闇鍋VRMMOのお話 作:塩谷あれる
A.大丈夫だ、(他もどうせふざけるから)問題ない
塩宮るれあ─────《不落城》
戦車愛好開発連盟─────《闇鍋狩り》
迫りくる砲撃の雨霰。劈くような爆音の中で、塩宮るれあは必死に攻撃を耐え続けていた。
『爆撃!炸裂!恐れるに足らず!闇鍋の盾とはこの程度か!!!」
そんな爆音をかき消すレベルのバカみたいな大音量で、塩宮に向けて声を飛ばす《砲兵長》。その声はおおよそ勝ちを確信した者のそれであり、明らかな興奮が見て取れた。
事実塩宮のHPはとっくにグリーンゾーンを割っており、彼のバフスキル《鋼鉄の加護》によるHPリジェネを加味しても、そう長くは持たないだろう事は明らかだった。
「ぐ……ッ、きっつ…こーれ防ぎきれないなぁ……!」
塩宮は両手の盾で砲弾を弾いたり、受け止めたり、受け流したりとどうにか切り抜ける。
砲弾をしのぎ続ける塩宮のフラストレーションは、今まで以上にたまり続ける。
そもそも、何だって勝手にこっちを狙ってくるような連中相手に一方的に攻撃を受け続けなきゃならないんだ。
こっちの強みを一方的に潰されて、ろくに動くこともままならなくさせられて、その上で殴られ続ける理由って一体何だ?
つかわざわざここまで殴らせおいて、このままむざむざ負けて良いのか?普通に死んだとしても一発ぐらい連中の横っ面ぶん殴る権利くらいあるんじゃないか?
様々な思考が塩宮の脳内を交差する。普段の(闇鍋の中では比較的)温厚な、かつ丸い選択肢を取りがち*1な塩宮であれば、その上でもなおギリギリまで受け続けた上で、彼にとっての起死回生の一手、《反撃の盾》をブチかましていただろう。これまで食らったダメージは極大。それら全てをぶつけきるのであれば、きっと纏めて敵を一掃することもできるだろう。普段の、冷静な塩宮であればそうした筈だ。
「あ、そっか殴りゃいいのか」
「加速装置、起動」
「
塩宮の脹脛からそれぞれ四本のブースターが展開。そのまま若草色の炎を噴き上げ、轟音と共に飛翔する。そうしてその先にあるのは、先程まで───否、今もなお自分を狙い続けているティーガーⅡの一機。闇鍋最大級の重量による自由落下は、そのままティーガーⅡの車体の上に真っすぐ衝突。ベコ…ッとその上部を歪ませる。
『うわっ!?なんだお前!いきなり…!?』
「闇鍋や!はよ開けんかいゴラァ!!!」
ガタガタと動き回るティーガーⅡにロデオのように跨りながら無理やりハッチをこじ開ける。
「こんにちは!できたてのポップコーンはいかが?」
「ヒッ…帰れ闇鍋ェ!」
「帰るかバーカ!!!オラッ
疲れと狂気がオーバーフローし、マジキチスマイル*2を浮かべながら塩宮はストレージからある物を取り出す。それは、この闇鍋狩りの中でもギルドメンバーの一人が使用したものであり、かつての塩宮がレベル上げのためにこよなく愛用していた、所謂塩宮にとっての原点の一つ。そう。みんな大好きダイナマイト(松林檎製)である。
手に持った特大のダイナマイトを戦車の中に勢いよくブチ込んだ後、塩宮は即座にハッチの蓋を閉め、全体重をかけて圧迫する。
『〜〜〜!?〜〜、〜〜〜〜!!!!』
「ヘイグッボーイグッボーイ慌てない暴れない諦めない気持ちが大事ィ〜〜〜〜〜〜ッ……からのハイッ」
強烈ながらも、ややくぐもった爆発音。そうして直後に、ティーガーⅡに乗り込んでいた《戦車愛好開発同盟》のギルドメンバーの死亡ログが浮かび上がる。哀れ砲兵は蒸し焼きになった。雨葉がここにいればよだれを垂らしてハッチの中に潜り込んでいただろう。
そしてその暴挙を、塩宮もまた遂行する。決して食欲などが目的ではなく、極めて単純な、戦術的理由で。
『いや〜、ビークル系のアイテムってほんと便利ですよね〜…
手慣れたプレイヤーキラーみたいなことを言い出しながら、略奪した戦車を急発進させ他の戦車に突っ込む塩宮。砲撃?徹甲弾?そんなものはない。なんせマイトで全部吹っ飛ばしたからね!*3
『オラ退け退け退けェ!!!轢き殺されてェのかァ!?まぁ退いても轢き殺すけどなァ!!!!』
不格好にひしゃげた戦車を繰りながら、どこぞの蛮族みたいなことを
強制的にヘイトを煽られ機動不良に陥った戦車たちは塩宮の乗るボロクズになったティーガーⅡに突っ込み、敢え無く大破。20あった戦車の内、既に6つが機能を停止していた。
『なッ………何をしている塩宮るれあァ!!貴様我らの愛と誇りの結晶であるティーガーⅡをよくも……ッ!!』
「テメェ等から喧嘩ふッかけて来といて随分な言い草だなァ!?こんなワンサイドゲーム
そう言いながら、塩宮は大破させた戦車の中から一番マシな被害状況の戦車に乗り移り再度侵入。マイト爆破によってしめやかにプレイヤーを追い出した後操縦桿を握りしめる。
『闇鍋のPvPは常に“
そういうわけなんで、と言いながら、塩宮はまたも戦車を全力発進。猪のような勢いで戦車が比較的多く集まっているエリアに突っ込んでいく。
『うわッまた来たァ!!』
『撃て!!とにかく撃ちまくれ!!撃墜するんだァ!!』
『バカモン!!そんなことした所でヤツが怯むわけが…!』
《砲兵長》の言葉も虚しく砲弾を連射する《戦車愛好開発連盟》のギルドメンバー達。大量の砲弾を車体一身に受けながらも、数台の戦車を巻き込んで爆発四散する。
『ゲホ…ッゲホゲホ…ッ!!あ゛ーけっむ!!っとまだまだァ!!ほらほらほらァ!!!
