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その日、幻想郷の空は深紅に染まった。
太陽は紅色の霧によって覆い隠され、青空は血の様な赤色へと変貌を遂げていた。
また、人里のみならず、この妖怪の山にまで魔法の瘴気が漂っていた。
妖怪からしてみれば瘴気など害にもならないが、人里に住む人間達にとっては瘴気など猛毒に等しい。
現代の博麗の巫女(博麗霊夢の母親に当たる人物)は、この異変を解決する為にすぐさま大元へと向かったのだった。
だが、事態が重なったと言うべきか。
この異変に乗じ、退屈を期していた妖怪達が主犯に協力し暴れ出したのだ。
一人で対応する事も出来なくはないのだが、それだと異変解決に大きな時間が掛かると、巫女は判断した。
そして、その結果として此方も協力者を手に入れようと思い―――
「そういう訳だから、協力しなさい」
「明日は天変地異でも起こるかな…」
妖怪の山に隠居する宿敵、大嶽修羅へと協力を仰いだのだった。
…いや、本当に何をしているんだ、この巫女様は。
「別に巫山戯て言ってるつもりはないわよ。ただ、私が知る限り一番使えそうなのが貴方だったってだけ」
「喜ぶべきか、それとも困るべきか…巫女であるお前が、妖である俺に協力を仰いで善いのか?」
「表向きには最悪ね。けど、それは言いふらされなければ問題無いわ。場所が場所だから聞かれる事もないでしょ」
妖怪の山の奥深く。そんな場所に立ち寄ろうとする人間はおろか、妖怪や妖精すら存在しない。
神であれば有り得ただろうが、悲しきかな。信仰無き神など鬼の前では人妖等しく塵芥に等しいのだ。
そもそも鬼が住んでいるという情報が山全体に行き渡っている為、近寄る者など余程の愚か者か、新聞を届けに来る射命丸くらいのものである。
「アンタは強い。私が知る限り、最強と言っても言い。それは私自身が、この身を以て知っている。だから頼んでるの」
「……」
かつて、殺し合った二人。互いに宿敵と呼ぶ事が出来る唯一無二の両者。
殴り合い、蹴り合い、突き合い、切り合い、殺し合い。それらを三日三晩と繰り返し、幻想郷を崩壊寸前まで追い込んだ戦。
その当事者である二人だからこそ、信頼し合っている。
個人に対する信頼ではなく―――その絶対的な強さに、信頼を置いている。
故に、巫女は鬼を頼りに来たのだ。
それまで瀕死になる事がなかった己を追い詰めた、最強の鬼の力に。
「相分かった。この大嶽修羅の力、思う存分に振るうと良い、我が宿敵」
「勿論。思う存分、アンタを振り回してやる、私の宿敵」
「あぁ。あ、それはそれとして、良縁に恵まれたんだろう? 祝いの品があるんだ、持って帰ってくれ」
「アンタは私の祖父か何かな訳…?」
最近は誰彼構わず祖父に見えているらしいという言葉に、巫女は否定の意を出せなかった。
異変解決へと動く博麗の巫女に続く様に、大嶽修羅は妖怪の山を走っていた。
博麗の巫女曰く、今回の異変の主犯は外からやってきた吸血鬼達であるとか何とか。
吸血鬼。読んで字の如く、血を吸う鬼。肉を喰らい、血を啜って生き永らえる悪魔達の事らしい。
そんなの普通の鬼と何ら変わりないではないか。修羅はそう思わずにはいられなかったし、実際に言った。
まぁ、ともかく。敵は吸血鬼であり、夜は通常以上のポテンシャルを発揮するのだそうだ。
「俺の知った事ではないがな…ん?」
山を降っていると、異変に乗じて暴れ出す妖怪達と交戦する天狗達が目に映った。
その中には、知り合いの白狼天狗も交じっていた。
丁度良い。奴なら何か知っているかもしれん。
修羅は更に加速し、拳を形作って力強く地面を蹴って、暴れ回る妖怪達へと飛び掛かった。
「失せろ」
その一言と共に、鬼の豪腕が妖怪達へと振り抜かれる。
力を解き放つ様に振り抜かれたその豪腕は、まさしく砲弾と例えるに相応しい。
まるで爆発が起きたのではないかと錯覚してしまう程の衝撃が、山全体を迸る。
無論、そんな衝撃に妖怪、吸血鬼達が耐えられる訳がなく。彼らは等しく、風に飛ばされる塵の様に吹き飛ばされた。
「無事か? 犬走」
「貴方様のお陰で死にかけましたよ!」
衝撃によって生み出された土塊を頭から被され、ブンブンと首を振って土を落としながら、犬走椛は大声で叫んだ。
鬼を相手にそれだけ言えるなら問題無いな、と安心する修羅に、椛は一瞬だけ殺意を覚えた。
が、覚えたところで意味は無いと理解したので、直ぐにそれは捨て去った。勝てる気しないし。
「奴等はあれか、異変に乗じて暴れ出した馬鹿共で合っているか?」
「はい、間違いありません。私達…もとい、天狗の中からも裏切り者が幾人か出ています」
「そうか…やはり、一度くらいは天魔の阿呆を本気で殴った方が良いか」
「そんな事をされたら流石の天魔様も死にますから止めてください!?」
天狗達のトップであり、現在進行系で妖怪の山を治める天魔とはいえ、鬼の全力―――大嶽修羅の全力を食らえばひとたまりもない。
良くて瀕死、最悪の場合は魂もろとも存在そのものが粉々に砕け散るだろう。
それだけは勘弁してほしいと懇願する犬走に、修羅は冗談だと肩をすくめた。
「大まかで良い、敵はどの程度だ?」
「おそらく、数百は居ると思いますが…先ので大半が消し飛んだので、残りは六十手前でしょう。他の山の者達と吸血鬼達を合わせれば、それくらいが妥当かと」
「ふむ…なら、この場は任せて善いな?」
「はい。修羅様は急ぎ、主犯の方へ」
「うむ、感謝する」
天狗達にこの場は任せ、修羅は再び主犯の元へ―――もとい、主犯が潜む大きな紅い館の方へと駆け出した。
あぁ、失礼。駆け出した、という表現はあまり適切ではなかったかもしれない。
修羅は別に、駆け出してはいなかった。ただ足に力を込めて、崩れた地面を遠慮せずに蹴っただけだ。
その結果―――蹴られた地面は隕石が落ちたと確信してしまう程の凹みが刻まれ、衝撃によって天狗達はまたも土塊を被る事になったのだ。
『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
後日、修羅本人から天狗達に仕送りが届いたそうな。