個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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第十四話:雷光ここに極まれり

 氷の中で目を覚まし、暫く動く気にもなれず未だに目覚めぬコイツらのいない静寂の中で珍しく一人思考に耽る。

 

 私は何故、あんなに苛立っていたのか。

 

 あの三首の怪物に言われたことがそんなに……。それもあるのだろう。ここ最近、そう言った外からの刺激が多すぎた。あの襲撃での緑、今回の最珠羅とか。

 

 そう思えば、それでいい気がした。

 

 だが、私の中の何かがそれらを否定した。善性?理性?それとも、また別の悪意?何もかもを否定し、何もかもを破壊し尽くしてなお飽き足らぬとする狂気の破壊衝動。これの出所なんて分かる訳が無かった。

 

 忌まわしい。

 

 静かな殺意。波立たぬ憎悪。澄んだ怒り。それら全てが自分に向いている。

 

 忌まわしい。

 

 ふと、氷の外の足音が聞こえる。氷の向こうに見えるのは、極彩色の羽。それを見ても尚、感情が湧き立つことは無かった。

 

「起きていますね。出てこられますか?」

 

 ここに来て、再び自分の体を確認してみる。出血した所は既に塞がり、万全の上に空腹という程度。何時でも出れるが、出る気にならない。顔を合わせたくない。こんな姿を、王とは呼べない。

 

「……まぁ、気が済むまでそうしていたら良いでしょう。無理強いはしませんが、一応伝えることだけ伝えておきますね。あなたの両親へ、今日はこちらで泊まると連絡しておきました。今は朝の6時です。朝食は用意してあるので、気が向いたら来てくださいね」

 

 足音が遠ざかる。……まだ、暫く一人で居たい。こんな感情、初めてだ。

 

▼▽▼

 

「そういえば、先の来訪者は?」

「迎えが来ていた。迷った様子も無く帰って行った」

「戻りました」

 

 事務所へ戻れば、バランとアンギラスが駄弁っていた。こちらを見て、バランが声をかけてくる。

 

「どうだった、あの娘は」

「不貞腐れています。まだあの氷の中で何やら考え込んでいるようですね」

「あの最後の表情、人とは思えぬ憎悪と殺意だったが……」

 

 そのアンギラスの言葉に、ふと思い出すのは自身へ向けられた殺意と、焦燥にも似た憎悪。あれだけの負の感情を剥き出しに、あれだけの激情のままに吼える彼女は、まさしく……。

 

「生きた絶滅現象」

 

 その言葉に、バランが顔を顰める。

 

「あの嬢ちゃんの事か?確かに、嵐を呼ぶわ、本人もやたら好戦的だわで似合いだが……」

「導くというのなら、相当に骨が折れるな」

 

 そこまで話して、不意に扉が空いた。バラゴンは今、昨日の戦闘の跡を整地している最中であるはず、と考え振り返ると。

 

「……お腹空いた」

 

 顰めっ面の件の少女がいた。

 

「やはり、人の子ですね。少々お待ちを、用意します」

 

 用意していた朝食を温め直したりなんだりしていると、顔を洗ってフラッと手伝いに来たのを見て、改めてしっかりしているのを再確認する。

 

「いいですよ、貴女は客人ですし」

「私が嫌だ」

「おや……であれば、そこの棚から食器を出してください。それと、貴女の食べる分を取ってもらえれば助かります」

「ん」

 

 睨みつけてくる右側の龍にニコリと微笑み、温め直した煮物を口を開けている左側の龍に一口あげる。その様子を見て、両方を平手して皿を持っていくのを見届ける。

 

「いただきます」

「どうぞ」

 

 まずは味噌汁から。一口啜り、その顰めっ面だった顔が緩む。米を食べ、煮物に手を付け、咀嚼しながら他の頭に食べさせている。その食事を眺めていると、怪訝な表情で口の中の物を飲み込み、口を開く。

 

「さっきから何?そんなニコニコして人の食事風景見て、楽しい?」

「いや、余りにも気持ちの良い食べっぷりだったものでな」

「ええ。久し振りに食事を作った甲斐がありました」

「……そういえば、アンタらは食べなくても良いんだっけか。羨ましいやら可哀想やら、分かったもんじゃないね」

 

 3人に囲まれての食事は彼女にはやや落ち着かないものだったらしく、そう言い放ちまた食事に戻る。既に2合分を食べているのにも関わらず、その手は未だ止まることを知らない。時折、何かを隣の頭と話しているが、二言程度話して、また食べる。

 

