個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
「俺の名はガイガン。依頼により、お前を殺しに来た」
まだギリギリ人の形を保ったガイガンを名乗るその男は、鎌を振りかざして突っ込んできた。迷わず飛び退いて、リーチの差を利用して左のギドラが噛み付きに行くが、カウンターで角を一本切り取られて泣いて戻ってきた。
アイツ、強いよ!
お前が馬鹿なだけだろ。
黙りな。あんな事務所に通ってて身体は鈍ってるんだ。油断はしないでよ。
もちろん!
当たり前だ。
再度突っ込んできたガイガンに、光線を放つが紙一重で避けられた上に懐に入りこまれる。それを嫌って翼脚で叩き潰そうとすれば、腹を見せての回転鋸でズタズタにされそうになって慌てて引っ込める。内側に飛び込んできたガイガンが放った、首を狙った横薙ぎを受け止めようと出した右手を、逆の手で肘から先を落とされる。
やっべ!
横薙ぎを落とされた手で防げば、肩から切り離される。懐から出ないまま、ガイガンが首を狙い続けてくるのを予測して、振り上げた鎌を左のギドラが噛み付いて無理矢理に引き剥がそうとすれば、噛み付かれたのを利用して腹の回転鋸で左のギドラを切断するべくして接近される。
右のギドラが光線を放ち、ガイガンが吹き飛ぶのを見送り、後ろへ飛び退く。右肩を電力で焼いて止血しつつ、ここまでの負傷は久しぶりで、やや息切れしたままに冷静さを取り戻しながら視線を配る。
……どこ行った?
見失ったかも。
落ち着いて探せ。あの赤い目だ、夜闇に目立つ。
分担して3方向を監視する。森は寝静まり、しかし風を切る音が聞こえた。
……上か!
間一髪で、体を捻って避ける。着地して、間髪入れずに放たれた追撃を防いだ左腕が飛ばされる。両腕を失った私に、チェックメイトだと思ったのかガイガンが手を止める。
「今なら楽に殺してやる」
ここで手を止めるとは、ド三流と言う他無い。
「へぇ……強いね。少なくとも、学生でアンタに勝てる奴はそういないよ。でもね」
内なる声に従う。破壊衝動と、憎悪に塗れた咆哮を上げて私が
「死ぬのはお前だ」
翼を広げ、三本の首から光線を放つ。空へと舞い上がり、嵐を呼ぶ。飛び上がってきたガイガンを、真正面から蹴り飛ばして迎撃する。薙ぎ払われた鎌は、鱗に弾かれると同時に光線の追撃を喰らい地面へ落下する。そこへ、雷を自身へと落としながら更に電圧を増して光線を放ち塵にする。
だが、甲高い咆哮が聞こえたかと思えば人の形を捨てたガイガンが鎌で光線を切り裂き、視線が交差する。飛び上がって来てすれ違い様の回転鋸を首の間を広げて避けて、それを追い掛けて反転して光線を放つ。
新月の夜を、超高速で飛んでいく。夜の闇と雲に紛れて奇襲を仕掛けてくるガイガンと、光線をバラ撒いて近寄れば首と足で応戦する私。
上から振り下ろされた鎌を、左のギドラが巻き付いてその動きを止める。そのまま右のギドラが反対の腕に噛み付いて動きを封じる。腹の回転鋸が唸り声を上げて迫るのを、脚で掴んでそのまま急降下。
咆哮と共に着地し、凄まじい衝撃波が放たれ周りの木々が薙ぎ倒される。まだ、確実に死んではいない。それを確信して、首を噛み千切るべく右のギドラが首へと噛み付く。
その首が刎ねられる。左のギドラが光線を叩き付けるが、内側に入られる。鎌を口で受け止め、跳んで上から足で掴んでもう片方の手を封じる。そのまま押し倒して嵐を呼ぶ。左のギドラが首に巻き付き、窒息させつつもジリジリと顎に鎌が食い込み血がガイガンの顔に滴るのを見て、苛立ちのままに飛翔し、眼下の木々や地面に叩き付けながら叫ぶ。
