闇鍋VRMMOのお話   作:塩谷あれる

4 / 10
連合を起こす話

白金&初期メンが闇鍋から離脱済み、『連盟』と『商工会』はもうできてある程度地位を確立してるくらいのイメージ


連合設立前夜 不落城は眠らない

「あ~~~~~~死にてぇ~~~~~……」

 

 日本最大のVRMMORPG「百鬼夜行」が、生死をかけたデスゲームになってから半年。()《闇鍋の宴》ギルドマスターである塩宮は、ある問題に直面していた。

 

(前線に潜るプレイヤーの数が少なすぎる。主に前衛の)

 

 それはずばり、攻略の進行度問題である。攻略班として前線のダンジョンへと潜るプレイヤーは、総プレイヤー人口の約1%。その中でも前衛職────特にタンクの数は致命的と言えるほど少ない。後方からの戦闘干渉が主な後衛攻撃職や支援役*1と比べ、敵に接近することで役割を果たすことができる前衛職の死亡率は明らかに高い。

 

(攻略の進展に前衛陣の後進育成…それだけじゃない。PKに対する対策網も強化しないと…『楯の会』では限界があった)

 

 楯の会。塩宮が独自に計画していた、防御や護衛に長けたプレイヤー、ギルドによる中小規模のクランである。主な内容は依頼によるプレイヤーの身辺警護やダンジョンやクエスト中の護衛等。実績としては中々の物らしく、事実クエスト中の生産職や低レベル層プレイヤーの死亡率はガクッと減ったようである。

 

(…そう、クエスト中の死亡率は減った。でもそれだけだ)

 

 問題はそれ以外。エネミートレインや町中での奇襲などといった、予期せぬ事態への対抗プランがあまりにも杜撰だったこと。そして、主たるPKギルドや悪質なプレイヤー達が、『楯の会』の管轄外地域へと活動拠点を伸ばし続けている点にあった。

 

(こちらの勢力はせいぜい60人そこら…私自身が動かせる人間に限って言えばその半分にも満たない。…致命的だ。連携が花のタンクと言う役割で、『連携強化』が最大の懸念点になっている)

 

 塩宮は攻略勢きってのタンクであると同時に、悪名高き『闇鍋の宴』のメンバーである。『前哨戦(プロローグ)*2時代からの悪行三昧の影響は、今もなお残り続けている。如何に攻略で功績を積めど、如何にPKから人を救えど、彼自身にこびり着いた、「盾持ちの狂人」としての汚名は、決して雪ぎきれるものではない。

 だからこそ、『楯の会』の会員の一部は、彼の指示を全うしない。

 だからこそ、『楯の会』は『楯の会』としてのこれ以上の規模拡大を見込むことはできない。

 だからこそ、『楯の会』は、十全に機能することは決して無い。

 

(……私一人では到底無理だ。必要なものが多すぎる)

 

 塩宮は数えていく。自分に足りないものを。より多くを守るために、確実に必要になる物を。

 

 例えば、緻密かつ迅速な情報網。

 例えば、広い視野と分析力を持つ遊撃役。

 例えば、死亡率を下げるのに必要なだけの資金と兵站。

 例えば、攻略と防衛双方の要になる多芸(ユーティリティ)な前衛。

 例えば、塩宮の不在を補えるだけの地力を持つタンク。

 例えば、攻略情報を確実に浚える生存力の高い斥候。

 例えば、対PK戦に精通し、教導できる指導者。

 例えば、組織運営に関するノウハウと戦略。

 例えば、────────

 

「、ははッ」

 

(あぁ───…全部、なくなったものばかりか)

 

 そう独りごちながら、立てた指を握り込んだ塩宮の、兜の中に隠された表情を悟るすべはない。

 

(なら、割り切るべきだ)

 

 失ったのならば、それに囚われてはいけない。

 もう無いのならば、それに頼ってはいけない。

 切り替えろ。それ以外の何が、今の“私”にできる?

 

「私にできることは、守ることだ」

 

 というか、それしかできない。だが、一人でも多く、一秒でも早く人を守り、助ける。それだけならば、【一行(キャラバン)】の“勇者”にだって負けない自信がある。

 

「“塩宮るれあ(わたし)”がすべきことは、皆を守ることだ」

 

 治安維持の為にも、攻略進展の為にも、兎角どうにも人手がいる。その為の人材を育てるのも、その人材を守るのも、どちらも私にもできることであるのなら、私が先立ってやるべきだ。

 

()がやりたいことは、あいつら全員の横っ面をぶん殴ってやることだ」

 

 勝手に押し付けてバックレやがって。特にあの八本足女。ふざけるなよクソッタレ任せる相手が違うだろうが。文句なんぞいくら言ったって足りやしない。他の皆も大概だ。どいつもこいつもゲームだからって好き勝手しやがって。渚紗さんとかるなとか、コントロールすんの大変なんだぞこんちくしょうめが。

 

「なら、やることは決まった」

 

 ならば守ろう。

 ならば戦おう。

 その上で、その後で、全部が終わったその先で、全力でぶん殴ろう。

 

「一人でも多く、プレイヤー達を生還させる」

 

 誰もいない部屋で独りごちる。今までのような愚痴ではなく、確かな決心を。彼自身が楔として自らに込めた、誓いの如き鉄心を。

 そして塩宮はメッセージウインドウを開く。声の先は、闇鍋に残る決断をした、妖狐の運び屋。

 

「つねまるさん、《宛先不要の便箋(ワールドワイド・レターパック)*3持ってましたよね」

『え?持ってるけど…何、何事?』

「すいませんギルマス権限です。今から列挙するプレイヤー全員に伝令(メッセージ)お願いします。タイトルは“会議”への招待。書き留める内容は─────」

 

 

 その夜、【百鬼夜行】内の、幾人かの高ランクプレイヤー達に、あるメッセージが送られた。

 

円卓会議へのお誘い

 

お世話になっております。ギルド《闇鍋の宴》ギルドマスターの塩宮と申します

 

この度、下記の議題について話し合う為、緊急の会議を開催させていただきます。

 

各自のご都合につきご多忙かとは存じますが、皆様ご出席の程よろしくお願いいたします。

 

日時:○月✕日△時

場所:中央円卓会議室

議題:今後の《百鬼夜行》について

   現在蔓延しているPKへの対策

   《闇鍋の宴》が情報を秘匿している4つの《十二宮神殿》と7つの高難易度ダンジョンについて

 

 以上、お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

 

 《闇鍋の宴》ギルドマスター 塩宮るれあ

 

 

「─────…はは、改めて見るとひっでぇ文章…ま、多少これで多少波風立てばいくらかマシかな」

 

 作成した招待状を見ながら、塩宮は笑う。自嘲のようであり、自虐のようであり、事実それは、そのどちらでもあっただろうが、しかし、その声色はどこまでも晴れやかだった。

 

 そうして、塩宮の出した招待状を起点に歯車は動く。緩やかに、なだらかに。でも、確かに劇的に。

*1
あまりねのような攻撃的回復職(バーサークヒーラー)は例外

*2
『百鬼夜行』がデスゲームになる前の時代を指す通称の一つ

*3
フレンドリストに名前がない相手に対し一度だけメッセージを送ることができるアイテム。とある高難易度ミッションをクリアすることで、依頼主である白ヤギの郵便屋から一包12枚セットで入手できた(現在諸事によりクエスト閉鎖中)が、β時代からしばしばセクハラや脅しに使われがちだった為に今では一種のタブーアイテムと化している。恒丸が持っているのは運び屋界隈の闇市における競売や物々交換による戦利品

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。