「戻ったよ〜。うわ、めっちゃ食うじゃん」

「んだよバラゴン。お前まで食ってやろうか」

「おー怖、くわばらくわばら」

 

 バラゴンがひらひらと手を振って土汚れを落としに湯浴みに向かう。その後も暫く食べ続け、炊いた4合を全て食べ終わると同時に完食。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

 

 食器を下げて、洗おうとすると両肩を噛み付かれて持ち上げられ、退かされる。無言のままに洗い始めた彼女を見て、王を名乗る割に案外庶民派というか、そこら辺の礼儀や義理は押し通すだけの我を持っているのが、少し面白い。

 

「……何?」

「いえ、とてもしっかりとした子だな、と思いまして」

「当たり前でしょ。自分の事も出来ない王なんて、格好もつかない」

 

 王としての矜持というか、そこら辺のプライドは流石というべきか。皿を洗う彼女を横目に、お茶を淹れる。

 

「洗ったやつ、ここで良い?」

「はい」

「ん。はい、終わったよ」

「ありがとうございます。では、お茶をどうぞ」

「ありがと」

 

 お茶を飲み、一息つく。その時に、ふと感じていた疑問を投げかける。

 

「一つ、気になっていた事があります」

「何?」

「あなたの王への拘り、矜持、何処から来るものなのでしょう」

「……単純だよ。私は強い、誰よりも何よりもね。生まれながらに持った実力、この世に生を受けた時から王。幼児的万能感でもなく、増長して肥大化した自我でも無く……」

 

 その手に力が入るのが分かる。

 

「大いなる力の、大いなる責任」

 

 少しだけ、面倒そうに眉を顰めた彼女はそう言った。

 

「持つ者の責任、というやつですか」

「そう。私は強い。だから周りへそれを還元する」

 

 胸を張り、胸に手を当てそう言い切った彼女にあの憎悪も殺意も無く、真っ当な王威というべきその覇気は、驚く事にこの場にいる誰もが圧倒された。

 

「ま、それだけだよ」

 

 その雰囲気を霧散させ、お風呂借りるよと彼女は立ち上がった。その背を見送り、顔を見合わせる。

 

「……この感覚」

「やはり、魏怒羅の血筋か?」

「かもね。あの娘、案外私らに近かったりして」

「いえ、そんな事はありません。何より、それならば、彼が黙ってはいないのでは?」

 

 否定してしまうのは、やはりあの王威と憎悪、殺意は彼には似つかわしく無いからか。

 

「随分入れ込んでいるな、最珠羅」

「当たり前です。彼は、魏怒羅は……」

「止めようよ、もう。あの娘は魏怒羅と無関係。他人の空似だよ」

 

 柄にもなく、アンギラスの言葉に食い下がる。良くないこととは思いつつ、静止したバラゴンの方を向くことすら出来ない。

 

「今の私達に出来ることは?少なくとも、またあの娘を痛めつける事じゃなくて、私達が感じた"何か"に備えさせるのが先決でしょ」

 

 バラゴンの言葉に、暫し押し黙るしかなかった。しかし、それでも。パシン、と頬を叩き立ち上がる。

 

「我々の成すべき事を成します」

「ん、よく言った」

 

▼▽▼

 

「ふぃ〜」

 

 こんな寂れた事務所でも、浸かれるお湯があるだけで随分マシだわ。あの氷漬けの中から出てきたから冷えてたのは事実だし。

 

 ……誰かいる。

 

 あの羽虫か?覗きとは、よくやる。

 

 絶対違うでしょ。

 

「なに?どした」

「準備ができたら、声をかけてください。お話があります」

 

 ……結構真面目そうな雰囲気。何やらお固い感じ。

 

 何だろ。僕らの事詐欺ったの悪いと思ってるのかな。

 

 さぁな。奴ら、また我々を囲むのかも知らん。

 

 それは無いでしょ、ここまで来て。

 

「はーい、ちょっと待ってて」

 

 返事を返して、身体を拭くなんて面倒な事をするはずもなく、全身に電気を纏い、電熱により水分を蒸発させる。そのまま髪の毛を乾かし、ついでに髪型をセットして静電気を集めて充電する。

 

「ん、完璧」

 

 用意されていた着替えに袖を通し……いや、普通の人向けじゃんこれ。ちょっと着れないんだけど。仕方ない……破るか。

 

 何とか着替えた私は、そのまま最珠羅達の待つ部屋へ向かう。

 

「着替えちょっと破っちゃった。準備完了だよ」

 

 正座して、目を閉じて待っていた最珠羅の対面に座る。寝てるのかと思ったけど、私が座るのを感じたのか、口を開く。

 