憎悪と、殺意と、破壊衝動の赴くままに。
落雷を一身に受けて、充電。尻尾を巻き付け、持ち上げる。ここまで来て、周りへの迷惑を考えれる辺りにアイツらの教えが身に沁みているのを感じて、さらに苛立つ。
だが、それでも、勝つのは私だ。
雲を越えた辺りで右のギドラが、再生する。手助け出来なかった為に、多少時間がかかったが憎悪に満ちた咆哮を上げて復活を宣言する。
殺すぞ、コイツを。
手加減なしだね。
当たり前だ。塵一つ残さん。
ダラン、と四肢が垂れたガイガンに向い、3つの首から最大出力の光線を放つ。抵抗を許さず、この身に溜めた電力を全て吐き出す。拘束を解いて、光線を受けながら落下していくガイガンを一瞥して咆哮する。
勝ったのは私だと。
落ちたガイガンを探して暫く地上スレスレを飛んで、着地したと思われるクレーターに転がっているのを見付けた。ギドラ状態から普段の姿へと戻り、瀕死のガイガンを見下ろす。
「……殺せ、そのつもりだろ」
――駄目だりゅーちゃん!それは駄目だ!――
「……。」
――殺すのだけは駄目だ……本当に道を踏み外すのは……――
「……忌まわしい」
瀕死のガイガンを前にして、思い出すのは緑の言葉。このまま放っておいても助かりはしないだろう。苦しませるのも悪い、このまま殺すか。
「お望み通りに、返り討ちだ」
拳を握り、振り上げる。
「その者を殺すのですか」
その言葉と同時に、腕を掴まれる。振り返れば、そこには最珠羅が私の手を掴んでいた。
「放せ」
「なりません」
驚く事に、腕はピクリともしない。しかも、アンギラスも合流したのか、みるみるうちに氷漬けにされていく。その足下から迫りくる冷気に、光線を放ち抵抗しようとするがギドラの口を地中から現れたバラゴンと空中から強襲してきたバランに抑えられる。
「クソ……殺してやる、やはり、あの時に殺しておくべきだった……!」
心から凍りそうな程の冷気に包まれ、徐々に視界が覆われていく。滾る憎悪と、身を穿つ破壊衝動を抑え込むように身体は動かず、ギドラ達が声の無い悲鳴を上げる。
「あなたは、ヒーローになるのでは?」
「黙れ!私は、私が……!」
そして、私は暫くの眠りについた。
▼▽▼
「殺さないのか……?」
「はい。あなたにも迎えが来ているのでしょう。まだ間に合います、お気を付けて」
「くにを壊しはしたが、狙った訳じゃないしな」
氷漬けになったギドラをバラゴンとバランが警戒し、ガイガンを一瞥して最珠羅とアンギラスは話し始める。
「事務所に移しましょう、ここで溶かしても殺し合いになるだけです」
「そうだな、氷の上を滑らせていこう」
「それに、彼女に会いたがっていましたからね」
「魏怒羅がか?」
「はい。こうしておけば、魏怒羅の方から接触するでしょう」
「そこまで織り込み済みか」
「本当なら、こうなる前に無事に家に帰す予定でしたがね」
少しだけ残念そうに、最珠羅が呟く。くにを護る聖獣なれど、人の子を思う気持ちが無いわけではない。たとえ殺すことがあっても、それは役目を果たしただけだと最珠羅は答えるだろう。
「それでは、さようなら」
「迎えのやつも、迷わないようにな」
▼▽▼
……ここは?
「起きたか」
認識する。そこにいる、私に近い何かを。
「三本の首、一対の翼と尾。まるで他人には思えぬわ」
お前は?
