あの人は、そう言った。
情緒複雑骨折系魔法少女大好きガール
『ごきげんよう』
魔法少女ブラックダイヤ
国が管理する魔法少女達には、モチーフの宝石と共に名前が贈られる。
つまり、ブラックダイヤも立派な公認魔法少女ということ。
そんなあなたには、悪評が絶えない。
『国民の皆様、この度は御傾聴頂きありがとうございます』
人を路傍の石程度にしか思っていない、最悪の魔法少女。
感情を持たない、最凶の怪人殺戮兵器。
世間はブラックダイヤをそんな風に呼んでいる。
『記者の皆様も、御足労頂きありがとうございます』
ブラックダイヤにとって、善良な国民もそうでない国民も関係がない。
攻撃の余波に巻き込まれるような場所に居るのが悪いんだ。
怪人の排除が最優先事項で、人質が居ればそれごと排除する。
母がそうなったように。
そんなあなたが私は好き。
『この度の会見では、国民の皆様への謝罪…』
わたしが好きだったダイヤちゃんは、避難しなかった人達に気を取られて怪人に殺された。
ダイヤちゃんの最終的な世間の評価は、役立たず。
あなたは、馬鹿で愚図な国民のせいで死んだりしない。
だから、好き。
『などはございません』
わたしと同じくらいの女の子達。
家族が居て、友達が居て、好きな人が居て。
好きなこと、やりたいことがきっと沢山あって。
怪人達と戦う、格好いい女の子達。
そして、死ぬ。
『再三申し上げますが、避難勧告は最終通告です』
魔法少女のみんなが死ぬくらいなら、ダイヤちゃんよりずっと役立たずの大人達が死ねば良かったのに。
そんなことを、姉に言っても仕方ないことだったけれど。
父が聞いたら怒るだろうから、愚痴を聞いて貰える人は姉しか居なかった。
何も言わずに静かに撫でてくれる姉が好きだった。
死んじゃったけれど。
『ここ最近では、国民に扮したテロリストによる魔法少女達の被害が多いようです』
姉の通っていた学校はもう存在しない。
学校に出現した怪人の対応に当たったブラックダイヤが、最期まで避難誘導をする姉と、逃げ遅れたのか頭がお花畑だったのか校内に残った生徒ごと学校を消し飛ばした、らしい。
既に町を2つと魔法少女を2人殺している怪人だったから、数名の生徒と学校1つで被害が抑えられて良かったのだと思う。
『逃げ遅れたフリをして、怪人達に協力する』
思うけれど、もうあの手に触れられないのだと思うと悲しい。
頭を撫でて貰うことも、手を繋いで帰路に着くことも2度と無い。
『或いは国民の皆様の流行でしょうか?』
でも、ブラックダイヤを憎んだりはしない、嫌いにはならない。
姉が死んだのは、あなたのせいではないのだから。
せいではないから、仕方ないんだ。
『どちらでも結構です』
あなたは、きっと優しい人だから。
『総勢10名の少女が死にました』
私がブラックダイヤに助けられたことがあるから、そう言っている訳じゃない。
『政府はこれを重く捉え、怪人に寄与する人間を怪人として認定することと致しました』
母が死んで悲しかったけれど、それ以上に変わってしまった父が怖かった。
姉が死んでから寂しかったけれど、それ以上に穏やかになった父が恐ろしかった。
『賢明な皆様ならお分かりかと思いますが、私のこれまでの実績の全てが政府公認です』
もう父は、わたしが生きる理由にならない。
『既存の魔法少女の皆様は、対応を変える必要はありません』
わたしが怪人に襲われたあの日に、死んでも良かった。
ここで終わっても仕方ないと思ったのに。
『これからはそうしてもいいようになった、とだけ』
ブラックダイヤは間に合ってしまった。
わたしを助けることに成功してしまった。
『親愛なる市民の皆様』
わたしが逃げ回るのを目撃した人が居て、まだわたしが甚振られて遊ばれている段階だったから助かった。
怪人だけが目の前で消滅した。
『魔法少女達を愛でるのは結構ですが…』
世間はブラックダイヤの、闇の様に暗い魔法が怖いらしい。
わたしは目の前で怪人を飲み込んだそれが、世界を護る為のその魔法が好き。
『私の目から逃れられるなどと思うことの無きよう』
きっと、あなたは罵倒されることを想定してたんだと思う。
そうしても仕方ないだけのことをされたと、自覚はしている。
そして、ブラックダイヤはそれだけのことをしたと思っていたに違いない。
だからこそ、あなたは優しい人。
『度が過ぎることの無きよう』
助けてくれてありがとう、なんて言われ慣れるお仕事なのに。
マスクの上からでも分かるくらい。
呆然と、わたしを撫でた手は姉の様に。
『よろしくお願いしますね?』
あなたが微笑んだ。
絶対に死なない推し見つけました。