個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
「何しに来やがった」
「やりすぎたからお見舞いに」
「……決勝、もうすぐだろ」
「憂い無く行きたいからね」
出張保険室で、傷だらけでベッドに寝転ぶ爆にそう声を掛ける。先程の轟と飯田の準決勝では小細工を弄した轟の勝利で終わっており、決勝は私と轟でぶつかることとなる。だが、少しばかり腑抜けた轟に負けるつもりも道理も無いので正面から叩き潰すだけだ。
爆は、少しだけ清々しい顔をしている気がした。
「どうだった?本気の私」
「知ってるつもりだった。お前の本気を、超えられると思っていた」
爆とは、昔から対等か私の優勢くらいの関係だった。私がいなければ、肥大化した自尊心と緑への劣等感で歪みに歪んだ人格へと変貌していたのだろう。だが、私がいる限りは違う。"個性"でも、影響力でも、勉学でも。その全てで私は彼の優位にいた。
幾度か喧嘩したこともあったが、爆はついぞ私に適う事はなかった。その喧嘩の、一応の決着がついたのだろう。
「……次は負けねぇ」
「待ってるよ、爆。だけど、待つ気はない」
決勝が近いと、背を向ける。
「腐らず驕らず、追い付いて見せてよ」
「言われなくてもだ。お前に吠え面かかせるまで、腐ってる暇は無ぇからな」
「うん、じゃあね爆。お大事に」
さぁ、決勝だ。
▼▽▼
『さぁ!これでいよいよ最後のバトル!!この戦いで雄英一年のトップが決まる!』
『轟 対 龍千!決勝戦、今!!スタート!!』
刹那、氷壁が形成される。龍千が飲み込まれ、姿が見えなくなり会場が静寂に包まれる。しかし、誰もが分かっていた。この程度で止まる者ではない、と。
『これは……いや、これで止まるアイツじゃねぇ!』
「ヒュー、冷たいね。そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
膂力で氷を粉砕しながら出てくる龍千。軽口を叩くだけの余裕を見せながら、その6つある目は轟を見据えている。
「氷結じゃ私は倒せない。分かりきってるでしょ」
再び放たれる氷結を、真っ向から翼脚を叩き付けて防ぐ。その歩みは止まらず、轟は遂に龍千の射程に納まった。
「じゃ、今度は私の番だ」
回転して尻尾を横薙ぎに払う。それを伏せて避けると轟は懐に潜り込もうと駆け出したが、次郎の光線を受けてまた距離が開く。開いた距離を詰める龍千の飛び蹴りを体を開いて捌くと三郎に噛みつかれ、振り回された挙げ句に放り投げられる。場外ギリギリで何とか手をついて氷壁を形成して場内へ転がる。
「ずっと思ってたんだけどさ」
攻撃の手を止め、龍千がつまらなそうに話す。
「私が飛んだら、お前の攻撃当たらなくない?」
トンッ、と地面を蹴って空中へ。羽ばたきながら、轟の頭上へ移動する。
「伝導させる物がなかったら氷結は使えないのかな?それとも使わないだけ?ああ!分かった!そこまで細かい使い方したことないのか!」
「うるせぇよ」
氷の棘が地面から数十本、龍千を狙って地面から生えてくる。それらを光線で破壊し、頭上からの蹴りを放ちながらなお放し続ける。
「ああ、そうだ一つ試してみたいことがあってさ」
蹴りを防いだ轟の左手を掴むと、空中へと放り投げる。
「空中戦じゃ私の勝確じゃんね」
両足を獣脚にした龍千が轟の左手足を掴み、離してはギドラ達がまた噛み付くといった具合に空中で弄ぶ。右手で捉えようと轟も手を伸ばすが、触れそうな瞬間に離されて思うように動けていない。暫くして、龍千が轟に声を掛ける。
「あぁ、そう言えばさっきエンデヴァーと話してさ、アイツは私に勝てると豪語した。お前はどうだ?」
首にギドラが巻き付いて、凍ってると言うのに離しも緩みもしないその脅威に轟はどうすることも出来なかった。声も出せず、足もつかない空中で、首吊りに近い状態にいた。
「ふ……ざけ……んな」
「ほら、何かしてみせてよ。じゃないとこのまま場外に放り出すよ」
轟が右手をギドラから離し、拳を作る。冷気が纏われ、刃が形を成す。それを躊躇いなくギドラへと突き刺した。流石のギドラも悲鳴を上げながら離れ、轟が地上へ復帰する。空の龍千は、突き刺さった氷の刃を引き抜き、悲鳴を上げていた三郎を笑いながら轟を見下ろす。
「やるじゃん。そういうのだよ。勝とうともしないで私に挑むなんて、私だってやる気出ないよ。だからさ、勝ちに来てよ。じゃないと退屈なんだよ、こっちもさ」
そう言いながら、左右のギドラが咆哮する。龍千自身も敵と見なしたのか、顎を引いて轟を睨む。
「まぁ、勝たせる気は無いんだけど」
頭上から光線を叩き付ける。氷壁が登ってきたのを見て高度を上げて、また一方的に光線を放つ。暫くそうしていたが、いつまで経っても氷壁を展開するだけの轟に、飽きてきたのか龍千が欠伸混じりに地面へと降りた。
「ねぇ、轟。飽きたんだけど」
そう言いながら、氷を踏み砕きながら接近する。
「この程度、暇潰しにもなんないや」
