野外活動サークル都市伝説調査班∴   作:ドラ麦茶

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樹海 #3

 その夜、千明がなでしこのスマホに電話してきたのは、夜中の二時前だった。

 遅くなるとは言っていたが、ここまで遅いとは思わなかった。

 しかも、話の内容は、次のキャンプはどうするかとか、欲しいキャンプ用品があるとか、次のテストの範囲とか、バイト先に変な客が来るとか、たわいのない話ばかりだ。

 なでしこもおしゃべりは好きだから楽しいといえば楽しいのだが、わざわざ夜中に電話をしてまで話すことではないように思う。

 

 結局、さほど重要とは思えない話を一時間以上続け、三時を回った頃。

 

≪……もういいかな……≫

 千明は、ぼそりと言った。

 

「ん? アキちゃん、なにがいいの?」

 

≪いや、なんでもない。あたし、眠くなってきたからそろそろ寝るよ。遅くまで悪かったな≫

 

「ううん、別にいいんだけど、でも、アキちゃん、大丈夫?」

 

≪大丈夫って、何がだ?≫

 

「あおいちゃんもだけど、樹海の帰り道あたりから、なんか変だよ?」

 

≪んー? そうか? 歩き回って疲れたのかもな。一晩寝れば大丈夫だよ≫

 

「そう? ならいいけど……アキちゃん、なにか、あたしに隠し事してないよね?」

 

≪隠し事? なんもしてないぞ?≫

 

「だよね……ならいいの……じゃあ、おやすみ」

 と、なでしこが電話を切ろうとしたら。

 

≪あ、なでしこ、ちょっと待って≫

 千明が、何かを思い出したように言った。

 

「うん? なに?」

 

≪あたしたちが電話してる間に、非通知で着信が入ってると思うんだ≫

 

「え? 非通知で?」

 

≪ああ。でも、それイヌ子のイタズラだから、気にしないでいいからな≫

 

「あおいちゃんのイタズラ……それってどういうこと?」

 

≪とにかく気にするな。じゃあ、おやすみ≫

 

「うん、おやすみ」

 

 プツリ、と電話は切れてしまう。

 なんだかよく判らないが、なでしこはスマホを耳から離し、画面を見た。

 通話終了と表示された後、ぶるぶるっと震える。

 通話中に着信があった合図だ。

 千明が言った通りだ。

 なでしこが画面を切り替えて確認すると。

 

 

 

 02:59 非通知

 

 02:58 非通知

 

 02:57 非通知

 

 02:56 非通知

 

 02:55 非通知

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 非通知非通知非通知……と、スクロールしてもスクロールしても、非通知の文字がびっしりと並んでいた。

 最初の着信は二時ちょうどで、最後の着信は二時五十九分。

 それまで、ほぼ毎分かかってきている。

 

 千明は、あおいのイタズラだと言っていた。

 しかし、これは明らかにイタズラの域を超えている。

 あおいがそんな悪質なことをするとは思えない。

 何か、とてつもない緊急事態なのかもしれない。

 千明からは気にするなと言われたが、とても無理だ。なでしこは、あおいに電話をかけた。

 

 すると、家の外から、聞き馴染みのある着信音が鳴った。

 

「――え?」

 

 耳からスマホを離し、音をよく聞く。

 あおいが使っているスマホの着信音と同じだ。

 ここからさほど離れてはいないところで鳴っているようだ。

 家の前の通りか、あるいは、()()()()()

 

 あおいちゃんが近くにいる……?

