闇鍋VRMMOのお話   作:塩谷あれる

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供養


闇鍋狩り

 《闇鍋の宴》。その名を知らぬ『百鬼夜行』プレイヤーはそう多くはないだろう。亜人、人外種のみで構成された、構成員20名にも満たない少数ギルド。しかし、メンバーの平均レベルは80を優に超え、各人の専門分野に卓越したプレイヤースキルと、独自性を追求したトンチキじみた奇抜なビルドを有する彼らは、サーバー内でも有数の練度を誇るトップギルドの一つに数えられている。

 その実力を以て築き上げられた逸話は数知れず。先の人魔大戦を始めとし、数々のイベントや戦場、ダンジョンに参上し、必ずと言っていいほど『何か』を起こして帰っていく彼らの逸話は、ゲームサーバー内に留まらず、一部のネット掲示板等でも語り草となっている。

 

 例えば。どこからともなく颯爽と現れ、ふしぎなおどりと共に特大デバフをばら撒きいなくなる、神出鬼没の天邪鬼。

 

 例えば。ポロロッカもかくやと言わんばかりの大洪水で、ダンジョンマップまるごと水浸しにするInt極人魚。

 

 例えば。その欲望の趣くままに、プレイヤー、エネミー、アイテム問わず喰らう、悪喰にして暴食にして飽食たる重戦士。

 

 例えば。各地の戦場を飛び回り、得意の隠形で次から次へと主戦力を殺して回る姿の見えない首狩りエルフ。

 

 例えば(エトセトラ)例えば(エトセトラ)例えば(エトセトラ)…………挙げればキリが無い程の、大悪行(かいしんげき)のバーゲンセール。そう、とどのつまり《闇鍋の宴》とは、良くも悪くも……主に悪い方面に常識外れな、問題児揃いのトンチキお騒がせギルドなのである。

 

 このお話は、そんな《闇鍋の宴》を中心に巻き起こった、いつも通りではないある日の騒動のお話。

 


 

 が ログインしました】

 

「こんにちはー。……おや?珍しいですね。ギルドにこんなに人が集まってるなんて」

 

 ピロン、という音が鳴った直後、青色のプリズムと共に、凍星の姿が現れる。彼の視線の先には、彼にとっても見知ったギルドメンバーである《闇鍋》のほとんどが、ずらりと勢揃いしていた。

 

「お疲れ様ですー。えにしから何か発表というか、報告があるらしくて?」

「その白金がまだ来てねェんだけどな」

 

 凍星を出迎えるのは、猫又(ケットシー)の彩音と鬼人の椒。

 

「それは聞いてたけど…でもちゃんと全員集まるとは思わなくて」

「まぁなんだかんだでギルマスだし」

「ただ、こういう時に白金が一番最後ってのも珍しいよな」

 

 が ログインしました】

 

「おっと、もう大体集まってるね」

 

 噂をすれば何とやら。青灰色のプリズムがはじけ、凍星の後ろに、黒いフードを被った蜘蛛人(アラクネ)の少女、白金縁の姿が現れる。

 

「お疲れー。いきなりメンバー集めて、どうしたん?」

「ま、それは今からね」

 

 そう言いながら白金は、八本の蜘蛛脚を器用に動かし、ギルドホール内の中心にある大きな円卓の前に立つ。それに応じるように、既に席についていたメンバー以外の数人が席につき、最後に渚紗夏渓(鈍足人魚)がどうにか席についた所で、白金は全員を見渡し口を開いた。

 

「先日、私のもとに身元不明の手紙が届いた。内容はコレ」

 

 そういうと白金は、懐の中から一枚の紙を取り出し、全員に伝わるよう、一言一句違わずに読み上げた。

 

拝啓、《闇鍋の宴》に属しますクソッタレキチガイの皆様

 

