個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
あの喧嘩から数日。
期末試験当日。私は朝のHRを終えてから別の場所へ呼ばれていた。
「……何、また特待生ルール?」
「そうだ」
相澤先生がそう返答する。その即答に、少しだけ面くらう。
「へぇ……何させられるのかな、私」
行き先不明のバス。そこへ乗り込み、暫く揺られる。見覚えのある景色、見覚えのある道、見覚えのある場所。
「訓練場デルタ……ホームグラウンドじゃん」
「ここで、おまえの期末試験を行う」
放電し、ストレッチをしつつ体を解し温める。先の言葉を促せば、相澤先生は視線を向けずに続けた。
「二人一組で教師を相手にする。だとしてA組は21人、決まった時点で非合理だったが……特待生である龍千、おまえの存在が一番の非合理だ」
空気が張り詰める。ああ、そうか。
期末試験は既に始まっていたか。
「そうだ、それでいい」
電気的な虚像を作り、視線を遮断する。次いで地面が陥没するのを感じてその場に滞空する。ああ、この感じ……。
「今の、上に飛んでたらスナイプが撃ってたでしょ」
「当たりだ」
しかし、そこにクソほど煩い声が響く。なるほど、二の矢か。それならば、とギドラが全力の咆哮で相殺しつつセメントスが作る壁を相澤先生の方へ向けて飛んで脱する。
捕まえようと思ったが、既で避けられる。見られると厄介なので瞬間的な放電による目眩ましをしてビルの屋上へと登る。
あっちにスナイプ。
あそこにはプレゼントマイクだな。普段から煩い奴だ。合法的に黙らせてやれる良い機会だな。
一人だけ離れたミッドナイトに……地中を移動するパワーローダーか。
「索敵スル時モ、気配二気付ケルヨウニナ」
「やっぱりいたかエクトプラズム」
放電。しようとして止めた、節電だ。そのまま尻尾でぶん殴り、一番の不安要素を探す。
いた。
目が合った途端、眼前に居た。ビルの屋上ごと吹き飛ばす威力の挨拶を受け止め、下手人を見やる。
「良い反応だ」
「センキュー、オールマイト。ぶち殺すから覚悟しておけよ」
ギドラが噛み付こうとしたのを察知して、拮抗が崩される。前蹴りでビルから吹き飛ばされて宙を舞う。姿勢制御しようとするが、当然の如くスナイプとプレゼントマイクに捕捉され、声から守ろうと翼を広げた所を撃ち抜かれ、地面に叩き付けられる。
「チッ……」
舌打ち。肺に空気を取り込み、割れたヘルメットを投げ捨てる。翼のアーマーごと撃ち抜かれたのはビビったが、コスチュームを来ていて助かった。今のは頭を打っていた、そうすれば脳震盪は免れなかっただろう。
「何時もの威勢はどうした、龍千」
「やっと骨のある奴が出てきてウキウキ……って感じ」
相澤先生の声がするが、"個性"は使える。虚像を作っておいて良かった。立ち上がり、頭を振る。翼のアーマーを外し、尻尾の先端にある棘が逆立ち、装着していた槍を内側から壊す。ここからは容赦無しだ。
いつもじゃん。
黙りな。全員叩きのめしてわからせる。
来るぞ!
エクトプラズムを光線で薙ぎ払い、捕縛布を爪で切り刻む。操られるよりも早くコンクリートを踏み抜き、地下から来ていたパワーローダーを獣脚となった脚で引っ掴み引き摺り出して叩き付け、突っ込んできたオールマイトに全力のカウンターボディーブローをキメる。いや、オールマイトめ、既の所で交わしやがった。
そのままパワーローダーを引き摺りつつ、距離を取ろうとするイレイザーの捕縛布を掴み、引き寄せてやろうかと思ったが、捕縛布を途中で切られて逃げられた。オールマイトに牽制の光線を放ちつつ、エクトプラズムの分身を薙ぎ払う。本体を倒さないと無限湧きだな。
「本ッ当!君って奴は!!」
オールマイトのタックルを喰らい、パワーローダーが取られる。人質のつもりだったのに……。いや、まぁ、これならいいか。
空へ飛び、即座に狙いを定めてくるスナイプとプレゼントマイクを気合で回避しつつ、呼んだ雷雲へ突っ込む。充電も兼ねてだが、この雷雲の中じゃ視線も声も届かない。
まず、スナイプとマイクから?
