TMA Prince City 〜ひと夏の物語〜 作:ふゆきんぐ☆
TMA擬人化はえるみさん(https://twitter.com/eruminft?s=20)の手がけるシリーズで、現在は新たにTMAプリンスというシリーズを展開なさっているので、そこからこの小説が生まれました。
あまり長いシリーズにはなりませんが、連載物となっております。
連載終了までゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
大海原を大きな船が真っすぐに進んでいく。
周りには島影一つない。陸地を離れしばらく経ち、まるで世界から切り取られたような感覚。
頭上に眩しく輝く太陽が、波飛沫を煌めかせる。魚の群れでも居るのだろうか。海鳥たちが集まって、賑やかな音楽を奏でていた。
「アミー?まだ甲板にいるのー?そろそろ中入りなよー。」
友人のレイラが声を掛けてくる。確かに夏にしては少し涼しい。日差しは強いのに、船が進むことで海風を直接受けているからだろうか。
「けどさ、もうちょっとで見えてくるかもしれないし。」
「あのさ、出発してから到着まで8時間程って書いてあったでしょ。6時に出発してまだ11時だよ?見えるわけないじゃん。」
「……確かに。お腹空いたね。」
「でしょ?お昼食べに行こうよ!」
私たちは船内に戻ることにした。
私、アミと彼女レイラは、同じ高校に通う同級生だ。
今はクラスが違うが、1年生の時に同じクラスになって以来、お互いに親友と呼べる仲である。
高校2年生の夏休み。
来年は受験だ何だと忙しくなることを想定して、私たちは2人で旅に出たのだ。
幸い、二人が行きたかった場所が一致していたこともある。
少し早い時間だからか、船内のレストランはそれほど混雑していなかった。食券を買って、窓口に出す。恰幅の良いおばちゃんが、にっこり笑って半券を渡してくれた。
私たちは水の入ったコップを持って、適当な席に着く。私は食事を持ってテラスに出たかったが、レイラに却下された。
「あんたさ、そんなに海見てて楽しい?」
「うん、楽しい。」
「山育ちなのに?」
「山育ちだからかなぁ。なんか、海に憧れがある。」
「じゃぁプリンスシティは理想の住まい?」
「もちろん!!!」
私は少し食い気味に答えると、バッグから一冊の冊子を取り出した。
『TMA Prince City徹底攻略ガイド ~今最もアツい島でホットな時間を楽しもう~』
表紙を飾るのは三人の麗しい男性たち。アイドルグループ『TMA Prince』通称『ティマプリ』だ。
「はあぁぁぁぁぁカッコいい……!」
「分かったから!ほら、貸して!」
レイラは雑誌をかすめ取ると、ぺらりとページをめくり、表紙の次に封入されているポスターを広げるとくるりとひっくり返した。
「あー、ほんっとカッコいい。マジで顔が良い。アンダー様最高。」
「えー?ちょっとクールすぎない?怖いよぉ。」
「はぁ!?ヴィアの方が目つき悪いでしょ!」
「何言ってんの!ヴィア様超カッコいいじゃん!!!」
私たちは船に乗ってからもう何度目かという議論を始めた。
船で8時間という長い時間をかけて私たちが向かっているのは、『TMA Prince City』と呼ばれる島だ。元々は特に何もない島だったのだが、ここ数年で一気に開発が進み、今は観光客の誘致に力を入れているリゾート地となっている。
そして、その目玉となるのがTMAスタジアムで行われるアイドル対バンライブであった。
「あぁもうほんと待ちきれない……!」
「それはライブが?それとも観光が?」
「ライブに決まってるでしょ!!!生ヴィア!生アル!生ウー!!!」
「だよねぇ。生アンダー様……!」
微妙に会話がずれているが、それもそのはず、私たちは『推し』が違った。
私はアイドルグループ『TMA Prince』を、レイラは正体不明のソロアイドル『アンダー』をそれぞれ推している。そして、今回のライブはこの2組の夢の競演なのだ。
これは行くしかない!!!ということで、私たちはお小遣いをかき集め、チケット争奪戦に見事勝利して船に揺られているというわけである。
高校2年生の夏。中だるみとか言われるこの夏が、私たちにとっては一生思い出に残る時間となるはずだ。
「船が着いたら、とりあえずホテルに向かえばいいんだよね?」
「うん。もうチェックインできるはず。」
「今日はどうする?街を見る?」
「せっかくだからTMAスタジアムまで歩こうよ。」
「そうだね。ホテルは朝食しかついてないから、夕食も適当に食べよう。」
「どこのレストランもおいしいって口コミに書いてあったよ。」
「いいじゃん、最高!!」
私たちはガイドブックとまた睨めっこを始めた。
TMA Prince City通称ティマプリシティは開発が最近であること、そして島全体で観光地化したこともあり、公式ガイドブックが唯一無二のガイドブックとなっている。
インターネット上には各飲食店個別のページは掲載されており、その口コミなんかも載っているのだが、個人のブログや旅行サイトによる観光案内が載っていない。
『来た人に生のティマプリシティを楽しんでいただきたい』
というコンセプトに基づき、公式ガイド以外は掲載を禁止されているそうだ。
SNS上で「ティマプリシティに居ます」というつぶやきを投稿することはできるが、大通り以外での撮影やその投稿も禁じられていた。
その理由が驚くべきもので、なんと『どこでアイドルに出くわすかわからないから』というものなのだ!
