になってこの人を支えたい。
イエルがそう思って、間もない時…彼女の訃報が入った。
享年二十三歳。
若すぎるカリスマの死は、スクールにまで暗雲を落とした。
事実を告げる黒服達の声が震えていたことから、彼らからも少なからず慕われていたのだろう。
「お前達は…ちゃんと恋するんだぞ〜?」
その時…いつだったか、彼女はそんなことを寂しそうな横顔で言っていたのを思い出して泣いたのも、今となっては思い出だ。
「ずるい人だった」
そう語るシャディクの心中は…。
グラスレーのスクールがどんなのかわからない以上妄想の域は出ないので、変なとこがあってもご容赦ください。