だな。奴ら、あそこから動く気はなさそうだ。
ミッドナイトは無視でいいかな。"個性"の関係で単独じゃないと動けないだろうし。
次にイレイザー、奴の視線を気にしなければならないのは厄介だからな。
えー、イレイザーよりエクトプラズムでしょ。アイツ面倒臭いし。
一番面倒なのはオールマイトだろう。
はーいストップ。全部まとめて踏み潰すよ。
仰せのままに、破壊神。
いいね!ぶっ潰そう!……で、何するの?
こうするのさ。
積乱雲を形成し、上昇気流を作る。恣意的に下降気流を生み出し、小規模の高気圧を作り出す。体感でそれが大きくなっていくのを感じつつ、徐々に上昇気流を途切れさせていく。
頃合いかな。
一気に空を晴れさせ、上昇気流を消失させる。生み出した高気圧は下へ冷気を放ち地面へ接触し、横へ広がっていく。それは凄まじい突風となり、慌てたセメントスがデルタ全域を覆うように壁を乱立させて風を押し留めようとするのが見える。
どこかで、SMASH!!!……なんて声が聞こえた気がした。
画策したダウンバーストはその半分以上を相殺され、目論見通りには行かなかったが、それでも。咆哮してスナイプとマイクの前に降り立つ。スナイプの腕にギドラが噛みつき、マイクの声をギドラの咆哮で相殺して私が足を掴んでひっくり返す。そのまま指向性マイクに電撃を流してショートさせ、次いで2人まとめて捕縛布の切れ端で拘束する。
「いたた……こっちは手加減してんのに……」
「手加減してるんだったら、見誤ったね。私は強いんだから」
りゅーちゃん!
「っ……」
まだ発展途上、だな。
「……しい」
お前には、まだ足りないものがある。
「……わしい」
諦めなさい。
「忌まわしい」
手に力が入る。次いで、怒り。静かな、波立たぬ怒り。音を立てずに足元へ押し寄せたその波に、身を任せる事無く制御する。
陥没した穴から、溢れ出るエクトプラズムと紛れたオールマイトへ一瞬の電撃で目眩ましをして、無視すると一直線に飛ぶ。
「見ツカッタカ」
エクトプラズムの本体。しかし、一対一に持ち込めたのはお互いに僥倖。一体に纏めたエクトプラズムの必殺技、『強制収容 ジャイアントバイト』が現れる。
「来いよ」
「言ワレズトモ、ダ」
大口を開けて向かってくるエクトプラズムの牙を受け止める。牙を砕き、口に飛び込み、顎を引き千切る。どうせ分身、痛くもかゆくもないだろう。
「ヤハリ、流石ダナ」
それでも、分身を出してくる。それを噛み砕き、踏み抜き、刺し貫く。もうすぐ、といった所で飛翔しながら接近し、首を掴み地面へ叩き付ける。どうしようかなぁ……。
「コレヲ」
「……何これ」
「カフス、ダ。コレヲ教師二ツケレバ拘束シタトシテ対象ハ動カナクナル」
「へぇ……いいじゃん」
カフスをエクトプラズムに着け、残りをしまう。首を鳴らし、ようやく受けたルール説明に則り行動を開始する。
つまり、それまでは殴り放題だな。
悪い顔してるぞ、隠せよ。
隠してる暇なさそうだよ、来るよ!
