個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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第十二話:羅刹

「護国聖獣ねぇ……」

 

 このくに――国家ではなく山や川を含んだ自然――を守る為に、古代王朝により倒され、神と崇められた怪獣達の総称であり、その内の一体と酷似した私は勘違いであんな目に遭ったという。

 流石の私も、八岐の大蛇の元ネタは名乗らないしな……。何はともあれ、今は軽い食事とお茶を出してもらって色々な資料を片手に連連と話をしている。

 

 彼女らの話では、永い月日が経ち異形の存在が社会へ溶け込み易くなったのを利用して、人間社会へ進出。護国聖獣として干渉を最小限にしながら人の営みを見守っていたという。しかし、見守っていたというよりも監視していたと言うほうが正しく、誤った道へ進めば、くにを侵せば自らの手で人を正す為に裁定者としての立ち位置に落ち着いている。

 

 この富士の樹海、その一角に事務所を構えているのも魏怒羅の眠る地を鎮める為に有るというので、殆どここから離れることも無く、神霊や幻獣の類の為に食事なども必要とせずに過ごしてきたという。

 

「しかし、"個性"でその力を持つとは」

「これは私の力だよ。生まれ持った力、故に私は王だ」

「……その傲慢さ、凶暴性もなのですね」

 

 威嚇する左のギドラを窘めもせずにお茶を啜る。無駄に美味いなこの緑茶。とはいえ、先程までお互いに殴り合っていたのも事実。最珠羅は軽傷であり今もピンピンしてお茶やお茶請けを出してくれているが、一番痛め付けたはずのバラゴンはそのタフさというべきかガッツというべきか、負傷しながらも普通にアンギラスやバランと共に戦闘の跡を整地している。

 

 私の方は既に全身の回復を終え、常に携帯している栄養バーを3本ほどギドラに食わせている。先の戦いの中で千切った肉は既にその形を取り戻し、モーニングスターなどの刺し傷はとうに塞がっている。若干の貧血を感じるが、それも直に治る。

 

「ま、私はそこまで根に持つタイプじゃないし……今回はこれで手打ちにしてあげるよ」

「有り難く思います。人違いで殺しかけるとは、我々もまだ人を見る目が無いみたいで」

「……何それ、上手いこと言ったつもり?」

「いえ、とんでも無い」

 

 なんだぁこの羽虫……。そんな私の不機嫌を察したのか、触覚を少しばかり動かしながら緑茶を啜る。ここまで来て、ようやく私は本来の目的を思い出した。

 

「そう言えば、普段何してるの?」

「遭難者救助、密猟の取り締まり……それから見回りですね」

「クッッソやることないじゃん」

「まぁ、我々は干渉しないことを是としているので」

「私、一応ここに職場体験に来たんだけど?」

「……そうですね。では、見回りとかはいかがですか?」

「こんなところに来るんじゃなかった」

 

 分かりやすく悪態をついてみれば、最珠羅は意にも介さないと笑う。本当にやることないみたいだ。

 

「何?笑い過ぎじゃない?」

「いえ。年相応というか、学生のように振る舞うものですから」

「学生だよ、これでもね。私はまだヒーロー目指してるのさ」

「その破壊衝動を抑えながら、ですか?」

「……そうだよ、私をヒーローに縛り付けるものが多くてね」

「それなら、少しヒーローの訓練をしましょうか」

 

 そう言って、最珠羅は立ち上がる。表の3人に声を掛けて、また戻ってきた。

 

「ヒーローの訓練ってなにするの?」

「簡単です。見回りをしてもらいます」

 

 聞けば、地鎮の為に幾つか地蔵を置いているので、それを見回ってこいというもの。歩いて見回れば、一日かかるような距離があるために、こうして飛べる私を使ってみようとなったという。準備運動をしながら、大体の場所を教えてもらう。

 

「アンギラスの氷柱を立てていますので、それを目印にしてください」

「何分で戻ってこいって?」

「そうですね。早ければ早いほど良い、です」

「ふーん、まぁいいけど」

 

 地面を蹴り、空へ。氷柱が見えたのでまずはその方向へ。ものの数秒でついて、地蔵を確認する。古びた、ともすれば風化しかけの石の地蔵。苔むしたそれを目視して、また飛び立つ。それを数か所見て回り、2分程度で戻って来る。

 

「おや、早かったですね」

「ん。異常無しだよ」

「そうですか、それは何よりで」

 

 そう言いながら、どこか含みを持った笑みを浮かべる最珠羅。その表情の真意は伺えず、ただその目を見ていると何かを渡してくる。

 

「カメラ?」

「はい、最近のカメラは凄いですよね。その場で確認できるのですから。渡し忘れていたので、これで撮ってきてください」

「はぁ?二度手間じゃん」

 

 このニコニコとしてる顔を張っ倒したい気持ちを抑えながら、カメラの使い方を一通り把握して、また飛ぶ。しかし、異変に気付く。

 