しかし。流石は《闇鍋》最硬生物と言うべきか。爆発によるダメージをものともせず、塩宮は戦車を丹念に爆破しては乗り換えてを繰り返す。
『く……ッ!や、《闇鍋》の盾はバケモノか…!?』
「
『く…ッ!こうなっては埒が明かん……!』
《砲兵長》の言葉の直後。彼のティーガーⅡの砲身が、より
『我がギルドの叡智を結集して作り上げた
魔法陣が高速回転し、砲身の駆動音が騒々しさを増す。既に魔力の装填は済んでいるようで、眩く光を放つ砲口は、しっかりと塩宮の身体に対し照準を合わせている。
『再生も復活も、全てを無に帰す多段レーザーだ!生きて帰れるとは思わんことだな!無様に散るがいい闇鍋の盾!!総員、放て────!』
《砲兵長》の掛け声と共に、残存車体全てから、一斉に光の矢が放たれる。降り注ぐ確定された死の形を前に、満身創痍の塩宮は─────
「とんでもない、待ってたんだ」
ただ、笑った。握りしめるは2つの愛盾。十字に構え、一歩踏み出し、言葉を連ね祈りを言祝ぐ。
「一切断滅、万象途絶。阻んでナンボの───」
瞬間。塩宮を取り囲むように、巨大な城壁が現れる。厳密には、そのように見えるエネルギー体───結界のような防御系魔法のそれだが、塩宮を守るように展開された白い壁は、彼に向かうレーザーを受け止め、その貫通力を相殺する。
同時に、塩宮は彼の愛盾《金剛亀の盾》のアイテム効果を起動。金色の鼈甲が塩宮の魔法に対する抵抗力を大きく上昇させ、その攻撃力を著しく減退させた。
壁が和らげ、盾が削り、残る鎧も、その裡にある身体を徹底して守り尽くす。それでもなお、削りに削られた塩宮のHPを削り切るには、その威力は十分であったらしく、その体を一度は鎧ごと灼いた。
しかし、それを上回る塩宮の再生能力が、鎧ごとその身を復活させる。とはいえ所々破損が見られるようで、目元や肩などが僅かばかりに露出しているようだった。
『バカな…ッ!!ここまでして尚…!貴様は死に絶えんと言うのかッッ!』
「当然…!!私は闇鍋の盾…全ての攻撃を受けきって、それでもなお最後まで立ち続けるのが
普段の口調もかなぐり捨て、大見得を切る塩宮。残機一つを切り捨て、敵の大技をしのぎ切った。ならば、後は、逆転あるのみ。
「─────反骨せよ、我等に退路は亡き故に」
塩宮が言葉を紡いだ、その瞬間。彼の左腕に装着されていた《金剛亀の盾》が消失。
同時に、もう片方の愛盾である《巨蟹宮の盾》が、その形を大きく変形させていく。無骨な大盾から、防楯と呼ばれる防御装甲の搭載された、火砲を伴うガントレットへ。
火砲の照準を眼前の《砲兵長》に合わせたまま、塩宮は詠唱を続けていく。対する《戦車愛好開発連盟》は、砲身の換装、レーザーの再発射、どちらにおいても、相応の時間がかかる故か、ただ、塩宮の詠唱を、指を咥えて待つしかない。
詠唱を一小節唱える度に、塩宮の“砲”に翡翠色の光が灯る。一つ、また一つと灯る光は線を結び、そして、ついに蟹座の星辰を
「在らぬ力の限りを以て、死刻の反旗を翻さん────天罰、覿面────ッッ!!!」
灯る光は砲口に収束し、無数の光の矢となって戦車たちに降り注ぐ。自らが受けた全てのダメージを、与えた対象に対し無慈悲に返すカウンター・バレット。ステータス配分とスキルの凡そ九割を防御と支援に振り切った、“極振り”塩宮るれあ唯一の攻撃用リーサル・ウェポンが、ついに放たれる────!