「チッ……やっぱり嫌いだな!オールマイト!!」
凄まじい風圧、いかれた威力の拳は最初から当てるつもりは無かったようだが、それでも。ぶち殺してやると決めたからにはかなりの挑発になっている。吊り上がる口角に、握りしめた拳を振り絞り……交差した目線の先でオールマイトが驚いたような顔をしていたのが見える。
「っしゃぁ!!」
身を捻ったオールマイトが、間一髪で避ける。だが、私の射程内だ。直ぐにギドラが噛み付き、それに怯んだ所を押し倒して踏み付ける。
「大人を……足蹴にするのは、良くないと思う、けどなぁ!」
拳を振り上げ、振り下ろす。それに加えて尻尾も振り下ろす。どうせ止めに来れるのはセメントスかパワーローダー。相澤先生は虚像を作り出してる間は無力だし……。
ふと、冷静な自分がいる事に気付く。このままオールマイトを拘束出来れば、私の勝利へと近づく。しかし、この激情のままオールマイトをボコボコにするのも良い。だが、だがしかし。
「……そう、だな」
カフスを取り出し、防御姿勢を取っていたオールマイトに着ける。私が持っていた事に驚愕の表情を浮かべて、やや間抜けな声を上げる。
「あっ、それっ!」
「私の勝ち。次は手加減無しが良いなぁ」
周りへ被害を出さない戦い方。普段であれば光線で暴れ散らかして、既にデルタは瓦礫の山になっていただろう。今は?まだ原型を保つ建物の方が多い。つまり、次はセメントスでも狙うか。
「あ、いた」
「来たか……!」
大通りを歩けば、見つけた。セメントスが操って開けた大穴に飛び込んだパワーローダーを一旦無視してセメントスに飛び掛かる。上から蹴りつけるように捕まえ、尻尾を絡めて空中へ連れ去る。セメントを操られなくなったセメントスにカフスを見せびらかしつつ、問う。
「そろそろ、ルール説明してもらっていい?これの使い方しか教えてもらってないんだよね」
「えっ」
オールマイトとは違う驚愕。そこから、セメントスは話をする。
「チームアップした我々がヴィランとして君に立ちはだかる。そして、君の勝利条件は2つの内、どれかを達成する事。一つは我々全員を捕まえる。もう一つはあそこに見えるゲートから脱出する事」
セメントスの視線の先、ミッドナイトが待ち構えるその背後。やたらふざけた様なゲートが見える。へぇ……そういう配置か……。
「じゃあ、カフスを着けてない人は?」
「無論、動くだろうな」
やっぱり、と溜め息をついた途端、撃ち抜かれて墜落する。落下しながらセメントスにカフスを着けて、フワッと着地。電磁力操作は急制動になりがちだから嫌いなんだよなぁ……まぁ、いいや。
この人数相手に戦うか逃げるか、かな。
それよりも戦略的判断と、どこまで尽くすか、じゃない?
やっぱり意図的に伏せられてたか。まぁ、相手から聞き出す必要がある辺りで試験っぽい……試験?そうか試験だったなコレ。
「ありがとうセメントス。ようやくやる気が出た」
翼を広げ、既に復帰しているであろうスナイプへ目安を着けて飛ぶ。指向性を失ったプレゼントマイクの大絶叫が響き渡る市街地を抜けて、小高い建物の屋上。目が合う。
「ようやくルール聞いたからなぁ!もう一回だ!」
建物の根元まで飛び、そのまま垂直に登り屋上へ向かおうとして、途中で中から飛び出してきたパワーローダーにとっ捕まる。バラゴンで散々経験したなぁ、これ!
「ケケケ……俺が飛び付いても飛べるか」
「邪魔くさいなぁ……ほら、盾にしてあげる」
空中でフラつきながら、引き剥がして一発殴り、ギドラが腕を封じてからカフスを着ける。そのまま前に掲げたまま屋上へ向かうと、スナイプがマスク越しに嫌そうな顔をしたのが分かる。
「スナイプせんせーなら、撃てるんじゃない?」
「撃てるとも」
引き金に指をかけた瞬間、パワーローダーを弾き飛ばす。それを避けられたが、射程に入った。ギドラが腕を掴み上げ、銃を弾き飛ばして無力化する。そのまま地面へ叩きつけてカフスを着ける。
「流石だな」
「どういたしま……イレイザー?」
左のギドラが声の方向を確認したときには遅かった。捕縛布が巻き付けられ、そのまま視認されたらしく、力が抜けたまま屋上から吊るされる。
「……やられた」
「そうだな。お前が油断する時は大抵、相手を制圧したときだ」
「じゃあ瞬き待つね」
ぐえぇ……力が抜ける……。
う、動かん……。
今はね。動くようになったら閃光ぶっ放して目眩まし、そこから……。うん、後悔させてやる。
そう思いながら、瞬きを待つのも束の間。凄まじい絶叫がビルに反射して更なる音撃を放つ。その凄まじい、衝撃波とも言えるソレに反射的に咆哮を放ち迎撃し、恐らく次の瞬きまでの隙を失う。
「いつもの威勢はどうした」
「"個性"封じられてるんだから……あ」
"個性"以外の部分は、動く。両手を見れば、何の問題もなくグーとパーを繰り返せる。脚も問題なく動く。ただ、尻尾や翼、首が重いだけだ。
ま、まさか……。
5分で再生するでしょ。
ま、待て!まだ、他に方法が……!