 梅のつぼみも膨らみ始め、春の兆しを感じる頃となりました。親愛なる《闇鍋の宴》の皆様方におかれましては、一層ご清祥のことと存じます。

 さて、普段から《百鬼夜行》を心ゆくまでお楽しみ頂いている皆様方ですが、常に頭のおかしい新しい刺激を求めておられる皆様の為に、此の度変わった催し物を企画、ご提供させていただきたいと思いお手紙差し上げました。謙虚かつ人間的配慮の行き届いた皆様方です。きっとご遠慮なさるかと思われますが、こちらとしても皆様にお喜び頂くために様々な苦心をして完成した企画になります。是非ともご堪能いただければ幸いです。

 つきましては、企画提供のために近々そちらにお見舞い申し上げたいと思っております。土産の品もご用意いたしますので、その折をお待ちいただければ幸いです。

 

 皆様の今後の益々のご活躍を願い、関係者一同の総意の言葉を以て敬具とさせていただきます。

 

首洗って待ってろキチガイ共

 

 

「わぁ熱烈」

「丁寧に見せかけて滅茶苦茶手前勝手で笑ったわ。楽しませる気あんの?」

「初手クソッタレキチガイは草なんよ」

「困ったな…あんま間違ってないから反論しづらい」

「いやいや何いってんの、私はまともだよ。ねえしお?」

「え?」「え?」「え?」「え?」

「収集つかないなこれ……」

 

 送りつけられた怪文書を見ても尚、平常運転でぐだぐだムーブを貫き通すギルドメンバー一同に、白金は冷ややかなジト目を送りつつ、一つ手拍子を叩き場を仕切り直す。

 

「ま、これだけ盛大に宣戦布告してくれた以上はこっちとしても迎え撃とうと思ってるんで、諸々準備とかしておいてってこと」

「そうはいっても、日時も不明、人数も構成も不明な以上、対策のしようがなくないか?ま、警戒はしておくけどよ」

「送り主の特定自体は、その手の解析ギルドに回せば可能だと思いますよ。いくつか請け負ってくれそうなギルドに心当たりがあります」

「『企画』に『関係者一同』……言い振りからして結構な人数が動いてるみたいだね…一応、こういうことをしそうなウチの敵対勢力を洗ってみる」

「それじゃ、私はギルド内部のトラップの整備しておこうかな。彩音さん、ちょっと付き合ってもらえます?」

「りょーかい!」

「奇襲かけられる可能性もあるし、非戦闘員とPvP苦手な人はしばらく戦えるプレイヤーと一緒にいた方が良さそうだね」

「一応強制デュエル(PvP)仕掛けられた時の対策用メモ共有しておきます」

「たすかる〜」

 

 それぞれの意見が飛び交い、各自の担当と配置が決まった所で、空気は一時解散という流れになりつつある。一部のメンバーは既に席を立ち、自らの役目をこなすためギルドの外に出ようとしていた。そんな中、運び屋としての仕事の都合上、受信メッセージの整理を行っていた隠岐が、不思議そうな声を上げた。

 

「あれ?」

「ん?つねまるどしたん」

「いや、なんか変なメッセージ来てて」

「またなんか、大変だね」

「いや違う違う!『《闇鍋の宴》御一同様へ』って文面で、なんかよくわかんないメッセージが来てるっぽいんだよ」

 

 その言葉に、咄嗟に近くにいた雨葉はメッセージを確認─────するまでもなく、突如としてその場にいた全員の目の前に、連鎖するようにメッセージウインドウが展開される。タイトルは【《闇鍋の宴》御一同様へ】。確かに、隠岐が言っていたものと一致するようで、内容は先程と似たような、丁寧な口調に隠れたアンチの怪文書のようなものだった。特筆するべきは、タイトルの下に記載されたその送信元だろうか。

 

「《Argonautai》?」

 

 表示されたその名前の意味を理解するよりも早く、というよりは、その暇を与えぬように突如としてけたたましいファンファーレが鳴り響き、同名の送信元で追加のメッセージが追加される。

 

転移対象ヲ確認

オマタセシマシタ

最高ノ「ショー」へゴ招待致シマス

 

Now Loading..

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 何かがマズい。《闇鍋》の面々がそれを察知しそれぞれの反応をしようとするよりも早く、メッセージ下のメーターバーが赤く染まり切り、純白の光がメッセージウインドウから溢れ出る。

 

(強制イベント系の転移エフェクト…!)

