個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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プロローグ:偽りの王

 ヒーローを目指したのは私の意思だ。

 

 ヒーローを目指したのは彼女の意思だ。

 

 ヒーローを目指したのは誰の意志だ?

 

▼▽▼

 

「おい、そこの三人」

 

 堂々たる歩み、強者の覇気、生まれながらの圧。ただ、そこにいるだけで敵わないのではと錯覚する。三つの頭を持つ彼女に、三人が圧倒されている。

 

「弱いやつ一人苛めて楽しい?」

「なんだてめぇは」

「私?そうだね……王様だよ」

 

 彼女のもう二つの頭が放つ光線はまずはかっちゃん以外の二人に当たった。そして、人の形を保つ真ん中の頭が光線をかっちゃんに向けて放つ。

 

「うわっ!」

「ぐあっ!」

「てめぇ……やりやがったな!」

 

 三人が横槍を入れられた事に怒り、勢いそのままに彼女の元へ行こうとする。だが、伸ばした指は届かず、飛べば撃ち落とされ、爆発は目眩ましにすらならなかった。三人は近づけないまま捨て台詞を吐いて逃げていった。

 

「雑魚め」

「あ、ありがとう……」

「助けたわけじゃない。私の目の前で苛めてたのが気に食わない」

 

 目を合わせること無くばっさりと切り捨てて彼女は去った。名乗ることも、疑問を口にすることもなくただ自分が気に食わないからと言って彼女は助けたのだ。

 

 そこから始まった、かっちゃんとはまた違った歪な幼馴染みになるりゅーちゃんとの出会いだった。

 

 彼女は小学生になってからクラスの王だった。それは、運動も勉強も出来て強い個性を持ち、社交性すら備えた彼女にとっては当たり前ですらあったのだろう。常にクラスを掌握し、教師からの評価も良かった彼女をかっちゃんは目の上のたんこぶ、若しくは真っ向からやりあうライバルの様に扱っていた。

 

 これが中学生になると状況は更に変わった。不良の様になって怖がられるかっちゃんと、相も変わらず女帝として君臨し学年ごと支配するりゅーちゃん、そして二人と幼馴染みで三人とも雄英高校を目指している事から、数奇な目で見られた。

 

 それぞれの派閥から余り良い印象は無く、無個性が二人に肖り雄英を目指しているようにも見えているようで、それでも派閥の長が陰湿な事を嫌い、やるなら堂々とやる二人なので苛めもなかった。何より、多少の歪みがあろうと幼馴染みと言うことが最大の抑止力のようだった。

 

 とは言え、今日のような事もある。今日は些か度が過ぎていた。今まで書き溜めたノートを爆破され、あろうことか自殺教唆までされた。投げ捨てられたノートを手に過去を振り返っていると、自分の脚が地面から浮く感覚に捕らわれる。

 

「帰ろう緑」

 

 ガブッと首の裏を挟み吊り下げて、強制的に目を合わせる。赤い瞳はいつも通りに僕を見ていた。何度目かすら忘れたこのやり取りに、慣れた自分がいる。先程の光景を見たのであろうりゅーちゃんが、そこにはいた。

 

「……うん、だけど荷物取らせて」

 

 彼女は時々、僕で遊ぶ。それこそ、こうして二つある龍の頭で噛まれたり、尻尾で巻かれたりなど多岐に渡る。彼女の取り巻きは多いが、それ故に彼女はそれらを厳正に統制し、こうして僕と二人きりで帰るときすらある。

 

「最近、酷いんじゃない?雄英目指すって言い出してからアイツの態度、厳しくなってるでしょ」

「まぁ……そうだね。でも、かっちゃんの言ってることは正しいし……」

「正しい?」

 

 あ。

 

「私の前で、私以外が正しいと?」

「いや、違うんだよ、これは……その……そう、僕が無個性だから雄英を目指す事をかっちゃんは良しとしてなくて」

「緑」

 

 言い訳を開始した僕を、言葉少なに彼女が威圧する。翼は広がり、左右の首は低く唸る。不味い……これは死ぬかな……?

