TMA Prince City 〜ひと夏の物語〜 作:ふゆきんぐ☆
TMA擬人化はえるみさん(https://twitter.com/eruminft?s=20)の手がけるシリーズで、現在は新たにTMAプリンスというシリーズを展開なさっているので、そこからこの小説が生まれました。
あまり長いシリーズにはなりませんが、連載物となっております。
連載終了までゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
「今すぐディアディアに車回せ。全速力や。分かったな?」
という実に乱暴な呼び出し電話を受けて、トーマは慌ててベッドから飛び起きた。
車の免許を持っているとはいえ、取り立てほやほやの初心者ドライバーである。
だというのに、桁が明らかに1つは多い車で路地に佇むカフェまで迎えに来いというのだから、本当にどうかしている。
とはいえ、急がなければあとが怖い。
トーマは床に放り投げてあったズボンを履くと、大急ぎで部屋を出た。
ここに居候をさせてもらい始めてから早一週間。当て所もなく街を彷徨っていたトーマを拾った物好きは、裏通りのアパートの鍵と高級車の鍵、そして一台のスマートフォンを手渡し、『呼ばれたら四の五の言わずに呼ばれた場所まで車を回せ。それがお前の仕事や。』とだけ言って去っていった。
アパートには生活できるある程度のものが全て揃えられていて、机の上には札束入りの茶封筒まで置いてあったので、とにかく驚いたのを覚えている。
それから、本当に時間場所問わず呼び出しの電話がかかってくるようになった。
アパートから少し行ったところに月極の駐車場がある。そこにいつも停めてある黒塗りの車の鍵を開けると、運転席に乗り込んだ。
走り出しはとても静かでスムーズだ。そんなにいろんな車を運転したことがあるわけではないトーマですら、その車が高級であることを体感できるほど、素晴らしい作りの車である。
目的地のディアディアは、「DearDeer」という鹿のロゴマークの看板が掛けられた老舗の喫茶店だ。
マスターは割と若いのだが、店の風格が老舗を感じさせるということは、先祖代々の店なのかもしれない。
呼び出される先としてはかなり頻度が高い場所なので、流石に勝手知ったる感じで車を進めることが出来た。
店の裏手に回り込むような形で車を停める。ここに停めたら対向車はもちろん自転車や歩行者でもちょっと通りにくいんじゃないかと思えるような細い道だが、なぜか毎回ここを指定されるので、いつもの如く道をふさいで車を停めた。
鍵が閉まっている事を確認して、店の入り口に向かう。
カランカラン、とベルを鳴らしながらドアを開けると、マスターがこちらを見てニヤリと微笑んだ。
「やぁ、トーマ。呼び出されてからここに来るまで、随分と早くなったな。」
「これだけ頻繁に来ていればそりゃ慣れますよ。」
「なんや、もう来たんか。少し待っとけ!」
「ムカイさん、呼び出しといてそりゃないんじゃないです?ほら、座りな。コーヒー奢ってやるから。」
「ちっ、カノコは甘やかしすぎや。」
マスターのカノコさんが淹れてくれたコーヒーは、爽やかな香りで苦みの少ないものだった。
「これならブラックでも飲めるだろ?」
「はい、美味しいです。」
「トーマでも飲めるように淹れたからな。もう少し待ってな。」
ぽんぽんと頭に手を置かれ、子ども扱いに気恥ずかしくなったトーマは、視線を落としてコーヒーを啜る。
飲みやすいが確かにブラックのコーヒーが、自分を少し大人にしてくれる気がした。
ムカイさん、と呼ばれたその男が、トーマを拾ったもの好きだ。何の仕事をしているのかは分からない。いつもビシッと三つ揃えのスーツを着ているので、会社の重役のように見える。
ポンと高級車やアパートを用意できるのだから、かなりの資産家なのだろう。
今は何人かの男たちが集まって、会議を開いていた。
皆スーツに身を包んでいて、物々しい雰囲気だ。
ここが喫茶店でなかったら、物騒な会合に見えなくもない。
そちらを凝視するのも気が引けて、トーマは目線を別の方向へと向けた。
コーヒーを愉しみながら店の内装を改めて見てみる。
決してゴテゴテしているわけではないのに、豪華で、重厚で、それでいて親しみやすく、とても落ち着く空間だ。アンティーク、というやつだろうか。
マスターは茶髪の美丈夫で、背が高く、腰から脛辺りまでのいわゆるサロンエプロンを巻いていた。