「氷柱は?」

「氷ですので、溶けたのかと」

「ふざけんな。私の光線で溶けなかった癖に」

「おや、まぁ自然物ですので」

「マジで覚えてろよ」

 

 先程の記憶から、何とか全箇所の写真を撮り終えて戻ってくると、バラゴンがほぼ同じタイミングで地中から出てくる。コイツか。

 

「おや、お早いお戻りで」

「お陰様でね。お前か」

「何のことやら。シャワー浴びてくる」

「はい。ごゆっくり。では、確認しますね」

 

 カメラを受け取り、撮影した写真を確認する最珠羅。そして目を通し終えたのか、顔を上げる。

 

「何も写っていませんね」

「は?嘘だろ」

 

 ひったくり、確認する。本当に写っていない。顔を上げれば、クスクスと笑う最珠羅。マジで殺すぞコイツ。

 

「まぁ、分かりきっていましたが」

「おい」

「地鎮の為の要点は、電子的な記録には残らないのです。何故かは分かりませんが」

「んなオカルトじゃないんだから……え?これで終わり?」

「終わりです。基本的に、森が我々を呼んでくれるのでそれまでは待機ですね」

「ふざけんなよマジで。やる事無いじゃん」

「ああ、それとここは電波届かないので」

「本当にクソじゃん!これ!」

「職場体験期間、よろしくお願いしますね」

 

 そこから始まったのは、ただ暇な日々だった。

 

 活動報告書の履歴を見たが、週一で出動があれば良い方。どころか、オフシーズンには月一の出動すら無かった時もある。余りの稼働率に、内心明日から来ないでやろうかとすら思っていた。コイツらこれで生活してるんだから人外さを感じる。

 

 だが、これでは来た理由が無いと駄々を捏ねてみれば手合わせくらいならと付き合ってくれることになった。それも周りへの破壊行為が大きすぎるのを抑えるために、手早くかつ被害を最小限にするという目的の為だが。

 

「では、バラゴンを、先程の条件付きで制圧してください」

「ん」

 

 バラゴンは放熱し、既に陽炎が周りを囲んでいる。夏の日差しの下にいるかのようなその熱気に、手の届く範囲に長居するのは不味い事になると判断。そも、コイツは咬合力と潜航出来るくらいの膂力を持つ。手数で勝るが、噛み付かれれば厄介極まりないな。

 

「じゃあ、やろうか」

 

 そこまで考えるのは面倒だし、ちゃっちゃと終わらせようか。

 

 翼を広げ、ほぼノータイムで真上を取る。そこから顔を目掛けて縦に一回転して踵を落とす。それを垂直跳びで妨害して、腹部に抱き着く形になったバラゴンが膂力で私を掴み、向かい合ってのスープレックスに持ち込まれる。

 

 翼脚を地面へ着き、地面に叩きつけられるのを阻止して、焼ける熱さにイライラして左のギドラに尻尾を、右のギドラに首を、両手で胴体を掴み、引き剥がす。手加減無し、上空に放り投げて最大出力で光線を放つ。

 

 落ちてきた所を回転して尻尾で捉え、地面へと叩き付ける。

 

「なるほど、流石のバラゴンも耐えられませんか」

「結構痛い……」

 

 最大出力の光線は、簡単にビルを壊せる。それを受けて痛いで済んでいる辺り、それでも自力で地面から這い出てきているのを見て、改めてバラゴンの耐久力を知る。火傷が既に治り始めた私を見て、バラゴンが羨ましそうに口を開く。

 

「良いなぁ……」

「堅いだけじゃないんだよ、私は」

 

 そうして、何事も無くこの職場体験が終わろうとしている。そう思っていた。この日までは。

 

「じゃ、明日で最終日だし、なんか期待してる」

「ええ。我々も待っていますね」

 

 そう言って、分かれる。何だかんだ、バラゴンを筆頭に被害を出さない戦い方を学ぶ良い機会にはなった。空中戦ではバランがその位置取りと、効果的な風の捉え方を教えてくれて、アンギラスは正面切っての殴り合いで、自身の間合いと光線を防ぐ相手との戦い方を学んだ。

 

 しかし、この日は違った。

 

 後ろ、誰かついてきてる。

 

 この速度についてくるか……やるな。

 

 手を抜いて飛んでいるとはいえ、そこらの"個性"じゃ追いつけない速度で飛んでいた。その私についてくるとは……。後ろを振り返り、誘導するように手招きしてから地上へ降りる。未だ人里遠い樹海、暴れるには丁度良い。

 

「よもや、気付かれるとはな」

「誰?殺し屋?」

「ああ、そうだ」

 

 相対した男の姿が変わっていく。三枚あった翼はそのまま、鱗に覆われていき、腹には回転する鋸が見える。赤いバイザーを着けて、手は鎌へと変貌する。

 

「俺の名はガイガン。依頼により、お前を殺しに来た」

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