つまり、私たちが偶然撮った写真にアイドル達が映り込む可能性が高いということである。
それもそのはず、ティマプリシティはさほど広い島ではない。
歩いて一周するのは大変かもしれないが、車で2,3日かけてぐるっと観光して回れるくらいの広さなのである。
しかも、島公認のアイドルはまだ出て来る可能性が高いというから、今そこを歩いている青年がいつかのトップアイドルになるかもしれない、という、私たちのようなアイドル好きには宝の島のような存在であった。
「お昼食べたし、ライブ映像でも見る??」
「いいね!!見よう見よう!」
私たちは客室に戻った。
この船も、『TMA Prince号』と言って島の自治体が運航している船である。
豪華客船なのに、値段が手頃で私たちのような学生は大きな割引を実施しているのが特徴だ。
そのため、船内には多くの若者たちの姿があった。
学生が多い分、身分証明書の携帯は必須で、お酒やたばこを買うには全年齢を対象に身分証チェックが行われる。
また、食事をするレストランに立ち入る際や、ショーホールに入る際なんかも全てチェックが必要だった。
いちいち学生証を出すのが面倒な私たちにとって、大きなスクリーンを完備し、かつ島公式アイドルたちのライブ映像がいくらでも見られる客室は最高の場所なのだ。
「よーし!!じゃ、アンダー様のファーストライブね!」
「えぇ!?さっき見たじゃん!!次は私の番でしょ!ティマプリのファーストライブ!」
「なんでよ!!じゃぁこの前のイベントのにしようよ!」
「えぇーーー!?アレ、ウーが負けちゃうから嫌なんだけど……。」
「あんたヴィア様が一番好きなんじゃないの?」
「箱推しなの!!3人全員違う魅力を備えているから選べないの!!」
「あたしはアンダー様一筋だから、その感覚分かんないわぁ。」
「もう!レイラもハマろうよ!!ティマプリ!!」
「別に嫌いじゃないよ?アンダー様が上なだけ~。」
そんな話をしながら、先日非公開で行われたライブ映像を選択した。
そこがどこなのかは明かされていない。
薄暗い空間に、いくつかの照明が置かれただけの空間。
壁も、床もコンクリートで無機質なその空間に、赤、青、黄の髪がチラリと映り込み、一気にカメラが引き絵になると、3人の後ろ姿が映し出された。
そこから、加速するようにライブが始まっていく。
メンバー紹介も兼ねたその曲は、3人が自己紹介をするような歌詞になっていて、私は思わず口ずさんでいた。
「あんた、これ歌詞全部覚えてんの?」
「そりゃ覚えてるよ。レイラだってアンダー様の曲全部覚えてるでしょ?」
「もちろん!」
「じゃぁ聞かないでよ!」
「確かに。」
私たちは笑いあいながら、また画面に目を向ける。
曲も終盤に差し掛かったところで、画面にちらりと白い髪が映り込んだ。
「きゃあああああきたああああ!アンダー様!!!」
「ちょ、うるっさ。まだ髪しか見えてないじゃん。」
「髪すら麗しいの!!あああああアンダー様ああああ!!!」
レイラは、普段割とクールなキャラで通っている。
あまり笑顔を見せず、やや仏頂面に見えるからか、「怖い」という印象を持たれることが多い。
けれど、アンダー様の事になると、途端に乙女になるのだ。それが本当にかわいい。ただ、煩い。
「あぁ……マジでカッコいい……。気絶しそう……。」
「ライブ大丈夫?気絶したらもったいないよ?」
「絶対気絶しない。ホテルに戻ってから気絶する。」
「器用だなぁ。」
アンダーの曲に切り替わり、ライトもカラフルなものから白っぽい光の帯に変わる。
アンダーはクールな曲がメインで、甘い言葉を囁くというよりは、流し目やクールな微笑みで女の子を撃ち落としていくタイプだった。
そこから私たちは心行くまでライブを堪能し、体がそろそろ痛くなりそうなタイミングで再びデッキへ出る事にした。
目の前に大きな島影が見えている。
「あれが……ティマプリシティ……!」
「ヤバイ、マジで興奮してきた……!」
私たちは二人並んで海風に揺られながら、徐々に近づいてくる島に見とれていた。
街が心なしか光り輝いているような気がする。
そう言えばガイドブックに、あえて光を反射するような設計で建てられた建物が多いと書いてあった。
だからだろうか。
『お客様にお知らせいたします。間もなく、本船はTMA Prince City 第一埠頭へと到着いたします。お降りの際は、お忘れ物をなさいませんようご注意ください。』
「ヤバ、アナウンス鳴っちゃった。」
「荷物取りに行こう!」
私たちは慌てて客室に戻ると、荷物をまとめてゲートへ向かった。そこは降船待ちの客でごった返している。
やがて、船はゆっくりと接岸し、遂に乗客が降船し始める。
私たちはスーツケースをカラカラと引っ張りながら、遂に念願の『TMA Prince City』へと降り立ったのだった。
忘れられない一夏を過ごすために。
お読みいただきありがとうございました!
これから魅力的なアイドル達や、島の住人たち、そしてもう一人の主人公トーマが登場してきます。
のんびりとお付き合いいただけますと幸いです。