「落下警戒!!飛ばされる!!」

 

 これから起きることをいち早く理解した凍星のそんな言葉が、全員の耳に届いたか、届かずか。そんなほんの刹那の間も与えることなく光はその場にいた《闇鍋》のメンバーを包み込み、ギルドホール全体が白一色に染められる。数秒そんな景色が続いた後に光は蝋燭の火をかき消したかのように消え去り、その場に、先程までいたメンバーは誰一人として残ってはいなかった。

 


 

「ってて……マジで飛ばされたな」

 

 《闇鍋》のギルドハウスから遠く離れたある山岳地帯。塩宮は、転移による落下のダメージを物ともせずに、衝撃にほんの少し呻きながら辺りを見渡した。乾いた空気と、あたり一面の岩の壁。ここはどうやら、サーバー内南東方面に位置する巨大山脈型マップ【アダマス山脈】の内部らしい。

 

「えっぐい距離飛ばされたな…しかし、強制メッセージに転移エフェクトって、下手人は何者なんだ…?」

 

 そう言いつつ、塩宮はギルド内チャットに生存報告と現状確認を書き込む。既読はつかず、返信も特にはなし。普段からそこまで騒がしいわけでもないことを差し引いても、この異常事態において報連相がないというのは、少々考えにくいことだった。となれば、考えられるのは、その余裕がないほどに切迫した状況にあるか。それとも、単純に意識を失っている───つまり、なんらかの形でゲームプレイに障害が起こっているか。

 

「……マズいな、できるだけ早く合流しないと」

『危機感を持つのは良いことだが、それが努々できるとは思わんことだな!!!闇鍋の盾!!』

 

 けたたましく野太い声と共に、強烈な破裂音が鳴り響く。思わず塩宮は破裂音の方向に盾を構え、防御態勢を取る。目も眩むような爆熱と閃光に少し遅れ、金属が弾ける音が2度。それを全て受けきった塩宮は、再度破裂音の元凶の方へ顔を向ける。

 

 そこにあったのは、岩肌と同色に塗り固められた機械的なフォルムと、そこから伸びる長い鉄の筒。少し目線を下にずらせば、そこにはゴム製の黒い板のような物が連なってできた長い帯と、それにくるまれた無数の車輪……いわゆる、『キャタピラ』と呼ばれる形状の物体が目に入る。全長10.28m、全高3.09m。かつて現実世界で起きた大戦において猛威をふるった鋼鉄の怪物、『ティーガーⅡ』と呼ばれ恐れられた、実物の『重戦車』。しかもそれが、およそ20機にも及ぶ軍隊を率いて現れたのであった。

 

「はっ……ハァアアア──────ッ!?」

『全隊、ッてーーーーーーーーいッッッ!!!!』

 

 鳴り響く砲音と爆撃の雨あられ。それをなんとか受け流しながら、塩宮は目の前の巨大戦車を睨みつける。

 

「クッソ、この弾丸装甲無視かよ!?」

『フハハハ!!流石の不落城もこの物量では形無しか!!闇鍋の盾の名が泣くぞ!!!撃てい撃てーい!!』

「ガンメタ張って殴り込みとか!!いきなりどういう魂胆だ畜生!!」

『フハハハ!!我々の《企画》を楽しんでもらえているようで何よりだよ!』

「企画……?まさかお前ら…!」

『如何にも!!』

 

 砲撃に負けず劣らずの大声で、戦車に乗っているであろう『砲撃手』は高らかに一笑いした後宣言する。まるで、開戦を告げる喇叭のように。

 

『我々は対闇鍋連合《Argonautai》!!!貴様らを討つという目的の為!!この度徒党を組んだ一大組織である!!今頃他の者共の所にも!同じように適した刺客が派遣されている事だろう!貴様ら全員、生きて帰れるとは思わんことだ!!!!!』

 

 突如として始まった《闇鍋》と《Argonautai》の抗争。他の者達がどのような状況に立たされているのか、一体誰がこの戦いの糸を引いたのか。何もかもがわからないまま、非日常は続いていく。




続かない
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