『第1回PPP世界大会優勝は!!羊×2だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
爆音が会場を包み込む。
『PPP』とは、RPG系PVP特化次世代型ゲームである。
複数の大企業が共同で制作し、満を持して2136年に公開されたソレにゲーマーは熱狂した。
多くの体験型RPGのデータを元にしてアバターのビルド調整等を担当した企業の中には、あの「ユグドラシル」の開発元の名も連なっていた。
メインクラス1つ、サブクラス2つの3クラス制。クラス数は当たり前ながら膨大であり、公式発表では5000以上のクラスと紹介されている。
このゲームの凄まじいところは育成不要の引き算ゲーにする事によって個性を引き出しつつもバランス調整が異次元な部分である。
メインクラスビルド100%、サブクラスビルド50%ずつの合計200%。これが『PPP』のゲームに参加出来るビルドツリー上限である。
メインクラスビルド200%、サブクラスビルド100%ずつの400%。これが初回に配布されるビルドツリーである。そこから個人で好きな様に余分を削ぎ落とし、半分の200%にするのだ。
日本の食事は引き算。どこかでそんな言葉を聞いたこともある人も居るだろう。食という文化自体が高級嗜好品として蔓延しているこの世界で誰かが言った。
『上見始めたら止まらないから全員下見せようぜ』
少し例えとズレて居るが、この発想はゲームバランスにおいて大いに役立っていた。
複数の大企業が参入しているとなれば使用出来るAIも最高峰のものとなる。縛りプレイを除けば皆リソースは同じであり、武器も個人の希望に合わせたものが自動生成される。
故に上位層に関しては運も絡みながらもほぼ完全プレイヤースキル依存の戦いを呈していた。
そんな中今回優勝した『羊×2』のビルドは異端であった。
決勝トーナメントに出場したほとんどの選手が3つ全て相性の良い近~中距離のクラスビルドで纏めていた。だが、その定石から外れた所に羊×2は居た。
メインクラス「アヴェンジャー」サブクラス「ヒーラー」「パラディン」
攻撃を受ける度に発動する「報復」「カウンター」を得意とするアヴェンジャーは前々から注目されては居た。だが中々合うクラスが見つからず対面の火力に叩き潰されて終わることが多発して使うことを諦めたプレイヤーが多かった。
そこで「シールダー」よりも防御面は控えめだが盾持ちが解禁され、自己バフと自動回復をバランス良く持つ器用貧乏の「パラディン」とゲーム内最大HP上昇を誇る完全後衛型「ヒーラー」を組み合わせる事によりその問題を強引に解決した。
この「ヒーラー」使える回復アイテムが1試合で限られるPPPにおいて最強かと思われていたが使えばその欠陥が分かるはずだ。
性質上攻撃性能が0の上、運営の調整により効果範囲内に居るプレイヤー、召喚モンスター等全てを回復してしまうのだ。つまり、範囲内にいる敵も等しく回復してしまうゴミクラスであった。
PPPは1v1特化ゲーム。故にこの欠陥は「ヒーラー」を最低評価近くまで叩き落とした。
その欠点を羊×2はスキルと報復の仕様で攻略した。
盾持ちに解禁されるスキルである「シールドバッシュ」定番中の定番ではあるが、ノックバック率が高い代わりに威力が低くスキルスロットを埋めるには割に合わないのが攻略サイトの弁であった。
「ノックバック率+92%」「ノックバック距離+65%」「ノックバック時スタン1秒12%」
「アヴェンジャー・ソウル」という上位パッシブスキルのツリーの中に含まれる1つの要素である。「報復」「カウンター」双方に関係無いスキルであり、リソースをある程度注がないと効果を実感し辛いスキルである。
基本的に取るスキルや魔法は絞った方が強いゲームである。例に漏れず羊×2も余分は削ぎ落とし、必要無いスキルは取得せずリソースを集中させていたが、その集中させるモノに上記の二つを組み込んだのだ。
これによりライフスティールは無いものの大会最多HPに加えてパッシブの自動回復、サブクラスの自己回復により決勝トーナメント全試合泥試合となりながらも優勝を果たしたのだ。
「高いPSと集中力、ビルドの理解度の深さが窺えた。派手な試合じゃ無いから拮抗してる様に見えたかもしれないけど、それは羊×2が試合を支配していたからだ」
そう、決勝で戦った海外プレイヤーはインタビューでそう語った。
そんな熱狂の元幕を閉じた「PPP」優勝者は、一つのメールを見て一週間「PPP」を離れることにした。
「メーメーさんお久しぶりです!PPP優勝おめでとうです!」
祝!の顔文字を浮かべながら近付いてくる青い結晶体に懐かしさが込み上げて来ながらも同じく金と赤の結晶体である自分も手を上げて挨拶を交わす。顔文字は…ここか。何年も離れてると体に染み付いていたモノが剥がれ落ちていた気がする。表情も動かないし。まぁ昔はそれが当たり前だったしね。
「セフィラ♡さんお久しぶりです。いやー一週間ずっとビルドツリーと睨めっこ楽しかったですよ。当分やりたく無いでござる。」
「「あははははははは!!」」
『ユグドラシル』
メーメーが羊×2になった原因となったゲームであり、仕事を放り投げてでもログインしてやりまくっていた過去のゲーム。
現在は羊×2として顔出しプロゲーマーとして活躍している「現流 美香」だが、元々は生粋のゲーマー、PVP狂としてユグドラシル全盛期では狂気の勝率81%をたたき出す化け物プレイヤーであった。
メーメー自身のプレイスタイルはメタ思考強め。Tia1は握らず、自分路線で強ビルドを完成させることに注力していた。そんな中ハマったのが『神聖特化熾天使タンク』である。
とあるイベントで入手可能な最上位職業「ガーディアン・オブ・エンピリオン」そしてイベント最強ボスが落としたクリスタルから作り上げた神話級剣盾セット装備「ヒース・ヴァー二」
神聖属性の大幅強化と共に物理攻撃を100%神聖属性攻撃へと変化させられるセット武器の出現により、燻っていたビルド案が噴き出した。
元々高い防御力を誇りながら、アンデッド系には確定特攻、人類種にとっても痛い攻撃として修正が入るまで覇権を握り続けた。
企業からの勧誘もあり、人気が落ち気味だったユグドラシルから一時離れていたが離れる以前は「アースガルズ・ワールドチャンピオン」も短いながらに着いていたりする実力者。
そんな彼女が席を置くギルドは「セラフィム」。ユグドラシルがもうすぐ終わると教えてくれたのが目の前に居るサブギルマスの「セフィラ♡」さんである。
あと1週間。それがタイムリミットである。
ユグドラシルから離れて数年。更にアップデートが入ったのかビルドが若干変化していることが見受けられた。
久しぶりに見るユグドラシルの自分。PPPのプレイの骨子になってくれたビルド。セフィラ♡さんと別れ、何もかも懐かしい自室に入りまずは色々な確認を始めた。
PN:メーメー
性別:女
Lv.100
カルマ値:+500
種族:至高天の熾天使
職業:ガーディアン・オブ・エンピリオン
プレイスタイル:神聖特化盾持ちタンク