妖怪の山の鬼神魔王   作:全智一皆

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第六話「吸血鬼異変」

■  ■

 

 その日、幻想郷の空は深紅に染まった。

 太陽は紅色の霧によって覆い隠され、青空は血の様な赤色へと変貌を遂げていた。

 また、人里のみならず、この妖怪の山にまで魔法の瘴気が漂っていた。

 妖怪からしてみれば瘴気など害にもならないが、人里に住む人間達にとっては瘴気など猛毒に等しい。

 現代の博麗の巫女(博麗霊夢の母親に当たる人物)は、この異変を解決する為にすぐさま大元へと向かったのだった。

 だが、事態が重なったと言うべきか。

 この異変に乗じ、退屈を期していた妖怪達が主犯に協力し暴れ出したのだ。

 一人で対応する事も出来なくはないのだが、それだと異変解決に大きな時間が掛かると、巫女は判断した。

 そして、その結果として此方も協力者を手に入れようと思い―――

 

「そういう訳だから、協力しなさい」

「明日は天変地異でも起こるかな…」

 

 妖怪の山に隠居する宿敵、大嶽修羅へと協力を仰いだのだった。

 …いや、本当に何をしているんだ、この巫女様は。

 

「別に巫山戯て言ってるつもりはないわよ。ただ、私が知る限り一番使えそうなのが貴方だったってだけ」

「喜ぶべきか、それとも困るべきか…巫女であるお前が、妖である俺に協力を仰いで善いのか?」

「表向きには最悪ね。けど、それは言いふらされなければ問題無いわ。場所が場所だから聞かれる事もないでしょ」

 

 妖怪の山の奥深く。そんな場所に立ち寄ろうとする人間はおろか、妖怪や妖精すら存在しない。

 神であれば有り得ただろうが、悲しきかな。信仰無き神など鬼の前では人妖等しく塵芥に等しいのだ。

 そもそも鬼が住んでいるという情報が山全体に行き渡っている為、近寄る者など余程の愚か者か、新聞を届けに来る射命丸くらいのものである。

 

「アンタは強い。私が知る限り、最強と言っても言い。それは私自身が、この身を以て知っている。だから頼んでるの」

「……」

 

 かつて、殺し合った二人。互いに宿敵と呼ぶ事が出来る唯一無二の両者。

 殴り合い、蹴り合い、突き合い、切り合い、殺し合い。それらを三日三晩と繰り返し、幻想郷を崩壊寸前まで追い込んだ戦。

 その当事者である二人だからこそ、信頼し合っている。

 個人に対する信頼ではなく―――その絶対的な強さに、信頼を置いている。

 故に、巫女は鬼を頼りに来たのだ。

 それまで瀕死になる事がなかった己を追い詰めた、最強の鬼の力に。

 

「相分かった。この大嶽修羅の力、思う存分に振るうと良い、我が宿敵」

「勿論。思う存分、アンタを振り回してやる、私の宿敵」

「あぁ。あ、それはそれとして、良縁に恵まれたんだろう? 祝いの品があるんだ、持って帰ってくれ」

「アンタは私の祖父か何かな訳…?」

 

 最近は誰彼構わず祖父に見えているらしいという言葉に、巫女は否定の意を出せなかった。

 

 

 異変解決へと動く博麗の巫女に続く様に、大嶽修羅は妖怪の山を走っていた。

 博麗の巫女曰く、今回の異変の主犯は外からやってきた吸血鬼達であるとか何とか。

 吸血鬼。読んで字の如く、血を吸う鬼。肉を喰らい、血を啜って生き永らえる悪魔達の事らしい。

 そんなの普通の鬼と何ら変わりないではないか。修羅はそう思わずにはいられなかったし、実際に言った。

 まぁ、ともかく。敵は吸血鬼であり、夜は通常以上のポテンシャルを発揮するのだそうだ。

 

「俺の知った事ではないがな…ん?」

 

 山を降っていると、異変に乗じて暴れ出す妖怪達と交戦する天狗達が目に映った。

 その中には、知り合いの白狼天狗も交じっていた。

 丁度良い。奴なら何か知っているかもしれん。

 修羅は更に加速し、拳を形作って力強く地面を蹴って、暴れ回る妖怪達へと飛び掛かった。

 

「失せろ」

 

 その一言と共に、鬼の豪腕が妖怪達へと振り抜かれる。

 力を解き放つ様に振り抜かれたその豪腕は、まさしく砲弾と例えるに相応しい。

 まるで爆発が起きたのではないかと錯覚してしまう程の衝撃が、山全体を迸る。

 無論、そんな衝撃に妖怪、吸血鬼達が耐えられる訳がなく。彼らは等しく、風に飛ばされる塵の様に吹き飛ばされた。

 

「無事か? 犬走」

「貴方様のお陰で死にかけましたよ!」

 

 衝撃によって生み出された土塊を頭から被され、ブンブンと首を振って土を落としながら、犬走椛は大声で叫んだ。

 鬼を相手にそれだけ言えるなら問題無いな、と安心する修羅に、椛は一瞬だけ殺意を覚えた。

 が、覚えたところで意味は無いと理解したので、直ぐにそれは捨て去った。勝てる気しないし。

 

「奴等はあれか、異変に乗じて暴れ出した馬鹿共で合っているか?」

「はい、間違いありません。私達…もとい、天狗の中からも裏切り者が幾人か出ています」

「そうか…やはり、一度くらいは天魔の阿呆を本気で殴った方が良いか」

「そんな事をされたら流石の天魔様も死にますから止めてください!?」

 

 天狗達のトップであり、現在進行系で妖怪の山を治める天魔とはいえ、鬼の全力―――大嶽修羅の全力を食らえばひとたまりもない。

 良くて瀕死、最悪の場合は魂もろとも存在そのものが粉々に砕け散るだろう。

 それだけは勘弁してほしいと懇願する犬走に、修羅は冗談だと肩をすくめた。

 

「大まかで良い、敵はどの程度だ?」

「おそらく、数百は居ると思いますが…先ので大半が消し飛んだので、残りは六十手前でしょう。他の山の者達と吸血鬼達を合わせれば、それくらいが妥当かと」

「ふむ…なら、この場は任せて善いな?」

「はい。修羅様は急ぎ、主犯の方へ」

「うむ、感謝する」

 

 天狗達にこの場は任せ、修羅は再び主犯の元へ―――もとい、主犯が潜む大きな紅い館の方へと駆け出した。

 あぁ、失礼。駆け出した、という表現はあまり適切ではなかったかもしれない。

 修羅は別に、駆け出してはいなかった。ただ足に力を込めて、崩れた地面を遠慮せずに蹴っただけだ。

 その結果―――蹴られた地面は隕石が落ちたと確信してしまう程の凹みが刻まれ、衝撃によって天狗達はまたも土塊を被る事になったのだ。

 

『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 後日、修羅本人から天狗達に仕送りが届いたそうな。

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