「魏怒羅、千年竜王などと呼ばれておる」
そして、ようやく視界に収める。私に酷似したソイツを。見上げるほどの巨大さ、余りの体格差に、柄にもなく後退りする。
「小娘、お前自身悩んではおらんか?」
何がだ。
「心のままに暴れ、荒ぶり、破壊する事を望む心と、人として生きることを良しとする心に、だ」
黙れ。私は私の意思で生きている。誰の指図でもない、私の意思だ。
「何故、そうせぬ?お前の力なら、容易く出来よう」
ああ、そうだ。私の力なら、いつでもこの国を滅ぼす事が出来る。
「故に、人の善性を信じたお前に興味が湧いた」
「あの人の子らに、なぜ縛られる」
……緑や爆が、私を縛るだと。
「そうだ。どころか、お前を縛るものを、お前自身が増やしている。何故、そこまで拘る」
黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ!
全力の光線を放とうとして、自分の両側にいたはずのアイツらがいないことに気付く。呆気に取られ、次いで自身の身体を探る。いない、無い、無い、無い。
「行き過ぎた力だ小娘。それは人には過ぎた力と言う他無い」
三つ首の中央が、私の眼前に来る。
「無力な小娘よ、何故その道を征く」
その問いに、拳を振りかぶり鼻先へぶつけることで返答とした。
「む……時間か。悩め小娘、自らの生き様を決めるのは己自身だけだ。偽物の王たるギドラよ、何れまた相見えよう」
▼▽▼
視界が復活する。次いで、氷越しに誰かが見える。心の底から湧き上がる憤怒と憎悪、抑えきれない破壊衝動とムシャクシャしたイラつき。
「不味い、起きたみたいだ」
「……相当に寝起きが悪いようですね」
割れていく氷の音。身体に力が戻り、熱を帯びた血液の流れを感じる。そして、内側から氷を砕くように力を込めていく。
「お目覚め?」
「ご機嫌斜めって感じだな」
咆哮し、氷を砕きながら目の前の人影に飛び掛かる。が、戦闘続きのせいか、はたまた別の何かか柄にもなく倒れ込む。
「……魏怒羅の力を感じます。一時的な干渉でしょう、すぐに治ります」
見上げた最珠羅はそう言い、私を無視して歩き去る。
「最珠羅ぁぁ!!殺す!殺してやる!!お前の首をあの時、捩じ切っておけば、こうはならなかった!!」
激情のままに叫び、その後ろ姿を睨み付ける。動けぬままに地を這い、それでも嵐を呼んで充電を用意する。血が出るほど握り締めた手を、地面へ叩き付けて雷を落とす。
無理矢理に体を動かして最珠羅の背に拳を振り下ろす。が、それを避けられた上に毒針を鳩尾辺りに深々と刺され、倒れ込む。光線を吐こうとした右のギドラは、バラゴンの熱により口内を焼かれ、左のギドラはバランによって刎ねられる。アンギラスの氷で四肢を封じられ、痺れていく身体で最珠羅を睨む。
「諦めなさい。今のままではまともに動けないでしょう」
噛み締めた歯が割れて、口から出血する。
「まだ発展途上、だな」
土を巻き込んで握り締めた指が、深々と手のひらに刺さる。
「強い、だがそれだけだ」
憎くて壊したくて殺したくて、それでも動かなくて。
「お前には、まだ足りないものがある」
見下されるのが、徹底的に嫌で。
「未だ挫折を知らぬのなら、ここで味わいなさい。それは、あなたを強くする助けになります」
「だ……まれ……!私は、わた……し……の……!」
毒針を引き抜かれ、出血する。自身の血に塗れながら、それでも殺してやりたいと叫ぶ。
「王だ、私は、王だ……!」
「貴様らに、私が、負ける理由が……無い!」
「殺してやる、殺してやるぞ」
「ここで私を殺さなかったことを、後悔させてやる」
「最珠羅、お前の首を……!」
「そうですか。では、続きはまた今度」
そして、私はまた氷漬けにされ意識を失った。