TMA Prince City 〜ひと夏の物語〜 作:ふゆきんぐ☆
TMA擬人化はえるみさん(https://twitter.com/eruminft?s=20)の手がけるシリーズで、現在は新たにTMAプリンスというシリーズを展開なさっているので、そこからこの小説が生まれました。
あまり長いシリーズにはなりませんが、連載物となっております。
連載終了までゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
朝起きて、顔を洗い、着替えて、軽く化粧をして。
アミとレイラは今日も朝食を求めてメインストリートを歩いていた。
資金が潤沢でない高校生にとって、食事つきの宿泊などもっての外である。
コンビニでおにぎりを買った日もあるが、今日は目的地があるのだ。
しばらく行くと、目にも鮮やかなインコの看板が見えてくる。「パラキートカフェ」というティマプリ島で最も人気の飲食店と評されるそこは、朝だというのに焼きたてのパンを求める客で混雑していた。
「2名様ですね。カウンター席でもよろしいでしょうか。」
「あの、私、待ち合わせをしていまして……。イフさん、という方なんですが……。」
「あぁ!イフちゃんの!お席お取りしていますので、こちらへどうぞ。」
可愛らしい店員さんが、奥のボックス席へと案内してくれる。二人は並んで座った。目の前のソファが丸ごと空いているが、あえてのことである。
「失礼いたします。お水と、メニューでございます。お決まりになりましたらボタンでお呼び下さい。」
「あ、ありがとうございます。」
「ふふっ、アミちゃん、来たんだね!」
「イフちゃあああん!来たよー!」
「嬉しい~~~!あと、レイラちゃんですよね??」
「はい、はじめまして。席の予約までしてもらって、ありがとうございます。」
「いえいえ!注文聞いて、お料理運んで来たら休憩もらってくるので!」
「うん、待ってます!」
そう言うと、イフはパタパタと厨房へ戻っていった。
あれは去年の夏。一度だけ、アイドルグループティマプリのポップアップストアがトーキョーに来た事があった。
これでもかとグッズを買い込んだアミがウキウキしながら店を出ると、一人の少女が目に入る。
緑がかった美しい髪をツインテールに結い、可愛らしい制服に身を包んだ彼女は、手に何枚かのステッカーを持ったまま項垂れていた。
具合でも悪いのかと思いアミが声を掛けると、ティマプリのステッカーを張り切って6枚買ったというのに、4枚がウー、2枚がアルでヴィアが出なかったらしい。
その時アミの手元にはヴィアが3枚、ウーが1枚、アルが1枚あったので、ステッカーを交換した。それがアミとイフの出会いである。
イフはティマプリ島出身。今回二人が島に来ることになり、真っ先に会う約束を取り付けたのだった。
注文した料理が揃った頃、カフェの制服から私服に着替えたイフがやって来る。
「ごめん、お待たせ!」
「全然大丈夫!私たちお腹ペコペコだから、食べながらでもいい?」
「もちろん!」
いただきまーす、と手を合わせ、サンドイッチに噛り付いた。このカフェのモーニング限定サンドは薄目にスライスしたパンにたっぷりのパストラミビーフが挟んであるホットサンドと、たっぷりのスモークサーモンとクリームチーズが乗ったオープンサンドの2種盛り。更にサラダ、スープ、ヨーグルトが付いてくる。
「ん~~~、めっひゃおいふぃ~~~!」
「食べ終わってから喋りなさいよ……。」
「らっておいふぃーんらもん!」
「あはは、ここのサンドイッチほんと美味しいでしょ?肉々しいっていうかさ。」
「すごいボリューミーだよね。他のメニューも美味しいんでしょ?お肉とデザートが特に評判、って書いてあった!」
「そうなの!前はがっつりメニューが多かったらしいんだけど、今のオーナーさんになってからデザート類とかがかなり増えたんだって。」
イフはこのカフェでアルバイトをしながら、ティマプリの『推し活』をしている。バイト代のほとんどをつぎ込んでいるというから、かなりの熱の入れようだ。
「ねぇイフちゃん。」
「あ、イフでいいよ!私もアミとレイラって呼んでいい?」
「もちろん!あ、じゃぁ、イフ、ちょっと相談があるんだけど。」
「ふふっ、分かってるよ!バイトの事でしょ?」
イフは嬉しそうに笑った。
この島にしばらく滞在したいところだが何しろ元手が無い二人は、島で働いて生活資金を稼ぎたいと思っていた。国内版ワーキングホリデーである。
イフがバイトしているこのカフェは、高校生も雇ってくれる上、搔き入れ時限定で住み込みの『シーズンバイト』を募集しているというから、二人にとってはこれ以上ない好条件だった。
「実はさ、もうオーナーに話してあるんだ。」
「え、早っ!」
「だって、一日でも早い方がいいでしょ?」
「うん、助かる―――!」
「え、じゃぁ面接とかしてもらえるってこと?用意するものとかあるかな?履歴書は一応書いてきたんだけど。」
「レイラってすごいしっかりしてるよね。うん、履歴書あれば大丈夫だと思う。オーナー、もう少しで出勤してくるはずだけど、このまま面接お願いしちゃう?」
「お願いしたいーーー!」
用意の良いイフのお陰で、二人は即時面接を受けられることとなった。
しかも、私服で良いというのだから尚助かる。
食事を終えた頃、一旦席を外したイフが一人の女性と共に席に戻って来た。
アミとレイラは自然と立ち上がり、礼をする。