『ッッ──総員退避ッッッ!!!専守防衛、打ち返すことは───── ……何?』
火砲から放たれる轟音と閃光。しかし、肝心の一撃……《反撃の盾》によるカウンター・バレットは、《砲兵長》含む七機のティーガーⅡには掠りともせず、周囲の岩肌をただひたすらに削っていく。
『ハ……ハハハ…!!折角の砲撃も、砲手の
見当違いの方向へ飛んでいった砲撃を見て、《砲兵長》は高笑いを上げる。事実、《反撃の盾》は再使用に24時間のリキャストタイムを要する非常にコストの重い大技であり、この戦いの中で再度使用するのは不可能に近い。先程のレーザーによる焼却でダイナマイトもほぼ全損している状況であり、塩宮の勝機は、再度完全に失われた────
『ここまでの抵抗を見せてくれた礼だ…我らの残す最大火力で貴様を葬って─────何だ?』
─────かに、思われた。その直後。彼らの居る【アダマス山脈】が、唸り声のような地響きを起こす。パラパラと落ちてくる小石や砂埃。軽装では足元も覚束ないであろう揺れ。何事かと《砲兵長》が上を見上げると、そこには…
『こ…これは……!?岩山が崩れている……!?』
轟音と共に崩れ始める山脈の岩肌があった。小さな礫や砂の塊に始まり、既に中程度の岩も転がり始め、岩雪崩を起こしているように見えた。
「えぇまぁ…そりゃ崩れますよ。あんだけバカスカ砲弾に爆発ぶっ放して、挙句の果てには大量のレーザーカノンですから…地盤も当然緩みますってね」
揺れる大地の中で、ただ1人塩宮は平然と振る舞う。あたかもこの状況が、彼にとって想定の範囲内であるかのように。
「万が一にも私を逃さない為に、入り組んだ山脈地帯であるここにポイントを構えたんでしょうが…アダマス山脈を構成する岩石類は、衝撃や爆発に対する耐性が低いんです。他の岩石系素材アイテムと比べても明確に」
バカスカ撃ちまくって一網打尽にするには、あんま適してない立地ってことですね。
そう淡々と、塩宮は語る。答え合わせのように。種明かしのように。
「そんな所で砲煙弾雨…ついでに
『HPとVITが、低い方……ッ!!』
ティーガーⅡの装甲はVIT換算にして70相当。《戦愛連》のメンバーのHPの平均値は、凡そ10000前後。最も耐久力の高い《砲兵長》を以てしても、装甲、VIT、HP───あらゆる点において、現在の塩宮るれあに勝ることは叶わない。
『塩宮、るれあァ……ッ!!貴様最初から……ッ!!』
「あったりまえでしょうが。小細工使った所で、極振りの私が勝てる道理ありゃしません…なら、デカい細工存分に利用して、徹頭徹尾アド取って真正面から嵌め勝つ、それ以外に方法なんてありませんって」
ま、ダメージレース的に死にそうだったんで強硬手段に出ましたけど。そう言いながら、塩宮はフルフェイスのヘルムの中で笑う。
本来、『受けた分のダメージを相手に返す』という効果である《反撃の盾》には、対象を自動追尾する機能が付与されている。しかしこの自動追尾は、使用者が任意で解除可能であり、その場合、目視、ないし座標指定による標的指定が必要になる。塩宮はこの仕様を利用し、砲撃を岩山の崩壊ポイントに指定。岩雪崩を起こすためのきっかけを、より多く生み出したのである。
とは言え、この戦いは
そう心に含めながら、塩宮は笑い、《砲兵長》に勝ち名乗りを上げる。高らかに突き出した、緑色*5のミドルフィンガーと共に。
「俺の勝ちです。一昨日来やがれ三流
『……ッ覚えていろ塩宮るれあァ!!!いつか必ず─────』
迫る大量の砂と岩。逃げ場もなくなりつつある山脈の中で放ったそんな塩宮の捨て台詞に、《砲兵長》が何かを返そうとした、その瞬間。想定よりも早かった土石流によって双方が飲まれ、そしてそのまま、戦場は完全に沈黙した。
闇鍋狩り、アダマス山脈の一戦。両陣営共倒れにつき、引き分────
「……なーんて、ね?」
────そんな声と、一つの爆音を上げながら、立ち上がる男の姿があった。鎧は、破損こそ少ないものの、大きくひしゃげボロボロ。息は絶え絶え、身体は死に体。それでも尚、五体満足。ご存知、《闇鍋》最硬生物、塩宮るれあだった。
「咄嗟に《生物要塞》切れて良かった…ガッツならぬ、ダメージカットがなかったら即死だったね」
そう。塩宮は、岩雪崩に巻き込まれるその瞬間。彼の第二の称号《生物要塞》の効果であるダメージカットと、HP最大値を超えたHP回復を発動していたのである。無理やり作った猶予を使い、塩宮は、ストレージに残っていたなけなしのダイナマイトを起爆。僅かな隙間を作って這い上がってきた、という訳であるようだった。
「全ての攻撃を受けきって、それでも最後まで立っているのが私の役目…ま、面目大躍如、ってことで改めて───」
闇鍋狩り、アダマス山脈の一戦。勝者、《闇鍋の宴》塩宮るれあ。