普段は白い眼鏡をかけているが、たまに
理由を聞いたら、「格好いいだろう?」とのことだった。
それが様になるのだから、イケメンというのは羨ましい。
「ここでコーヒー飲むなんて良いご身分やな。行くで。」
「は、はい!」
やっと奥から出てきたムカイさんは、後ろに誰かを伴っていた。
「あー、帽子マジで嫌い。髪が乱れるんだよ。」
「被っとかなバレるやろ。」
「だってすぐ車乗るんでしょ?ちょっと見られたからってさ……。」
「勘弁してくださいよ、アンダーさん。そりゃ営業妨害ってやつです。ここに居られなくなりますよ?」
「……はぁ。」
そんなやり取りが聞こえてきたが、トーマは微動だに出来なかった。
「おい、何固まっとるんや。」
「え……いや、だって、ムカイさん……。その人……。」
「あ?なんや、アンダーのこと知らんのか?」
「知ってますよ!え!?アンダー、って、え!?あの、アイドルの!?」
「知っとるやんけ。だったら聞くな。一般人にバレると面倒やろ。」
「いやいやいやいや、なんで一緒なんですか!?ってか、え!?お、俺の車に乗るんですか!?アンダーが!?」
「何が俺の車や!俺が貸した車やろが!!」
トーマの耳にはムカイの言葉がさっぱり入ってこなかった。
ティマプリ島のテレビで連日放送されているアイドルライブのCM。
『ティマプリvsアンダー 初対バンライブ』は島の内外で物凄く関心の高いコンテンツだ。
チケットは争奪戦。その倍率の高さがワイドショーの一面を飾った日すらある。
「えっと、あの、とりあえず、握手してくれませんか?」
「は?嫌だよ。」
「えぇ!?アイドルなのに!?」
「今はアイドル業じゃないから。ほら、さっさと車出してよアッシーくん。」
「古い!表現が古い!!!…ったっ!」
「がちゃがちゃ騒がんとさっさと車出さんかいボケぇ!」
ムカイの拳骨が炸裂し、トーマは慌てて車を回した。後部座席にムカイとアンダーが乗る。
カノコが店の外まで出てきて、アンダーのためにドアを開けたのが意外だった。
「じゃ、トーマ、安全運転でね。」
「はい、カノコさん、コーヒーご馳走様でした。」
ニコっと笑い、ひらひらと手を振るカノコに一礼すると、トーマは車を発進させる。
「あの、ムカイさん、行先は……?」
「あ?TMAドームって言うとるやろ。」
「えぇ!?初耳なんですけど……。」
「アンダーが移動する先やぞ!?少し頭使わんかい!」
理不尽だなぁ、とか思いながら、トーマは「承知しました」と一言返事をして、TMAドームへと車を走らせた。
地下駐車場に入れと指示されたので、そちらに向かう。守衛に停められるのではないかとヒヤヒヤしたが、特に何もなく入る事が出来た。アンダーが乗っていることを事前に伝えてあったのだろうか。
指示された駐車スペースは所謂『関係者用』というやつだった。一般の車は入ることが出来ない、地下1階の特別なスペースである。
車を停めると、トーマはカノコの真似をして、アンダー側のドアを外から開けた。
「お前……俺にはドア開けたことなんてないやろ!なんでアンダーには開けんねん!」
「え、だって、カノコさんがドア開けてたから……。」
「~~~~~~っ、まぁええわ。アンダー、さっさと行くで。」
「……はぁ。はいはい。あー、ダルっ。」
気だるげに頭をぼりぼりと掻きながら、アンダーが車から降り、ムカイの後を追った。
トーマも車のドアを閉め、ロックをかけるとその更に後を追う。
関係者入口からムカイ、アンダーに続いて中に入ろうとした時、ムカイがピタっと止まり、振り向いた。
「……トーマ。」
「はい!」
「帰れ。」
「……はぃ?」
「何当たり前のように一緒に入ろうとしとんねん。お前は部外者や。全部終わったら電話で呼ぶからそれまでどっか行っとけ。」
「えぇ~~~……。」
そう言い残して、二人はドーム内へと消えていく。
守衛のおじさんが、トーマの背をポンポンと慰めるように叩くと、そのまま駐車場までエスコートしてくれた。
……帰れということだ。
仕方なく来た道を引き返す。
どこかに寄り道するという手もあるが、車を停めるのに金がかかるのでやめておいた。
ティマプリ島は狭い割に公共交通機関が比較的発達している。そして、土地が少ない分駐車場代が異常に高い。
街に出るにせよ、家でゴロゴロするにせよ、一旦いつもの駐車場に車を置くのが最善であった。
