野外活動サークル都市伝説調査班∴   作:ドラ麦茶

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ホントに出るお化け屋敷

 魅力的な仕事はたくさんある。

 スーパーの食品売り場の試食販売、お弁当の惣菜調理(まかないアリ)、パン工場でのパンの包装作業(規格外品食べ放題)、大手うどんチェーン店の調理補助・接客(スタッフはうどん全品半額)、などなど。

 しかし、そのほとんどが十八歳以上での募集か、勤務時間が希望に合わないか、遠すぎてとてもじゃないが通えないか、の、どれかである。

 まれに希望にピタリと当てはまるものがあっても、電話するとすでに募集が締め切られていたりする。

 やはり、良い条件の仕事は人気が高い。

 これは困った、と、なでしこは頭を抱えた。

 

「ただいまー」

と、玄関で声がした。

 姉の桜が帰宅したようだ。

 桜はリビングに来ると、テーブルの上に広げられたバイト雑誌とスマホとパソコンを見て、

「あんた、なにしてるの?」

と訊いた。

 

「おかえり、お姉ちゃん」

 なでしこは顔を上げた。

「バイト探してるんだけど、なかなか見つからなくて」

 

「バイト? この前紹介した、そば屋さんのバイトはどうしたの?」

 

「もちろん続けてるよ? でも、最近あんまりシフトに(はい)れてないから、もうひとつバイトしようかと思って」

 

「高校生のクセに、生意気にもバイト掛け持ちとはね」

 桜はキッチンの冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐと、リビングに戻ってなでしこの前に座った。

「でもあんた、そんなに稼いでどうするの?」

 

 なでしこは、悩み顔から一転、にひひーんと笑うと、バイト情報誌の下に置いてあった旅行ガイドブックを広げた。

 山梨の日帰り旅行の特集で、遊園地が紹介されたページだ。

 

「今度、リンちゃんやアキちゃんたちと一緒に、春山田ハイランドに行くんだ」

 

「春山田ハイランド?」

 

 桜はガイドブックを自分の方へ引き寄せると、頬杖をついて記事を眺めた。

 

 春山田ハイランド――富士山のふもとにある巨大遊園地である。

 富士山を眺めながら様々なアトラクションを楽しめるのが魅力だが、最大の特徴は、なんと言っても絶叫マシンの多さだ。

 開始2秒未満で時速180キロに到達するジェットコースターや、落下角度121度のジェットコースター、他にも、高さ、落差、座席の回転数など、様々な項目でギネス認定された絶叫マシンがいくつもある、国内有数の人気遊園地である。

 

「みんなと遊園地に行くの初めてだから、すっごい楽しみなの! いっぱい乗り物乗りたいし、お土産もたくさん買わなきゃだから、いまのバイトだけじゃ、とても足りなくて」

 

「でもさ、高校生のダブルワークをOKしてくれるところなんて、あまりないんじゃない?」

 

 姉の指摘に、なでしこは「そうなの」と言ってテーブルに突っ伏した。

「せっかくいいお仕事があっても、電話で問い合わせただけでもう五件も断られてて、あたし、心が折れそうだよ……」

 

 桜は「ふーん」と、いつものように興味があるのか無いのか判らない様子で相槌を打った後、ガイドブックのページをめくった。

「そういえばさ。春山田ハイランドのお化け屋敷って、ホントに出るんだってね」

 

 姉の言葉に、なでしこはぴくっ! と大きく身体を振るわせた後、わなわなさせながら顔を上げた。

 

「ホ……ホントに出るって……何が出るのですか、お姉さま……?」

 

「なぜ敬語になる」

 

 桜はなでしこの反応に満足したかのように薄く笑い、説明をし始めた。

 

 春山田ハイランドのお化け屋敷――巨大遊園地にふさわしい超巨大お化け屋敷で、その歩行距離は約九〇〇メートル、所要時間は約五十分と、これまたギネス認定されたアトラクションである。

 お化け屋敷はネタが判ってしまうと二度目以降はどうしても衝撃が和らぐのが欠点だが、ここのお化け屋敷は定期的にリニューアルを行い、ホラー映画やゲームなどとのコラボも積極的に行っているため、リピーターが続出。園を代表する人気アトラクションのひとつなのだ。

 

「――ただでさえ怖い演出で有名なお化け屋敷なんだけど、開設当初から、いるはずのない女性の幽霊や女の子の目撃情報が多いみたいなの。ネットを中心にその話が広まって、今じゃ、本物の幽霊が出るって、もっぱらのウワサだよ」

 

「やだなぁ。そんなの、よくある都市伝説だよ、都市伝説。もう、そんな話信じてるなんて、お姉ちゃんも、まだまだ子供だなぁ」

 

 なでしこは愛用のブランケットを頭からかぶり、暖房の利いたぬくぬくの部屋でガタガタ震えながら言った。

 

「どっちが子供だ」

 桜は呆れ声で言った。

「あたしは信じてるわけじゃないよ。大学の友達が行ってみたらしいけど、別に何も出なかったって言ってたし」

 

「でしょでしょ!? やっぱり、幽霊なんていないよ。うん。いないいない。ネットのウワサなんて、アテにならないもんね」

 

「でも、出口付近で何かに足を掴まれて、慌てて足もと見てみたけど何も無かった、とは言ってた」

 

「え?」

 

「お化け屋敷のスタッフさんがお客さんに触れることなんて絶対ないから、アレが何だったのか、今でも判らないんだってさ」

 

「それって出てるんじゃん!」

 

 ひいいぃぃ! と悲鳴を上げ、なでしこはイスから転げ落ちそうなほどのけ反った。

 

「ひっくり返ってケガしないでよ? まったく、あんたは大袈裟なんだから」

 

 なでしこは体勢を立て直すと、ぷくっと頬を膨らませた。

「お姉ちゃんヒドイよ。あたし、遊園地に行くのすごく楽しみにしてるのに、そんな話をして怖がらせるなんて」

 

「いや、そうじゃなくてさ」

 桜はスマホを取り出して操作しはじめた。

「そういうウワサがあるからなのか、そのお化け屋敷のスタッフさん、すぐにやめちゃう人が多いそうなのよ」

 

「まあ、そりゃそうかもしれないね」

 

「だからね――」

と言って、桜はスマホを見せた。

「ここなら、あんたでもすぐに雇ってもらえるんじゃない?」

 

 スマホには求人サイトのページが映っていた。

『急募! 春山田ハイランドお化け屋敷従業員大募集!』

とある。

『週1日1時間からOK! 高校生可! 送迎アリ! 従業員割引あり!』

と破格の好条件だが、最後に

『※ただし、勇気・根性のある人に限る』

と付け足されてあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……うーん。でも、せっかく働くなら、やっぱり、まかないとか美味しいものが食べられるトコロがいいかな」

 

「あ、そう」

 

 桜はページを閉じてスマホの電源を切ると、ポケットにしまった。

 

 

 

 

 

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