特大の氷壁の中に閉じ込めるが、それも束の間。カラカラと笑うギドラと共に、何事もなかったかのように殴り砕いてその姿を表す。龍千が轟の頭を掴むと、抵抗させる間もなく膝蹴りを叩き込む。
「お話もしてくれないし、勝てないの分かってて拘るし」
首を掴むと、無造作に投げる。地面を転がって止まった轟が目線を上げれば、爆豪戦でも多用していた回転して尻尾での殴打を喰らってまた転がる。それに近付いて、頭を掴んで引き摺る。
「腹括れ。さもなくば自分の足で場外へ出ろ」
場外ギリギリまで連れてきて、そう言い放つ。ここまで来て、ようやくだった。空気が揺らめき、掴んでいた手が焦げる。それを見て、ニヤリと笑って手を離す。
「あっつ……良いねぇ」
「さっきから勝てねぇとか、退屈だとか……」
羽ばたいて距離を取った龍千に、轟が確固たる足取りで一歩、また一歩と歩み寄る。
「偉そうなことばかり言いやがって」
直後、緑谷戦と同じ事が起きる。極限まで冷やされた試合場に、特大の炎が放たれて凄まじい爆風が発生する。だが、先程との違いをその場にいた全員が感じていた。
「良いねぇ。私じゃなきゃ致命的だ」
風が吹き荒れている。制御され、複数の竜巻のように形成された爆風が空中の龍千を中心に四角形に展開されている。生きているかの様に動くそれに、誰もがあっけに取られる。
『嘘だろ……』
「風まで操れるのかよ、お前」
「正確には違うけどね。まぁ、やる気出してくれたんだし、ちょっと位面白い倒し方するかな」
会場の頭上に、雷雲が形成されていく。轟も、何かが起こることを予期したのか、自身の後ろに吹き飛び対策の氷壁を展開して、炎を放つ。しかし、その炎も吹き荒ぶ風に阻まれ届くことはない。
雷雲から放たれた雷が竜巻に取り込まれ、その光と音が強くなっていく。そして、中心の龍千へ向けて竜巻が移動していく。一つの嵐と化した龍千を前にして、なお轟は諦めなかった。先程と同じ様に、氷結を放ち場の温度を下げていく。指向性を持たせるために氷壁を作り出して龍千へ向ける。だが、それを許す龍千ではなかった。
「人理の及ばぬ嵐に、勝てる奴はいない」
雷撃が氷壁を破壊し、冷気を押し流す風が轟を包む。
「さぁ、終わりだ轟」
嵐が指向性を持ち、3つの奔流となり轟へ殺到する。ミッドナイトとセメントスが止めに入ったが、嵐の前に意味はなかった。床を抉り空気を切り裂く嵐に、轟は呑み込まれた。嵐は場内を駆け巡り、散々観客に迷惑をかけると天へと登り霧散した。
そこには、場外で気絶した轟と、無惨にも破壊の限りを尽くされた会場、そしてその中心で満足気に胸を張る龍千がいた。
▼▽▼
「それでは、これより表彰式に移ります」
表彰台には、3人。1位の私、2位の轟、3位の爆、この3人であり、飯田は諸般の事情で早退しているらしい。今年のメダル授与はオールマイトであり、結構な高さから着地を決めて入場した。まずは、3位の爆豪からメダルを首にかけられていく。
「爆豪少年、君は強いな。その観察眼、洞察力、今後も磨いていくといい。そして、その向上心と言うべきか、その心意気、今後も持っておけよ」
「当たり前だ。轟も、ギドラも……オールマイトも超えてNo.1になる」
「良い心持ちだ!だが、言葉遣いは直した方が良いな!」
左のギドラが煽りに行くのを眺めつつ、今度は轟へメダルを渡しに行く。
「轟少年。迷いは振り切れたかい?」
「……まだ、分かりません。龍千の言う通りに腹括って、それでも俺だけが吹っ切れたら駄目だって思って……清算しなきゃいけないことは、まだある」
「良い顔だ。以前とは大違いだ。君の行く末が、良い結末であることを願うよ」
そして、私の番が来た。
「流石は特待生!本当に完全首位とはね。よく頑張った。ああ、ハグはOK?コンプライアンス的にちょっとあれかなって……」
「いいよ、オールマイト。ん」
身長はオールマイトの方が高いが、全長では勝っている。手を広げると、若干おずおずと抱擁される。その力強さは、この国の精神的支柱を担うだけはある。全盛期は過ぎたはずなのに、流石と言う他ない。
「だが、君はその内に眠る暴力性をよく抑えていた。USJでの記録映像で見た君より、遥かに理性的だったね」
「当たり前。一位も、手加減も、全部当たり前だよ。じゃなきゃ、競技として成り立たない」
「いい心掛けだ。しかし、その傲慢さは直そう。いつか、君の足元を掬われる事になる」
「気を付けるよ」
エンデヴァーみたいな事言いやがって。
気に入らないな。何時か殺してやる。
物騒だなぁ……。気に入らないのはわかるけど。
こうして体育祭は無事に終わり、明日明後日の休みを経て、ヒーロー達からの指名を纏めて発表ということになった。それぞれのこれからがあり、それぞれの行き先がある。だけど、一つだけ、本当に一つだけ確実なことがある。
この世には、もう一人の王がいる。
何時か運命的な対立関係にある王が、もう一人いることを第六感が告げた。その感覚は、私の他にアルファがいることを証明する唯一のものだった。遠くない将来、恐らくは戦うことになるのだろう。かの王と。