無事に駐車場へたどり着き、一旦家に戻る。車のキーを置くためだ。
持ち歩いてもいいのだが、万が一失くした時が大変な事になるので、これだけは極力家に置いておくことに決めていた。
玄関のシューズボックスの中にひっそりと設置した箱を開け、キーを突っ込む。
大切なものは、決まった場所に仕舞っておきなさい。
死んだばぁちゃんの声が頭に響く。
玄関を施錠すると、トーマはモノレールの駅に向かって歩き出した。
『島パス』と呼ばれるフリーパス券をICカードリーダーにタッチして、ゲートをくぐる。
この『島パス』は購入時に身分証明が必要だが、月に5000AM程度(AM=
ティマプリ島での通貨)で島内全ての公共交通機関が乗り放題になる優れものだ。
そのため、観光で数日しか滞在しない観光客も購入したりする。
モノレールで3駅ほど行くと、『TMAモール』と呼ばれる巨大なショッピングモールに到着した。
駅から直結のショッピングモールに入り、ぶらぶらと歩いてみる。
ごった返しているというほどではないが、結構な客数だ。大きな荷物を持った人も少なくない。やたらと若い女子が集まっている店があると思ったら、ティマプリとアンダーのポップアップストアだった。
大きなアンダーのポスターが飾ってある。ついさっきまで本人と同じ車に乗っていたのが信じられない程、キラキラしいアイドルであった。
そこから更に彷徨いてみるも、特に欲しいものがあるわけではなく、地下1階の食品コーナーに降りる。
所謂デパ地下のように様々な食料品店やテイクアウト店舗が並んでいた。
よく考えたら朝から何も食べていない。弁当でも買おうとショーケースを覗き込んだところで、スマホがけたたましい音を立てた。
「……はい。」
「おう。お前、今どこや。」
「TMAモールですけど……。」
「おぉ、そらちょうどええわ。地下に降りろ。弁当屋あるやろ。」
「今、地下1階です。」
「お、お前にしては気が利くやんけ。ええか?パンテノールのパン全種類1個ずつ、フライドキングの揚げ物全種類1個ずつ、クリームコロッケ弁当三つ、パラキートカフェのハンバーガーと残っとるデザート全部や。それ持ってドームまで来い。」
「は!?ちょ、そんなに一人で持てませんよ……!」
「あ?そこは何とかせんかい。1時間や。さっきの入り口から入れよ。」
「え、ちょ、ムカイさん……!切れちゃった……。」
トーマはしばらく茫然としていたが、急にスイッチが入ったかのように動き出した。
目の前にあるのはフライドキングだ。揚げ物全種類、クリームコロッケ弁当3つを注文して、後で取りに来るからまとめておいてもらうように頼む。
パンテノールでも同様に、1個ずつ袋に詰めてもらうよう依頼して、パラキートカフェへと向かった。
鮮やかなインコの看板が目印のパラキートカフェは、島内に10店舗を展開するチェーン店だ。トーマも何度も利用している。
可愛らしい女性店員にハンバーガーと残りのデザート全部買いたいと申し出ると、戸惑った様子で厨房へ入っていった。
それはそうだろう、なかなかに無茶な注文である。
少し待っていると、中から妙齢の男性が出てきた。スーツを少し着崩したその男は、白っぽい髪をかき上げながらトーマに尋ねる。
「お客さん、どこかからの頼まれものですかね?」
「あ、はい。雇い主から頼まれまして……。」
「ほう。注文した方とその場所によっては配達もしますけど、どちらまで?」
「あ、TMAドームまでです。えっと、ムカイ、という名前で注文できたらと思うんですが……。」
そう言うと、男性はさも愉しそうにニンマリと笑った。
「やっぱりな。お客さん、他にも頼んでるもんあるだろ?全部引き取って、ここに持ってきな。あんたも一緒に運んでやるよ。」
初対面の男性だが、その男には妙に逆らえない雰囲気があり、トーマは素直にその言葉に従った。
溢れんばかりの荷物を抱えてカフェへ戻って来ると、店のスタッフがわらわらとそれを受け取って、駐車場まで運んでいく。トーマもその流れについていくと、あろうことか荷物と一緒に黒塗りのワンボックスに押し込められた。結局そのまま、トーマはただただTMAドームへと運ばれていったのだった。
今回はもう一人の主人公トーマの回でした。遂にTMAのキャラクターたちが登場してきましたが、いかがでしたでしょうか。
次回はまた女子たちのお話になります。
引き続きお付き合いいただけますと幸いです。