 

「なーんて、そこだけはアイツと同意見だよ」

 

 威圧感も、その場にいるだけで地に伏してしまいそうな重厚な雰囲気も霧散させ、彼女は笑う。その肯定は酷く残酷で、余りにも正論だった。無個性の僕は、ヒーローにはなれない。四歳にして思い知ったその事実を、また突き付けられたかのような言葉に少なからず衝撃を受ける。

 

「でも、私は緑のその志は評価するよ。無個性だろうが弱かろうが、精神的、内面的には自分の意志を貫き通す強さを、私は認めるよ」

 

 彼女が王たる由縁。それは自身が絶対的な強者であることを前提として話すこと。それ故に彼女は寛容であり、他者の強さや弱さを認める余裕があるのだ。

 

「ありがとう……?」

「ま、私が言いたいのはそれだけ。じゃ、来世に期待なんてしないで今を生き抜きなよ」

 

 翼を広げた彼女が、見たいテレビがあると言って飛んでいく。僕を励ますためだけに来たのか、そう自惚れて良いのか。ともあれ、僕は空を見上げて心機一転、前を向くことにした。

 

 僕の背後に忍び寄る、ヘドロのヴィランに気づくこと無く。

 

▼▽▼

 

 爆発音がする。ただの好奇心から翼を広げてその方向へ飛ぶことにした。見たいテレビを録画して、制服のまま飛んでいく。目的地におおよその目安をつけて、そこそこ速めに飛んでいけば、商店街が瓦礫と化しているのを見かけた。上空から俯瞰していれば、爆がヘドロに呑まれていることを視認する。

 

 爆が抵抗し、それだけ爆発すれば周りへの被害が増加する。周りのヒーローは、人命救助と消火をしつつ爆の個性で迂闊に近づけないまま四苦八苦としていた。

 

 凡百のヒーローなぞ、この程度か。

 

 そう見限り、爆を助けるべく動こうとした刹那、人混みの中から走り出す人影が見えた。

 

「……緑!?」

 

 急降下、緑が鞄を投げ付けるのとほぼ同時に彼を掴む。

 

「危ないだろうが!」

 

 翼で私と緑を覆い、ギドラが咆哮し光線を放つ。

 

「りゅーちゃん!?……かっちゃんが、かっちゃんが!」

「何でてめぇらがここに!!」

「君が……助けを求める顔をしていた」

 

 それだけで、緑は動いた……?理解は出来ないが、乗り掛かった船。ギドラに最大出力で光線を吐き出させ続け、緑がその手を掴むのを援護する。

 

「自殺志願か!?」

 

 周りのヒーローが駆け寄って来るのとほぼ同時に三人の手を何者かが掴む。余りにも力強く、屈強で、優しさと憤りを感じた。

 

「君に諭しておいて、己で実践しないとは情けない!」

 

「プロヒーローは、何時だって命懸け!!」

 

「DETROIT SMASH!!!!!」

 

 

 凄まじい風圧、呆れ返るほどの威力に、目を開ける事すら敵わない。しばらくして、雨が顔に当たるのを感じて目を開ける。

 

 はち切れんばかりの筋骨隆々の肢体に、強すぎる意志を感じさせる瞳。象徴のように逆立つ前髪。その後ろ姿は……。

 

「オールマイト……」

「右手一本で天気を変えちまった……」

「これが……オールマイト……」

 

 誰もが口々に賛美を、称賛を、英雄を称える言葉を口にする。その傍らで、今回の事件で捕らわれていた爆や緑を止めた私にはヒーローからの勧誘や称賛が、無個性でありながら突っ走った緑には酷く残酷な怒りをぶつけられていた。

 

「ギドラ」

「……爆」

 

 ようやく解放された私に、爆が口を開いた。その顔は憤怒と自責と屈辱など、様々な感情が入り交じった表情を浮かべていた。

 

「お前、何で来た」

「緑を止めるためだけど」

「……俺を助ける為じゃないんだな」

「そうだよ。ま、王たる私が昔馴染みを助けない訳じゃないからね。貸しにしておこうか?」

「ぶっ殺すぞ……!」

「ま、今回はお互いに犬に手を噛まれた位の感覚で行こうか。それが一番良いし」

「……てめぇと話しててもラチがあかねぇ。無駄だった」

 

 私が嗤うと、彼は心底気に入らないような顔をして吐き捨てる。私があの場に駆け付けたのは野次馬目的、彼を助けたのは私の配下を守るため。勘違いされては困るし、この事は恐らく学校でも話題になるだろうから、勝己を必要以上に刺激しないようにしておかなきゃ。

 

 それから、しばらくして緑が朝や放課後に忙しくしているのを見かけ始めるようになった。彼があの事件以来、連日筋トレをしているのや何処かへ出掛けているのを見た。意識改革か、それとも何か思う事があったのか。爆は少しでもヘドロのヴィランの話をしようものなら爆破する程にピリピリしている。