「我々、護国聖獣には役目があります」

「くにを護る、だっけ」

「はい。そして護ると言うことは、攻めてくる相手がいる。その相手がヒトにとって強大な者である事は、我々や魏怒羅の存在を考えれば自明の理です」

 

 いやに真剣。その上、その圧力は今までのソレとは異なり厳かな雰囲気を放つ。その空気に当てられて、背筋はやや伸びてギドラ達は静かにしている。無言のままに続きを促せば、最珠羅はそれに乗る。

 

「我々にはある程度の予感、予知と言って差し支えない能力があります。攻めてくる敵の居場所、敵の勢力、敵の実力などをある程度感じ取れるのです」

 

 その言葉で、少しだけ心当たりがあった。あの体育祭以降、第六感が告げる確固たる事実。

 

「このくにを脅かし、或いは破壊を齎す天災にも似た存在。それを知覚し、我々は目覚めた」

「少し前……私の中の何かが、"ソレ"を見つけた」

「恐らくは同じものでしょう。"ソレ"は、未だ動かないようですが、我々が備えなければならない程、近くにいます」

 

 目を開いた最珠羅が、私を射抜く。

 

「貴女も、備えなければならない」

 

 その様子から察するに、かなりの強大さを誇ると見た。最珠羅はそう言い切ると、立ち上がって表へ出る。

 

「故に、我々が出来るのは貴女に備えさせる事」

 

 それについていくと、完全に戦闘態勢の護国聖獣達がいた。全員、人の姿を辞めている。一本角から察するに、あの四足歩行はバラゴン。あのトゲ甲羅はアンギラス、あの被膜はバラン。

 

「先の来訪者、あの方は貴女にとって先駆けになる。恐らくは、これからもああ言った者に狙われるでしょう」

 

 その様に、足を止めると最珠羅はそのまま数歩離れてこちらを振り返る。

 

「今日が最終日なのは知っていますね」

「知ってるよ。だから、収穫が無くて暇してた」

 

 電撃の迸る身体で、臨戦態勢を取り雷雲を呼ぶ。4対1、それもかなり相性不利と見る。

 

「ここに来て、貴女が臨戦態勢を取るまで待っていましたが、本番はこうはならない事に注意です」

 

 甲高い鳴き声と共に、最珠羅の姿が巨大な蛾へと変わる。それを皮切りにして、護国聖獣達が咆哮する。実力はほぼ拮抗、向こうの連携は強力、数は劣っている。その事実から、ノータイムで雷雲から雷を落とし、キングギドラへと成る。

 

 咆哮を返し、突っ込んできたアンギラスとバラゴンを纏めて光線で薙ぎ払い滑空してきたバランを空中で捉える。両脚で掴み、そのまま地面へ着地し叩き付ける。左の首で迫る氷を光線で押し留め、右の首でバランに追撃の光線を放つ。

 

 氷を砕く光線の中を無理矢理突破したバラゴンの一本角が思いっ切り胸部に刺さる。畳み掛けるようにアンギラスが右の首に噛み付く。

 

 バラゴンに前蹴りを喰らわせて剥がし、飛行してからぶら下がるアンギラスを噛み付いて落とす。地面に背中から落下したアンギラスが藻掻くのが見えるが、追ってきた最珠羅に光線を放つ。毒針が連射されるのを全て撃墜し、節足と獣脚で蹴り合い、隙を作り羽を左右の首で掴み光線を放ち地面へ落とす。

 

 そのままアンギラスの上に着地し、首を踏み付けつつ正面きって突っ込んできたバラゴンを蹴り飛ばし、背中に降ってきたバランを尻尾で殴りつつ、再び飛んで回転して吹き飛ばす。

 

 ここまで来て、お互い体勢を立て直す。

 

 バラゴンとアンギラスが咆哮し、凄まじい温度差で風が巻き起こる。決着らしい。

 

 後ろに飛び退き、こちらも嵐を呼ぶ。雷雲を巻き込み、暴風雨と雷を起こす。バランが真っ白な身体を煌めかせ、竜巻が如き風を生み出し最大出力と思われる冷気と熱量が流れ込む。しかし、その風は私の嵐にも与する。

 

「殺すつもりで来なさい!」

 

 その言葉に、言われなくとも、と心の中で返す。最大瞬間風速と同じ速度で突っ込んできたバランを真正面から受け止める。驚愕と同時に反撃しようとするバランに最大出力の光線を至近距離で浴びせながら離す。

 

