闇鍋VRMMOのお話 作:塩谷あれる
「VRMMORPG……ですか?」
医療系大学に通うその青年は、オウム返しをするかのように聞き返した。
「あぁ。最近、知り合いに頼まれてね。あるゲームのβテスターを募集しているんだそうだよ。君、ゲームはやる方だろう?」
「はぁ、まぁ人並み程度には…まぁMMOは最近あんまりやらないですけど」
「君が受けてくれるなら、私の方からも別口で報酬を送ろう。最新ゲームをタダどころか見返り付きでプレイできるんだ、悪い話じゃないだろう?」
眼の前に居る、丸眼鏡をかけた初老の男性───自身の研究室の室長である教授の言葉に、再度青年ははぁ、と胡乱げな言葉を返した。参ったな、なんだか面倒なことに巻き込まれそうだぞ。
「どんなゲームなんです?倫理的に大丈夫なやつですよね」
「私の所に来るんだから大丈夫さ。……多分ね」
「多分て」
「実は私も全容を把握しているわけではなくてね…まぁ、実際にプレイしてみればわかるんじゃないかい?」
そんな適当な…と青年は思ったが、言った所で何が変わるわけでも無いため、その言葉は飲み込んでおいた。人の話を聞かないこの人だ。どうせ自分はこのβテスターとやらにならされるのだろう。
「わかりました、わかりましたよ教授……受けます。詳しく聞かせてくださいな」
「おぉ、受けてくれるかね。ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ」
(そう言ってくれる未来以外想定してないの間違いじゃないかなぁ…)
苦笑いを浮かべ、教授の握手を受ける青年だったが、それでもなんだかんだ楽しくはなるだろう、と、新作ゲームに思いを馳せるのであった。
「なるほど…種族にビルドに選び放題、か。随分自由度が高いゲームなんだなぁ」
ゲームにダイブし、説明を一通り受け切った青年───
「えーっと…種族…種族か…色々あるな……人に、エルフに、ドワーフ、獣人……えなにこれ、スライム、虫人…
大量に出てくる選択肢を眺めているうちに、塩宮はある名前に目が留まった。
[蟹人:適正ステータス《VIT》]
「蟹……?そんなのもあるのか…てかそれどんな見た目になるのよ…ちょっと面白そうだけど」
ま、やってみるか、と塩宮はそのアイコンをタップし、種族を決定させる。
《種族が決定されました。ポイントを振り分けます》
「ふむふむ…蟹人の防御力を活かすなら…こう、かな?」
そう言いながら、塩宮はカーソルをカチカチと弄り、与えられたポイントを振り分ける。
| Name | 塩宮るれあ | Race | 蟹人 |
| HP | 400 | MP | 0 |
| STR | 0 | VIT | 3 |
| INT | 0 | MIN | 0 |
| AGI | 0 | TEC | 0 |
| LUC | 0 | TOTAL | 3 |
「いやー、タンクってやってみたかったんだよね」
使えるポイントの一切をVIT(物理防御力)に振り切り、満足げに塩宮は頷く。本人は喜色満面だが、やっていることは攻撃性能の全てを捨て去ったアホの所業である。
次に塩宮は武器の選択をしていく。タンクということもあり塩宮は盾を選択。《盾術》のスキルが彼のスキルスペースにカチリ、と嵌まり込んだ。
更に種族スキルを選択。装甲を上げる《外骨格》と、HP回復の《自切》を選択し、チュートリアルで行う作業が終了する。
《お楽しみ下さい》
「勿論です」
眼の前のメッセージウィンドウに笑いかけ、白い光に包み込まれる塩宮。彼が次に目を開いた後、その前に広がっていたのは、薄暗い洞窟だった。
潮騒の洞窟
「おお…すげえリアルだな…視覚、聴覚だけじゃなくて、嗅覚に触覚まで再現されてる」
辺りを見渡し、その再現性の高さに驚きを浮かべる塩宮。岩肌の暗い灰色、流れ込む風の音、うっすらと薫る潮の匂いにじっとりとした湿気と冷気。これなら味覚も再現されているだろう。なんだこの再現性。いかに最新鋭の技術の結集とは言えど運営は変態か何かの類いではなかろうかと思わざるを得ない。
「さて、早速行ってみようか」
備え付けられていた木製の盾を持ち、洞窟の外に出ていく塩宮。それを待っていたかのように彼に向かって薄水色の動く液体が襲いかかってくる。
「やっべ反応────」
しようとする塩宮だったが、低いAGIが悪さをし、振り抜こうとした盾は
「あぶぉっふ……全然痛くなぁい」
顔にもろにスライムの攻撃を食らった塩宮だったが、VITの高さが幸いしたのか、ほとんどダメージを食らうことはなかった。そのまま顔からずり落ち足元を這うスライムを盾で潰した塩宮は、ふぅ…と額の汗を拭い思った。
「よし…俺はこの世界でタンクを極めてみよう。目指せラスボスの必殺技完封」
初めての人外RPかつ初めてのタンクプレイに興奮したのか、やはり塩宮の思考回路は完全にアホのそれになっていた。この選択肢が、後に塩宮を大きく苦しめ、彼の胃を痛める結果になるのだが、それはまた別のお話である。