 

「あ、そうだ。爆、最近緑がコソコソ何かしてるみたいなんだけどさ」

「知るか!アイツ何て、みただけで反吐が出る!」

「ふーん……怖いんだぁ……緑が」

 

 バッ、と図星の様に爆が振り向く。

 

「俺が、アイツを……?」

「私、分かるんだ。そういうの。伊達に人の三倍目がついてる訳じゃないし……ねー?」

 

 両サイドに視線を送ると、肯定と威勢の良い鳴き声が聞こえる。

 

「でも、普通に考えたら怖いよねぇ……緑って。爆と私の幼馴染で、あんなイカれた行動取れるんだからさ。爆もそのうち、足元掬われたりして」

「黙れ」

 

 外していた目線を、爆の方へ向ける。射殺さんとばかりに釣り上がった目に、恐怖と怒りの感情。爆発されても困るしと肩を竦めて左のギドラの欠伸を嗜める。

 

「なーんか疲れちゃった。帰る」

「てめっ……チッ、そうかよ」

「じゃあね、爆」

 

▼▽▼

 

 教室で帰る準備を終えて、帰ろうとしている所を真正面から誘拐される。やり方は簡単、真正面から翼脚で脇に抱えるだけだ。

 

「うわぶ!?……り、りゅーちゃん……」

「うるさい黙れ。これ、整頓しておいて。お願い。私はちょっと緑と話があるの、ごめんね」

「いいよ、いいよ!ごゆっくり!」

 

 自分の鞄を尻尾で取り、机の整頓を近くにいたクラスメイトに頼んで僕に発言権を許さずに歩く。もはや日常風景の為に、皆素通りだ。何より、彼女のギドラが唸っているので、不機嫌なのが誰の目から見ても明らかで、誰も被害を被りたくないのだ。

 

 校舎裏に連れてきて、壁際に荒々しく下ろす。

 

「うわっとと!」

「おい緑」

 

 翼脚で壁ドン、完全に見下される形になる。

 

「最近コソコソと何してる?」

「そ、それは、えーと、ほら、ヘドロヴィランの事件あったじゃん?それで、りゅーちゃんとかっちゃんに迷惑かけたから、身体を鍛えようと思って……その……」

「ほーん……?」

 

 目線は極低温であり、その表情は感情が抜け落ちたかのようだ。

 

「誰と、何時、どこで?」

「な、何でりゅーちゃんが」

「質問に質問で返すな」

 

 左のギドラが頭の後ろを回って顔を寄せる。ほら、吐いちまえよ、みたいな仕草で横槍を入れてくる。

 

「ひ、一人だよ?一人で、朝とか夕方とかに……」

「何処で?」

「か、海浜公園で、も、もう行っていい……かな」

 

 りゅーちゃんが、僕の首を掴んで無理矢理に目線を合わせる。足が浮いて、息がし難くて暴れてしまう。

 

「緑。お前……私に隠し事か?」

「ち、ちが……っ!」

「緑」

 

 首を離され、地面に落下する。咳き込んで、蹲る。彼女の尻尾が伸びてきて、無理矢理に顔を上げさせられる。対面するだけで膝を折ってしまいそうな威圧感。彼女には勝てないという圧倒的な無力感。それら全てに恐怖し、動けなくなる。

 

「変わったな、緑。あの時とは違うみたいだ。まるで私が虐めてるみたいだよなぁ?今まで守っていたがお前は今、私の統治を抜けようとしているんだよ」

 

 懐かしむように、少しだけ目を細めて彼女は続ける。僕を翼脚で踏みつけると、身体が潰れそうな程に圧をかけられる。

 

「お前のやりたいようにやれ。だが、覚えておけよ。私は、私以外の王を許さない。私の統治は常に恐怖政治だ」

 

 それだけ言うと、彼女は鞄を尻尾で取って飛んでいった。彼女が消えた方向に雷雲が見える。こうして、僕は彼女の統治から外れた存在になった。しかし、それは虐めが加速したとか、そんな事はなくて、今まで通りだった。唯一あるとすれば、りゅーちゃんが僕に話しかけなくなったくらいだった。隠し事をされる何てことは、りゅーちゃんにとっては衝撃的だったのだろう。

 

 統治を抜けて新たな王になろうとしていると予想する位には彼女も困惑しているようだ。だからこそ、今はお互いに距離感を測りかねている。絶対的な王政者と、そこから抜け出した不審な小市民。

 

 僕らの転換点は、恐らくもうすぐそこまで来ている。

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