「ミントさん、こちらがアミとレイラです。」
「初めまして。イフから話は聞いているわ。ようこそティマプリ島へ。さ、座って。緊張しなくていいからね。」
ミントと呼ばれたその女性は、アメジストのような紫の瞳をした美女であった。
「うちのモーニング、食べてくれたのね。どうだった?」
「すごく美味しかったです!」
「ボリュームがあって大満足でした!食べきれてよかったです。」
「それは良かった。そうよね、ちょっと量多いかもしれないわね。ハーフセット作ったら需要あるかしら。」
「!!!それは嬉しいです!」
「ふふっ、面接前に商品開発にかかわってもらっちゃったわね。さて、改めてお話しましょうか。」
ミントはにっこり笑うと二人の履歴書を受け取った。イフは一度席を外してアルバイトに戻る。
そこからは、あっという間に時間が過ぎていったように思う。なぜティマプリ島に来たのか、なぜこのカフェで働きたいと思ったのか、島を出る予定はいつ頃になるのか。
大体の話が終るころ、忘れていた、という感じでミントが何気なく聞いた。
「そう言えば、親御さんの許可はとってあるのかしら。」
「あ、はい。私のほうは履歴書と一緒に同意書が入っています。」
「あら、本当ね。アミちゃんはOK。レイラちゃんは?」
「……私は、親と、その、あまり仲が良くなくて、ですね……。」
レイラは気まずそうな顔でそう言った。
アミも詳しい事は知らないが、彼女に父親は居ない。母と二人暮らしの筈だが、その母もあまり帰ってこないらしい。
とりあえず高校には行っておけと言われ、学費は支払われているし、食費も渡される。しかし、それだけだった。
「レイラちゃん、失礼だけど、お母さんのお名前は?」
「えっと、クロエ、といいます。」
「……!そう、お母さんはこの島のこと、何かご存じかしら?」
「いえ、どう、なんでしょう……。母と話すことはほとんどないので……。」
「……そうなのね。分かった、じゃぁ一旦これで話は預かります。今日の夜にでも合否の電話を入れるわ。連絡先は履歴書に書いてある番号でいいかしら?」
「はい、大丈夫です。」
「よろしくお願いします。」
ミントは二人の履歴書をバインダーに挟むと、コツコツとヒールの音を響かせながら去っていった。どんなに優しく話をしてくれていたとしても、やはりそこは面接。無意識に入っていたらしい力がどっと抜けて、二人はソファへもたれかかった。
「はあああああ~~~、緊張した……。」
「だねぇ。ミントさん、めちゃ美人だった……。」
「アミはいいとして、私は無理かなあ。親の同意ないし……。どうしよ……。」
「そういえばお母さんの名前聞かれてたけど、ティマプリ島出身なの?」
「知らないよぉ。あの人自分のことほとんど話さないもん。最後に顔見たのだっていつだったかな。」
「そっか……。えぇ~、でもレイラと一緒に帰りたいなぁ。」
「だよねぇ。私もまだ帰りたくないなぁ……。」
そんなことを話していると、私服姿のイフが皿を3枚抱えてやって来た。
「二人とも、お疲れー!これ、ミントさんから差し入れ!サービスだって!」
目の前に置かれたのはデザートプレートである。ミニケーキとジェラートが並べられ、チョコレートソースで『ライブたのしんできてね』と書かれていた。
なんだかんだ言いながらも、切り替えの早い女子高生たちである。3人はきゃあきゃあ言いながらデザートを堪能し、これから始まるライブに向けてとにかく盛り上がって気持ちを作った。
会計して店を出ようとすると、すでにミントが支払いを済ませていて驚く。それでさらにテンションを上げた3人は、一旦ホテルや家へ戻り、ライブの準備を整えてドーム前で再集合することにした。
モノレールに乗ってTMAドームへと向かう。窓から外を見ると、既にそこには多くのファンが集結していた。
駅のBGMが今日だけの特別仕様でティマプリ&アンダーの特別楽曲になっていて、まるでテーマパークのようである。
会場のあちらとこちらに設置された物販は人でごった返しているが、そんなことは気にも留めず、3人もその戦場へと足を踏み入れていった。
開場の30分前。入場者が秩序を持った列を成し始める頃、3人は漸く再々集合を果たした。それぞれがしっかりとライブTシャツに身を包んでいる。
今回の物販では事前ネット購入が無く、会場に直接来る以外グッズを手に入れる方法がないため、ものすごい争奪戦であった。
ちなみに、1グッズにつき1名2点までという縛り付きである。
買える限りのグッズを買い、ライブで使う物以外をクロークへと預けた。
そして、いよいよ会場に入る列が動き出す。
チケットとなるSBT※をスマートフォンに表示して会場へ入ると、そこにはまた別世界が広がっていた。
暗いのに、明るい。星空に足を踏み入れたような、宝石の中に閉じ込められたような、キラキラと光る神秘的な空間だ。
チケットに表示された席へつく。胸が高鳴り、緊張なのか興奮なのか、手が震え始めた。
「どうしよう、なんかすごい緊張してきた……!」
「私も……!」
「何か震えが止まらないんだけど!」
「分かる、私も。」
「どうしよう~~~始まるよおおおおお!」
そして、ほとんどの客が席に着いた時。
バン
全ての照明が落とされた。
本当の真っ暗闇。
そしてステージに、僅かな光が灯る。
誰かが、そこに立っていた。シルエットでは判別できない。
フードを被った男たちが、ひとり、またひとりと光の中から現れ、闇に消えていく。
パーーーーン!!!