えぇ……しょうがないなぁ。
指で鼓膜を破り、音を遮断する。それでもギドラ達が聞こえるから問題無い。色んな所に絡まっている捕縛布を掴み、体勢を変えて振り子の要領で暴れる。
「おい、それ固定してる所はそこまで強くないぞ」
「へぇ……ご忠告どうも」
バキッ、という小気味いい音と共に巻かれた私は落下する。大慌てのイレイザーヘッドと目が合ったまま落下し、直ぐに見えなくなる。どうせ私の行く末を見ようと身を乗り出すだろうし……その前に、だ。自由に動く脚を壁に突き刺し捕縛布を圧し折った尻尾の棘で破り捨てる。"個性"が使えるようになったのを認識しながら、壁面に爪を食い込ませて登り、予想通りに顔を出したイレイザーヘッドのその首根っこを捕まえて屋上に脚をかける。
「やっぱり甘いね」
イレイザーヘッドごと、大音量が通過していくが、ギドラが痛がるだけで私は動ける。イレイザーヘッドが抵抗してくるが、"個性"抜きにしても圧倒的な力の差の前じゃ、微々たる抵抗に過ぎない。見せつける様にカフスを取り出し、その腕に着ける。
「今、私聞こえてないからさ。言いたいことがあるなら後で聞くよ」
そして、翼を広げて背中から落ちる。空中で反転して音源の元へ飛ぶ。ああ、やっぱり飛べるって良いなぁ。
見えた。
あのうるさいの、早く殺そう。
同感。さっさとご退場願おう。
手である程度の指向性を持たせてこちらにぶつけてくるが、今の私にとってはただの衝撃波。真っ向から突っ込む。
いだだだだだだ!!
耳塞げないんだぞこっちは!
空中からそのまま蹴りを入れ、避けられたので着地してタックル。そのまま確保して顔を掴む。
「ちょっ……よせ!これ高いんだぞ!」
「あー……何言ってるか聞こえないなぁ」
カフスを着けて、ようやく鼓膜が再生したのか聞こえてくる。残りは……パワーローダーとミッドナイトか……。出ようと思えば出られるが……。そう思った矢先、歩を止める。
「やぁ、君が暴れるグラウンドでこの身一つで現れた校長だよ」
「……え?何、校長も、やっていいの?」
「そうさ!って言いたいところだけど、聞きたいことがあって乱入させてもらっている。今は一旦、試験は中止さ」
「聞きたい事、ねぇ」
警戒は解かない。ギドラに周囲を監視させたまま、話を続ける。
「君の戦い方にかなり変化が見られたからね。それは、先の職場体験で教わったのかな」
「……そうだよ。あんの忌々しい奴らに、周りへ被害を出さない戦い方を教わったんだよ」
「やっぱり」
合点がいった、そう体で現す校長先生に毒気を抜かれる。しかし、それでも。
「その為だけに来たの?わざわざご足労な事で」
「それもあるんだけど、もう一つ」
ピッ、と短くてあるかどうかも分からない指が立てられる。
「今までの戦闘中とは、表情が違った」
「へぇ、どんな風に?」
「苦しそうな風さ。君は今、その有り余る力で傷付けぬよう、壊さぬよう配慮しながら戦っている。今までの楽しそうな表情とは似ても似つかないのさ」
見透かされたような言葉に、逆上しそうになって止まる。それは確かな事実ではあるが……認めたくないだけなのも分かっている。
「ノブレス・オブリージュ。君は、入試の時にそう語った。生まれながらの王、故に」
「忌々しい。全て灰燼に帰せば、それで片が付く。なのに、事ここに至っては周りへの被害だの、死なせずに確保だの……クソ喰らえだ」
「それは本音かい?あぁ、否定する訳じゃないよ。ここは君のヒーローアカデミア、君のなりたいヒーロー像に一歩でも近付けるようなお手伝いをしてあげれる所なんだ」
「んだよ、じゃあ、あれか?私を真っ当なヒーローにする為の進路相談ってやつか?」
「そうなるね」
完全にやる気をなくす。尻尾を巻いて椅子代わりにして座り翼も畳んでやる気無しをアピールする。こっちだって悩んでるのは分かってるんだよ。……そんなの、私が一番分かってる。
「今回の期末試験、君の実力を測るだなんて事を言うつもりは無かった。日頃、君と接している教師達から、ヒーローから見て君の成長を判断するつもりだった」
「……だった?」
「まだ成長の最中だね。君は、まだ伸びる」
……何で。何で、お前達はそうやって……。
「言いたいことはそれだけ?」
「そうだね。じゃあ、試験を再開しようか」
校長先生がそう宣言したのを聞いて、最高速で飛翔してゲートを通過する。忌々しい、あの3つ首の龍や最珠羅達……そして校長やここの教師達。誰も彼もが、私を未だ途上の存在だと言って憚らない。
私は私だ。誰が何と言おうと王だ。
私が生まれた時にそう成ったのだ。