■ ■
結局、あの吸血鬼異変とやらは博麗の巫女によって解決された。
何でも、あの赤色の霧を生み出していたのは吸血鬼の方ではなく、彼女の仲間である魔法使いが生み出していたらしい。
空間などを歪めて誰も入れない様にしていたらしいが、『物事や概念を突き破る程度の能力』を持つ先代巫女にはそんなもの効かなかった。
とは言っても、大嶽修羅の神通力によって歪められた空間が更に歪められた事も原因の一つであると言われてしまえば、それはそうなのだけれど。
まぁ、それはそれとして。閑話休題として。
今現在、時間は昼。実に良い天気の快晴の頃に。
「まさか本当に来るとはな…熱くはなかったか?」
「日傘を差して来たもの、熱くはないわ。少し痛くはあったけれどね」
妖怪の山の奥深くに建てられた、伝統的建造物に指定されそうな大きな和風屋敷―――鬼神魔王と呼ばれた鬼、大嶽修羅が住処とする『鬼の穏屋敷』にて。
家の主たる大嶽修羅は、その屋敷の玄関でつい先日殺し合った吸血鬼の少女と対面していた。
吸血鬼異変の主犯にして紅魔館の主、レミリア・スカーレットその人と。
「態々こんな晴れ日にご苦労だったな。正直、夜に来るものだとばかり思っていた」
「あら、私が此処に来るって本当に思っていたの? 嘘を吐いていた可能性もあったんじゃなくて?」
「嘘だったならそれでも良かったがな。だが、来ると言われたなら、迎える者として相応の準備はしよう。爺の歓迎なぞ、貴族からすれば貧相なものだろうがな」
「ふふっ…とんでもないわ。魔王様からの饗しに、不満を溢す悪魔なんて居るものですか」
「魔王なんて大層なものは、もう辞めた。あれは、一夜限りの夢幻に過ぎん」
「そうもいかないわ。貴方のお陰で、紅魔館は凄い事になったんだもの」
神通力によって引き起こされた天災は、彼が居なくなって尚も紅魔館で続いている。
暴風雨と鉄火、雷鳴が居残り続けているそのエントランスはもはや地獄そのもの。
人妖例外なく生きられない、もはや禁域と言っても過言ではない場所へと成り果てた。
鬼神魔王と呼ばれた力の一端、鬼でありながら神の力を扱える最強の片鱗を味わったその夜は、彼女にとって実に劇的だった事だろう。
井の中の蛙、大海を知らず。吸血鬼である自分ですら手も足も出ない最強の存在と対峙した事は、良い記憶となり―――彼女の心に火を灯した。
人生(もしくは吸血鬼生)で初めて、手に入れたいと思った―――否、越えたいと思った。
「……今度、また出向こう。その時に消すから勘弁してくれ」
「今度というのは何時になるのかしら。あまり長いのも困るのよ?」
「そうさな…十年くらいか?」
「長過ぎでしょう!? 十年もあれを放置しろっていうの!?」
はい、シリアス終わり。
十年も天災を放置しなければならないという事実に、レミリアは声を荒げて身を乗り出した。
対して、修羅の方はまるで平然としていた。そのくらい普通だろ、と言わんばかりの顔で。
「妖怪なら十年なぞあっという間だろう。それに、魔法使いも居るのだろう? であれば問題なかろうよ」
「大有りよ! あの天災を抑える為にパチェ頑張り過ぎて、遂に倒れちゃったのよ!?」
「それは何と。だが事の発端はお前だろう?」
「女の頼みで本気を出した貴方にも原因があると思うけれど?」
「男とはそういうものだ。惚れた女の頼みなら神通力すら操ってみせよう。まぁ、君の様な小娘には分からんだろうがな」
大人になれば分かるだろうさ。婆婆になる前にな。
大嶽修羅は、実に穏やかにそう言った。