 吼えてから風に乗り、雷撃を身に纏いながら落ちるバランを捉えてトドメの一撃を加える。断末魔を上げながら粒子へなったバランを一瞥して、振り下ろされる氷のモーニングスターを避ける。

 

 地面が割れてバラゴンの咆哮が聞こえる。足元が崩れた瞬間に最珠羅が頭上からやたら鋭い脚で引っ掻いてくる。氷のトゲに覆われた尻尾を振るうアンギラスの一撃を喰らい、尻尾に噛み付き放熱するバラゴンに既視感を覚える。

 

 全身から放電してアンギラスと最珠羅を引き剥がすと、残ったバラゴンに集中して放電する。吹き荒ぶ風が摩擦を生み静電気による充電を齎す。段々とバラゴンが感電して痙攣するのが見える。

 

 仕方ないので、空中に飛び立ち雷雲に飛び込む。それでも離さないバラゴンに敬意を表すると同時にここまで来た事を後悔させる。充電を完了させ、大電流を流す。泡を吹きながら、凄まじい電荷により熱に耐性のあるバラゴンと言えど、全身が焼けていく。

 

 最後の一撃だ。三つの首から光線を放ち、バラゴンの身体を吹き飛ばす。肉や骨が露出し、身体の焦げたバラゴンはようやく尻尾を離す。それに変わって、冷気が一帯を覆う。

 

 木々が凍り、風に冷気が乗る程に放たれる元凶は、体を丸めて全身凶器と言わんばかりの禍々しさでこの高さまで飛んできた。ここまで来ることは想定外で、モロに喰らって一緒に地上へ落ちる。

 

 衝撃で一瞬意識が飛ぶが、牙を剥いてその首に噛み付く。左右の首も肩口に噛みつき、押し退けつつ立ち上がり押し倒し、胴体を踏みつけると、触れている場所が凍りつき始める。電熱で溶かしつつ、その首を引きちぎる。

 

 首をその辺にペッと吐き捨ていると、バラゴンの咆哮が聞こえてそちらを向けば、炎がバラゴンの形を取り、そこにいた。アンギラスの咆哮と共に氷がアンギラスの形になる。しぶとい事だと思いながら、突っ込んできたそれらを翼を閉じて防ぐ。熱気と冷気で凄まじい風圧を生み出すが、それも束の間。

 

 最後の一人である最珠羅に向き直る。最大出力の光線を放ち、しかしそれは直撃する。炎上する身体のまま、甲高い鳴き声と共に突っ込んでくる。真っ向勝負、それを受け止めると爆発して吹き飛ぶ。

 

 着地して、そのまま速攻で立ち上がる。

 

 周りを警戒するが、誰もいない。

 

「そうです。倒したと思っても、確証が得られるまで警戒は解かないこと」

 

 その声に最大出力を用意して振り向くと、人の姿の最珠羅がいた。

 

「降参です。私はともかく、彼らは肉体の再構成は慣れていません。暫くは事務所は休業ですね」

 

 用意した光線を飲み込み、キングギドラの状態を解く。

 

「如何でした?」

「……ちょっと慣れた相手だから良かったけど、案外実力差の少ない相手と数的劣勢でやり合うのちょっとキツイかも」

「そうでしたか。学びを得られたのならば良かったです」

 

 ニコリ、と微笑んだ最珠羅は我々に出来ることはもうありませんね。と一言付け足して事務所へ戻る。それに倣い、私も事務所の中へ入る。

 

「うん、乾いていますね。こちら、どうぞ」

「ありがとう。ちょっと着替えてくる」

 

 制服へ着替えを終えると、服を着直した最珠羅が一枚の紙を差し出す。

 

「こちら、我々の事務所の名刺です」

「ん、受け取った」

 

 荷物を入れていたカバンを取り、伸びを一つ。

 

「ありがとう、中々刺激的だったよ」

「こちらこそ、最初はどうなるかと思いましたが」

 

 ちょっと早いが、ゆっくり飛んで帰ればいい時間だ。

 

「また何れ、迷う事があればここへ来てください。我々なりの答えと道標を用意しておきます」

「んー、どうだろ。ま、そんときゃよろしく」

 

 事務所を出ると、最珠羅が一礼する。それに、返すように頭を下げる。曲がりなりにもお世話になったのだ。

 

「ご飯、美味しかったよ。またいつか世話になるかも」

「貴女の行く末が、我々の敵にならない事を祈ります」

 

 その言葉に、フッと微笑み翼を広げる。

 

 こうして、私の職場体験は終わった。まだまだ続く戦いの序章であることなんて、既に予感していた。私の覇道は、まだこれからだ。

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