 一瞬そう思ったものの、その着信音はスマホの標準機能なので、別にあおい専用というわけではない。

 たまたま外を通りかかった人のスマホが、たまたま同じタイミングで流れ始めたのかもしれない。

 だが、はたしてそんな偶然があるだろうか。

 

≪なでしこちゃん? どうしたんや、こんな夜中に?≫

 

 あおいは、あっけらかんとした声で電話に出た。

 

 すると、外から聞こえていた着信音も、同じタイミングで聞こえなくなった。

 

「あ、うん、えーっと」

 どうとらえていいか判らず、なでしこは思わず言葉を継げなくなる。

 それでも、なんとか「ごめんね、こんな夜中に」と謝り、「あおいちゃん、いま、どこにいるの?」と訊いた。

 

≪どこって、家におるで? こんな夜中に出歩いたりせぇへんよ≫

 

「そう……だよね」

 

≪なんや? なんかあったんか?≫

 

「うん。さっきまでアキちゃんと電話してて、切ったら、非通知でいっぱい着信が入ってたの。アキちゃんが、あおいちゃんからの電話だって言ってたから、何かあったのかと思ってかけ直したんだけど……」

 

≪ああ、あれか。やっぱり電話してきたか……≫

 

「え? なに?」

 

≪ううん、なんでもない。そや、ウチや。ちょっと、なでしこちゃんにイタズラしたろ思てな。アレや。『あたし、メリーさん』ってやつ≫

 

「メリーさん!?」

 

 思わず声を上げてしまうなでしこ。

 メリーさんとは、有名な都市伝説のひとつだ。

 引っ越しの際に捨てた人形から電話がかかってきて≪いま、ゴミ捨て場にいるの≫と言われて切れる。

 しばらくするとまた電話があり≪いま、公園の前にいるの≫≪いま、郵便局の前にいるの≫と、かかって来るたびに自宅へ近づいてくる。

 そして、≪いま、玄関の前にいるの≫から≪いま、あなたの後ろにいるの……≫でシメる、定番の怖い話である。

 

≪アレをマネして電話したら、なでしこちゃんなら怖がると思たんやけど、全然電話に出ぇへんから、つまらんかったわ≫

 

「いや、別の意味で怖かったけど……」

 

≪そうか。なら、まあ成功やな≫

 

 イタズラ……本当にそうなのだろうか?

 あおいはよくウソをつくが、それは決して誰かを傷つけるようなウソではない。

 怖がりのなでしこにそんなイタズラをするとは到底思えない。

 まして、時間と回数を考えると、度が過ぎているどころの話ではない。

 

「……イタズラならいいんだけど、あおいちゃんに何かあったのかって、心配したよ」

 

≪そうか。確かに、ちょっとムキになってかけ過ぎたかもな。ゴメンゴメン≫

 

「ところで、あかりちゃんは大丈夫?」

 

≪あかり? あかりが、どうかした?≫

 

「どうかしたって、熱を出したって言ってたから」

 

≪ああ、せやったせやった。うん、大丈夫。もう全然平気や。よう寝とるわ≫

 

「なら良かった」

 

≪じゃあ、ウチもそろそろ寝るわ。ホントゴメンな、変なイタズラして≫

 

「ううん。あおいちゃんとあかりちゃんが無事なら良かったけど……あおいちゃん、なにか、あたしに隠し事してないよね?」

 

≪隠し事? なんもしてへんよ?≫

 

「だよね……うん。なら、いいの。じゃあ、おやすみ」

 

 と、なでしこが電話を切ろうとしたら。

 

≪あ、なでしこちゃん、ちょっと待って≫

 

 あおいが、何か思い出したように止めた。

 

「うん? なに?」

 

≪この時間ならもうかかってこんと思うけど、もしまた非通知でかかってきたら、それアキのイタズラやから、出んでもええからな≫

 

「ええ!? アキちゃんのイタズラ!? それってどういう――」

 

≪とにかく出たらアカンで? ほな、おやすみー≫

 

 プツリ、と、電話は切れてしまった。

 

 訳が分からなかった。

 千明はあおいのイタズラだと言い、今度はあおいがアキのイタズラだと言う。

 本当にそうなのだろうか?

 どう考えても、二人とも、そんな悪質ないたずらをするとは思えない。

 

 なでしこはその後もしばらく起きていたが、あおいが言う千明からのイタズラ電話はかかって来なかった。

 言い知れぬ不安は膨らむばかりだが、眠気には勝てず、そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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