音と共にキラキラ光る紙テープが会場に降り注ぎ、ステージがライトに照らされた。
『きゃあああああああああああああ!!!』
ドームが丸ごと揺れるような歓声の中、ティマプリのヴィア、アル、ウーと、そしてソロアイドルアンダーが、フード付きのマントを脱ぎ棄てる。
踊り、歌い、手を振り、また歌う。ステージから目が離せない。
先程まで駅で流れていたコラボソングで始まったステージは、ティマプリとアンダーの曲を順に歌っていく、歌合戦のような形式をとっていた。
途中、ティマプリメンバーのソロ曲を挟んだり、トークやミニゲームのコーナーがあったり。
サインボールを彼らがバズーカで客席に放った時には、客席で信じられない程の争いが起こった。
残念ながらアミたちのところまでは飛んでこなかったが、正直命拾いしたかもしれない。
永遠のような、一瞬のような、夢のような時間だった。
ライブが終わってもアンコールの声と拍手はなかなか鳴りやまず。
3人は、この時間が永遠に続けばいいのに、と、心の底から思ったのだった。
「……。」
「……。」
「……。」
「終わっちゃった……。」
「うん、終わっちゃった……。」
「幸せ……。」
ライブが終わって抜け殻のようになった3人は、トボトボとドームを背に歩いていた。
ほとんどの人がもう会場を離れている。
しかし、彼女たちはライブの余韻から抜け出せず、また、ライブが終わってしまった喪失感に襲われ、しばらく会場から離れられずにいた。
そして、誰からともなく漸く歩き始めたのである。
モノレールの駅は、先程までの混雑と打って変わって平常時の落ち着きを取り戻していた。そこに向かってゆっくりと歩を進める。
パアン
車のクラクションが聞こえた。何気なくそちらに目を向けると、一台の黒いセダンが停まっている。助手席のドアを開け降りてきたのは、カフェオーナーであるミントその人であった。
「あなた達、まだこんなところに居たのね。」
「ミントさん、どうして……?」
「ふふっ、私もライブ見ていたのよ。夫が関係者だから、彼と一緒にね。」
「!?そうなんですか!?え、じゃぁ、ミントさん、ティマプリに会ったことあるんですか!?!?!?」
「私はないわよ。そこは夫がしっかり厳重に管理しているもの。ごめんなさいね。それよりせっかくこんなところで会えたわけだし、バイトの合否、伝えちゃおうかしら。」
ミントは愉しそうに言うが、アミとレイラの間に緊張が走った。
「えっとね、今回のバイトなんだけれど……。」
ミントの話に真剣に耳を傾ける3人。ゆっくりと告げられたその内容に、3人は目を真ん丸にして、しばらく立ち尽くしていたのだった。
※SBT=譲渡不可、改変不可のデジタルデータ。
お読みいただきありがとうございます!今回も続々と新しいキャラクター達が登場して参りました。
レイラの母は何者なのか!?ミントさんも常人ではない気配を感じる??イフちゃん、かわいい!
など、色々な感想があるかと思います(笑)
ミントさんは旦那様がいらっしゃるんですね~。誰かな~~~??
色々と想像を膨らませながら次話をお待ちいただけますと幸いです!
私事ではありますが、この度前話に登場した「カノコ」の擬人化コレクションオーナーになりましたーーー!!!これからどんどん活躍してもらおうと思っております!
ではまた次話でお会いしましょう!